唐澤経営コンサルティング事務所代表の唐澤です。
中小企業診断士・ITストラテジストの資格を持ち、20年以上にわたり、中堅中小企業の経営戦略立案や業務改革、IT化構想策定のコンサルティングに従事してきました。

このコラムでは、私のコンサルティング経験をもとに、中堅中小企業の経営に役立つ情報を発信しています。

売上はすべてを癒す

この言葉は経営者なら一度は耳にしたことがあるかもしれません。

売上が増えれば資金繰りが楽になり、従業員にも安心感を与え、経営の悩みの多くが解決する、という意味です。

この考え自体は間違いではありません。確かに売り上げはすべてを癒します。しかし、それが「どんな売上」であるかを見極めない限り、会社は長期的な成長を妨げる危険があります。

実は、売上には「よい売上」と「悪い売上」が存在します。

「よい売上」は利益を生み出し、会社に余裕を与え、社員を活気づけます。一方、「悪い売上」は、数字の表面上は良く見えても、実際には会社の体力を奪い、社員に過剰な負担を強いる要因になることもあります。

この記事では、「よい売上」と「悪い売上」の違いを解説し、あなたの会社が持続的に成長するために、売上の「質」をどのように高めるべきかを具体的にお伝えします。

「よい売上」とは何か

「売上が大きいほど会社にとって良い」

あなたはそのように考えていませんか?

実は、売上の「大きさ」よりも「質」の方が、経営においては重要です。「よい売上」は会社に利益をもたらし、社員に無理をさせることなく、将来の安定を支えるからです。

中小企業にとって、「よい売上」を作るためのポイントは4つあります。それは、(1)利益がしっかり残ること(2)長く続く取引であること(3)会社の目指す方向に合致していること、そして(4)良いお客様との取引であることです。

以下では、この4つのポイントを順に解説していきます。「よい売上」の条件を明確にすることで、あなたの会社が何を優先すべきかが見えてくるはずです。

利益を生む売上: 自社ならではの戦い方で高付加価値を実現する

「よい売上」を作るためには、大手企業のようなスケールを重視する戦い方ではなく、中小企業だからこそできる「接近戦」を意識することが重要です。

接近戦とは、自社の強みを活かして、特定の顧客や市場に深く入り込み、密接な関係を築く戦い方です。大手が手を出しにくい領域で高付加価値を提供することで、価格競争に巻き込まれずに利益率を確保できます。

例えば、以下の通りです。

  • 特注対応やカスタマイズ: 他社が手間やコストの理由で避けるようなニッチなニーズに応えることで、顧客にとっての「唯一無二の選択肢」となる。
  • 地元密着型サービス: 地域の特性や文化を深く理解し、大手には真似できない親しみや信頼を築く。
  • 迅速かつ柔軟な対応: 小規模ならではのフットワークを活かし、顧客の期待を超えるスピーディーなサービスを提供する。

これらの戦い方は、中小企業にとって大手との差別化を図る最強の武器です。「接近戦」の発想を取り入れることで、高付加価値を生む売上を実現し、会社の収益基盤を強化しましょう。

長く続く取引: 安定した収益基盤を築く

一度きりの売上に依存するのは、経営を不安定にする原因の一つです。「よい売上」とは、継続的な取引やリピート注文に基づくものです。こうした売上が増えるほど、会社の収益基盤は安定し、長期的な成長が可能になります。

ただし、ここで重要なのは、すべてを自社都合だけで考えないことです。

必ず、「お客様にとってどんな役に立つのか?」「お客様にどんなメリットがあるのか?」を起点に考えてください。お客様が価値を感じられなければ、どれほど継続性を期待しても、取引は長続きしません。

中小企業が「長く続く取引」を実現するには、次のような工夫が効果的です。

  • サブスクリプション型のサービス:客様が定期的に必要なサービスや商品を、手間なく安心して受け取れる仕組みを作る。
  • アフターサービスの強化:「この会社に相談すれば安心」と思ってもらうことで、信頼を高め、次の取引につなげる。
  • 顧客との信頼構築:「この会社なら本当に役に立つ提案をしてくれる」と思われる存在になる。

たとえば、「困ったときに頼りにされる会社」になることで、お客様のリピート注文や紹介が自然と増えるでしょう。売上が安定すれば、計画的な設備投資や社員教育にも力を入れやすくなり、さらに強い経営基盤を築くことができます。

会社の将来につながる売上: 戦略的な取引を選ぶ

会社の成長を支えるためには、「今の売上」だけでなく、「未来をつくる売上」を考える必要があります。

「よい売上」とは、会社が目指す将来像にマッチした取引から生み出されるものです。

例えば、地域での評判を高めたい会社であれば、地域の人々に高い価値を感じてもらえる商品やサービスを提供することが戦略的です。一方、売上額が大きくても、自社の強みや目指す方向と合わない取引は、ヒト、モノ、カネといった経営資源を分散させてしまいます。

戦略的な取引を選ぶためのポイントは以下の3点です。

  • 自社の強みを活かせるか?: 自社が得意とする分野やサービスに関連した取引であること。
  • 中長期的な成長に貢献するか?: 一度きりで終わる仕事ではなく、会社のブランド価値や信頼を高める取引であること。
  • 経営資源を有効活用できるか?: 社員のもつノウハウや能力を有効活用できる、時間を効率よく使える案件であること。

「この取引は、3年後、5年後の自社の成長にどれくらい貢献するだろうか?」と考える習慣をつけると、自然と「よい売上」を選べるようになります。目の前の数字だけにとらわれず、会社の将来を見据えた判断が大切です。

よいお客様との取引: 信頼と利益を生む関係を築く

「売上を増やすには、とにかく多くのお客様を増やすべきだ」と考える経営者もいます。しかし、すべてのお客様が会社の成長に貢献するわけではありません。

「よい売上」を作るには、よいお客様との取引を増やすことが重要です。

よいお客様とは、以下のような特徴を持つ方々です。

  • 価格ではなく価値を重視する::価格競争ではなく、サービスや商品そのものの価値を見てくれるお客様。
  • トラブルが少ない::過剰に無理な要求をせず、クレームや支払い遅延などが少ないお客様。
  • 信頼関係を築ける: 長期的なお付き合いを前提に、会社を頼りにしてくれるお客様。

こうしたお客様を増やすためには、「自社の強みを明確に伝えること」と「お客様の満足度を高める努力」が欠かせません。また、過去のお客様を振り返り、良いお客様がどのような特徴を持っていたかを分析し、それに合った新しいお客様をターゲットにすることも有効です。

よいお客様との取引が増えれば、取引コストを削減できるだけでなく、社員のストレスも減り、会社全体がより健全な運営を行えるようになります。

「悪い売上」とは何か?

売上は多いに越したことはないと思うかもしれませんが、すべての売上が会社にとってプラスになるわけではありません。

「悪い売上」とは、会社に利益をもたらさないばかりか、経営を圧迫し、社員に無理をさせる原因となる売上のことです。

例えば、値引きが過剰な案件や、一度きりで終わる取引、会社の目指す方向と関係のない仕事は、いくら表面上の数字が大きく見えても、長期的には会社の成長を妨げます。

ただし、「悪い売上」であっても、会社の固定費の一部回収に貢献する役割を果たしている場合があります。例えば、稼働率の低い設備を維持するための取引や、キャッシュフローを確保するための短期的な案件が挙げられます。このような取引をすべて即座に切り捨てるのではなく、固定費の回収とのバランスを考えながら、徐々に「よい売上」への移行を進める方針が必要です。

ここでは、「悪い売上」が会社に与える悪影響について具体的に解説し、それを整理するための考え方をお伝えします。「売上の量」だけでなく、「売上の質」を見極める目を養うことが、中小企業の経営を大きく変える第一歩です。

利益が薄い売上: 数字の罠に気をつける

売上額が大きいと、一見して会社に貢献しているように見えます。

しかし、利益率が低い取引は、「見せかけの売上」に過ぎません。いくら売上が増えても、利益がほとんど残らなければ、会社の成長にはつながりません。

経営学の父と呼ばれるピーター・ドラッカーは、「利益は企業存続の条件であり、目的ではない」と語っています。つまり、利益がなければ企業は続けられないという当たり前の事実を忘れてはなりません。

利益が出ない取引を繰り返せば、どれほど売上が増えても会社の体力を削るだけです。

例えば、値引きをしすぎたり、過剰なサービスを提供したりして利益率を削ってしまうと、結果的に従業員の負担が増え、会社の資金繰りも厳しくなります。このような取引は「悪い売上」に分類されます。

確認すべきポイントは以下の3点です。

  • 売上に対して、どれだけの利益が残っているか?
  • 同じ労力で、より高い利益を生む方法はないか?
  • 値引きやサービスの提供が過剰になっていないか?

こうした観点で売上を見直すことで、「会社にとって本当に必要な取引」が見えてきます。利益が薄い売上を減らし、限られたリソースを効率的に使うことが経営の健全化につながります。

一度きりの取引: 継続的な関係を見据えた戦略的判断が必要

一度きりの取引は、次回の注文につながらない場合、計画的な経営を難しくする要因となり、「悪い売上」として認識されることがあります。単発案件に過剰なリソースを割くことで、リピート注文や継続的な取引のチャンスを逃すリスクも存在します。

しかし、一度きりの取引が必ずしも「悪い」とは限りません。新規顧客や未知の市場への足がかりとして活用できれば、それが継続取引や大型案件の入口となり得ます。このような取引は特に中小企業の成長において重要な機会となるでしょう。

では、どのように対応すればよいのでしょうか?

ポイントは、その取引に取り組む「目的」を明確にすることです。その目的が企業の成長や長期的な価値創出にどのように貢献するかを見極め、成功や失敗から適切な学びを得る姿勢を持つことが重要です。

もちろん、どれだけ慎重に計画を立てても、経営判断が外れることはあります。しかし、それを恐れる必要はありません。重要なのは失敗を避けることではなく、得られた経験を基に「判断の質」を向上させ、次の成功につなげることです。これこそが経営を安定させ、成長を持続させるための鍵となります。

■戦略的に取引を見極めるポイント

  • 新しい市場や顧客との接点を作れるか?
  • 初回の取引が、信頼関係の構築や継続的な取引への橋渡しとなる可能性があるかを評価する
  • 次の取引につながる可能性がどれくらいあるか?
  • お客様のニーズや市場の特性を理解し、「この一回で終わらせない仕組み」を計画する
  • リソースの負担に見合う価値があるか?

単発で終わる場合でも、その取引が他の案件の紹介や新たな機会を生むポテンシャルがあるかを見極めます。

例えば、初回の取引において顧客に「この会社なら任せられる」と思わせる対応ができれば、その後の継続契約や紹介による新規案件につながる可能性が大きく広がります。

一度きりの取引を単なる数字として捉えるのではなく、「次へのステップ」としてどう活かせるかを考えることが、中小企業経営においては特に重要です。

会社の方向性と合わない取引: 成長を妨げる落とし穴

売上の額が大きい取引は、経営者にとって魅力的に見えるものです。しかし、それが会社の目指す方向と合わないものであれば、長期的には経営の足を引っ張る可能性があります。

「悪い売上」の典型例の一つが、この「会社の方向性と合わない取引」です。

例えば、会社の得意分野や中長期の戦略にそぐわない取引は、いくら短期的に収益を上げても、経営資源を分散させる結果になります。これにより、本来集中すべき分野の成長が遅れるだけでなく、社員のモチベーションや効率も下がります。

■戦略に沿った取引を選ぶためのポイント

  • 自社の強みを活かせているか?
  • この取引が3年後、5年後の成長に貢献するか?
  • ブランド価値や評判を高める取引か?

中小企業の限られた経営資源を有効に活用するためには、「この仕事は本当にやるべきものか?」を常に自問することが重要です。目先の数字に惑わされず、長期的な視点で判断を下すことで、会社の成長に直結する「よい売上」を選び取ることができます。

手間がかかりすぎる取引: コストとリスクが高い売上

一見すると収益性の高い取引でも、対応コストや手間がかさむ場合、それは「悪い売上」となり得ます。過剰なカスタマイズ要求や頻発するクレーム対応、支払い遅延などにより、手間やコストが増えすぎる取引は、実際の利益を大きく削ります。

さらに、こうした取引は社員のストレスを増やし、会社全体の雰囲気や効率に悪影響を及ぼします。たとえば、クレーム対応に多くの時間を取られることで、他の重要な仕事が後回しになり、チーム全体の生産性が低下することもあります。

見直すべきポイント

  • 顧客対応に過剰な手間やコストがかかりすぎていないか?
  • この取引が社員の負担になっていないか?
  • 他の案件と比べて、本当に利益が残る取引になっているか?

中小企業の経営では、経営資源を効率的に使うことが最優先です。
顧客を選び、無理のない範囲で取引を行うことで、会社全体の運営がスムーズになり、「よい売上」を伸ばす余裕が生まれます。

実務的なアプローチ: 「よい売上」を増やし「悪い売上」を整理する方法

「よい売上」と「悪い売上」を見極めたら、次のステップは具体的な改善行動です。ここでは、中小企業が実践できる3つのアプローチをご紹介します。

アプローチ1:顧客を分類し、優先順位をつける

すべての顧客が同じように価値を生むわけではありません。
まず、現在の顧客を見直し、「よい売上」を生む顧客を特定しましょう。

その際には、以下のような基準で分類します。

  • 利益をもたらしているか: 利益率の高い顧客や取引。
  • 長期的な関係が築けるか:リピート注文や定期契約の可能性がある顧客。
  • トラブルが少ないか:クレームや過剰な要求が少ない顧客。

この分析を通じて、会社にとって本当に重要な顧客に注力できるようになります。

アプローチ2:売上のポートフォリオを定期的に見直す

顧客だけでなく、製品やサービスごとに利益率を計算し、売上のポートフォリオを定期的に見直しましょう。「悪い売上」が占める割合が大きい場合、段階的に整理を進めることが必要です。

たとえば、ある会社では、顧客の要求で振込入金ではなく現金回収を条件とされている上に、担当営業が現金回収する際には毎回お土産を持参するといった慣習があり、業務・コスト負担となっていました。このような一見「顧客満足のため」と思える慣習が、実際には会社の利益を圧迫していたケースもあります。

仮に顧客満足につながっていたとしても、それが会社の利益になっていないのであれば、それは経営上は「悪しき習慣」に他なりません。こうした具体例から学び、効率化を進めることが重要です。

改善策として、次のようなステップが考えられます。

  • 利益が低い取引を減らす: 値引きや過剰サービスを控える。
  • 非効率的な業務を整理する: 利益を生まない慣習や、不要なサービスを段階的に見直す。

これにより、経営資源を「よい売上」を伸ばすために集中できます。

アプローチ3:長期的な戦略との整合性をチェックする

新しい取引や案件を決める際には、「これは自社の成長に合致しているか?」を確認する仕組みを作りましょう。

具体的には、以下のような質問を自問します。

  • 自社の目指す方向に貢献するか?
  • 3年後、5年後にも利益を生む可能性があるか?
  • 経営資源を効率よく使える取引か?

こうしたチェックを徹底することで、短期的な数字に惑わされず、将来の成長を見据えた意思決定ができるようになります。

Q&A

Q1: 利益を生まない取引をすぐにやめるべきですか?
A: 必ずしも取引をすぐにやめる必要はありません。ただし、利益が薄い取引や負担の大きいと思われるサービスについては、まず現状を正確に把握し、自社の利益にどれだけ貢献し、今後どれだけの貢献が見込めるかをきちん確認し、改善が必要であれば段階的な見直しを進めるべきです。例えば、既存のお客様との関係性を考慮し、徐々に条件を見直したり、効率化を提案する方法を取るとよいでしょう。

Q2: 「よいお客様」を見つけるにはどうすればいいですか?
A: 過去のお客様を振り返り、取引の中で特に「スムーズに利益が出た」「長く付き合えた」顧客をリストアップしましょう。その特徴を分析し、新しいお客様にもその条件を当てはめることで、ターゲット層が明確になります。

Q3: 一度きりの取引でも価値がある場合はありますか?
A: もちろん、会社の評判を高めたり、新しい市場に進出するためのきっかけとして、一度きりの取引が戦略的に有効な場合もあります。ただし、それが「会社の将来につながるか」を慎重に見極めた上で取り組むべきです。

Q4: クレームや手間が多い取引は切るべきでしょうか?
A: クレームや過剰な要求が多い場合、まずは問題の原因を分析しましょう。それが改善できない、あるいはコストがかかりすぎる場合は、取引の整理を検討してもよいでしょう。社員の負担軽減も重要な視点です。

まとめ

売上の額だけに注目するのではなく、「よい売上」と「悪い売上」を見極め、質の高い売上を増やしていくことが、持続可能な経営のカギとなります。

  • よい売上は、利益がしっかり残り、長く続く取引であり、会社の将来を支えます。
  • 悪い売上は、利益を生まず、会社の体力を奪い、社員の負担を増やします。

中小企業の経営者として、自社の売上を冷静に分析し、限られたリソースを「よい売上」に集中することを心がけましょう。それが、会社をさらに強くし、未来に向けて成長するための最善の方法です。

私たち唐澤経営コンサルティング事務所では、「コーチング」と「コンサルティング」を組み合わせ、中小企業の経営課題解決と成長戦略の策定を強力にサポートいたします。

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この記事を書いた人

唐澤 智哉

新卒で大手金融系シンクタンクに入社し、大手企業向けのITコンサルティングに従事。その後、2社のコンサルティングファームにて、大手企業向けの業務改革・ITコンサルティングに従事。
2012年に大手IT企業に入社し、中小企業向けのコンサルティング事業の立ち上げの中心メンバーとして事業化までを経験し、10年間中小企業向けの経営コンサルティング・ITコンサルティングや研修・セミナーに従事。
その後、2022年に唐澤経営コンサルティング事務所を創業。中小企業向けの経営コンサルティング、DXコンサルティング、研修・セミナー等のサービスを提供している。
趣味は読書で、年間200冊近くの本を読む。