唐澤経営コンサルティング事務所の唐澤です。中小企業診断士・ITストラテジストの資格を持ち、20年以上にわたり、中堅・中小企業の経営戦略立案や業務改革、IT化構想策定などのコンサルティングに従事してきました。
「創業以来順調に拡大してきたが、ここ数年、成長が踊り場に来ている」
「社員数は増えたが、管理職が育たず、結局社長が現場を回している」
「優秀な人材を採用しても、組織の閉塞感を感じて辞めてしまう」
もしあなたの会社が今、このような悩みを抱えているならば、それは組織が「個人商店の延長」から「公器としての企業」へと脱皮すべき時期に来ている証拠です。多くの中堅・中小企業が、従業員数30名、50名、そして100名の壁の前で足踏みをします。
創業期や拡大期は、経営者のカリスマ性とトップダウン、そして古参社員の「あうんの呼吸」で成長できました。しかし、ある一定の規模を超えると、その成功体験こそが足枷となります。
ここで必要になるのは、特定の個人の能力に依存した経営(属人化)から、「誰がやっても一定の成果が出せる」「人が自然と育つ」仕組みを持つ組織(組織化)への変革です。これは、経営者にとって非常に勇気のいる決断です。これまで自分が牽引してきたスタイルを、根本から見直す必要があるからです。しかし、ここを乗り越えなければ、100年続く「強い企業」を作ることはできません。
本記事では、その変革に必要な4つのステップを、過去の重要コラムと紐付けながら体系的に解説していきます。




組織設計とリーダーシップの基本


組織図や規定を整備する前に、まず経営者自身が「役割の変化」を受け入れる必要があります。多くの中堅・中小企業経営者が陥る罠、それが「プレイングマネージャー」からの脱却の遅れです。
「マネジメント」と「リーダーシップ」の違いを理解する
組織つくりにおいて、まず明確にすべきは「マネジメント」と「リーダーシップ」の違いです。
- リーダーシップ:ビジョンを示し、メンバーの感情を鼓舞し、変革を導く力
- マネジメント:目標達成のために資源(人・モノ・金)を配分し、効率的に運用・管理する力
創業社長は元来、優れたリーダーではありますが、組織規模が大きくなると「マネジメント」の比重を高めるか、あるいは優秀なマネージャーを機能させる必要があります。「管理」と聞くと冷たい印象を持つかもしれませんが、部下が安心して働ける「整地された道路」を作るのがマネジメントの本質であり、組織拡大には不可欠な要素です。
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詳しくは以下の記事で、2つの違いと使い分けについて解説しています。
参照記事:「マネジメントとリーダーシップの違いとは?“管理”では人は動かない」
プレイングマネージャーの限界を知る
「自分がやった方が早い」
「部下に任せるのが不安だ」
その気持ちは痛いほど分かります。しかし、社長や役員が現場でトップセールスを続けている限り、次世代のリーダーは「永遠の補佐役」から抜け出せません。
プレイングマネージャーが陥る「きつい・辛い」状況は、単なる業務過多が原因ではありません。プレイヤーとしての「短期的な成果」とマネージャーとしての「中長期的な育成」という、相反する時間軸を同時に求められる葛藤に原因があります。中堅規模への成長を目指すなら、意識的に「任せる勇気」を持ち、失敗させながら育てるフェーズへと移行しなければなりません。
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現場を離れられない経営者への処方箋はこちらをご覧ください。
参照記事:「プレイングマネージャーとは?「きつい・辛い」と言われる理由と乗り越える5つのコツ」
社員が定着し、育つ環境の作り方(育成・対話)


仕組みができても、そこに「血」が通っていなければ組織は動きません。その血液となるのが、社員のモチベーションと、上司・部下の信頼関係です。
「外発的動機づけ」と「内発的動機づけ」のハイブリッド
「給与水準は業界平均以上のはずなのに、社員のモチベーションが低い」という相談を受けることがあります。これは、給与やポストといった外発的動機づけのみに頼っていることが原因かもしれません。
組織が大きくなればなるほど、一人ひとりの社員が歯車のように感じやすくなります。だからこそ、「仕事そのものの面白さ」「成長実感」「社会への貢献」といった「内発的動機づけ」を刺激するマネジメントが重要になります。「なぜこの仕事をするのか?」という意味づけの共有が、組織の求心力を高めます。
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2つの動機づけの使い分けについては、こちらで詳しく解説しています。
参照記事:「外発的動機づけと内発的動機づけの具体例と使い分け方」






失敗しない「1on1」の導入
内発的動機づけを引き出す有効な手段の1つが「1on1ミーティング」です。しかし、多くの企業で「形骸化」が進み、「単なる業務進捗確認の場」になってしまっています。
1on1の主役はあくまで「部下」です。部下が今何に悩み、将来どうなりたいのかを「聴く」時間です。ここで重要なのは、「エンゲージメント(会社への愛着心・貢献意欲)」を高めることです。組織階層が複雑になる中堅・中小企業こそ、定期的な対話を通じて心理的安全性(何を言っても拒絶されない安心感)を確保することが、離職防止の要となります。
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信頼関係を深める対話の技術については、こちらをご覧ください。
参照記事:「1on1とは何かをわかりやすく解説-失敗しない上司と部下の対話術」
納得感を生む「人事評価制度」の設計
人が会社を去る最大の理由の一つが「評価への不満」です。「なぜあの人が昇格して、自分は評価されないのか?」という不透明さは、組織の癌ともなり得ます。
中堅・中小企業に適した評価手法の選択
評価には大きく分けて、他者と比較する「相対評価」と基準に対する達成度を見る「絶対評価」があります。
結論から申し上げますと、成長志向の中堅・中小企業の組織づくりにおいては「絶対評価」を強く推奨します。社員数が限られる中で「S評価は部署内で1人まで」といった相対評価を行うと、全員が成果を出した期でも誰かを低く評価しなければならず、無用な足の引っ張り合いを招きます。「昨日の自分より成長したか」「会社の期待値(役割定義)を超えたか」を軸に評価することで、協力し合う文化が醸成されます。
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自社に合うのはどちらか?詳細な比較はこちらをご覧ください。
参照記事:「絶対評価と相対評価の違い|メリット・デメリットと選び方」
制度よりも重要な「運用力」
立派な人事評価シートや賃金テーブルを作ったとしても、評価する側(管理職)のスキルが低ければ全て無駄になります。「あの部長は甘い」「この課長は評価基準が曖昧だ」といった不信感は、組織崩壊の引き金です。
これを防ぐためには、評価者研修が重要となります。評価制度は「給与を決める計算機」ではありません。「会社が何を大切にしているか」というメッセージを伝え、社員の行動変容を促すためのコミュニケーションツールです。制度設計と同じくらい、運用者(ミドルマネジメント)の教育に投資してください。
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評価者の目線を合わせ、質を高めるためのポイントはこちらです。
参照記事:「評価者研修のポイントとは?評価の質を高めるために押さえるべき3つの視点」
組織崩壊を防ぐための心構え


どれほど制度を整えても、人の心は生き物です。経営者は常に組織のコンディションにアンテナを張っておく必要があります。
「会社の方針が合わない」の裏にある本音
退職時、多くの社員は「会社の方針と合わなくなった」「他にやりたいことができた」と言って去っていきます。しかし、コンサルタントとしての経験上、これが100%の本音であるケースは稀です。本当の理由はもっと組織の深部にあります。
「上司のマネジメントについていけない」「正当に評価されていないと感じる」
「この会社でのキャリアパスが見えない」
これらを言わずに(言えずに)、無難な理由で社員は去っていくのです。
経営者が「方針の不一致なら仕方ない」「去る者は追わず」とそこで思考停止してしまうと、組織の問題点は放置されたままとなってしまい、エース級社員の連鎖退職(リテンションの失敗)を招く可能性があります。
去りゆく社員の言葉を鵜呑みにせず、日頃の1on1や組織サーベイを通じて、潜在的な不満を早期に発見する仕組みが必要です。
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退職者の本音と向き合い、組織改善に活かす方法はこちらで解説しています。
参照記事:「『会社の方針が合わない』と辞めていく社員の本音とは?」
Q&A
Q1. まだ少人数の会社ですが、きちんとした人事評価制度は必要ですか?
A. 必要ではありますが、大掛かりなものは不要です。中堅企業へと成長するための土台作りとして、早めの導入をおすすめします。ただし、大企業のような複雑なものではなく、「何ができれば給料が上がるのか」というシンプルな基準(評価テーブル)を作るだけでも十分です。重要なのは、社長の感覚から脱却し、「公平性」を担保することです。
Q2. 右腕となる幹部が育ちません。どうすればいいですか?
A. 権限委譲の「範囲」と「基準」を明確にしてください。幹部が育たない最大の原因は、社長が詳細まで口を出しすぎることです。「ここまでは君の決裁でやっていい。ただし、この金額を超える場合や、トラブル対応は必ず相談すること」というルールを決め、あとは失敗を見守る忍耐力が必要です。この「任せるリスク」を取れるかどうかが、中堅企業へ脱皮できるかの分水嶺です。
Q2. 離職が止まらない時の応急処置はありますか?
A. まずは「止血」として、徹底的なヒアリングを行ってください。キーマンとなる社員や、若手社員と個別に時間をとり、評価抜きで「今の組織の課題」を吐き出させます。そして、出てきた課題の中で「すぐに改善できること(例:備品の購入、無駄な会議の廃止など)」を即座に実行してください。「会社は私たちの声を聞いて変わろうとしている」という姿勢を経営陣が見せることが、信頼回復の第一歩です。
まとめ
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
組織づくりにおいて、魔法の杖はありません。「今日からこの制度を導入したから、明日から全員が自走し始める」ということはあり得ないのです。
しかし、「正しい手順」で着実に仕組みを積み上げていけば、組織は必ず応えてくれます。もしあなたが今、組織の壁の前で立ち尽くしているのであれば、まずは本記事で紹介した「リーダーシップの再定義」や「対話の質の向上」といった小さな一歩から始めてみてください。
経営者の仕事は、売上を作ることだけではありません。「社員が輝き、会社が持続的に成長していく土壌」を耕すことこそが、中堅・中小企業のトップに求められる最大のミッションです。 あなたの会社が、組織の壁を超え、強固なチームとして次のステージへ飛躍することを心より応援しております。
私たち唐澤経営コンサルティング事務所では、「コーチング」と「コンサルティング」を組み合わせ、中堅・中小企業の経営課題解決と成長戦略の策定を強力にサポートいたします。経営に関するご相談や無料相談をご希望の方は、下記フォームよりお気軽にお問い合わせください。


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