唐澤経営コンサルティング事務所代表の唐澤です。
中小企業診断士・ITストラテジストの資格を持ち、20年以上にわたり、中堅中小企業の経営戦略立案や業務改革、IT化構想策定のコンサルティングに従事してきました。
このコラムでは、私のコンサルティング経験をもとに、中堅中小企業の経営に役立つ情報を発信しています。
経営者として、1年という短期間で会社を成長させるには、どう計画を立てればいいのか悩むことはありませんか?
市場環境や経営資源が刻々と変化する中、短期的な視点で確実な成果を上げることが求められる場面は多いと思います。
そこでカギとなるのが「単年度経営計画」です。
これは、1年というスパンで具体的な目標を定め、行動計画を立てていく手法です。適切な計画を立てることで、日々の経営が明確な方向性を持ち、従業員全体の士気を高めることができます。
この記事では、単年度経営計画の基本から立案のコツ、さらには成功事例をご紹介します。
この記事を読んでいただければ、計画立案のポイントをつかみ、自社を確実に成長軌道に乗せるための道筋を見つけられるでしょう。
単年度経営計画の基本

単年度経営計画とは
単年度経営計画とは、1年間という短期間での経営目標を明確に設定し、その目標を達成するために必要な行動を具体的に整理した計画です。
単年度計画は、会社の「1年後のあるべき姿」を描き、そのために「何を」「いつまでに」「どのように」実行するのかを明確にします。
例えば、「今年は売上を増やす」という漠然とした目標ではなく、「売上を前年対比で15%増加させる。そのために新商品の販売を強化し、主要取引先の新規開拓を5件達成する」といった形で、具体的な目標を設定します。
このように数値や行動を具体化することで、社内全員が進むべき方向性を共有できるようになります。
また、単年度経営計画は「羅針盤」の役割を果たします。経営者や従業員が日々の業務に追われる中で、迷わずに判断を下し、会社全体を効率よく運営するための道しるべとなるのです。
単年度経営計画の目的
単年度経営計画の最大の目的は、会社の目標を具体的に設定し、全社員がその目標に向かって組織一丸となって取り組める環境を整備することにあります。
単年度経営計画がしっかりしていれば、経営者が頭の中で考えていることが明文化され、チーム全体で共有できるようになります。
目的を大きく分けると、次の3つがあります。
- 経営の方向性の明確化
会社が進むべき方向性を具体的に示すことで、従業員全員が「何を目指して働いているのか?」を理解できます。目標がはっきりしていれば、社員のモチベーション向上や業務効率化にもつながります。 - 経営資源の有効活用
人材や資金、時間などの限られた経営資源を、最も効果的に使うための指針となります。例えば、今年は「売上拡大」を目標とするなら、広告費や営業チームのリソースを重点的に配分する、といった具体的な資源配分が可能です。 - 成果測定と調整
単年度経営計画は、1年単位の計画ですが、実際には「月次」や「週次」で進捗を確認し、必要に応じて修正を加える仕組みが重要です。この定期的なチェックが、計画の成功率を大きく引き上げます。例えば、月次会議で売上の進捗を確認した際に、「計画に対して10%不足している」と判明した場合、次の月で不足分を取り戻すための具体策を立案します。営業活動を強化したり、新しいキャンペーンを立ち上げたりといった調整を早い段階で行えるのです。
例えるなら、単年度経営計画は地図のようなものです。ゴール(目標)が明確に描かれている地図を持つことで、社員一人ひとりが迷うことなく最短ルートを進めるようになるのです。
単年度経営計画の必要性
単年度経営計画が必要な理由は、経営環境が常に変化する中で、会社全体が同じ目標に向かって効率的に進むためです。特に中堅中小企業では、限られた経営資源(ヒト・モノ・カネ・情報・時間)を最適に活用する必要があり、そのための明確な指針を持つことが不可欠です。
単年度経営計画が企業にとって重要な理由は以下の3点です。
- 目標がなければ進む方向が分からない
航海に例えるなら、目標のない経営は「地図のない船旅」と同じです。単年度計画があれば、「今年のゴール」と「そこに至るルート」が明確になり、日々の業務の優先順位を判断しやすくなります。 - 経営リスクを早期に察知できる
計画があることで、目標と現状のギャップが可視化されます。このギャップを把握することで、トラブルやリスクを未然に防ぐ行動が取れるのです。例えば、利益率が下がる兆候が見えたら、コスト削減や価格見直しの打ち手を速やかに実行できます。 - 社員全員の意識を統一できる
単年度経営計画は、経営者だけでなく社員全員に共有するべきものです。「会社が目指している姿」が明確になれば、社員の行動や意識も自然と目標達成に向かうようになります。特に目標が数字で示されていれば、現場レベルでの具体的なアクションが取りやすくなります。
短期的な計画と継続的な見直しを組み合わせることで、計画を「実現可能なもの」にし、組織全体が柔軟かつ迅速に行動できる経営が可能になります。
単年度経営計画の立案方法

目標設定の具体的なステップ
単年度経営計画を成功させるための第一歩は、目標設定です。しかし、「売上を伸ばす」「利益を増やす」といった漠然とした目標では、行動につながりません。
効果的な目標設定を行うためには、次の3つのステップを意識してください。
- SMARTの原則で具体化する
SMARTとは、「具体的 (Specific)」「測定可能 (Measurable)」「達成可能 (Achievable)」「関連性がある (Relevant)」「期限が明確 (Time-bound)」という目標設定の基準です。例えば、「売上を伸ばす」ではなく、「今年度末までに売上を前年比20%増加させる」と具体化することで、目標が明確になります。 - 現状を正確に把握する
現実的な目標を立てるには、まず会社の現状を客観的に分析することが必要です。過去3年間の売上や利益の傾向、競合他社との比較、現場の課題などを具体的なデータで整理しましょう。これにより、目標が「夢物語」ではなく、達成可能な現実的なものになります。 - 目標を分解して行動計画に落とし込む
大きな目標をそのまま掲げても、日々の行動にはつながりません。目標を細かいアクションに分解し、部門や個人のレベルで具体的なタスクに変換します。たとえば、「売上20%増加」の目標に対しては、「新規顧客を月5件獲得する」「既存顧客へのリピート販売を前年比10%増加させる」といった具体的な数字を割り振るのです。
これらのステップを実行することで、目標が現実味を持ち、組織全体が同じ方向に向かって動けるようになります。目標設定は単なるスタート地点ではなく、経営の成功を大きく左右する重要なプロセスなのです。
実行計画の作成と管理手法
目標が明確になったら、それを実現するための具体的な実行計画を作成する必要があります。単年度経営計画が成功するかどうかは、この実行計画の質にかかっています。
以下の手法を参考にしてください。
- 目標を行動に落とし込む
目標を実現するためには、実際の日々の具体的な行動に移すことが重要です。たとえば、「新規顧客を月5件獲得する」という目標がある場合、そのために必要な営業活動(アポイントの数、訪問件数、フォローアップの頻度など)を明確にし、それぞれの担当者に割り振ります。 - KPI(重要業績指標)を設定する
計画の進捗を測るための指標を設定しましょう。KPIは目標の達成度を確認するための重要な基準です。例えば、新規顧客獲得のために「毎週10件の商談を設定する」といった短期的な指標を用いることで、進捗を細かく管理できます。 - PDCAサイクルを回す
実行計画は、ただ立てるだけでは効果を発揮しません。「計画 (Plan) → 実行 (Do) → 検証 (Check) → 改善 (Action)」のサイクルを定期的に回し、計画の進捗状況を見直すことが必要です。たとえば、月次でKPIをチェックし、成果が目標に達していない場合には、営業手法を見直すなどの調整を行います。 - 管理ツールを活用する
実行計画の管理には、スプレッドシートで作成した管理ツールを活用すると効果的です。これにより、進捗が一目で分かり、担当者ごとの状況を管理しやすくなります。また、進捗が視覚化されることで、チーム全体のモチベーション向上にもつながります。 - 責任者を明確にする
計画のどの部分を誰が担当するのか、責任者を明確にしましょう。責任の所在をはっきりさせることで、計画の実行力が格段に向上します。また、責任者がいることで進捗が滞りにくくなり、問題発生時の対応もスムーズになります。
以上を徹底することで、単なる「計画書の作成」だけで終わらず、実際の成果につながる実行計画を構築できます。
重要なのは、計画と実行を常にリンクさせておくことです。最適な戦略オプションが明確になり、具体的な行動計画の策定につながります。
成果を高めるためのポイント
単年度経営計画の成果を高めるには、目標設定とその運用における正しい姿勢が必要です。特に重要なのは、「目標は現実を動かすための指針であり、現実に合わせて目標を変えるべきではない」という原則を徹底することです。
この考えに基づき、以下のポイントを意識しましょう。
- 目標と実績の差を的確に読み取る
実績が計画通りに進まないことは珍しくありません。しかし、そこで大切なのは「なぜ目標との差が生じたのか?」を分析し、その原因に対して適切なアクションを起こすことです。安易に目標を変更するのではなく、現実を目標に近づけるための改善策を徹底的に考え、行動に移しましょう。たとえば、売上目標を未達成の場合、販売チャネルの改善や顧客ニーズの再分析を行うなど、具体的な対応を優先すべきです。 - 目標は「不動」であることを意識する
目標は、会社が目指す理想の姿を示すものであり、安易に変更すべきではありません。計画が遅れているからといって目標を下方修正することは、計画そのものの価値を失わせてしまいます。計画は「現実に対応するための行動の指針」として活用し、目標そのものは堅持してください。 - 現実を見据えた柔軟な対応をする
目標を変えないことと、現実に即した対応をすることは矛盾しません。むしろ、目標を達成するためには、現状に即して戦略を柔軟に見直すことが重要です。たとえば、外部環境の変化や予想外の課題が発生した場合には、計画の中で具体的なアクションを調整し、問題に対応することで目標に近づけます。 - 計画と現実のギャップが示す危険度を把握する
目標より実績が下回っている場合、そのギャップが大きいほど自社のリスクが高まります。この差を「目標達成のためのアラーム」として活用しましょう。危険をいち早く察知し、その状況を変えるための対策を講じることが、計画運用の真価を発揮させるポイントです。 - 目標変更は「前向きな理由」でのみ行う
目標は基本的に不動ですが、客観情勢が大きく変わり、現状の目標では会社の存続が危うくなる場合や、経営者の未来像が進化した場合には、前向きな理由で目標を変更することもあります。ただし、この変更は「実績に合わせるため」ではなく、企業の発展を目的としたものでなければなりません。
このように、目標は変えず、現実を動かすために計画を運用する姿勢が、単年度経営計画を成果につなげるカギとなります。これを徹底することで、社員全員が同じ方向を向き、目標達成に向けた努力を一貫して続けられるでしょう。
私の体験談

これまでのコンサルティング経験で、単年度経営計画の重要性を痛感した事例がいくつもあります。
その中でも印象的だったのは、ある製造業の経営者との取り組みです。
この会社は、売上拡大を目標に掲げながらも、具体的な計画が曖昧だったため、従業員の行動がバラバラで、結果として目標を達成できていませんでした。目標は「前年売上の15%増加」と立派なものでしたが、計画の中に「どのように達成するのか?」という施策が含まれていなかったのです。
私たちはまず、目標と現実の差を可視化することから始めました。売上未達成の要因をデータで分析し、「新規顧客の開拓不足」と「既存顧客の離脱率」が課題であることを明確にしました。そして、その差を埋めるための具体的な行動計画を立てたのです。
新規顧客については、月ごとに目標件数を設定し、営業チームに具体的なアプローチリストを提供しました。既存顧客については、顧客との接点を増やすためのフォローアッププロセスを設け、定期的な確認と改善を繰り返しました。これらの施策は、月次の定例会議を通じた実行管理によって徹底されました。
結果として、翌年には売上を17%以上伸ばすことに成功しました。
最も重要だったのは、経営者と従業員が「目標をブレさせずに現実を変える」ことの価値を理解したことです。
この経験を通じて、目標の堅持と現実対応のバランスが、経営計画を成功させるカギだと再認識しました。
Q&A
Q1: 単年度経営計画を立てる際、どの程度まで詳細に作り込むべきですか?
A: 単年度経営計画は、具体的で実行可能なレベルまで作り込む必要があります。ただし、必要以上に細かくし過ぎると、柔軟性を失うリスクがあります。大切なのは、目標を達成するための大枠を設定しつつ、主要なアクション(新規顧客開拓、コスト削減など)を明確にすることです。詳細部分は、実行しながら調整する形がよいと思います。具体的には、実行後に判明した要素を加味しながら、月次や週次会議で課題検討して進めていく形です。
Q2: 計画通りに進まない場合、どう対応すればよいでしょうか?
A: 計画通りに進まないのは想定内です。その際に重要なのは、目標を変えるのではなく、現実を分析し、計画のアクションを調整することです。たとえば、売上が想定より低い場合は、原因を明確にし、新たな販売手法やキャンペーンを導入するなどの具体策を講じます。目標はブレずに堅持し、実績との差を埋める努力を徹底しましょう。
Q3: 社員が計画に対してモチベーションを持てない場合、どうすればよいですか?
A: 社員のモチベーションを引き出すには、計画を「自分たちのもの」と感じさせることが大切です。そのためには、計画を立案する段階で、現場の声を取り入れる仕組みを作りましょう。また、達成状況を可視化し、小さな成功を共有することも効果的です。たとえば、進捗を示すグラフや表をオフィスに掲示したり、週次会議で成果を称える時間を設けるなど、目に見える形でモチベーションを維持してください。
Q4: 目標が現実と乖離しているように感じた場合、それでも目標を変えるべきではないのですか?
A: 原則として目標は変えるべきではありません。ただし、目標が現状では企業の存続や発展を危うくする場合や、経営者の未来像(ビジョン)が進化した場合には、前向きな理由で変更を検討するべきです。その際も、目標を変更する理由と新たな方向性を全社で共有し、一貫した意思を持って取り組むことが重要です。
まとめ
単年度経営計画は、企業が短期間で確実に成長するための強力なツールです。
しかし、それを成功させるためには、計画をただ作るだけでなく、目標を明確にし、それを現実に近づけるための行動を徹底することが求められます。
この記事では、単年度経営計画の基本や立案の方法、成果を高めるためのポイントについて解説しました。
その中でも、特に大切なのは以下の3点です。
- 目標は現実を動かすための指針であり、不動のものであることを意識する。
- 計画と現実の差を分析し、適切なアクションで埋めることに注力する。
- 社員全員で計画を共有し、一丸となって目標達成に向かう環境を作る。
また、計画が思い通りに進まないことを「失敗」と捉えず、進捗を見直し改善する「チャンス」として活用する柔軟性も必要です。そして、目標の堅持と現実への対応を両立させる姿勢こそが、経営者としての力量を大きく左右します。
これから単年度経営計画に取り組むあなたが、この記事で得た知識を活かし、具体的な行動に移すことで、会社の成長を確実なものにできることを願っています。
私たち唐澤経営コンサルティング事務所では、「コーチング」と「コンサルティング」を組み合わせ、中堅中小企業の経営課題解決と成長戦略の策定から単年度計画の策定、実行まで強力にサポートいたします。
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