「DXを進めたい。でも、何から手をつければいいのか分からない」

このご相談を、よくいただきます。そして多くの場合、その次に出てくるのが「どのツールを入れればいいですか」という質問です。

先に結論を申し上げます。ツールを選ぶのは、いちばん最後です。

最初にやることは、いまの業務の流れを分解して、どこで詰まっているかを見つけることです。ここを飛ばして道具から入ると、お金だけが出ていきます。

この記事では、実際に起きた2つの失敗から、順序の話をします。

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先に、2つの失敗をご紹介します

① 入れたのに、誰も入力しなかった

社長が「営業の状況を見えるようにしたい」と考えて、SFA(営業支援システム)を導入した会社があります。

結果、誰も入力しませんでした。

最初の1か月は入力されます。2か月目から減り、3か月目には止まります。そして会社は、使われていないシステムの使用料を払い続けることになりました。

なぜこうなるのか。入力する人にとって、それをやる理由がなかったからです。

社長にとっては「営業の状況が見える」という目的があります。しかし営業担当にとっては、いままでやらなくてよかった作業が1つ増えただけです。見えるようになって得をするのは社長で、手間が増えるのは現場。この状態で続くはずがありません。

② 入れたのに、何も映らなかった

もう1つ。社長がBIツール(データを集計して可視化するツール)のベンダーからデモを見せられ、「これでうちの数字を管理しよう」と考えて導入した会社があります。

結果、何も映りませんでした。

デモの画面はきれいです。売上が、利益が、部門別に、リアルタイムで出てくる。ところが自社に入れてみると、そこに入れるデータが揃っていませんでした。

部門ごとに集計の単位が違う。同じ「売上」でも、締めのタイミングが部署によって違う。原価の入れ方が案件ごとにばらばら。BIツールは、数字を映す鏡です。映すものが決まっていなければ、何も映りません。

2つに共通していること

どちらも、社長が先に「ツール」を決めています。

誤解のないように申し上げると、社長が主導すること自体は正しいです。むしろ、現場任せにして進んだDXを、私はあまり見たことがありません。決めるのは社長です。

問題は、決める対象です。

トップダウンで決めてよいのは「目的」であって、「ツール」ではありません。

①は、目的が現場に降りていませんでした。②は、目的以前に、扱うデータの定義がありませんでした。

そして両方に共通するのが、「DXをすること」自体が目的になっていた、という点です。

これは私の考えというより、支援の現場で繰り返し見てきたことです。設備投資には数千万円を出せる会社が、システムには数百万円を出し渋る。理由は「何がよくなるのか」を金額で言えないからです。そして言えないまま入れると、使われないものが残ります。

数字で見ると、どうなっているか

中小企業基盤整備機構の調査(「中小企業のDX推進に関する調査(2025年)」2025年12月実施・回答1,000社)に、規模別の理解度が出ています。

従業員規模DXを理解している(+ある程度理解している)
101人以上69.6%
21〜100人58.4%
20人以下36.2%

一方、「DXが必要だ」と考えている企業は、全体で73.3%です。

必要だと思っている割合のほうが、理解している割合より高い。この差が、いまの状況をよく表しています。必要なのは分かっている。でも中身が分からない。そこにベンダーのデモが来れば、それが答えに見えます。

そしてもう1つ、同じ調査から。DXに期待する成果は「コスト削減、生産性の向上」が39.6%、「業務の自動化、効率化」が37.8%。この2つが突出しています。

これは正直に申し上げますが、厳密にはDXではありません。効率化やコスト削減は「デジタライゼーション」——いまの業務をデジタルに置き換える段階です。DXは本来、その先の「事業のやり方そのものを変える」ところを指します。

ただ、私は順番として、まず効率化からで構わないと考えています。いきなり事業を変えろと言われて動ける会社は多くありません。効率化で1つ成功すると、次に進めます。

もう1つ、見逃せない変化があります。同じ調査で、DXの具体的な取組み内容として「AIの活用」が28.4%前回調査の14.3%から、1年で14.1ポイント上がっています。

道具から入る力は、いま強くなっています。だからこそ、順序の話が要ります。

そして課題の上位は「ITに関わる人材が足りない」28.3%、「予算の確保が難しい」26.0%です。人も金も足りない。足りないからこそ、外した1発の痛みが大きくなります。

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何から始めるか——4つの順序

① 何のためにやるのかを、社長が決める

「DXをやる」ではありません。「何がどうなっていればいいのか」です。

「見積を出すのに3日かかっているのを、当日中にしたい」でも構いません。具体的であるほど、あとが楽になります。

② 業務の流れを分解して、詰まっている場所を探す

ここがいちばん時間をかけるところです。

いまの仕事が、誰から誰へ、どんな形で渡っているか。どこで待ちが発生しているか。同じ情報を何回入力しているか。これを紙に書き出します。

ここで初めて、「デジタルで解決できる課題」と「デジタルでは解決しない課題」が分かれます。

②の失敗(BIツール)は、この工程を飛ばしたために起きています。業務の軸——何を単位にして数えるのか——が決まっていなければ、集計する道具を入れても意味がありません。

③ 現場を巻き込む。ただし丸投げはしない

①の失敗(SFA)は、ここです。

目的を決めるのは社長、詰まっている場所を見つけるのは現場、という分担にします。現場に「何に困っているか」を出してもらうと、入力する理由が生まれます。自分が困ると言ったことを解決する道具なら、人は使います。

④ 小さく始めて、1つ成功させる

全社を一度に変えようとすると、必ず止まります。

1つの業務に絞って、そこで成功させる。成功例が1つあると、社内の空気が変わります。「うちでもできる」が実感になるからです。

実際に、順序を入れ替えただけで動いた例

社員50名ほどの建設会社でのことです。

ご相談は「システムを入れたい」でした。ところが業務を分解してみると、見積・発注・原価・請求が、それぞれ別の管理表で動いていました。同じ工事なのに、部署ごとに違う番号で管理されていた。

そこで決めたのは、システムではありません。「工事番号を軸にして、全部そこにぶら下げる」ということです。

決めたあとは早い。どの表をどう直すかが自動的に決まり、その先でどんな道具が要るかも見えました。結果として、管理部門の残業が2割以上減り、30%以上の効率化が見込める状態になりました。

システムの話は、そのあとです。

どこまで自社でやり、どこから外に頼むか

ここまでの手順は、外部に頼まなくてもできます。実際、自社だけで進めている会社もあります。

外に頼んだほうがよいのは、次の3つのどれかに当てはまるときです。

ひとつ。関係者の利害が対立していて、社内の誰かが仕切ると角が立つとき。
業務の分解は「誰がどこで止めているか」が見える作業です。社内の方が進めると、犯人探しに見えます。

ふたつ。「今のやり方でいい」という声が強くて、最初の1歩が踏み出せないとき。
外部が入ると、同じことを言っても「指摘」として受け取られます。能力の差ではなく、立場の差です。

みっつ。すでにベンダーとの話が進んでいて、それが自社に合っているのか判断できないとき。

なお、私はシステムを作りません。実装を請け負わないので、製品も方式もフラットに比べられます。作る側にいると、どうしても自社が受注しやすい形に寄ります。悪意の話ではなく、立場の問題です。

当事務所では、次の形でご支援しています(業務・ITコンサルティング)。

  • 業務可視化支援(ワークショップ) 80万円 半日×3回。参加者が実際に手を動かして書きます
  • 顧問型 業務・ITコンサルティング 月20万円 月1回・半日。構想策定から製品選定まで、上流工程全般

業務の分解のやり方そのものは、業務可視化のやり方完全ガイドに詳しく書いています。

よくあるご質問

Q1. ツールは、結局どれを選べばいいのですか。
A. 業務を分解したあとであれば、選択肢は自然に絞られます。順序が逆になっているときほど「どれがいいか」という問いになります。

Q2. 補助金は使えますか。
A. 使える場合があります。ただし補助金の締切に合わせて導入を決めると、②の失敗(何も映らないBIツール)が起きやすくなります。先に業務を分解し、そのうえで使える制度があれば使う、という順序をおすすめします。

Q3. どれくらいの期間がかかりますか。
A. 対象を1つの業務に絞れば、半日×3回で一巡します。全社を一度にやろうとすると止まります。

Q4. 何人を集めればよいですか。
A. その業務に実際に関わっている方を、前工程・後工程も含めて5〜8名です。管理職だけを集めると、実際に行われていることではなく、あるべき姿が出てきます。

Q5. すでにツールを入れてしまいました。手遅れですか。
A. 手遅れではありません。ただし順序を戻す必要があります。どの業務がそのツールに乗り、どの業務が乗らないかを整理すると、追加開発の量が変わります。

最後に

DXは、道具を入れることではありません。いまの仕事のやり方を、自分たちで説明できる状態にすることが先です。

説明できれば、どこを変えればいいかが分かります。分かってから道具を選べば、その道具は使われます。

なお私は、中小企業庁が実施する、商工会・商工会議所の経営指導員向けの講習で、DX支援について講師を務めています。支援する側に何を伝えるかを考えてきた立場から申し上げても、順序を守ることがいちばん確実です。

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この記事を書いた人

唐澤 智哉

新卒で大手金融系シンクタンクに入社し、大手企業向けのITコンサルティングに従事。その後、2社のコンサルティングファームにて、大手企業向けの業務改革・ITコンサルティングに従事。
2012年に大手IT企業に入社し、中小企業向けのコンサルティング事業の立ち上げの中心メンバーとして事業化までを経験し、10年間中小企業向けの経営コンサルティング・ITコンサルティングや研修・セミナーに従事。
その後、2022年に唐澤経営コンサルティング事務所を創業。中小企業向けの経営コンサルティング、業務改革・DX、研修・セミナー等のサービスを提供している。
趣味は読書。