唐澤経営コンサルティング事務所代表の唐澤です。
中小企業診断士・ITストラテジストの資格を持ち、20年以上にわたり、中堅中小企業の経営戦略立案や業務改革、IT化構想策定のコンサルティングに従事してきました。

このコラムでは、私のコンサルティング経験をもとに、中堅中小企業の経営に役立つ情報を発信しています。

急速な技術革新やグローバル化の進展に伴い、企業を取り巻く競争環境はますます厳しくなっています。特に中小企業では、限られた経営資源(人材・資金・設備など)をどう最適に活用し、効率的に成果を出すかが大きな課題です。

本記事では、そんな中小企業の経営者が意識すべき「生産性」という視点にフォーカスします。生産性向上は単なる業務効率化に留まらず、企業の競争力を高め、持続可能な成長を実現するための基盤です。最新のデータや具体的な手法を交えながら解説していきますので、ぜひ自社の改善にお役立てください

 生産性とは?

生産性とは、「投入した資源に対して、どれだけ多くの成果を出せるか?」ということを表す言葉です。

例えば、A工場とB工場という2つの工場があったとします。保有する設備・人員数はいずれの工場も同一と仮定します。製品aについて、A工場では1日に80個、B工場では1日に100個製造(製品の品質・コスト・納期は同一とする)した場合、どちらの工場がより生産性が高いでしょうか?投入資源が同じで、かつ製品品質も同一という条件下であれば、B工場が1日当り20個製品aを多く製造できたわけですから、B工場の方がより生産性が高いということになります。

我が国の生産性

DXの話題になると、関連ワードとして「生産性」という言葉を頻繁に耳にします。
その理由の1つとしてよく挙げられるのが、海外諸国と比較した我が国の生産性の低さです。

以下の図は、我が国の労働生産性について国際比較したものです。

出典:中小企業白書 2022年版

日本の労働生産性は、OECD加盟国38か国中で28位と低迷し、OECD平均を下回っています。首位であるアイルランドと比較すると、その生産性は約4割弱にとどまる水準です。

さらに、一人当たりの労働生産性(GDPベース)も81,510ドルで29位となり、1970年以降で最も低い順位となっているのが現状です。先進国との比較においても、日本は最下位レベルに位置づけられています。

中小企業の生産性

続いて、中小企業・小規模事業者の生産性についても見てみましょう。

中小企業に着目すると、労働生産性はここ約20年間ほぼ横ばいで推移しています。一方、大企業では生産性が高い水準で推移し続けており、大企業の生産性は中小企業の2倍以上となっています(下図)。

出典:中小企業白書 2022年版

では、すべての大企業が中小企業より生産性が高いのでしょうか?

下図は、企業規模別の労働生産性の水準比較をしたもので、企業規模別に上位10%、中央値、下位10%の労働生産性の水準を示したものです。

この図から読み取れるポイントは以下の2点です。

  • 中小企業・中堅企業・大企業いずれの区分においても、企業規模に比例して労働生産性が高くなっている。
  • 上位10%の中小企業の労働生産性は大企業の中央値を上回っている。

注目すべき点は「上位10%の中小企業の労働生産性は大企業の中央値を上回っている」という点でしょう。つまり、中小企業であっても、トップ層は一般的な大企業よりも高い生産性を実現している可能性があるのです。

もう少し細かく見ていきましょう。以下の図は、業種別に見た労働生産性の規模間格差を示しています。

出典:中小企業白書 2022年版

この図から読み取れることは、「大企業と中小企業の労働生産性の格差の大きさは、業種によって異なる」ということです。この図からは、「建設業」や「情報通信業」、「卸売業」では大企業と中小企業の労働生産性の格差が大きい一方で、「小売業」や「宿泊業, 飲食サービス業」、「生活関連サービス業, 娯楽業」では、大企業も含め業種全体での労働生産性が低く、企業規模間の格差は比較的小さいことが読み取れます。

以上を踏まえ、中小企業がどのように生産性を高めていけばよいかについて以降で見ていくことにしましょう。

生産性を高める方法

生産性の計算式

生産性とは「投入した資源に対して、どれだけ多くの成果を出せるか」とお伝えしましたが、具体的にどのように計算すればよいのでしょうか?

生産性は「獲得した成果」とその成果物を得るために「投入した資源量」の比率、もっとわかりやすく言えば「アウトプット÷インプット」で計算することができます。

【具体例】A社とB社の比較

  • A社:10人の社員で年間5,000万円の利益を上げる → 社員1人当たりの利益は500万円
  • B社:5人の社員で同額の利益(5,000万円) → 社員1人当たりの利益は1,000万円

同じアウトプット(利益5,000万円)でも、必要な人員が少ない方が生産性(1人当たり利益)は高くなります。生産性=B社がA社の2倍ということになります。

生産性を高めるためには

では、生産性を高めるにはどうすればよいのでしょうか?
生産性を高める方法は以下の2つです。

  • 計算式の分母である「インプットを少なくする」こと
  • 計算式の分子である「アウトプットを大きくする」こと

「競争に勝ち抜くためには、競合他社より1時間でも1分でも長く働くんだ!」という文化をもった企業を見ることがあります。もちろん、法令を遵守しながら、このような考え方に基づいてきちんとした成果が出ていれば、そこには何ら問題はありません。

しかし、長時間働いたにも関わらず、成果が何ら変わらなかった場合はどうでしょう?

生産性の式を見ればわかりますが、インプットだけを増やすと生産性は低下します。
つまり、インプットを増やして生産性を高めるためには、「インプットを大きくした分、それ以上にアウトプットが大きくなる」ことが求められることになります。

前述の企業の場合、長時間労働の目的が他社との競争に勝つためである以上、結果として生産性が変わらない、もしくは低下したのであれば、それは目的達成の手段としては適切ではありません。特に残業を増やして成果を高める方法を採用した場合、残業代の時給は通常勤務よりも高くなりますし、長時間労働での疲労による社員の作業速度の低下・ミスの発生といった別の変数が現れるため、生産性低下リスクはさらに高まるという点にも注意が必要です。

生産性を高める打ち手

生産性を高める打ち手には様々なものがありますが、本記事ではDXの観点に絞って主な打ち手を考えていきます。

①インプットを少なくする方法
インプット(資源量)を削減するには、人材や設備、時間の無駄を省く取り組みが重要です。特にDX(デジタルトランスフォーメーション)を活用すると、以下のような効果が期待できます。

  1. クラウドコンピューティングの活用
    ハードウェアの維持管理を外部に委託することで、サーバー保守やシステム管理にかかるコスト・手間を削減。
  2. 紙文書のデジタル化
    クラウドストレージや文書管理システムを利用し、紙の保管スペースと検索に要する時間を大幅カット。
  3. オンライン会議の導入
    出張や移動時間の削減に加え、スピーディな意思決定が可能に。
  4. 業務プロセスの自動化(RPAなど)
    単純作業や定型業務を自動化し、人材を付加価値の高い業務へシフトさせる。
  5. AI・機械学習による分析
    大量データの解析を自動化し、調査やレポート作成にかかる時間を削減。

クラウドの詳細については、以下の記事をぜひご覧ください。


②アウトプットを大きくする方法
一方で、アウトプット(成果)を増やすには、売上増加や付加価値創出を目指す取り組みが効果的です。以下のような方法が考えられます。

  • EC(電子商取引)の活用
    オンラインショップを開設し、24時間365日どこからでも購入可能な環境を整え、新規顧客の獲得やリピート率アップを狙う。
  • ソーシャルメディアの活用
    SNSを通じてブランド認知度を高め、顧客との直接コミュニケーションを図り、新たな需要を掘り起こす。
  • デジタルマーケティングの最適化
    Webサイトや広告のデータ分析をもとに、ターゲット層に最適化された施策を打ち出し、コンバージョン率を高める。
  • カスタマーエクスペリエンス(CX)の向上
    チャットボットやオンラインサポートを導入し、顧客満足度を高めることでリピート購入や口コミ拡散を促進。
  • データドリブンな意思決定
    顧客データや市場動向を分析し、商品・サービスの改良や新規開発へ反映することで差別化を図る。

生産性向上のためのアクションステップ

  1. 現状分析
    • 自社の生産性指標(売上高、利益、労働生産性など)を把握
    • 業界平均や競合他社との比較で課題を明確化
  2. 施策の優先順位付け
    • DX施策を含む改善策をリストアップし、インパクトの大きい順に実行
    • 社内のリソースや予算と相談しながら段階的に導入
  3. PDCAサイクルの徹底
    • 試行錯誤を恐れず、定期的に効果測定を行い、さらに改善点を抽出
    • 継続的な取り組みで成果を最大化
  4. 組織文化の改革
    • 社員のスキルアップや意識改革を促す教育・研修
    • 失敗を許容し、イノベーションを支援する風土づくり

まとめ:生産性向上は企業の未来を変えるカギ

  • 生産性向上は競争力と持続可能な成長を支える基盤
  • 中小企業でも適切な打ち手を講じれば、大企業を上回る生産性を実現可能
  • デジタル技術や業務改革を組み合わせて、インプット削減・アウトプット拡大を目指す

生産性向上の取り組みは一朝一夕で結果が出るものではありません。しかし、DXをはじめとするデジタルツールの活用や業務プロセスの見直し、人材育成を地道に続けることで、大きな成果につながります。限られたリソースを最大限活かすためにも、ぜひ本記事の内容を参考に、自社の生産性向上へ第一歩を踏み出してください。

生産性向上に関するお悩みやご不明点がありましたら、お気軽にご相談ください。唐澤経営コンサルティング事務所では、中小企業診断士・ITストラテジストとして、中堅中小企業の規模や業種に合わせた最適なアドバイスとサポートを行っています。

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この記事を書いた人

唐澤 智哉

新卒で大手金融系シンクタンクに入社し、大手企業向けのITコンサルティングに従事。その後、2社のコンサルティングファームにて、大手企業向けの業務改革・ITコンサルティングに従事。
2012年に大手IT企業に入社し、中小企業向けのコンサルティング事業の立ち上げの中心メンバーとして事業化までを経験し、10年間中小企業向けの経営コンサルティング・ITコンサルティングや研修・セミナーに従事。
その後、2022年に唐澤経営コンサルティング事務所を創業。中小企業向けの経営コンサルティング、DXコンサルティング、研修・セミナー等のサービスを提供している。
趣味は読書で、年間200冊近くの本を読む。