唐澤経営コンサルティング事務所代表の唐澤です。
中小企業診断士・ITストラテジストの資格を持ち、20年以上にわたり、中堅中小企業の経営戦略立案や業務改革、IT化構想策定のコンサルティングに従事してきました。
このコラムでは、私のコンサルティング経験をもとに、中堅中小企業の経営に役立つ情報を発信しています。
企業経営において、「中期経営計画」は未来のビジョンを現実の成果に結びつける重要な役割を果たします。しかし、その作成方法に迷う経営者も多いのではないでしょうか。
私がおすすめするのは「3年」という期間です。3年計画は、短すぎて全体像を見失うこともなく、長すぎて現実と乖離することもない、実践的かつ柔軟な期間設定です。
この記事では、3年間で成果を上げる中期経営計画の作成方法を具体的に解説します。
あなたが抱える経営課題に対するヒントを得て、実践的な一歩を踏み出せる内容となっていますので、ぜひ最後までお付き合いください。
中期経営計画とは?

中期経営計画とは、企業が中期(3~5年程度)適切なスパンで達成すべき目標を設定し、その目標を実現するための戦略や行動計画を具体的に策定したものです。中期経営計画において、私は3年計画の策定をおすすめしています。
中期経営計画は、短期的な行動に直結しつつも、長期的な企業のビジョンに基づいて構築されるため、会社の進むべき方向を明確にする羅針盤のような役割を果たします。
■なぜ3年が最適なのか?
3年という期間は、経営環境の変化に対応する柔軟性を持ちながら、具体的な成果を測るのに十分な長さです。1年では大きな変化を起こすのに短すぎ、5年以上では計画が現実から乖離するリスクが高まります。
■中期経営計画の特徴
- ビジョンに基づく:会社が「どうありたいか」という将来像を土台にする。
- 具体的かつ現実的:行動レベルまで落とし込まれている。
- 進捗管理が可能:PDCAサイクルを通じて計画の進行状況を確認し、柔軟に修正ができる。
中期経営計画の必要性
中期経営計画は、単なる計画書ではありません。中期経営計画は、会社全体が「一つの目標に向かう組織」へと変化させる効果を持ちます
中期経営計画が重要な理由は、以下の3点です。
- 組織の一体感を高める
中小企業では、社長が抱える思いが社員に共有されていないことがよくあります。中期経営計画は、中期的な目線での社長の考えを具体化し、全社員に共有するための仕組みとして機能します。 - 意思決定を効率化する
日々の経営では判断を迫られる場面が多いですが、明確な中期計画があれば迷いが減り、「中期経営計画に基づく意思決定」が可能になります。例えば、新たな投資や採用の判断も中期経営計画を基準にすることで確実性が増します。 - 企業の持続的な成長を支える
市場環境が変化しても、中期経営計画があればしっかりとした軸を持ちながら柔軟に対応することが可能となります。これにより、競争優位性を保ちつつ、会社の安定的成長を実現します。
中期経営計画策定のステップ

経営計画は「未来への地図」とも言えるものです。その地図を描くために必要なステップを分かりやすく説明します。
ステップ1: ビジョンの明確化
中期経営計画の最初のステップは、「ビジョンの明確化」です。この段階では、企業が3年後にどのような姿を目指すのかを具体的に描きます。
ビジョンは、計画全体の方向性を決定する「羅針盤」の役割を果たし、全社的な目標共有の基盤となります。
■ビジョンを明確化する理由
- 会社の方向性を示す
ビジョンが曖昧な状態では、全社的な意思決定がばらつき、無駄なリソース消費を招きます。明確なビジョンは、「何をすべきか」「何をすべきでないか」を判断する基準となります。 - 社員のモチベーションを高める
ビジョンは単なる経営目標ではなく、会社が「社会にどのような価値を提供するか」を示すものです。これを共有することで、社員一人ひとりが自分の役割に意義を見出し、目標達成への意欲を高めることができます。
〇ビジョンを描くための具体的手法
- 経営トップの意志を反映させる
ビジョンは経営者自身の考えが出発点です。「この会社をどこに導きたいのか?」という問いに答え、理想像を明確化します。
例:「地域の中小企業を支えるナンバーワンのITパートナーになる」。 - 数値目標を設定する
定性的な理想だけでなく、定量的な目標を加えることでビジョンの実現可能性が高まります。
例:「売上を3年間で1億円から2億円に増加」「新規顧客獲得率を年間15%向上」。 - 現実に基づきながらも挑戦的にする
ビジョンは、現実的でありながら、社員が「実現したい」と感じる挑戦的な内容にする必要があります。達成可能性と意欲喚起のバランスが重要です。 - 価値提供の視点を持つ
「自社が顧客や社会にどのような価値を提供するのか?」という視点を取り入れます。この視点が、社員のやりがいや顧客の共感を得るポイントとなります。
例:「高品質な製品を通じて地域社会の暮らしを支える企業になる」。
■ビジョンを形にする
- 文章化する
ビジョンを具体的な言葉で明文化します。「なんとなくこんな感じ」ではなく、全員が共有できる形に整えます。
例:「3年間で〇〇業界でのシェアを30%に拡大し、地域顧客に最も選ばれるサービスプロバイダーになる」。 - ビジョンを社員と共有する
経営者だけでなく、全社員がビジョンを理解し、自分の役割を見出せるように、説明会やミーティングで共有します。 - 計画全体の基盤とする
ビジョンは中期経営計画全体の基盤です。この後のステップ(課題の設定、戦略立案、アクションプラン策定など)で、ビジョンに基づいた具体的な内容を展開していきます。
〇ビジョン明確化のゴール
ビジョン明確化の目的は、「目指すべき未来の姿を全社で共有する」ことです。
このビジョンが、次のステップで行う環境分析や課題設定の出発点となり、企業の方向性を一貫させるための羅針盤として機能します。
ビジョンについての詳細は以下の記事で解説していますので、よろしければお読み下さい。
ステップ2: 環境分析
環境分析は、中期経営計画を策定する際の土台となる重要なプロセスです。
ここでは、自社を取り巻く外部環境と内部環境をしっかり把握し、課題設定の準備を行います。
■外部環境分析
- 市場動向の把握:市場規模や成長性、顧客ニーズを調査します。
- 競合分析:主要な競合の動向や強み・弱みを確認します。
- マクロ環境の考慮:法規制、経済動向、技術革新などのトレンドを見据えます。
例: 飲食業であれば、テイクアウト需要が増えている市場動向やデリバリー市場の競争状況を分析します。
〇内部環境分析
- 自社の強みと弱み:製品、サービス、人的資源、ブランド力、財務状況などを整理します。
例: 地元密着型の営業力や長年の顧客基盤を強みとし、人材不足を弱みとして認識します。
この段階でSWOT分析を活用し、自社の強み(Strengths)、弱み(Weaknesses)、機会(Opportunities)、脅威(Threats)を整理します。
ここまでは単なる要素の羅列ですが、これらの情報を次のステップのインプットとして活用していきます。
ステップ3: 経営課題の設定(SWOTクロス分析の活用)
SWOTクロス分析を使って、自社の強みや弱みと外部環境を組み合わせ、解決すべき課題を導き出します。この方法により、課題を明確化し、優先順位をつけやすくなります。
■SWOTクロス分析のマトリクス
SWOTの4要素を組み合わせて、次の4つの経営課題を設定します。
- 強み×機会(積極的戦略課題):自社の強みを活かして市場のチャンスを掴む方法を検討します。
例: 地元密着型の営業力(強み)を活用し、地域需要の増加(機会)に応じた新商品を展開する。 - 強み×脅威(差別化戦略):自社の強みを活かして市場の脅威に対応する戦略を考えます。
例: ブランド力(強み)を活用し、低価格競争(脅威)を避けるためのプレミアム路線を強化する。 - 弱み×機会(改善戦略課題):自社の弱みを克服しながら市場の機会を活かす方策を策定します。
例: 人材不足(弱み)を解消するため、効率化を図るデジタルツールを導入し、地域需要の拡大(機会)に対応する。 - 弱み×脅威(縮小回避課題):自社の弱みを補強し、市場の脅威を最小化する方法を検討します。
例: 資金力不足(弱み)を補うため、銀行融資を確保し、競合の低価格攻勢(脅威)に対抗する。
SWOT分析とSWOTクロス分析については以下の記事で解説していますので、よろしければお読みください。
ステップ4: 戦略立案
戦略立案は、経営課題を解決し、目標達成への道筋を明確にする重要なステップです。
中小企業が競争の中で生き残り、持続的な成長を遂げるためには、「差別化集中戦略」と「強みを活かすアプローチ」を軸に据えることがカギとなります。
■中小企業が採用すべき戦略の軸
中小企業が採用すべき戦略の軸は「差別化集中戦略(高付加価値で高収益構造を目指す)」です。
中小企業が大手企業と同じ土俵で戦うのは得策ではありません。その代わり、特定の顧客層や市場に絞り、競合と差別化を図ることで独自のポジションを確立することが重要です。この差別化を進める中で、商品やサービスに付加価値を加えることで、高収益構造を実現していきます。
例: 地域密着型の企業が、単なる低価格商品を提供するのではなく、顧客ごとの要望に応じた「カスタマイズサービス」を導入することで、価格以上の価値を提供し、利益率を高める。
経営戦略については以下の記事で解説していますので、もしよろしければお読みください。
■強みを軸にする: 弱みにとらわれない思考
中小企業にとって、限られた経営資源をどこに投入するかは経営の生命線です。自社の弱みを克服するよりも、既存の強みを最大限に活かす方が、短期間で成果に繋がります。
SWOTクロス分析では、特に「積極戦略課題(強み × 機会)」の解決を優先し、強みを磨き上げる方向性を選びます。
例: 「長年の顧客基盤」を活用し、既存顧客向けにプレミアムプランを提案して単価を上げる。
■戦略立案を進めるステップ
SWOTクロス分析で明らかにした機会と脅威に基づき、「どの課題が最優先か?」を絞り込むことが重要です。例えば、競合他社との差別化が必要な場合、「既存顧客向けサービスの深耕」など、具体的なアプローチを策定します。
■差別化の方向性を明確にする
差別化戦略では、「何が顧客にとって独自で価値があるのか?」を明確にします。単なる価格競争を避け、顧客にとっての価値を高めることで、収益性を向上させるのがポイントです。
例)
・小売業であれば、商品購入後の「無料メンテナンス」を提供してリピーターを増やす。
・飲食業であれば、地元の特産品を活用した「地産地消メニュー」を売りにする。
〇付加価値を数値化しKPIを設定
戦略の成果を定量的に評価できるよう、指標を設定します。これにより、計画が成功しているかを客観的に確認できます。
例)
「新規顧客の購買単価を3年間で20%向上させる」「既存顧客のリピート率を15%増加させる」。
〇戦略立案のゴール
戦略立案の目的は、企業が「付加価値を提供して高収益を実現する」ための具体的な道筋を描くことです。特定の顧客層や市場に集中し、独自性と価値を打ち出すことで、競争優位を確立します。この戦略を次の「アクションプラン策定」に繋げることで、実行フェーズへ進めていきます。
ステップ5: アクションプランの策定
戦略を具体的な行動に落とし込むのがこのステップです。アクションプランの質が中期経営計画の成否を大きく左右します。
中小企業では、実行可能性を最優先に考え、計画を「現場で動かせる形」にまで具体化することが重要です。
■アクションプラン策定のポイント
- 戦略を行動に分解する
「誰が」「いつまでに」「何をするのか」を明確にし、計画を細分化します。これは、計画が抽象的なままでは現場で機能しないためです。例えば、新規顧客を開拓するという目標を設定した場合、具体的な営業プロセス(ターゲット選定、訪問計画、契約締結)まで落とし込む必要があります。 - 現実的なリソース配分を行う
限られたヒト・モノ・カネをどの施策に優先的に投入するかを検討します。リソースが分散すると全体の成果が薄れるため、重点施策に集中させることが成功の鍵です。 - 具体的なKPIを設定する
各アクションに対して、進捗と成果を測定するための数値指標(KPI)を設定します。KPIはシンプルかつ明確であるべきです。例えば、「新規顧客へのアプローチ件数を月30件」「既存顧客の単価を半年で10%向上」など、達成度を測れる形にします。
■アクションプラン策定の実践例
- 販売強化計画
- 目標: 既存顧客のリピート率を15%増加させる。
- 具体的行動: 営業担当者が月に10件、既存顧客への訪問を実施し、課題をヒアリング。翌月には改善提案を実施。
- 新規顧客獲得計画
- 目標: 新規顧客の契約数を年間50件増加させる。
- 具体的行動: ターゲット業種を絞り、業界ごとのニーズに対応した営業資料を作成し、3カ月以内に配布開始。
■アクションプラン策定のゴール
アクションプラン策定の目的は、戦略を「行動可能なレベル」まで具体化することです。これにより、各部門や担当者が明確な指針を持ち、日々の業務に計画を反映させることができます。
次のステップでは、この計画を着実に実行するための進捗管理方法を見ていきます。
ステップ6: 進捗管理と修正
中期経営計画を成功させるためには、計画が現場で確実に実行され、目標達成に向けて進んでいるかを定期的に確認する必要があります。
このステップでは、進捗管理の方法と、計画の柔軟な修正について解説します。
■進捗管理の基本プロセス
- 定期的なレビューを実施する:計画が進んでいるかを月次・四半期ごとにレビューします。この際、KPIの達成状況を確認し、遅れがあれば原因を分析します。
- 可視化されたデータで判断する:感覚ではなく、数値データや具体的な成果を基に判断することが重要です。例えば、営業の進捗を「契約件数」「訪問数」などのデータで追跡します。
- 担当者と現場の声を拾う:現場の担当者からヒアリングを行い、計画における実行上の障害を洗い出します。これにより、現実に即した修正を加えられます。
■修正のポイント
進捗が計画通りに進まない場合、柔軟に計画を修正することが必要です。修正の際には、以下の視点を取り入れます。
- 優先順位を再設定する:全体の目標達成に最も影響を与える部分にリソースを再配分します。
- 実行可能性を見直す:現場での実行に無理がある部分を修正し、計画をより現実的な内容にします。
- 目標を再調整する:市場環境や内部状況の変化に応じて、目標そのものを見直す場合もあります。ただし、目標を下げるのではなく、実現可能な方法を模索することが重要です
- 進捗管理と修正のゴール:進捗管理と修正の最終的な目的は、計画を途中で挫折させず、持続的に改善を重ねながら目標達成に近づくことです。PDCAサイクルを回し続けることで、計画の精度が高まり、企業の成長につながります。
PDCAについては以下の記事で解説していますので、もしよろしければお読みください。
Q&A
Q1: 中期経営計画を作る意義は本当にあるのでしょうか?
A: 中期経営計画は、変化の激しい経営環境において企業が目指すべき方向性を定める羅針盤です。「計画を立てても実現しないかもしれない」という懸念は多くの経営者が抱えるものですが、計画の本質は「目標達成への具体的な道筋を示し、進捗を測る基準を提供すること」にあります。実績が目標に届かない場合も、その差を分析し、必要な意思決定を導くことが計画策定の価値です。目標を実績に合わせるのではなく、目標を基盤に現実をどう変えていくかが重要です。
Q2: 中小企業の規模でも中期経営計画は必要なものですか?
A: 中小企業こそ、中期経営計画が効果を発揮します。限られた経営資源を効率よく配分するには、目指すべき方向性を明確にする必要があります。また、社員全体に目標を共有することで、組織としての一体感が生まれます。特に、現場で実行可能な具体的なアクションプランまで落とし込むことで、企業規模に関係なく実現可能な計画となります。
Q3: 計画通りにいかない場合、どうすればいいでしょうか?
A: 計画が想定通りに進まない場合、計画そのものを見直す柔軟性が求められます。ただし、これは目標を変更することとは異なります。目標は企業の将来像を示すものであり、原則として不変であるべきです。一方で、計画はその目標に向けた道筋であるため、現実の状況に合わせて戦略やアクションプランを調整することが重要です。進捗状況を定期的に確認し、遅れや問題点を早期に把握することで、計画が目標達成へと繋がる道筋を修正していくのがよい対応方法だと言えます。
Q4: 社員が中期経営計画に関心を持ってくれるか不安です。
A: 社員に中期経営計画を浸透させるには、「目標が会社全体の未来像を示すもの」であることを分かりやすく伝えることが大切です。特に、計画を社員一人ひとりの役割と結びつけ、「自分の仕事が会社の目標にどう貢献しているか」を理解してもらう工夫が必要となります。具体的には、説明会や小グループでの意見交換を通じて、社員が計画に参加している感覚を持てる場を設けると効果的です。また、計画が社員の働きがいや会社の安定に直結することを示すと、意欲を高める助けになります。
Q5: 目標を変更する方が正しい場合もあるのでは?
A: 目標は原則として変更すべきではありませんが、例外的に変更が必要な場合があります。それは、客観的な外部環境の変化(例えば、市場の劇的な縮小や新しい規制の導入)や、社長のビジョンの進化により、現在の目標では企業の存続が危ぶまれる場合です。このような変更は、企業の成長や存続のための前向きなものに限られるべきです。一方で、実績に合わせて目標を下げるような変更は、計画の意義を失わせ、無計画経営につながります。目標は企業の未来像である以上、後ろ向きな理由での変更は避けるべきです。
まとめ
中期経営計画は、企業の持続的な成長を実現するための「未来への地図」です。成功の鍵は、明確なビジョンの設定、現状の的確な分析、実行可能なアクションプランの策定、そして継続的な進捗管理と柔軟な見直しにあります。
特に「3年」という期間は、戦略を現実的に実行しながら成果を生み出すのに最適です。計画を具体化し、組織全体で共有・実践することで、企業の競争力を強化し、持続的な成長へとつなげることができます。
唐澤経営コンサルティング事務所では、経営戦略の立案から中期経営計画の策定・実行支援まで、コーチングとコンサルティングを組み合わせたサポートを提供しています。
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