唐澤経営コンサルティング事務所の唐澤です。中小企業診断士・ITストラテジストの資格を持ち、20年以上にわたり、中堅・中小企業の経営戦略立案や業務改革、IT化構想策定などのコンサルティングに従事してきました。
「社長も幹部も、そして現場も毎日フル稼働している。それなのに、なぜ手元に利益が残らないのか?」
「新規開拓、既存フォロー、業務改善、採用、DX……。すべてに手をつけているはずなのに、会社が前に進んでいる手応えがない」
これまでの私のコンサルティング現場においても、多くの誠実な経営者からこのような悲痛な叫びを耳にしてきました。これはあなたの会社だけの問題ではありません。
中小企業庁のデータによれば、日本の企業の99.7%(約336.5万者)は中小企業が占めています。一方で、労働生産性(従業員一人あたりが生み出す付加価値額)においては、大企業との間に依然として大きな溝があることが指摘され続けています。この「頑張りの空回り」を引き起こしている最大の要因こそが、限られた経営資源(ヒト・モノ・カネ・情報)の分散です。
今のあなたの会社に必要なのは、流行りのツールを導入することでも、さらに労働時間を増やすことでもありません。「選択と集中」という経営の原理原則に立ち返り、戦い方を変えることです。
本コラムでは、MBAのような難解な理論ではなく、経営の現場ですぐに使える実践的なロードマップを提示します。期間はズバリ「90日」。 *棚卸(見える化)」→「決断(やる・やめる)」→「実行(仕組み化)」の3ステップで、あなたの会社を「高収益な筋肉質企業」へと生まれ変わらせるための具体策を解説します。




選択と集中とは何か?「捨てる勇気」が利益を生む


「やらないこと」を決めるのが戦略の本質
「選択と集中」という言葉を聞くと、「特定の事業に絞る」というイメージが先行しがちですが、本質は実はそこではありません。世界的な経営学誌『ハーバード・ビジネス・レビュー』でも語られていますが、戦略の核心とは「何をしないかを決めること」にあります。
アレもコレもと総花的に手を広げることは、戦略がないのと同義です。特に経営資源に限りのある中堅中小企業において、様々なことに手を広げて経営資源を分散させることは、致命傷になりかねません。
経営コンサルタントの視点で定義するならば、以下のようになります。
- 選択: 儲かる顧客・儲かる商品・得意な勝ちパターンを見極めること
- 集中: そこに、人・時間・資金・経営者の意思決定を偏らせて投下すること
つまり、「やることを増やす」のではなく、「やめる・減らす・任せる」ことを設計し直し、勝てる土俵に全精力を注ぐことこそが、中小企業が勝つための唯一の解なのです。
現場で起きる「3つの誤解」を解く
とはいえ、現場からは「仕事を減らして売上が下がったらどうするんだ!」という反発が必ず起きます。ここで、よくある誤解を解消しておきましょう。
- 誤解①:「選択と集中=売上の縮小」である
▶真実:正確には、「利益と成長余力を生まない“悪い売上”」を捨てることです。中小企業の現実として、労働力の約7割を担う一方で生産性の課題があると2020年版 中小企業白書でも整理されています。忙しいだけで利益が出ない仕事を捨て、高収益な仕事に入れ替えるのが真の目的です。 - 誤解②:「特定顧客への依存」が高まり危険である
▶真実:特定顧客への依存が危険なのは、「言いなり」になってしまうからです。選択と集中は、自社が主導権を持てる(=他社が真似できない)領域を作る作業です。一点賭けではなく、「勝てる型を作って再現性を高める行為」だと理解してください。 - 誤解③:「サンクコスト(埋没費用)」への未練
▶真実:サンクコスト(埋没費用)とは、これまでに使った費用・労力のことです。事前に使った費用・労力があると、人はその費用・労力を「もったいない」と感じます。しかし「これまで投資したのだから」という過去への執着が、未来の可能性を殺します。重要なのは「これから利益を生むか」だけです。この心理的な壁であるサンクコストを乗り越えることが、経営者の最初の仕事です。


最初の90日ロードマップ
ここからは具体的なアクションプランに入ります。90日間を30日ごとのフェーズに分け、着実に変革を進めます。
- Day 1–30:棚卸(数字と現場の事実を揃え、見える化する)
- Day 31–60:決断(やる・やめるをルールで決め、資源配分を変える)
- Day 61–90:実行(週次管理で回し、成果が出るまでやり切る)
フェーズ1(Day 1–30):棚卸し ― 「感覚」を捨て「事実」を見る
最初の1ヶ月の目的は、綺麗な資料を作ることではありません。「次のステップで、経営者が迷わず決断するための材料」を揃えることです。
1. 収益の棚卸:「売上」ではなく「粗利」を見る
多くの企業が「売上高」で商品を評価して失敗します。経営を支えるのは「粗利益(売上総利益)」です。経理担当者に指示し、直近1年(または3ヶ月)の以下のデータを出してください。
- 顧客別: 売上・粗利・粗利率
- 商品(サービス)別: 売上・粗利・粗利率
- 案件タイプ別: かかった工数(人時間)と粗利
これを見ると、「売上は大きいが、手間ばかりかかって粗利がほとんどない(あるいは赤字の)取引」があぶり出されます。ここで初めて、「儲かっているつもり」のメッキが剥がれます。
2. 顧客の棚卸:誰が「真のパートナー」か?
顧客を「好き嫌い」ではなく、以下の3軸で分類・評価します。
- 利益貢献: 粗利額が大きいか、粗利率が高いか?
- 将来性: 今後伸びる余地があるか、紹介を生んでくれるか?
- 相性(コスト): 無理な値引き要求や、現場を疲弊させる過剰サービス要求がないか?
この3軸で上位20%に位置する顧客こそが、御社の利益の源泉(パレートの法則)です。逆に、下位の顧客がリソースを食いつぶしていないか、しっかりと直視してください。
パレートの法則については以下の記事で解説していますので、もしよろしければお読みください。
3. 社長の「時間の家計簿」をつける
ここでもう一つ、私からの提案です。社長ご自身の時間の使い方も棚卸してください。
1週間、30分単位で業務を記録します。「未来の売上を作る仕事(戦略・トップ営業・採用)」と「誰でもできる仕事(事務・ルーチン)」に色分けしてみましょう。もし後者が50%を超えていれば、それは組織としての危険信号です。
4. 人材・業務の棚卸し
「人が足りない」と嘆く前に、「配置」を見直します。
- エース級の人材がクレーム処理や不採算案件の火消しに追われていないか?
- ベテラン社員が誰でもできる雑務で埋まっていないか?
このフェーズのゴールは、「やめる候補リスト(利益が薄い・手間が重い)」と「集中候補リスト(利益が厚い・勝ち筋がある)」という2枚のリストを完成させることです。






フェーズ2(Day 31–60):決断 ― 聖域なき「撤退」と「集中」
現状が見えたら、次は最も苦しい、しかし最も重要な「決断」のフェーズです。ここでは「社長の気分」ではなく「会社のルール」で判断することが成功のカギです。
1. 判断軸(ものさし)を明確にする
会議の場の雰囲気で決めてはいけません。以下の5項目(各5点満点)などでスコアリングし、客観的に判断してみてください。
- 市場性: 今後、需要は増えるか?
- 収益性: 十分な粗利が確保できるか?
- 優位性: 自社ならではの技術やノウハウが活きるか?
- 実行容易性: 現在のリソースで90日以内に前進できるか?
- リスク: 撤退・縮小によるダメージ(信用低下など)は許容範囲か?
点数化することで感情論が排除され、幹部間の合意形成がスムーズになります。
2. 「やめる」ための具体的戦術
「やめる」=「明日から取引停止」ではありません。それではいくらなんでも影響が大きすぎます。ここでは、段階的な「縮小の設計」を行っていきます。
- 値上げの打診(踏み絵)
不採算顧客に対し、適正価格への値上げを打診します。「この価格なら継続、ダメなら撤退」という基準を持つのです。これは私の経験上になりますが、仮に半数が離脱しても、残りの半数が値上げに応じれば利益総額は増えて、現場の負担は軽減します。 - 条件の変更
「特急対応は別料金」「小ロットは対応不可」など、こちらが疲弊しないルールを提示します。 - 新規受注の停止
既存客は守りつつ、不採算分野の新規獲得をストップします。
3. 空いたリソースの「使い道」を宣言する
「事業を縮小する」とだけ伝えると、社員は「リストラされるのでは?」と不安になります。必ずセットで「空いた時間と人を、この成長分野(集中領域)に再投資する」と宣言してください。
これまで私が支援してきた企業でも、縮小市場から成長市場へリソースを移動させ、IT活用とセットで生産性を向上させたことで、売上・利益ともに大きく伸ばしています。「前向きな撤退」であることをトップの言葉で語り続ける必要があります。
4. 集中テーマは「最大2つ」まで
あれもこれもやりたい気持ちはわかりますが、90日で成果を出せるのは、多くて2つまでです。
- 例A: 粗利率の高い主力サービスに、営業エースと広告費を集中する。
- 例B: 見積〜納品までの手戻りを減らし、残業時間を20%削減する。
フェーズ3(Day 61–90):実行 ― 成果が出るまでやり切る
最後の30日は実行です。ここで差がつくのは、壮大な計画書ではなく、地味な「週次の管理(PDCA)」です。
1. 週次30分の「経営ミーティング」を固定する
「選択と集中」が失敗する典型パターンは、日常業務の忙しさに負けて元の木阿弥になることです。これを防ぐために、週に1回30分だけで良いので、進捗確認の場を強制的に設けます。
- 議題(固定)
- 今週やること(3つまで)の進捗
- できていない場合の真因(言い訳ではなく原因)
- 来週のリカバリー策(人・カネの再配分)
2. 追うべき指標(KPI)は3つに絞る
複雑な指標は不要です。現場がパッと見てわかる数字を追います。
- 粗利額(または粗利率)
- 受注単価(または値上げ成功件数)
- 残業時間(または手戻り発生件数)
中堅中小企業の生産性向上において重要なのは、継続性です。シンプルな指標を毎週追いかけ、「数字が改善した」という小さな成功体験を積み上げることが、組織の空気を徐々に変えていきます。
3. 「断り方」のテンプレート化
現場任せにせず、「お断り」や「値上げ交渉」の文面・トークスクリプトを会社として用意します。
「原価高騰のため」「品質維持のため」といった正当な理由と、「代替案(納期を延ばせば安くできる等)」をセットにすることで、現場担当者の心理的負担を下げ、実行力を担保します。


Q&A
Q1. 「何をやめるか」が怖くて決められません。どうすれば?
A. 「全部やる」は、緩やかな自殺行為です。すべてを維持しようとすることは、結果として「静かに衰弱する」道を選んでいるのと同じです。いきなり完全撤退が怖ければ、まずは「新規の受付停止」「採算ライン以下の条件設定」といった段階的なハードルを設けてください。やめることで得られる現場の余裕と利益を一度体感すれば、その恐怖は自信に変わります。
Q2. 「選択と集中」をすると、売上が下がって銀行評価が悪くなりませんか?
A. 銀行が見ているのは年商よりも「返済能力(利益)」です。一時的な売上減はあっても、利益体質が改善されるなら、金融機関はむしろ評価します。重要なのは事前の説明です。「不採算事業を整理し、利益率を〇%改善するための構造改革である」という事業計画を持って予め説明に行けば、彼らは頼もしい味方になります。
Q3. 社員から「現場が回らない」と反発が出そうです。
A. 「やめる仕事」とセットで提示できていないのが原因です。現場が反発するのは、「今の仕事量は変わらないのに、新しい集中テーマが増える」と感じるからです。これは物理的に無理です。必ず棚卸しで見つけた「無駄な業務(社内資料、過剰サービス、定例会議)」を削減し、空いた時間で新しいことに取り組むよう、引き算と足し算をセットで指示してください。
Q4. 新規事業もやりたいのですが、90日では無理ですか?
A. 「検証」レベルなら可能です。ただし条件があります。既存事業の火消しが終わっていない状態で、本格的に新規事業に手を出せば、両方とも共倒れします。90日プランの中では、集中テーマを最大2つにし、新規事業は「小さく検証(少額・短期間・限定顧客)」する程度に留めるのが鉄則です。まずは本業の収益基盤を盤石にすることが、新規事業成功への近道です。
まとめ:選択と集中は「勇気」ではなく「手順」である
「選択と集中」と聞くと、清水の舞台から飛び降りるような勇気が必要だと思われがちです。しかし、ここまでお読みいただいた方ならお分かりの通り、これは精神論ではなく、極めてロジカルな「手順」です。
- 棚卸: 感情を排して、粗利・顧客・業務の「事実」を見える化する。
- 決断: 明確な判断軸(スコア)を用いて、やる・やめる・後回しを決め切る。
- 実行: 週次で進捗を管理し、成果が出るまでやり抜く。
このプロセスを経ることで、御社は「忙しいだけで儲からない会社」から、「効率よく稼ぎ、社員も幸せな会社」へと進化することができます。
生産性の壁を突破する手段は魔法の杖ではありません。経営者であるあなたの今日の一歩なのです。 まずは明日、経理担当者に「顧客別・商品別の粗利リスト」を出させることから始めてみませんか? その一枚のリストが、御社の未来を変える羅針盤になるはずです。
私たち唐澤経営コンサルティング事務所では、「コーチング」と「コンサルティング」を組み合わせ、中堅・中小企業の経営課題解決と成長戦略の策定を強力にサポートいたします。経営に関するご相談や無料相談をご希望の方は、下記フォームよりお気軽にお問い合わせください。


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