唐澤経営コンサルティング事務所の唐澤です。中小企業診断士・ITストラテジストの資格を持ち、20年以上にわたり、中堅・中小企業の経営戦略立案や業務改革、IT化構想策定などのコンサルティングに従事してきました。
中堅・中小企業の経営者や管理職であるあなたが向き合っている現場は、本当に過酷です。売上をつくりに行きながら、採用や育成にも頭を悩ませ、トラブルが起きれば火消しに走る。そして会社の未来の舵取りをしなければならない。
こうした状況で日々奮闘されているみなさまには、私も現場でお会いするたびに頭が下がる思いです。
しかし、ここで少し立ち止まって考えてみていただきたいのです。
「案件は山ほどあるのに、なぜか決められない」
「会議はしているのに、何も前に進まない」
「現場は動いているはずなのに、成果が積み上がらない」
もし、このような感覚にあなたも心当たりがあるならば、その原因は努力不足ではありません。多くの場合、問題は個人の頑張りではなく“意思決定の仕組み”にあります。そして数多くの企業の現場に立ち会ってきた経験から言えることは、伸びる会社と停滞する会社の差は、資金力でも技術力でもないということです。その差を生むのは、究極的には「決める力」と「動く速さ」にあります。
中堅・中小企業は大手企業と比較して体力がありません。確かにその通りです。しかし、だからこそ大手企業に対して相対的に優位に立てる領域があることもまた事実です。それが意思決定スピード=機動力です。
巨大タンカーのような大手企業は、方向転換するのに時間と調整コストがかかります。一方で、中堅・中小企業は小回りの利くボートです。波の変化を見て、即座に舵を切ることができる、ここに中小企業の勝機があります。
本コラムでは、精神論ではなく、意思決定を速めるための“再現可能な手順”として、①高速PDCA(仮説検証)②会議改革(決める場の設計)③権限移譲(ボトルネック除去)を、現場でそのまま使える形に落とし込みます。読み終える頃には、御社の意思決定を止めている詰まりどころと、明日からの打ち手が整理されているはずです。




中堅・中小企業の「意思決定スピード」は、なぜ最強の武器になるのか?
かつて日本企業は、「規模の経済」が効きやすい環境にありました。大量生産・大量販売が成立し、規模の大きさがそのまま競争力になった時代です。
しかし現在は、顧客ニーズが細分化し、競合の追随も速い。成功パターンが長続きしにくく、市場は「どれだけ大きいか」よりも「どれだけ早く学習できるか」を問うようになっています。
ここで重要なのは、意思決定を速める効果は単なる「時間短縮」にとどまらないという点です。速い会社は、施策の実行回数が増え、フィードバックを早く回収し、学習が加速します。結果として、勝ち筋の発見と資源配分の切り替えが早まり、打ち手の精度が上がる。この差が積み上がることで、企業競争力になります。
逆に、意思決定が遅い会社はどうなるでしょうか?
顧客の変化に気づくのが遅れ、施策を打つのも遅れ、結果の検証も遅れます。つまり「遅さ」が連鎖していくのです。
“遅い会社は遅さで負ける”
資本力やブランドで勝てない中堅・中小企業が、ここで勝負を捨ててしまうのはあまりにももったいないと思うのです。
なぜ多くの中堅・中小企業は「動けない」のか?その深層構造
意思決定が遅い会社には、ほぼ例外なく「詰まり」があります。詰まりには大きく以下の3種類があります。
①「情報不足」という名の先延ばし
「まだ判断するための材料がすべて揃っていない」
これは、経営者・管理職の口からよく出てくる言葉です。しかしビジネスの現実として、情報が100%揃う日は来ません。むしろ待てば待つほど、前提が変わり、情報の価値が劣化します。
誤解を恐れずに言えば、物事を判断する上ですべての情報が揃っていて、ある程度合理的に答えが出るものを意思決定とは言いません。真の意味での意思決定とは、常に不完全な情報下でおこなわなければならないものなのです。
「真の意味での意思決定とは、常に不完全な情報下でおこなわなければならないもの」と心得よ!
重要なのは、情報の不足そのものではなく、「情報が揃うまで物事が前に進まない設計」になっていることです。必要なのは完璧なデータではなく、まずは確からしい仮説を置き、検証で精度を上げることです。仮説は机上で完成させるのではなく、現場の検証で磨き込みます。
仮説の立て方については、以下の記事をお読みください。
②社長の完璧主義が、現場の判断を止める
「失敗したらどうするんだ!」
この空気が社内に蔓延してくると、社員は学びます。
「この会社では、何もしないのが最も安全だ」
すると、提案の件数は減り、報告は遅れ、現場は萎縮し、社長の不安は増幅してさらに介入が増える。こうして意思決定がますます遅くなる悪循環が生まれます。
誤解していただきたくないのは、ここで言いたいのは「社員には優しくしましょう」という話ではないということです。経営で必要なのは失敗の放任ではなく、“失敗の設計”です。致命傷にならないサイズで試し、早く検証し、ダメなら早く畳む。この設計があるからこそ、会社は速く動けるのです。
③全部が社長の机で止まっている(権限移譲の不全)
「自分が決めた方が早い」
創業社長に多い感覚です。短期的には正しい。しかし中長期では、社長がボトルネックになります。
決裁が社長に集中すると、社長は判断で忙殺されて“考える時間”が消えます。一方、現場は判断しなくなる。判断しない現場を見て社長はさらに不安になり、もっと握ろうとする。これもまた悪循環です。意思決定速度は、能力ではなく構造で決まります。つまり構造を変えれば改善します。
経営者の権限移譲については詳しく知りたい方は、以下の記事もお読みください。








意思決定速度を劇的に高める実践フレームワーク:高速PDCAの回し方
ここからが本題です。
重要なのはPDCAになるのですが、P(計画)を重くしすぎて動けなくなる“重いPDCA”では、現代の経営に対応できません。現代の経営に必要なのは、仮説検証型の高速PDCAです。
PDCAを高速化するコツは、P(計画)の定義を変えることです。計画とは「完璧な設計図」ではありません。計画とは、検証したい仮説と成功条件、そして撤退条件を決めることです。これだけで十分です。例えば、新規施策を考える時に、多くの会社は「綿密な計画書」を作ろうとして止まります。しかし高速PDCAでは逆です。まずは、「この商品は、〇〇の顧客に刺さるはずだ」「この値上げは、離反率が〇%以内に収まるはずだ」といった仮説を設定します。そして次に、当たり外れを判定できる成功条件を置きます。最後に、最も重要な撤退条件を置きます。撤退条件がない挑戦は、ただの博打になるからです。
そして実行(D)は、必ず小さく始めます。小さく始めるとは、勇気がないという意味ではありません。むしろ逆です。小さく始められる会社ほど強いのです。なぜなら試行回数が増え、学習速度が上がり、当たり筋に資源を寄せる判断が早くなるからです。
検証(C)で重要なのは感想ではなく事実です。「どう思う?」ではなく「何が起きた?」で揃える。実務上、数字が確定するまでに時間がかかる会社ほど、検証が遅れます。まずは完璧な月次を待たずに、週次でも日次でもよいので、意思決定に必要な“速報値”を持つことが先決です。最低限、①売上・粗利の速報 ②案件進捗(見込みの変化)③解約・クレーム理由 が見えるだけで、打ち手の修正速度は大きく上がります。
最後に改善(A)です。Aで最も大事なのは、改善だけではありません。“やめる”を決めることです。やめる決断ができる会社ほど、強い。やめるとは失敗ではなく、学習の完了です。ここが腹落ちした瞬間に、意思決定は速くなります。
加えて、意思決定を速めるための現実的なルールとして、私は「70%ルール」を推奨しています。判断材料が70%揃ったら決めて動く。残り30%は、動きながら回収する。もちろん、その代わりにガードレール(上限予算・期限・撤退条件)を必ず置きます。これがあるから、スピードは“怖くないもの”になります。


組織の「機動力」を最大化するマネジメント術
意思決定速度は、社長の判断だけで決まりません。現場の情報が上がる速度、現場が動ける範囲、会議が“決まる場”になっているかどうか。こうした組織設計で決まります。
まず、心理的安全性は「優しさ」そのものではありません。経営の文脈での狙いは、問題が小さいうちに表に出る状態をつくることです。悪いニュースほど早く上がる組織は、手遅れになる前に手が打てます。経営者がつくるべき空気は、「報告すると怒られる」ではなく「報告が早いほど打ち手が増える」です。これだけで情報の流速が変わります。
心理的安全性の詳細については、以下の記事をお読み下さい。
次に会議です。中堅・中小企業の意思決定を止める典型が「長いだけで何も決まらない会議」です。ここで重要なのは、会議の回数を減らすことではありません。会議の目的を①情報共有(原則:事前文書で完結)②意思決定(その場で決める)の二種類に分けることです。
その上で、意思決定会議にはルールを置きます。
- 議題ごとに「決めること」を1行で明記する
- 決裁者/助言者/実行責任者を会議冒頭で固定する
- 判断に必要な論点と選択肢を事前に提示する(当日ゼロベースで議論しない)
- 結論、期限、撤退条件を議事録に残し、次回は“検証”から入る
- 「持ち帰りが続く」のは、能力ではなく会議設計の問題なのです。
権限移譲も同じです。権限移譲がうまくいかない会社は、「任せる」が曖昧です。任せるとは丸投げではありません。現場で任せるときは必ず“枠”を決めるように助言しています。金額の上限、期限、撤退条件。この3点があるだけで、若手でも動けますし、社長も安心できます。権限移譲は、胆力ではなく設計です。
そして最後に「集中」です。機動力は、エンジンの性能ではなく積載量で決まります。あれもこれも抱えれば、意思決定は鈍ります。自社は誰の、どんな悩みを解決するプロなのか。ここに集中し、それ以外は手放す。そうして生まれた余剰リソースを、高速PDCAが回る領域に寄せる。これが最も堅実な“スピード経営”です。


Q&A
Q1:ベテラン幹部から「拙速だ」「現場が混乱する」と反発されます。どうすればよいでしょうか?
A:対立ではなく、役割分担として合意形成をしてください。ベテランの慎重さは、既存事業を守る武器です。否定すると反発が増えます。既存事業は品質・事故防止を重視し、改革や新規は期限と撤退条件を切って“実験”として回す。こうして「守り」と「攻め」を分けると、スピードと安定が両立します。
Q2:若手に権限を委譲したいのですが、失敗しそうで怖いです。どこまで任せるべきですか?
A:「カスリ傷で済む範囲」を数値で区切ってください。上限予算と期限と撤退条件。この枠の中なら、失敗は授業料になります。経験値が溜まるほど、組織の意思決定は自走し始め、社長は上位論点に集中できるようになります。
Q3:ワンマン経営から脱却したいが、私が決めないと進みません。何から始めるべきですか?
A:まず「判断基準(モノサシ)」を社内に配ってください。社員が動けないのは、能力不足ではなく「社長ならどう判断するか」が分からないからです。利益、顧客、品質、スピードの優先順位を言語化し、繰り返し伝える。社長の判断アルゴリズムが共有されたとき、初めて現場が動き始めます。
まとめ:スピードこそが、中堅・中小企業の「生存証明」である
中堅・中小企業が大手に勝つ道は、正面からの力比べではありません。大手企業が入り込めない領域で、大手企業が追いつけない速度で、高速PDCAを回し続ける。これに尽きます。
重要なのは、速さを“勇気”ではなく“設計”で実現することです。保留にしていた案件を一つ、期限と撤退条件を置いて決める。会議を一つ、意思決定の場として作り替える。部下に上限予算・期限・撤退条件を渡し、枠の中で任せてみる。
こうした小さな意思決定を増やすほど、御社の学習速度は上がり、機動力は研ぎ澄まされます。不確実な時代ほど、完璧を待つより、ガードレール付きで前に進み、検証で修正する会社が強い。ここを徹底できれば、次の10年の成長確率は確実に上がっていくでしょう。
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