唐澤経営コンサルティング事務所代表の唐澤です。
中小企業診断士・ITストラテジストの資格を持ち、20年以上にわたり、中堅中小企業の経営戦略立案や業務改革、IT化構想策定のコンサルティングに従事してきました。

このコラムでは、私のコンサルティング経験をもとに、中堅中小企業の経営に役立つ情報を発信しています。

デジタル技術の進化により、業界や企業規模を問わず、デジタルトランスフォーメーション(DX)の必要性が急速に高まっています。特に中小企業では、限られたリソースで競争力を維持・向上させるため、DXを経営戦略に組み込むことが避けられない状況にあります。一方で、DXを進めるための人材確保が、企業の規模を問わず大きな課題として浮上しています。

一般的にDX人材と聞くと、プログラミングやデータ分析に長けた専門職をイメージするかもしれません。しかし、最新のクラウドソリューションやローコードツールの普及により、高度な技術スキルを持つエンジニアを雇用する必要性は以前ほど高くありません。むしろ、企業にとって本当に必要なのは、経営課題を正しく理解し、その解決に最適なデジタルツールを選び、導入から運用までを推進できる実践的な人材です。

こうした役割を担えるのは、外部の専門家ではなく、会社の内部事情を深く理解した社内人材であるべきです。特に若手社員は、日常的にデジタル技術に触れている世代であり、DX推進に柔軟かつ積極的に対応できるポテンシャルを持っています。適切な教育と機会を与えることで、DXを成功に導く中核的な存在になり得るのです。

本記事では、こうした背景を踏まえ、中小企業が自社内でDX人材を育成する方法を具体的に解説していきます。外部人材に頼らず、限られたリソースの中でDXを推進するためのヒントをお伝えします。

中小企業が必要とするDX人材とは?

DXを推進するうえで、「どのような人材が必要なのか?」という問いは、多くの中小企業経営者に共通する疑問です。

これまでのIT人材は、高度なプログラミングスキルやインフラ管理の知識を持つ専門職であることが求められていました。しかし、現代の中小企業において、DX推進に必要とされる人材像は大きく変わりつつあります。

求められるスキルは「技術力」よりも「課題解決力」

今、中小企業が求めるDX人材は、必ずしもエンジニアのような専門技術者である必要はありません。それよりも重要なのは、自社の経営課題を的確に把握し、その解決に向けて適切なデジタルツールを選定・導入し、社内に根付かせる力です。

このような人材には、以下のスキルが特に求められます。

  • 課題発見力:現場や顧客の声を聞き、経営課題や業務の非効率性を見つけ出す力。
  • ソリューション選定力:クラウドサービスやローコードツールなど、現代の技術を活用して課題を解決するための手段を選び出す能力。
  • コミュニケーション力:導入したツールを現場で使いこなせるよう、社員を巻き込みながら教育・定着を図る力。

これらのスキルは、高度な技術知識がなくとも、経験と教育によって培うことが可能です。

若手人材の柔軟性を活かす

若手社員は、日常生活でスマートフォンやクラウドサービスに親しんでおり、ITへの抵抗感が少ない点が特徴です。これらの社員に適切な役割と教育機会を与えることで、社内のDX推進における重要な担い手となる可能性があります。

具体的には、データ入力の効率化や、クラウド型顧客管理ツールの導入を任せるなど、小さなプロジェクトを担当させるところから始めるのが有効です。

自社の文化にフィットした育成が成功のカギ

外部の専門家をフルに活用する方法もありますが、社内文化や業務フローに詳しい既存社員を育成する方が、長期的な視点で見ると効果的です。自社のDNAを理解した社員がDXの旗振り役となることで、導入した技術が組織全体にスムーズに浸透します。

既存社員の育成を軸に据えつつ、それを効率的に行うために必要なポイントで外部の専門家を活用するとよいでしょう。

社内育成のメリットと方法論

外部人材に依存せず、社内でのDX人材育成を主軸に据えることには、多くの中小企業にとって現実的かつ有益な選択肢となります。

社内育成にはコスト効率の良さだけでなく、組織の文化や業務フローへの深い理解という強みがあります。自社の現状や価値観に即した人材が育つことで、DXがスムーズに進むだけでなく、長期的な組織の成長にも寄与する取り組みになります。

社内育成の具体的な利点

社内で人材を育てることで、以下のようなメリットが得られます。

  • 業務との親和性
    社内育成は、自社の業務フローや文化を深く理解している社員を対象にするため、導入した技術が現場にスムーズに適応します。たとえば、新しい顧客管理ツールを導入した際にも、すぐに現場で効果を発揮できるでしょう。
  • コストの最適化
    外部人材の雇用や維持には多大なコストがかかる一方、社内の既存社員を育成する方法は比較的低コストです。また、既存社員のキャリア成長にもつながり、定着率の向上という付随的なメリットも期待できます。
  • 長期的な信頼構築
    社内育成を通じて、社員は自分が会社にとって不可欠な存在であると感じ、モチベーションの向上が期待できます。これにより、組織全体のエンゲージメントも高まります。

効果的な育成方法

社内育成を成功させるためには、明確な戦略と実践的なアプローチが必要です。

まず、経営陣が育成の目的やビジョンを社員と共有することが重要です。
「なぜDXが必要なのか?」「DXを通じて自社が目指す姿は何か?」を明確に伝えることで、育成対象となる社員に納得感を持たせられるとともに、モチベーションを高められます。

次に、段階的な育成プログラムを設計することが効果的です。
たとえば、最初はITの基礎知識を学ぶセッションから始め、徐々に業務での実践機会を増やしていきます。この過程で、外部のコンサルタントをスポット的に活用することで、社員が具体的な課題に取り組む際のアドバイスを受けられるようにするのも有効です。

さらに、育成の過程で得られた知識やスキルを実際のプロジェクトで活かし、社員自身が成功体験を得ることが大切です。こうした成功体験が、さらなる学びとモチベーションにつながります。にはDXの成果が早く出やすい環境が整っていると言えます。

若手社員を活用する:DX推進の柔軟性と可能性

DX推進において、若手社員は大きな可能性を秘めています。彼らは生まれたときからデジタル技術が身近にある「デジタルネイティブ世代」であり、ITツールやクラウドサービスへの適応力が高い点が特徴です。
この柔軟性を活用することが、中小企業にとってDXの成功を加速させるカギとなります。

若手社員が持つ強み

若手社員は、新しいツールやシステムを学ぶ際に抵抗感が少なく、試行錯誤を繰り返しながら最適な方法を模索する姿勢を持っています。

たとえば、クラウドベースの顧客管理ツールやプロジェクト管理ツールの導入では、若手社員が中心となり、短期間でスムーズに運用を開始できるケースが多く見られます。
また、既存の業務にデジタルツールを組み合わせることで、新しい効率化のアイデアを生み出すことにも長けています。

若手を中心にDX推進を進めるメリット

  • 組織全体への波及効果
    若手社員がDXの成功例を示すことで、他の社員にもデジタル化の重要性が浸透します。これにより、社内全体がDXに前向きな姿勢を持つようになります。
  • チームリーダーとしての育成
    若手社員にDXプロジェクトのリーダーを任せることで、実務経験を通じたスキルの向上が期待できます。これにより、将来の経営幹部候補としての成長も促進されます。
  • 新しい視点の導入
    若手社員は、これまでの業務プロセスにとらわれず、新しい視点で課題を見つけ、解決策を提案する能力を持っています。これが、従来のやり方に固執するリスクを回避する一助となります。

適切な役割の与え方

若手社員を活用する際は、明確な役割と期待を示すことが重要です。

たとえば、ローコードツールを使った小規模なアプリケーション開発や、クラウド型会計ソフトの導入サポートなど、彼らのスキルレベルに合ったプロジェクトから始めていくとよいでしょう。

これらの経験を通じて成功体験を積み重ね、若手社員のさらなる成長を促すことができます。

成功するDX人材育成のためのステップとポイント

中小企業がDX人材育成に取り組む際、明確な計画と実行ステップが成功のカギを握ります。単に社員を教育するだけではなく、実践を通じてスキルを身につけ、成果を上げる体験を積むことで、DXの成果は組織全体に広がります。

ここでは、現実的かつ効果的な育成ステップを解説します。

ステップ1: 育成の目的を明確にする

DX人材育成の第一歩は、経営者自身がDXのビジョンを明確にし、それを社員と共有することです。「なぜDXが必要なのか?」「DXを通じて自社が目指す姿とは何か?」をはっきりと伝えることで、育成対象となる社員に動機付けを与えることができます。
たとえば、業務効率化だけでなく、顧客満足度向上や新規事業の創出といった目標を示すと、より具体的なイメージが共有されます。

ステップ2. 小さく始め、大きく広げる

大規模なDXプロジェクトを一気に進めるのは中小企業にとってリスクが高いです。まずは、ローコードツールを活用した簡単な業務改善や、クラウドサービスの導入を進める小規模なプロジェクトからスタートしましょう。
このような取り組みは、コストを抑えつつ早期に成果を実感できるため、社員のモチベーション維持にもつながります。

ステップ3. 外部の専門家を効果的に活用する

外部コンサルタントや専門家の力を借りることで、育成プロセスを効率化できます。
特に初期段階では、専門家にプロジェクトをリードしてもらいながら、社員がそのプロセスを学ぶ形が効果的です。
社員が実際のプロジェクトを通じてスキルを身につけることにより、外部依存から自立へと移行する基盤が築けます。

ステップ4. 成果を評価し、次のステップにつなげる

育成の過程では、社員が習得したスキルやプロジェクトの進捗を定期的に評価することが重要です。これにより、成功体験を社員と共有し、次の挑戦へのモチベーションを高めることができます。

また、評価を通じて課題が明確になるため、次のステップでどの部分を強化すべきかが具体的になります。

ステップ5. 学びを現場に定着させる

DX人材育成の最終的な目標は、学んだスキルが現場で継続的に活用されることです。そのためには、育成プログラムの内容を日常業務に組み込む仕組みを整える必要があります。

例えば、クラウドツールを用いた定期的なデータ分析ミーティングを行い、学んだスキルを社員全体に浸透させていきます。

Q&A

Q1. DX人材育成はどのくらいの期間で成果が出ますか?
A.育成に必要な期間は、目指すスキルレベルやプロジェクトの規模によって異なりますが、初歩的なスキル習得であれば3~6か月程度が目安です。例えば、クラウドツールの基本的な使い方を学び、日常業務に活用するまでのプロセスは比較的短期間で完了します。一方、データ分析や業務改善の提案ができるレベルに達するには、1年以上の継続的な学びが必要です。長期的な視点で成長を見守る姿勢が大切です。

Q2. DX人材に適した社員はどのように選べばよいですか?
A.DX人材に適した社員は、必ずしも現時点でITに精通している必要はありません。それよりも、次のような特徴を持つ人を選ぶとよいでしょう。
・好奇心が旺盛で、新しいことに前向きに取り組む人
・現場の課題を理解し、解決策を探る意欲がある人
・チームでの協力やコミュニケーションが得意な人
特に、日常業務で非効率さを感じている社員や、新しいアイデアを提案することが多い社員はDX推進の中心人物として活躍できる可能性があります。

Q3. 育成コストを抑えるにはどうすればよいですか?
A.育成コストを最小限に抑えるには、社内リソースや既存の無料・低コストのツールを活用することがポイントです。たとえば、ローコードツールやクラウドサービスのトライアル版を活用することで、初期費用を抑えながら実践的な学びを得ることができます。また、外部コンサルタントを活用する際は、短期集中型のプロジェクト支援を依頼することで、コスト効率を高めることが可能です。外部コンサルタントの費用も絶対額だけを見ると一見高額に見えますが、DXプロジェクトの円滑化に加え、若手人材の育成の効果も得られるため、トータルとしての投資対効果は高かったという経営者の声は多いです。若手人材の育成は、その人材が在籍している限り継続的にその効果を享受できるだからです。

Q4. DX推進役に選ばれた社員のモチベーションを維持するには?
A.DX推進役に選ばれた社員が成長し続けるためには、成功体験を積むことが重要です。小さなプロジェクトであっても、成果を共有し、組織全体で認める機会を作りましょう。さらに、研修や外部セミナーへの参加を支援し、学び続けられる環境を整えることで、モチベーションを高めることができます。

まとめ

中小企業が競争の波を乗り越え、持続的な成長を実現するためには、DX人材の育成が不可欠です。必ずしも高度なエンジニアを雇用する必要はなく、経営課題を的確に把握し、その解決に向けたツールや方法を推進できる実践型の人材が求められます。このような人材は、適切な計画と環境を整えれば、既存の社員から育成することが可能です。

社内でDX人材を育てることは、単にコストを抑えるだけでなく、組織文化への深い理解と長期的な貢献をもたらします。
また、若手社員の柔軟性やデジタルリテラシーを活かすことで、DX推進をさらに加速させることができます。スポット的な外部支援を取り入れつつ、自社に合った形で育成を進めることで、限られたリソースの中でも着実な成果を得ることができるでしょう。

この記事が、DX人材育成の一歩を踏み出すきっかけとなれば幸いです。自社に必要なスキルやビジョンを明確にし、小さな成功体験を積み重ねながら、DXの未来を切り拓いてください。

DXの具体的な進め方やツール選定、社内体制づくりなど、お悩みやご不明点がありましたらお気軽にご相談ください。唐澤経営コンサルティング事務所では、中小企業診断士・ITストラテジストとして、中小企業の規模や業種に合わせた最適なアドバイスとサポートを行っています。

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この記事を書いた人

唐澤 智哉

新卒で大手金融系シンクタンクに入社し、大手企業向けのITコンサルティングに従事。その後、2社のコンサルティングファームにて、大手企業向けの業務改革・ITコンサルティングに従事。
2012年に大手IT企業に入社し、中小企業向けのコンサルティング事業の立ち上げの中心メンバーとして事業化までを経験し、10年間中小企業向けの経営コンサルティング・ITコンサルティングや研修・セミナーに従事。
その後、2022年に唐澤経営コンサルティング事務所を創業。中小企業向けの経営コンサルティング、DXコンサルティング、研修・セミナー等のサービスを提供している。
趣味は読書で、年間200冊近くの本を読む。