唐澤経営コンサルティング事務所代表の唐澤です。
中小企業診断士・ITストラテジストの資格を持ち、20年以上にわたり、中堅中小企業の経営戦略立案や業務改革、IT化構想策定のコンサルティングに従事してきました。

このコラムでは、私のコンサルティング経験をもとに、中堅中小企業の経営に役立つ情報を発信しています。唐澤経営コンサルティング事務所代表コンサルタントの唐澤です。

現在のビジネス環境では、デジタルトランスフォーメーション(DX) の推進が競争力を維持するうえで不可欠といわれています。

しかし、中小企業においては人材不足や資金確保など、多くの課題が立ちはだかるのも事実です。

本記事では、私自身のコンサルティング経験を交えながら、中小企業が直面するDX推進の課題と具体的な解決策をわかりやすく解説します。

DXに対する理解を深め、一歩踏み出すきっかけになれば幸いです。

中小企業のDX推進における主な課題

認識不足

多くの中小企業では、DXが「IT化や業務効率化の延長線上」程度に捉えられているケースが少なくありません。

  • DXの本質的な意義(デジタルによるビジネスモデル変革) が理解されていない
  • 「必要性がわからない」または「今は必要ない」と判断してしまう

実際、独立行政法人中小企業基盤整備機構が2023年に行った調査によると、約30%の中小企業がDXの必要性を認識していないという結果が出ています。

IT人材と資金の不足

DXの推進には、社内に専門知識を持つ人材が不可欠です。しかし、中小企業の多くはIT人材やDX担当者の確保が難しい状況に置かれています。また、システム導入やコンサルタント費用に充てる予算不足も深刻です。

  • IT人材の獲得競争:大企業やIT企業と比較すると給与水準などで劣り、優秀な人材を確保しにくい
  • 限られた資金リソース:最新技術への投資を行おうにも、資金繰りの厳しさから見送りがち

同じく中小企業基盤整備機構の調査では、「IT人材・DX人材の不足」「予算確保の難しさ」が上位の課題に挙げられています。

DX推進のための具体的な解決策

経営者の強いリーダーシップ

DXは単なるシステム導入や業務効率化ではなく、経営戦略そのものと位置づける必要があります。そのためには、経営者自身がDXに対する理解を深め、全社を巻き込む形でビジョンを共有することが重要です。

  • 全社的な推進体制の構築
    経営者がリーダーシップを発揮し、各部門を巻き込むことでスムーズな意思決定が可能に
  • DXビジョンの明確化
    「DXを通じてどのような付加価値を創造するのか?」をはっきり打ち出す

外部支援・補助金の活用

IT人材や資金が不足している場合、外部リソースの活用は不可欠です。

  • 補助金の活用
    「IT導入補助金」「ものづくり・商業・サービス補助金」等を利用することで、導入コストを大幅に削減可能
  • 外部専門家との連携
    • ITベンダー、システムインテグレーター、コンサルタントをパートナーに
    • 自社にノウハウがない場合でも、最新技術やDXノウハウを取り入れやすい

小さな成功体験の積み重ね

DXを一気に大規模に進めようとすると、プロジェクトが複雑化し失敗リスクも高まります。まずは小規模な領域から着手し、成功事例を社内に周知・展開することで、DXへの理解と協力体制を徐々に固めていくのが得策です。

  • 社内意識の変革
    小さな成果を積み重ねることで、デジタル活用のメリットを理解しやすくなる
  • 短期的に成果が出やすいプロジェクトから開始
    例)顧客管理システムの導入、在庫管理の自動化など

私の体験談

私がコンサルタントとして関わった建設業のクライアントの事例をお話しします。

この会社は、建設工事案件の受注量が急増したことに伴って、それに対応するための効率的な業務遂行体制の確立が急務となっていました。社長はこの状況に危機感をもっていたため、DXを検討したものの、社内に専門人材が不足している上、現場業務との両立も困難で進まなかったとのこと。

そこで、DXプロジェクトを立ち上げ、以下の3ステップで構想策定を行いました。
①現状分析
②課題対応方針策定
③DX計画の策定

部門長や若手社員の斬新なアイデアを引き出しつつ、建設業特有の業務特性を考慮したアドバイスを提供しながら、協働でDX構想を練り上げていきました。

結果として、システム運用開始から1年未満で、管理部門の残業時間が20%以上削減されました。また、工事部門においても、情報一元化により他部門とのコミュニケーションが効率化されたとの声が多数上がっています。さらに、月次決算の実現により、タイムリーな経営情報に基づく迅速な意思決定が可能となりました。

Q&A

Q1: DX推進にはどれくらいの期間が必要ですか?
A: 企業の規模や業種、スコープ(範囲)によって大きく異なります。中小企業の場合は一般的に構想策定で3か月~半年間、システム導入・構築で半年〜3年程度のスパンで考えておくとよいと思います。

Q2: DX推進のための予算はどのくらい必要ですか?
A: これも企業によって大きく異なります。
参考までに日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)の『企業IT動向調査報告書 2022』によると、日本企業の2021年度の売上高に占めるIT予算比率のトリム平均値は1.15%となっています。ただし、この数値は大企業も含めた平均値です。中小企業に限定すると、平均値は1%をやや下回る水準と考えられます。よって、中小企業のIT投資は売上高の1%程度を1つの目安として認識しておくとよいでしょう。
補助金等をうまく活用することにより、自社負担を軽減できる可能性がありますので、事前に調査しておくことをおすすめします。

Q3: DXを推進する上で、最も重要なことは何ですか?
A: 経営者の強いコミットメントです。
DXは単なるIT導入ではなく、経営戦略そのものです。経営者自身がDXの必要性を理解し、リーダーシップを発揮することがDX推進においては不可欠です。逆に言えば、経営者がDXの必要性を理解していない企業でDXの推進は難しいといっても過言ではないでしょう。

まとめ

中小企業のDX推進は、確かに人材不足や予算不足など多くのハードルがあります。しかし、

  1. 経営者の強いリーダーシップ
  2. 外部リソース(補助金・コンサルタントなど)の活用
  3. 小さな成功体験の積み上げ

といったアプローチをとることで、着実に前進することが可能です。
DXは企業の未来を左右する大きな分岐点となります。まずは小さな一歩から踏み出し、継続的な変革を積み重ねていきましょう。

DXの具体的な進め方やツール選定、社内体制づくりなど、お悩みやご不明点がありましたらお気軽にご相談ください。唐澤経営コンサルティング事務所では、中小企業診断士・ITストラテジストとして、中堅中小企業の規模や業種に合わせた最適なアドバイスとサポートを行っています。

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この記事を書いた人

唐澤 智哉

新卒で大手金融系シンクタンクに入社し、大手企業向けのITコンサルティングに従事。その後、2社のコンサルティングファームにて、大手企業向けの業務改革・ITコンサルティングに従事。
2012年に大手IT企業に入社し、中小企業向けのコンサルティング事業の立ち上げの中心メンバーとして事業化までを経験し、10年間中小企業向けの経営コンサルティング・ITコンサルティングや研修・セミナーに従事。
その後、2022年に唐澤経営コンサルティング事務所を創業。中小企業向けの経営コンサルティング、DXコンサルティング、研修・セミナー等のサービスを提供している。
趣味は読書で、年間200冊近くの本を読む。