唐澤経営コンサルティング事務所の唐澤です。中小企業診断士・ITストラテジストの資格を持ち、20年以上にわたり、中堅・中小企業の経営戦略立案や業務改革、IT化構想策定などのコンサルティングに従事してきました。
「技術には自信がある。品質も負けていない。それにも関わらず、なぜ売上の天井が破れないのか?」
これまで多くの中堅・中小企業の経営支援を行ってきましたが、このような悩みを抱えている経営者は少なくありません。
多くの経営者は、売上が停滞すると「新商品を投入すべきだ」「訪問・提案量を増やすべきだ」と打ち手が“前線の努力”に寄りがちです。しかし実態を点検すると、商品力や営業努力の優劣というよりも、販売チャネル(売り方の経路)の設計や運用ルールが未整備なことが、成長のボトルネックになっているケースが一定数あります。
あなたの会社では、このような症状が出ていませんか?
- 直販(自社営業)への依存が高く、キーマン不在時に案件創出が止まる(営業活動の属人化)
- 代理店契約はあるが、提案・案件化が進まず、紹介待ちに近い状態になっている
- 直販部門と代理店が同一顧客・同一案件で競合し、チャネルコンフリクトが発生している
- 顧客から価格経路の違いを問われた際に、説明原則(値引き権限・見積条件)が整理されていない
これらは、販売チャネルという「勝ち筋」が設計(役割・商流・ルール)として定義されていないときに起きる典型例です。
本コラムでは、経営コンサルタントとして数多くの企業を支援してきた経験に基づき、経営知識に自信がない方でも明日から着手できる「直販×代理店の設計図」を、実務レベルに落とし込んで解説します。




そもそも「販売チャネル」とは何か?


経営の現場でよく使われる「販売チャネル」という言葉。なんとなく「売り場」や「代理店のこと」だと思っていませんか?
販売チャネルとは、「需要をつくり(情報流)、契約を結び(商流)、納品・導入し(物流/役務提供)、代金を回収し、継続利用につなげるまでの一連の経路」のことです。BtoBでチャネル設計を誤ると、売上が立たないだけでなく、与信・請求回収・保守責任の所在が曖昧になり、トラブルや利益毀損に直結します。
BtoBビジネスにおいて、販売チャネルの設計を成功させるためには、単に「直販か代理店か」を選ぶのではなく、販売プロセスを以下の「5つの役割」に分解して捉える必要があります。
- 見込み客を見つける(リード獲得:Web、展示会、紹介など)
- 提案して合意を取る(案件化・クロージング:仕様決定、稟議支援)
- 契約・受発注する(商流:誰が契約主体か、与信リスクは誰が負うか)
- 納品・導入する(物流、施工、設定、ユーザー教育)
- 保守・追加販売する(アフターサポート、消耗品、リピート提案)
これら5つの役割をすべて直販で担う必要はありません。実務上とくに重要なのは、2.提案・合意形成(誰が顧客接点の主担当か)と3.商流(誰が契約主体となり、与信・請求回収・値引き権限を持つか)です。ここが曖昧だと、値引き条件の不一致、仕様変更時の責任分界、検収・瑕疵対応、保守範囲などで揉めやすくなります。チャネル設計は「売り方」以前に、責任と権限の設計です。
なお、「取次」「販売代理」「販売店(再販)」は似て非なるものです。混同すると、契約と期待値がずれ、「全然売ってくれない」「値引きが止まらない」などの不満につながります。
| 区分 | 役割(何をするか) | 契約主体(誰が売主か) | 典型的な収益モデル |
|---|---|---|---|
| 取次(紹介) | 見込み客の紹介。提案・クロージングはメーカー側が主導 | メーカー(自社) | 紹介料(スポット/案件ごと) |
| 販売代理 | 代理店が提案・商談を担うが、契約はメーカーが締結する形が多い | メーカー(自社)が多い | コミッション(売上連動) |
| 販売店(再販/リセラー) | 販売店が仕入れ、価格・販売責任を持って顧客に販売 | 販売店 | 仕入れ値と売価の差益(粗利) |
自社が必要としているのが「紹介(取次)」なのか、「提案代行(販売代理)」なのか、「販売責任まで担う再販」なのか。ここを先に決め、それに合わせて契約・マージン・権限を設計します。


なぜ今、販売チャネルの再設計が急務なのか?
「うちは昔からの付き合いがある問屋がいるから大丈夫だ」
もしそう思われているなら、少し危機感を持っていただく必要があります。なぜなら、近年は顧客の「買い方」が劇的に変化しているからです。
近年、買い手の購買行動は「対面前提」から確実に変化しています。経済産業省の市場調査(令和6年度 電子商取引に関する市場調査報告書)によれば、2024年の国内BtoB-EC市場規模は約514兆円、EC化率は約43.1%に達しており、年々拡大傾向にあります。また、世界的な調査会社であるGartnerも、2025年までにサプライヤーと買い手のBtoBセールスのやり取りの80%がデジタルチャネルで行われるとの見通しを示しています。(出典はこちら)。


また、McKinsey & Companyの調査でも、買い手は対面・リモート・セルフサービスを使い分ける“ハイブリッド”が標準化しつつあることが示されています。
一方で、2024年版 中小企業白書によると、多くの中小企業が「販路開拓・マーケティング」を経営課題の上位に挙げ続けています。


つまり、売り手側が「直販だけ」または「既存代理店任せ」のままだと、買い手の購買体験に追随できず、機会損失が生まれます。この問題を解決するためには、直販だけ、あるいは既存の代理店任せにするのではなく、「直販×代理店×デジタル」を組み合わせたハイブリッドな販売チャネル戦略が不可欠なのです。






”直販×代理店”を成功させる基本原則
直販と代理店を両立させようとして失敗する企業の共通点は、「顧客名(会社名)」で縄張りを分けようとすることです。確かに、「A社は直販、B社は代理店」という分け方は一見わかりやすいですが、実は現場の混乱を招きます。
成功している企業は、顧客ではなく“機能(提供価値)”で担当を分け、例外条件と案件の受け渡しルールまでをチャネルポリシーとして明文化しています。
■直販が担うべき「ハイタッチ領域」
- 技術的難易度が高い
技術者が同席し、仕様をすり合わせないと売れない製品 - 課題解決型提案
単なる価格競争ではなく、「リスク低減」や「生産性向上」などの価値を訴求する場合 - LTV(顧客生涯価値)が高い
導入後も深い付き合いが続き、顧客からのフィードバックを製品開発に活かしたい場合
■代理店・Webが担うべき「ロータッチ・テックタッチ領域」
- 商圏が広い
地方や海外など、自社の営業リソースが届かないエリア - セット販売
工事、施工、他社製品と組み合わせて初めて価値が出る場合 - 標準品・消耗品
型番が決まっており、スピードや価格、利便性が重視される場合
「うちは技術力が売りだから全て直販だ」という思い込みを捨て、「このプロセスは他社に任せたほうが、顧客にとってメリットがあるのではないか?」と改めて問い直すことがスタートラインです。


販売チャネル設計の「7ステップ」
では、具体的にどのように進めればよいのでしょうか?ここでは、チャネル設計の7つのステップを公開します。
ステップ1:顧客を「属性」ではなく「買い方」で分類する
業種や企業規模で分ける前に、「顧客の購買プロセス」で分類します。
- 標準的な購買:型番指定、価格比較中心、短納期希望 → 代理店・Web向き
- 非標準的な購買:現場ヒアリングが必要、試作、稟議が複雑 → 直販向き
ステップ2:商品を3層に分け、チャネル適合を決める
自社の商品を以下の3つに分解します。
- コア(独自技術):自社の営業が熱量を持って語るべき部分。
- 周辺(施工・設定):地場の代理店や施工業者が得意な部分。
- 運用(消耗品・更新):定期的な発注。ECや代理店の自動発注システムが最適。
すべてを自社で抱え込まず、「周辺」や「運用」のチャネルをパートナー企業に開放することで、全体のパイを広げることができます。
ステップ3:「取次/代理/再販」の段階的設計
最初から「再販(在庫リスクを持ってもらう)」を目指すとハードルが上がります。
- 立ち上げ期:「取次型」でまずは案件紹介数を増やす。
- 拡大期:売り方のパターンが見えてきたら「販売代理型」へ移行していく。
- 成熟期:物流や在庫まで任せられる信頼できるパートナーのみ「再販型」へ移行する。
このステップを踏むことで、パートナーとの信頼関係を構築しながらリスクを管理できます。
ステップ4:競合を防ぐ「案件の交通整理」ルールを作る
ここが最重要です。「チャネルコンフリクト(競合)」を防ぐためのルールを明文化します。
- 案件登録制度:「早い者勝ち」ではなく、要件が揃った時点でシステムに登録し、その案件の商権を保護する。
- 直販の例外:「この条件(例:共同開発案件、特定の大手顧客)は直販が担当する」と事前に明示する。
- 価格条件の一貫性:直販と代理店で見積条件・値引き権限・例外承認フローを整理し、顧客に説明できる原則を持ちます。
※代理店の販売価格を一律に拘束する設計は独占禁止法上の論点になり得ます。実務上は、標準価格(希望小売価格/参考価格)を提示しつつ、割引は要件・数量・保守条件等に紐づけて運用ルール化し、例外は申請・承認でコントロールする形が現実的な形となります。
ステップ5:利益が残るマージン設計
代理店マージンは単なる「値引き」ではなく、代行してもらう機能への対価です。実務上は、機能別に粗利プールを分けると設計が崩れません。例えば、
- リード提供(紹介)=○%
- 提案・案件化=○%
- 契約・請求回収(与信含む)=○%
- 納品・導入/一次保守=○%
のように、担ってもらう役割に応じてマージンを可変にします。「相場が20%」のような一律設計は、利益が残らないか、逆に代理店が動かないか、どちらかに振れやすい点には十分注意してください。
ステップ6:代理店が動く条件は「売れる状態の設計」
代理店が動く条件は「研修の回数」より、売れる状態(イネーブルメント)の設計です。最低限、次の三点セットを揃えます。
- 入口商品(導入障壁が低い型・用途が明確な商材)
- 提案の型(想定課題、効果、事例、よくある反論への回答)
- 初期の成功体験(同行・共同提案で最初の勝ちパターンを作る)
研修や教育は“最後”で効きます。最初に必要なのは、代理店が提案しやすい商流・価格条件・ツールの整備です。
ステップ7:契約・運用で“やってはいけないこと”を避ける
代理店契約で揉める論点は「価格」と「縛り」です。公正取引委員会も、流通・取引慣行に関する独占禁止法上の考え方の中で、再販売価格の制限などが問題になり得る点を整理しています。
法務判断そのものは専門家に委ねるべきですが、経営としては少なくとも次を意識してください。
- 価格の“統制”をやり過ぎるとリスクが上がる(代わりに標準価格・推奨価格・例外手続で運用する)
- 競合品の取り扱い制限は慎重に(合理性・範囲・期間が説明できる形にする)
- 地域独占や顧客縛りは「投資」とセットで設計(在庫・保守体制・販促コミット等)


Q&A
Q1. 直販と代理店、結局どちらを優先すべきですか?
A. 「会社の都合」ではなく「顧客の利便性」で決めてください。顧客が「顔を合わせて相談したい」なら直販(または地域密着の代理店)、「Webで手軽に発注したい」ならデジタルチャネルが優先です。顧客の購買体験(CX)を最大化するルートが正解です。
Q2. 既存の代理店との付き合いがあり、直販を始めると怒られそうです。
A. 「御社の面倒な業務を引き受けます」というロジックで説明しましょう。「仕様決めなどの手間がかかる工程はメーカーである我々が引き受けます。御社は発注・納品業務で利益を確保してください」と提案すれば、Win-Winの関係になれます。決して「中抜き」ではないことを丁寧に伝えてください。
Q3. 代理店が勝手に値引きをして、ブランドイメージが下がっています。
A. 利益設計が破綻しているサインです。代理店が値引きに走るのは、それ以外に売る武器がないからです。製品の差別化ポイントを明確にしたツールを提供できているか、あるいはマージン設定が厳しすぎて薄利多売を強いていないか、自社の設計を見直す必要があります。
Q4. WebやECは、中小BtoB企業でも本当に必要ですか?
A. 必要性は極めて高いです。いきなりAmazonのようなECサイトを作る必要はありません。まずは「在庫確認ができる」「見積書がWebで発行できる」といった部分的なデジタル化から始めてください。これだけでも、直販・代理店双方の業務効率が劇的に改善します。
まとめ:経営者の決断が営業を変える
販売チャネルの設計は、単なる営業テクニックではありません。「自社の価値を、誰に、どう届けるか」という経営戦略そのものです。
これまでの経験の中で確信しているのは、「優れた製品は、優れたチャネルに乗って初めて市場のスタンダードになる」ということです。直販の「深さ」と、代理店の「広さ」。そしてデジタルの「効率」。これらを組み合わせた「設計図」を描けるのは、現場の営業マンではなく、経営者であるあなただけです。
「足し算」で販路を増やすのではなく、全体最適の視点で「設計」し直す。
本コラムが、貴社の営業組織が次のステージへと進化する一助となれば幸いです。
私たち唐澤経営コンサルティング事務所では、「コーチング」と「コンサルティング」を組み合わせ、中堅・中小企業の経営課題解決と成長戦略の策定を強力にサポートいたします。経営に関するご相談や無料相談をご希望の方は、下記フォームよりお気軽にお問い合わせください。


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