唐澤経営コンサルティング事務所代表の唐澤です。
中小企業診断士・ITストラテジストの資格を持ち、20年以上にわたり、中堅中小企業の経営戦略立案や業務改革、IT化構想策定のコンサルティングに従事してきました。

このコラムでは、私のコンサルティング経験をもとに、中堅中小企業の経営に役立つ情報を発信しています。

あなたは、日々の経営の中でこんな悩みを抱えていませんか?

  • 営業から「顧客の反応が薄い」と報告を受けるが、何を改善すべきかわからない。
  • 社員が次々に辞めていく理由を掴めず、対応が後手に回る。
  • 新しい商品やサービスを企画しても、市場のニーズに響かない。

これらは、すべて「目の前の問題が複雑に絡み合い、本質が見えない」という課題に起因しています。

このような状況で必要なのが「抽象化能力」です。

抽象化能力とは、一見バラバラに見える課題や現象の中に共通点を見出し、それを基に問題をシンプルに整理して解決策を導き出す力のことです。

抽象化能力を習得すれば、日常の経営課題を効率的に整理し、迅速かつ本質的な意思決定が可能になります。

本記事では、経営者にとっての抽象化能力の本質を解説し、実践的な活用法をお伝えします。

抽象化の概念を理解する

抽象化とは何か?

抽象化とは、一見バラバラに見える事象や課題の中から共通する特徴や本質を見つけ出し、シンプルにまとめる思考法です。

このスキルは、複雑な問題を整理し、本質的な解決策を導くために非常に重要です。

身近な例で考えてみましょう。

「イチゴ」「リンゴ」「バナナ」と聞くと、それぞれ異なる果物を思い浮かべるでしょう。

しかし、これらを「果物」として括ることで、個々の違いを超えて共通のカテゴリとして認識できます。これが抽象化の基本的な考え方です。

この思考をビジネスの課題解決に応用してみます。

例えば、

  • 売上が落ちている
  • 社員のモチベーションが低下している
  • 顧客クレームが増えている

これらを個別の問題として捉えると、それぞれ異なる対策が必要に思えます。

しかし、抽象化の視点を取り入れると、これらはすべて「顧客や社員への提供価値が不十分」という本質的な課題に集約できます。すると、部分最適な対応ではなく、提供価値を向上させる本質的な施策を打つことが可能になります。

抽象化の力を活用することで、物事の本質を見抜き、よりシンプルかつ効果的な解決策を導き出せるのです。

「具体」と「抽象」の違い

抽象化を理解するには、「具体」と「抽象」の違いを把握することが重要です。

  • 具体:目の前の出来事や事象そのものを直接扱います。例として、「社員の遅刻が増えている」「顧客の購買頻度が減っている」という観察そのものです。
  • 抽象:具体的な事象をまとめ上げ、背後にある共通点や本質に着目します。上記の例を抽象化すると、「ルールの共有や顧客体験の設計に問題がある」といった具合に捉えられます。

抽象化は、こうしたプロセスを通じて、複雑な問題を解きほぐし、簡潔で本質的な解決策を見つける道筋を作ります。

抽象化のメリット

抽象化によって得られる具体的なメリットを以下に整理します。

  • 複雑な問題の整理:一見無関係に見える問題を、共通点を軸に整理することで解決策を効率的に導けます。
  • 視野を広げる:表面的な問題を超えて、大きな視点で経営全体を俯瞰できます。
  • 迅速な意思決定:本質的な要因を見抜くことで、対応策を素早く決定できます。
  • コミュニケーションがスムーズに:抽象化された課題は、適切に本質を捉えていればシンプルで分かりやすいため、チームや社員との共有がスムーズになり、共通の目標に向けて一丸となった解決が可能です。

抽象化能力とは何か?

抽象化能力の本質

抽象化能力とは、「表面が違って見えるものの中身に共通性を見出す能力」です。

このスキルの真価は、複雑でバラバラに見える課題を整理し、共通の原則に基づいて効率的に解決する点にあります。

例えば、家族旅行を計画するとします。Aさんは美味しい食事を楽しみたい、Bさんは観光地巡りを希望、Cさんはリラックスが目的と、それぞれ異なる希望を持っている場合、個別の希望をすべて叶えるのは非常に手間がかかります。

しかし、これを抽象化して「全員が共有できる目的」を見出すと、「リラックスしながら美味しい食事を楽しむ旅」という共通テーマが生まれます。

この共通テーマに基づいて計画を立てれば、全員が満足する旅行を効率よく実現できます。

この「共通性を見出し、統一的な解決策を適用する」という能力は、経営においても極めて重要な役割を果たします。

個別対応の負担と抽象化の効率

経営者が日々直面する課題においても、個別の対応を試みると以下のような負担が生じます。

  • 多くの知識が必要:営業、製造、サポートなど、部門ごとに異なる専門知識を習得しなければならない。
  • 時間がかかる:個別に原因を分析し、それぞれに適した解決策を考えるため、膨大な労力を要する。
  • 連携の難しさ:部門間でバラバラなアプローチを取ると、組織全体の方向性が一致しなくなる。

抽象化がもたらす効率化の例

抽象化能力は、複数の課題を効率的に解決する力を経営者に与えます。

例えば、以下のような問題が発生しているとします。

  • 問題A:新商品の返品率が高く、収益が圧迫されている。
  • 問題B:社員のモチベーションが低下し、業務効率が落ちている。
  • 問題C:顧客から「商品説明がわかりにくい」とのフィードバックが増えている。

これらの問題を個別対応する場合、それぞれ返品対策、社員の動機づけ、マーケティング改善の知識が必要です。

しかし、これを抽象化すると、「顧客ニーズの理解不足が原因」という共通点が浮かび上がります。

この共通点に基づき、以下のような一貫した解決策を実行できます。

  • 商品開発の初期段階で顧客フィードバックを取り入れる仕組みを整備する。
  • 社員が「顧客に響く価値」を意識して行動できる教育プログラムを導入する。
  • 商品説明やプロモーションで、顧客視点に立ったわかりやすさを重視する。

このように、抽象化能力を活用すれば、複数の課題を効率的に解決する一貫した方針を導き出せます。

少ない知識で多くの問題を解決する力

共通性のあるものは同じ扱いができる」という抽象化の原理を使うと、以下の効果が得られます。

  • 知識の節約:共通する本質を理解すれば、個別対応のための新しい知識を次々に学ぶ必要がなくなります。
  • 迅速な対応:根本原因にアプローチすることで、複数の課題を一度に解決するスピードが上がります。
  • 組織全体の連携強化:統一された解決策に基づく対応は、部門間の連携をスムーズにし、全社的な一体感を生みます。

旅行計画の例から学ぶ経営の応用

旅行計画の例のように、個別の希望にすべて対応しようとするのではなく、共通性を見出して統一的な解決策を導入することが、経営における抽象化の本質です。

抽象化能力があれば、「少ない知識で多くの問題を解決する」という経営者にとっての強力な武器を手にすることができます。

抽象化能力を鍛える方法

抽象化能力は特別な才能ではなく、日常の中で磨くことができます。抽象化能力を高めることで、経営課題をより効率的に、かつ本質的に解決できるようになります。

以下に具体的なトレーニング方法を紹介します。

日常で抽象化を練習する

■「なぜ?」を繰り返す
問題に直面した際、表面的な答えで終わらせるのではなく、「なぜこれが起きたのか?」を最低5回は繰り返して深掘りしてみましょう。

これにより、表面に現れた問題の背後にある本質的な要因を見つける練習ができます。

例:
問題:売上が落ちている。
なぜ? → 販売数が減っている。
なぜ? → 顧客の購入頻度が下がっている。
なぜ? → 顧客の満足度が低下している。
なぜ? → 競合の方が価値を提供できている。

このプロセスで、「提供価値の不足」という本質が見えてきます。

■共通点を探すゲームをする
日常のあらゆる事象の中で共通点を探す練習をしましょう。例えば、ニュース記事や日常の会話の中で、異なる出来事の中に共通するテーマを見つける習慣をつけます。

例:
▶日常的な事象:
・鳩が公園でパンくずを拾い集めている。
・魚が池の表面で跳ねながら餌を食べている。
・猫が庭先で人の前に座り、餌をもらっている。
▶共通性の発見:
これらは「異なる環境で動物が食料を得るために工夫して行動している」という共通性に基づきます。さらに抽象化すると、「環境に応じた行動の最適化」として捉えることができます。

継続的に抽象化能力を磨くコツ

  • 成功事例と失敗事例を振り返る
    過去のプロジェクトや施策を振り返り、それぞれの結果に共通する成功要因や失敗要因を抽出する習慣をつけましょう。
  • 他分野の知識を取り入れる
    経営だけでなく、心理学、自然科学、歴史などの他分野の知識に触れることで、多角的な視点が得られます。これが抽象化能力を磨く土台となります。
  • 専門家と議論する
    自分の考えを第三者と議論することで、見落としていた共通点や本質的な要因を指摘され、新たな視点が得られます。

抽象化能力は、一朝一夕で身につくものではありませんが、日常的なトレーニングや実務での応用を通じて徐々に高めていくことができます。

抽象化能力を磨くことで、複雑な経営課題を整理し、シンプルで効果的な解決策を見つける力が身につきます。

Q&A

Q1.抽象化能力を鍛えるには時間がかかる?
A:一朝一夕で身につくものではありませんが、日常生活や仕事で練習を積むことで、確実に向上します。たとえば、「共通性を見つける習慣を持つ」「課題を5回の『なぜ?』で深掘りする」といった簡単な取り組みから始めるとよいでしょう。

Q2:この能力が苦手でも改善できるのか?
改善できます。まずは、目の前の課題を「具体的な現象」と「その背後の本質」に分けて整理する練習をしてください。次に、日常的に抽象的なテーマを考えるトレーニングを取り入れましょう。

Q3:中小企業経営者にどれほど必要か?
極めて重要です。中小企業ではリソースが限られているため、個別対応に時間やコストを割く余裕は少ないはずです。抽象化能力を活用すれば、効率的に本質を捉え、資源を最適に活用する経営が可能になります。か」という仮説を立て、小規模なテストマーケティングを行いながら検証していくといったアプローチが効果的です。

まとめ

経営における課題は、多くの場合、表面的にはバラバラに見えます。

しかし、その背後に共通する本質を見抜き、一貫性のある解決策を導く能力が「抽象化能力」です。

抽象化能力は、以下のような効果をもたらします。

  • 課題を効率的に整理できる:複数の問題を一つの枠組みで捉え、根本的な原因に基づく解決策を打ち出せる。
  • 少ないリソースで最大の成果を生む:限られた時間や人材を最適化し、経営の全体最適を実現する。
  • 組織全体の一体感を高める:部門やチームが共通の目標を持ち、統一された方向性で動けるようになる。

抽象化能力を磨くには時間と実践が必要ですが、日常の課題や経営判断に取り入れることで、確実に成長を遂げることができます。

まずは次の一歩を踏み出してみてください。

  • 日常的な「共通性探し」を習慣化する。
  • 現在直面している課題をリスト化し、背後にある本質を抽象化してみる。
  • 組織全体で共通の目標や価値観を定め、それに基づいて施策を進める。

経営環境が複雑さを増す現代において、抽象化能力は経営者にとって欠かせないスキルです。
この能力を武器に、あなたの企業が持続的な成長を遂げる未来を実現しましょう。

私たち唐澤経営コンサルティング事務所では、「コーチング」と「コンサルティング」を組み合わせ、中堅中小企業の経営課題解決と成長戦略の策定を強力にサポートいたします。

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この記事を書いた人

唐澤 智哉

新卒で大手金融系シンクタンクに入社し、大手企業向けのITコンサルティングに従事。その後、2社のコンサルティングファームにて、大手企業向けの業務改革・ITコンサルティングに従事。
2012年に大手IT企業に入社し、中小企業向けのコンサルティング事業の立ち上げの中心メンバーとして事業化までを経験し、10年間中小企業向けの経営コンサルティング・ITコンサルティングや研修・セミナーに従事。
その後、2022年に唐澤経営コンサルティング事務所を創業。中小企業向けの経営コンサルティング、DXコンサルティング、研修・セミナー等のサービスを提供している。
趣味は読書で、年間200冊近くの本を読む。