唐澤経営コンサルティング事務所代表の唐澤です。
中小企業診断士・ITストラテジストの資格を持ち、20年以上にわたり、中堅中小企業の経営戦略立案や業務改革、IT化構想策定のコンサルティングに従事してきました。
このコラムでは、私のコンサルティング経験をもとに、中堅中小企業の経営に役立つ情報を発信しています。
企業経営を成功に導くためには、明確なビジョンと計画的なアプローチが欠かせません。
特に、短期・中期・長期の計画をバランスよく組み合わせることで、目標に向けた実行力が大きく向上します。
本記事では、経営計画の基本的な概念から、それぞれの計画の役割、さらに効果的な立案・活用方法について具体的に解説します。これを機に、自社の経営計画を再考し、より強固な経営基盤を築き上げる一助としていただければ幸いです。
経営計画の基本

経営計画とは何か
経営計画とは、会社の未来を切り開くための具体的な道筋を描くことです。会社の目指すゴールを明確にし、それを実現するためのステップを整理する作業と考えるとわかりやすいでしょう。
経営計画には、日々の業務や短期的な課題に取り組む「短期計画」、中期的な成長を見据えた「中期計画」、そして企業の未来像を描く「長期計画」が含まれます。それぞれの計画がしっかりと整合性を持つことで、経営のブレを防ぎ、成果につながります。
例えば、短期計画が現場レベルの改善にフォーカスしている一方で、長期計画では市場全体の変化を視野に入れた企業ビジョンを示す必要があります。
これらを計画としてしっかり形にすることで、経営の方向性を迷わずに進められるのです。
短期計画、中期計画、長期計画の違い
経営計画は、その期間や目的に応じて「短期計画」「中期計画」「長期計画」の3つに分類できます。それぞれの計画には異なる役割がありますが、連動させることで企業全体のバランスを保つことが重要です。
短期計画
短期計画は、1年以内に達成を目指す具体的な行動計画です。営業目標の設定やコスト削減の取り組みなど、日常的な業務や目の前の課題を解決するための計画となります。例えば、売上を5%向上させるためのキャンペーン実施や、新商品の販売開始などが該当します。
短期計画のポイントは「具体性」と「実現可能性」です。現場レベルで即座に実行できる内容にまで落とし込むことが成功のカギです。
中期計画
中期計画は、3~5年先を見据えた計画で、企業の成長に向けたステップを描きます。新規事業の開発、主要取引先との関係強化、あるいは設備投資などが中期計画に含まれる内容です。
この期間の計画は、短期計画に比べて多くの変数を考慮する必要がありますが、その分だけ成果のスケールも大きくなります。例えば、新市場への進出を計画する際には、競合の分析や市場ニーズの評価を詳細に行う必要があります。
長期計画
長期計画は、10年以上の期間を見据えた企業全体のビジョンです。中小企業にとっては、「会社をどのように成長させ、後世に受け継いでいくのか」というテーマが重要です。たとえば、事業承継の準備や、自社の強みを活かした新しいサービスの開発、地域社会との連携強化などが長期計画に含まれることが多いです。
また、中小企業が自社の将来像を描くうえで特に大切なのは、「何を守り、何を進化させるべきか」を明確にすることです。
例えば、創業からの伝統や技術を守りつつ、新しいデジタル技術を取り入れて業務を効率化することが挙げられます。このような進化は、限られたリソースの中で実現可能な戦略として現実的です。さらに、長期計画は従業員や取引先に安心感を与え、関係性を深めるためにも有効です。
「この会社で働き続ければ将来が明るい」と思える計画があれば、従業員のモチベーションも向上しますし、取引先からの信頼も得やすくなります。
経営計画がもたらすメリット
経営計画を策定することは、経営者や企業全体にとって大きなメリットをもたらします。
ここでは、特に重要な3つのポイントを解説します。
1. 社長が覚悟を決められる
経営計画を立てることで、会社の進むべき方向性が明確になります。「何をすべきか」が見えるだけでなく、「何をやらないか」を決める基準ができるため、迷いが減り、覚悟を持って行動できるようになります。この覚悟は、経営者が日々のプレッシャーや不安を乗り越えるための強力な支えとなります。
経営者が強い覚悟を持つことで、従業員や取引先にもその意志が伝わり、信頼関係が深まります。このプロセスが企業全体を成長へと導くのです。
2. 組織としての一体感を醸成できる
経営計画を共有することで、従業員が自分たちの役割や目標を理解しやすくなります。「自分の仕事が会社全体のどこに繋がっているのか」が明確になることで、仕事に対する責任感ややりがいが増し、チームとしての結束力が強まります。
特に中小企業では、全従業員が一体となって動けることが成長の大きなカギになります。経営計画を通じて、一人ひとりが同じ目標を共有し、自分たちが組織の成功に直結していると感じられるようになることは、中小企業の経営にとって生命線と言えるでしょう。
3. 成果が出る
最終的に、経営計画がもたらす最大のメリットは「成果が出ること」です。計画を立てるだけでなく、具体的な行動に落とし込むことで、売上や利益、顧客満足度といった目に見える成果が得られます。
例えば、短期計画で営業目標を明確に設定し、中期計画で新規事業を展開するステップを準備することで、目標達成がより現実的になります。計画が現場で実行され、成果に結びつくと、それがさらに社員のモチベーションを引き上げ、好循環を生み出します。
以上、3つのメリットを最大化するためには、計画の立案だけでなく、実行と見直しが重要です。経営計画は企業の「羅針盤」として機能し、経営者だけでなく、組織全体に活力をもたらします。
経営計画の立て方

経営計画を実際に立てる際には、短期・中期・長期それぞれの計画に応じた方法論が必要です。
ここでは、具体的な立て方を解説します。
短期計画の立案方法
短期計画は、日常業務や目の前の課題に直結した計画です。具体的で、すぐに実行可能な内容にすることが成功のポイントとなります。
- 目標を明確にする:たとえば、「今期の売上を10%向上させる」といった具体的な数字を設定します。
- 行動計画を細分化する:目標を達成するための行動をリストアップし、実行可能な単位に落とし込みます。たとえば、「月間プロモーションの計画策定」「主要顧客への訪問スケジュールを設定する」等の内容になります。
- 成果を定期的に確認する:短期間の計画では、進捗状況を日次・週次・月次等いった短サイクルで確認し、必要に応じて行動を軌道修正する柔軟性が求められます。
短期計画は、スピード感が重要です。迅速にPDCAサイクル(計画・実行・評価・改善)を回すことで、目に見える成果を出すことが可能になります。
中期計画の立案方法
中期計画は、短期計画と長期計画の橋渡しをする役割を持ちます。そのため、具体的な行動計画だけでなく、長期的なビジョンを実現するための中間目標を設定することが重要です。
- ビジョンを段階的に具体化する:中期計画では、長期計画で掲げたビジョンをより具体的な形で分解し、現実的な目標として設定します。たとえば、長期計画で「業界トップの地位を築く」というビジョンがある場合、中期計画では「主要市場でのシェアを20%に拡大する」といった達成可能な目標を掲げます。このように、長期の大きなビジョンを段階的に落とし込むことで、実行性が高まります。
- 現状分析を徹底する:現在の経営状況をしっかりと把握し、強みや弱み、外部環境の変化を分析します。この入り口としてはSWOT分析を活用するとよいでしょう。たとえば、新市場に進出する計画を立てる際には、自社のリソースや競合の動向を具体的に評価します。
- 中間目標を設定する:中期計画では、3~5年という期間で達成すべき目標を設定します。具体的には、「新規事業の売上比率を全体の10%にする」「既存顧客のリピート率を15%向上させる」「直販比率を10%高める」など、測定可能な目標を掲げることが重要です。
※SWOT分析の詳細を知りたい方は、以下の記事をお読みください。
長期計画の立案方法
長期計画は、会社の未来を描くビジョンを明確にすることから始まります。特に中小企業では、経営者の価値観や人生観が反映されることが多いのが特徴です。
- ビジョンを明確にする:ビジョンとは、会社が「将来どうありたいか」を示すものです。たとえば、「地域で最も信頼される企業になる」や「次世代に誇れる製品・サービスを提供する」といった具体的な目指す姿を描きます。このビジョンは、長期計画の基盤となり、全社員が未来の方向性を共有する指針となります。
- 市場の未来を予測する:業界や顧客ニーズが長期的にどのように変化していくのかを予測した上で、長期的にどのように対応するのかを計画します。たとえば、デジタル技術の進化や消費者の価値観の変化を踏まえ、新たなサービスや市場への展開を考えることが必要です。
- 将来の組織図を描く:10年後の企業の規模や事業展開を考えながら、必要な組織図をイメージして書いてみるのはおすすめです。その中で、「どのポジションにどのような人材が必要か」を具体的に考えるのです。たとえば、営業部門を拡大する場合には、部門リーダーや新規顧客開拓を担う専門人材が必要になるでしょう。このように、将来の組織を具体化しておくことで、人材の採用計画や育成プランを計画的に進めることができます。
長期計画は夢を描くだけではなく、その夢を実現するための現実的なステップを設計することが肝心です。
Q&A
Q1. 経営計画はどれくらいの頻度で見直すべきですか?
A: 短期計画は、目標達成に向けた進捗状況を確認するために、四半期ごとや月次でレビューを行いましょう。ただし、レビューで見直すのは「目標」ではなく、「目標を達成するためのプロセス」の方です。目標そのものは会社の未来像を示すものであり、安易に変更すべきではありません。
また、中期計画や長期計画については、環境の変化や経営戦略の進展に合わせて少なくとも年に1回見直すべきですが、この際も実績に合わせるためではなく、ビジョンの発展や会社の存続と成長を目的として調整することが重要です。
Q2. 計画が思い通りに進まなかった場合、どうすればいいですか?
A: 計画が思い通りに進まない場合も、目標を変更するのではなく、現状を分析して目標に近づけるためのプロセスを見直すことが重要です。目標は、会社の目指す未来そのものであり、現実の進捗状況に左右されるべきではありません。大切なのは、「目標と実績の差」を正確に把握し、その差を埋めるためにどのような行動が必要かを判断することです。たとえば、目標未達の場合は原因を特定し、経営資源の配分や戦術を改善することで対応します。計画の修正は「目標を諦めるため」ではなく、「目標に近づくため」に行うべきです。
ただし、次のような場合には目標の変更が必要です。
・客観的な環境変化により、現目標では生存条件が満たせなくなったとき。
・ビジョンの発展によって、より高いレベルの目標が必要になったとき。
いずれの場合も、目標の変更は「企業の存続と発展のため」に行うものであり、後ろ向きではなく前向きな判断であるべきです。
Q3. 社員全員に経営計画を共有すべきですか?
A: はい、経営計画は経営方針発表会などを通じて社員全員と共有することを強くおすすめします。経営方針発表会は、経営者の想いを社員に直接伝える貴重な機会であり、会社全体の一体感を醸成するために効果的です。
具体的には、発表会で以下の内容を共有することがポイントです。
・ビジョンと長期目標:会社が目指す未来像を明確に示す。
・中期計画の主要ステップ:社員が自分の役割を具体的に理解できるようにする。
・短期計画の具体的な行動:特に今期の目標に向けた優先事項や実施スケジュールを明示する。
経営方針発表会を通じて全社員が同じ方向性を共有することで、経営計画の実行力が高まり、目標達成の可能性が大幅に向上します。また、社員からの意見を取り入れる場を設けることで、計画の現場実行性も高めることができます。
Q4. 経営計画は現場にどう反映させればよいですか?
A: 経営計画を現場に反映させるためには、計画を部門別やチーム別の行動計画に落とし込むことが必要です。作成した経営計画を基に、部門ごとに詳細な実行プランを策定し、実行を管理します。 また、現場での進捗管理には、定期的なミーティングやデジタルツールを活用すると効果的です。たとえば、目標に対する達成率を可視化するダッシュボードを導入すれば、現場の課題を迅速に把握し、対応策を講じることが可能になります。
まとめ
経営計画は、会社の未来を切り開くための道標であり、短期・中期・長期の計画が互いに連動することで、その効果を最大限に発揮します。
本記事では、短期計画での具体的な行動、中期計画での成長ステップ、長期計画でのビジョン構築の重要性を解説しました。
経営計画を立てる際に忘れてはならないのは、計画そのものが「現実に即した実行可能なものであること」と、「企業の目指す姿を揺るがず維持する目標を中心に据えること」です。
目標は、企業の存在意義や未来像を反映したものですので、簡単に動かしてはいけません。
大切なのは、目標と実績の差を見つけ、その差を埋めるために状況を変革し続けることです。
さらに、経営方針発表会を活用して計画を社員全員に共有することで、組織全体の一体感を高め、計画の実行力を強化することが可能です。
この共有プロセスが、目標達成のための重要な一歩となります。
最終的に経営計画とは、単なる数字の羅列ではなく、経営者が抱く「未来への覚悟」と「社員への約束」を形にしたものです。
計画を立てることで、経営者自身の意志が明確になり、それが企業全体を前進させる原動力となります。
これを機に、経営計画を改めて見直し、会社の未来を見据えた具体的な一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか?事で得た知識を活かし、具体的な行動に移すことで、会社の成長を確実なものにできることを願っています。
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