唐澤経営コンサルティング事務所代表の唐澤です。
中小企業診断士・ITストラテジストの資格を持ち、20年以上にわたり、中堅中小企業の経営戦略立案や業務改革、IT化構想策定のコンサルティングに従事してきました。
このコラムでは、私のコンサルティング経験をもとに、中堅中小企業の経営に役立つ情報を発信しています。
「リーダーに向いていない気がする」「もうリーダーを辞めてしまいたい」──。中堅中小企業の経営者や役員、管理職の方の中には、このような思いを抱え込んでいる方も少なくありません。特に、立場上はリーダーでも、自分に指導力や統率力が備わっているのか不安に感じたり、期待されている役割とのギャップに苦しんだりしているケースは多いようです。
実際、経済産業省 中小企業庁の「2023年版 中小企業白書」によると、日本の中小企業の57.2%が後継者の不足に起因するリーダー人材不足に悩んでいると報告されています。

このような人材不足の環境では、やむを得ず管理職やリーダーを担う人が増える一方で、「自分は本当にこの役割に合っているのだろうか?」と悩むケースも増えているのです。
私は経営コンサルタントとして20年、中堅中小企業の経営支援に携わってきました。その経験から、多くの経営者・リーダーが「自分の適性がわからない」「リーダーを辞めたい」というジレンマに直面する姿を見てきました。
本コラムでは、そうした方々が「向いていない」と感じる根底に何があるのかを整理し、リーダーとしての役割を見直すヒントをご提供します。もし「辞めたい」と感じるほどに苦しくなっている方でも、改めて自分の在り方と会社の方向性を考えるきっかけとなれば幸いです。
「リーダーに向いていない…」と感じてしまう背景

リーダーシップへの過剰なイメージ
「カリスマ性がなければリーダーにはなれない」「すべてを完璧にこなせてこそリーダーだ!」など、リーダーに対して過剰なイメージを抱く人は少なくありません。特に日本の中堅中小企業では、「リーダーとは会社を背負う存在」「強い責任感と決断力が不可欠」というイメージが強調されがちです。
しかし、近年のリーダーシップ理論では、「全員が同じリーダー像を目指す必要はない」「個々の強みを活かしてチームをまとめることも立派なリーダーシップ」という考え方が主流になっています。
リーダーには様々なタイプがあり、カリスマ型だけが正解ではありません。自分の強みに合ったリーダーシップを発揮できているかどうかを検証することが大切です。
強まる経営環境の変化とプレッシャー
中堅中小企業が置かれている環境は、グローバル化、IT化、人材不足、コロナ禍など、近年急速に変化してきました。こうした経営課題に対処しなければならない一方で、社員数が限られる中堅中小企業では、「全ての業務を管理職が兼任する」という実態も珍しくありません。その結果、リーダーに過度の負担が集中しやすく、精神的プレッシャーも増大します。
特に管理職がまだ十分に育たない環境だと、「会社の将来も、人材育成も、クレーム対応も、すべて自分がやらねばならない」というように、まるでワンマンショー状態になることが多々あります。これは本人のストレスを増やすだけでなく、リーダーシップのあり方を見誤らせる要因にもなります。
自己評価のギャップ
「自分は上手くチームを率いていない」「後輩が思うように動いてくれない」と感じ、自責の念から「リーダーに向いていない」と思い込んでしまうこともあります。しかし、実際には周囲からの評価が低いわけではなく、自分自身が必要以上に完璧を求めてしまう結果、自己評価とのギャップに苦しんでいる場合もあるのです。
あるいは、部下や周囲の人材がリーダーの期待に応えられない状況を、リーダー本人が抱え込み「自分の力不足」としてしまうケースもあります。組織全体の課題を個人の責任だけで捉えると、結果的に「辞めたい」と思うほどの負の感情に陥りやすくなります。
「辞めたい」と感じたときに考える3つの視点

自分自身の強みや志向を再確認する
リーダーとしての適性を考えるとき、自分が「どのように人を支援し、どのように成果を上げるか?」を見つめ直すことが肝心です。これは「自分が得意とすること・得意ではないことの整理」を徹底的に行う作業でもあります。
例えば、人前で堂々とプレゼンをするのが苦手だとしても、部下との個別面談や一対一の指導が得意であれば、それは重要なリーダーシップの形です。また、現場の一線で動くことが好きなら、トップダウン型の采配ではなく、現場型リーダーシップを発揮する道もあります。
まずは「自分のスタイル」を客観的に把握するところから始めましょう。
組織体制や役割分担の見直し
「何もかも一人で背負いこむリーダー」は、現代の複雑な経営環境では持続しにくい働き方です。部下に権限を委譲できる部分はないか、あるいはナンバー2、ナンバー3となる人材を育成できるかどうかを改めて検討しましょう。
特に中堅中小企業では、層が薄くなりがちなマネジメントポストを補うために、「ジョブローテーション」「リーダー補佐制度」「プロジェクト制」などを導入し、多方面でマネジメントを経験できる人材育成を行う企業が増えています。
リーダーとしての自分自身の業務領域を絞り込みながら、組織全体で支え合う体制を作ることができれば、個人にかかる負担が軽減されるでしょう。
リーダーシップ研修や外部支援の活用
「リーダーに向いていない」と感じる大きな理由の一つは、実務や人材管理について正式な教育や研修を受けていないことにある場合があります。業務をこなしながら自己流でリーダーを務めていると、何が正解か分からずに迷走しやすいのです。
ここで有効なのが、外部の経営コンサルタントやリーダーシップ研修を積極的に活用することです。中立的な視点で「あなたの強み」「組織課題」「業界トレンド」を総合的に分析し、具体的なアクションプランを提案してくれる専門家がいれば、過度な不安や思い込みを解消しやすくなります。
実践的ステップ:自己分析からアクションへ

リーダー辞めたいと思うほど追い詰められている方にとって、まずは冷静に現状を分析し、明確なアクションにつなげるステップが必要です。
ここでは、私自身が実際のコンサルティングで推奨している3ステップをご紹介します。
現状の洗い出し
- 業務量と負担のチェック
1日のスケジュールを可視化し、どの業務に時間がかかっているかを明確にします。自分でやるべきタスクと、部下に任せられるタスクを分けてみることで、負担軽減のヒントが得られます。 - 組織上の役割確認
自分は会社からどのようなリーダーシップを期待されているのか、改めて言語化することが重要です。特に中堅中小企業では、「営業リーダー」「開発リーダー」「店舗管理リーダー」など、機能的に役割が分かれていない場合も多く、曖昧な期待を抱えていることが多いです。
課題の優先順位と切り分け
- 課題の棚卸
「リーダーとしてやるべきこと」「個人としてやるべきこと」をリスト化します。社員教育、売上目標、コスト管理、採用計画など、すべてを一度にこなすのは不可能です。自社の経営方針から逆算し、優先度の高い課題にフォーカスしましょう。 - 負担分散の検討
部下や他の管理職、外部の専門家に協力を仰ぎやすい課題はないかを検討します。例えば、財務系の課題なら税理士や社労士、IT活用ならITベンダーとの協働など、専門家に任せることで確実性が増すうえ、自分の時間をリーダーとしての本質的な業務(意思決定、組織構築など)に充てることができます。
小さな成功体験の積み重ね
- KPI設定とチームでの達成
一度に大きな変革を目指すよりも、短期間で達成しやすい数値目標を設定し、チーム全体で取り組むことで成功体験を積み重ねます。
成功体験はリーダーシップの自信回復に直結します。特に中堅中小企業では、スピーディに成果を実感しやすい分野(顧客対応の改善、在庫管理の最適化など)を選ぶと効果的です。 - フィードバックの重視
プロジェクト終了後や目標達成のタイミングで、部下や関係者から率直な意見を集めましょう。成果だけでなくプロセスやコミュニケーションの評価も聞くことで、客観的な手応えを感じやすくなります。
再度見直してほしい“リーダーの意義”
リーダーの役割とは、決して「何でもこなせるスーパーマン」になることではありません。むしろ、チームメンバーがそれぞれの強みを活かし、会社の方向性に沿って成果を出せるよう導く“縁の下の力持ち”的な存在でもあります。
中堅中小企業の場合、ときには自分も現場で動かなければならない場面が多いため、「スーパーマン」になることを求められる感覚は確かに存在するかもしれません。しかし、適切に役割分担を行い、外部リソースをうまく取り入れ、組織全体で協力体制を築けるかどうかが大切です。そのためには、リーダー自身が情報を開示し、周囲の力を借りる姿勢を示す必要があります。
Q&A
Q1. そもそも「リーダーに向いていない人」なんているのでしょうか?
A. 実際には「絶対にリーダーに向いていない人」はほとんどいません。リーダーシップには多種多様なスタイルがあり、「向き・不向き」は一概には語れません。重要なのは、自分の強みや個性を活かせるリーダー像を見つけることです。
Q2. リーダーを辞めるかどうかの判断をどのタイミングですれば良いのでしょうか?
A. 「辞めたい」という強い感情に押されて判断するよりも、組織の状況や自分のキャリアを客観的に見つめ直してから判断すべきです。外部専門家に相談したり、会社の経営方針や後継者の有無を確認したり、冷静な情報収集を行いましょう。そのうえで、どうしても自分の志向やライフプランに合わない場合は、役職を変える・辞退する選択肢もあり得ます。
Q3. 部下とのコミュニケーションがうまくいかずに「向いていない」と感じます。どうしたらいいですか?
A. 多くの場合、コミュニケーションの問題はリーダーの性格や資質よりも、「お互いの認識のズレ」や「仕組みの不足」が原因となっています。定期的な面談の場を設ける、報告のテンプレートを決めるなど、コミュニケーションを可視化しやすい仕組みを導入してみてください。わかりやすいツールを活用すれば、相互理解が進みやすくなります。
Q4. リーダー研修に参加したいのですが、忙しくて時間が取れません。どうすれば良いでしょうか?
A. 時間が取れないときは、オンライン研修や短時間で行うワークショップ形式の研修が有効です。また、日常業務の中で学びを実践する「OJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)」を意識してみるのも手です。たとえば部下に仕事を任せたあとで振り返りの時間を作り、双方の改善点を話し合うだけでも大きな学習効果があります。
まとめ:迷った時こそ自分と組織を客観視する
リーダーとしての適性を疑い、「辞めたい」と感じるほど追い詰められている方は、まず以下のポイントを再確認してみてください。
- 自分の強みと志向を把握する
- どのような場面で力を発揮しやすいのか
- どのようなコミュニケーションやスタイルが自分らしいのか
- 組織体制の見直しを行う
- 全てを一人で抱えすぎていないか
- 他の管理職や外部専門家との連携はできているか
- 具体的なアクションプランの策定と小さな成功体験
- 目標を細分化し、チームで達成する仕組みを整える
- 達成後はフィードバックを得て次の改善につなげる
- 「向いていない」と思い込む前に、一度客観的な目を入れる
- 外部研修やコンサルタントを活用し、自己流の限界を把握する
- 自分自身の評価と周囲の評価を照らし合わせ、誤差がないか確認する
経営環境が多様化し先行きが見通しにくい時代だからこそ、リーダーは孤立しやすく、大きなプレッシャーを感じがちです。しかし、リーダーシップの発揮の仕方は一つではありません。自分に合ったスタイルを見つけ、適切なサポート体制を整えれば、必ずリーダーとしてのやりがいを再発見することができます。
もし、それでも「自分にはどうしても合わない」「もっと違う形で貢献したい」という思いが強いのであれば、役職を変更したり、新たなキャリアを模索することも選択肢として否定する必要はありません。ただ、そう決断する前に一度、冷静に自分と組織を客観視してみてください。その結果、新たなリーダーシップの可能性を見い出す方が多いのも事実です。
「リーダーに向いていない…辞めたい」と感じている方にとって、このコラムが一つの道しるべとなり、もう一度自分の立ち位置や組織との関わり方を見直す契機になれば幸いです。あなたのリーダーシップの花が再び咲き、中堅中小企業の発展に寄与することを心より願っています。
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