唐澤経営コンサルティング事務所の唐澤です。中小企業診断士・ITストラテジストの資格を持ち、20年以上にわたり、中堅中小企業の経営戦略立案や業務改革、IT化構想策定などのコンサルティングに従事してきました。

このコラムでは、私のこれまでのコンサルティング経験をもとに、中堅中小企業の経営に役立つ情報を発信しています。

「優秀な人材を採用し適切に配属していれば、組織はうまく回るはずだ!」

一般的にそのように考えがちなのですが、実情はどうでしょうか?

実際に会社を経営をされているあなたは、「それほど事は単純ではない」ということを十分に理解されていることだと思います。実際、企業の経営においては、優秀な人材を採用して配置しただけでは解決しない問題が数多く存在しています。

その代表例の1つが、組織の雰囲気やチームワークを損なう「危険人物」の存在です。なお、本コラムでの「危険人物」とは、「組織の健全な運営や職場環境に悪影響を及ぼす行動や態度を持つ従業員」と定義することとします。

パーソル総合研究所が行った「職場のハラスメントについての定量調査(2022年)」によれば、全就業者の34.6%が職場で何らかのハラスメント被害を経験したと回答しています​。最も多い内容は「仕事について批判・言葉で攻撃される」(65.1%)、次いで「乱暴な言葉遣いで命令・叱責される」(60.8%)、「小さなミスに過剰に罰せられる」(58.8%)等、まさに職場の人間関係トラブルが多数報告されています。特に中堅中小企業の場合、大手企業と違って従業員数に限りがあります。そのため、少数の「危険人物」が組織全体に与える悪影響は想像以上に大きくなることがあり、経営者としてはこうした「危険人物」を早期に発見し、適切に対応することが不可欠となります。

本コラムでは、「危険人物とはどのようなタイプの社員か?」「経営者としては何を観察し、どのように対処するべきか?」について、具体的に掘り下げていきたいと思います。本コラムが、あなたの会社をよりよい組織にするための一助となれば幸いです。

「危険人物」が引き起こすリスクとは?

経営者にとって、「」は最も重要な経営資源でありながらも、一方で最も扱いが難しい資源でもあります。まず最初に、「危険人物」が組織に与えるリスクの大きさを認識しておきましょう。

リスク①:雰囲気悪化とモチベーションの低下

組織で起こる最も顕著な問題が、職場の雰囲気の悪化です。過度に自己中心的な言動や攻撃的なコミュニケーションが目立つ社員が1人でもいると、周囲の社員は大きなストレスを感じるようになります。そして、そのストレスは他の社員のモチベーションをも低下させ、生産性までも低下させていくことになってしまうのです。

リスク②:有能な社員の離職

雰囲気が悪い職場には、優秀な社員ほど長く留まらない傾向があります。あなたの会社で「優秀」と考えられている社員は、一般的に転職市場においても高く評価される可能性があります。まして、少子高齢化で働き手がますます不足する我が国においては、「求職者 < 企業の求人数」である売り手市場の傾向が継続しています。その意味で、彼らは会社や上司、同僚を選択する「自由」を持つ立場にあるとも言えるでしょう。もしあなたの会社が雰囲気の悪い職場であるならば、もしかすると彼らがわざわざあなたの会社で今後も働き続ける理由はないかもしれません。結果的に「危険人物」の存在が原因となって離職が重なり、組織全体のパフォーマンスが低下する可能性があるのです。

リスク③:クレームやトラブルの増大

「危険人物」は、社内だけではなく、外部の取引先や顧客とトラブルを起こすケースもあります。自己中心的な「危険人物」が顧客対応をしていた場合、その態度の悪さやコミュニケーション不足が直接クレームに発展し、会社の評判を落とすことにもつながります。

「危険人物」の典型的な特徴

では、具体的にどのような特徴を持つ人が「危険人物」と言われるのでしょうか?以降で、代表的なケースを例に挙げて説明していきましょう。

特徴①:コミュニケーションが常に攻撃的・皮肉的

言葉の選び方や声のトーンが常に攻撃的であったり、皮肉や嫌味を含む発言を好む傾向にある人は、周囲の社員に対して大きな精神的負担となります。特にそのような人が、部下に対して過剰に厳しく接したり、陰で悪口を言っていたりする場合は、特に注意です。周囲の信頼関係を大きく損ない、組織に悪影響を与えてしまいます。

特徴②:責任回避が激しい

問題が起きたときに、自らの責任を認めず、部下や同僚に押し付けようとする人も「危険人物」になり得ます。組織での責任の所在が曖昧な状態が続けば、会社全体としての説明責任そのものが機能しなくなります。そのような状態があまりに長く続くと、その会社は「無責任な仕事」が繰り返される環境となってしまいかねません。なお、ここでの説明責任とは、「職務や行動について説明する責任」のことを指します。決して「成果」に対する説明責任だけを指しているわけではありません。失敗や問題に対しても、自ら説明して改善する姿勢が重要となります。

特徴③:過度な自己顕示欲

常に周囲の注目を集めようとして、自己正当化自慢話に終始するタイプの人は、時にチームワークを崩すことがあります。その人が継続的に実績を出し、周囲もその成果・貢献を認めている場合であればまだしも、実態が伴っていない自己正当化や自慢話が増えれば増えるほど、周囲からのその人物に対する不信感は高まっていく一方でしょう。

特徴④:秘密主義・情報を独占したがる

自分の社内的な地位を守るために、意図的に情報を隠蔽して社内での情報共有を妨げる人も要注意です。組織内での円滑なコミュニケーションが妨げられ、生産性の低下はもちろん、周囲との信頼関係が崩れる原因にもなります。

特徴⑤:感情の起伏が激しい

すぐに怒りを爆発させたり、あるいは極端に落ち込んで業務に支障をきたしたりする等、感情の起伏が激しい人は、組織内に不安感をもたらします。周囲の人は、その人の機嫌を取ることに時間とエネルギーを割かねばならず、結果として組織としての生産性やモチベーションが低下していきます。

早期発見のポイント:経営者が注目すべきサイン

中堅中小企業の場合、従業員数が少ない分だけ経営者が社員一人ひとりの情報を比較的把握しやすいというメリットがあります。一方で、「あまりに人に干渉しすぎると、嫌われてしまうのではないか?」「社員を信用していないと思われたくない」といった心理から、問題の発見が遅れてしまうケースも少なくありません。

経営者としては、あなたは4つのサインを見逃さないことが重要となります。

サイン①:離職率や休職率の変化

突然、ある部署やチームだけ離職率休職率が高まった場合、もしかするとその部署・チームには「危険人物」が潜んでいるかもしれません。一般的に、従業員規模が少ない中堅中小企業は一人の社員の影響力は大きくなる傾向があります。したがって、トラブルが起きた際に退職が連鎖するリスクは高くなる傾向にあります。私が担当したあるクライアントでも、特定の部門で半年以内に2名の中堅社員の退職が続いたことがありましたが、その2名の退職理由に共通していたのは「あのような上司とはやっていけない」というものでした。

サイン②:組織目標の達成度低下

組織全体の業績や目標達成率に明らかな低下が認められた場合、注意が必要です。もちろん、その原因が明らかに市場環境の変化によりものであることは多いですが、中には内部要因、特に人間関係の問題が潜んでいることもあります。営業部門など、成果が数字に表れやすい部署では、特に数字の変化とその要因に注意しましょう。

サイン③:社内外からの苦情や通報

社内のハラスメント通報窓口や上司への相談件数が突然増えたり、顧客や取引先からのクレームが特定の担当者に集中していないかチェックすることも重要です。近年はコンプライアンス(法令遵守)意識の高まりにより、社会全体がハラスメントや不正行為に敏感となっているため、通報や相談が増えやすい傾向にあります。

サイン④:部内の空気が「重い」「ギスギスしている」

経営者が現場を訪問した際に、社員同士の会話が異様に少なかったり、誰かが話すたびに周囲が神経質になっている雰囲気を感じるといったネガティブな空気感がある場合には注意が必要です。経営者自身が定期的に現場を回り、社員と面談や雑談をするなど、密なコミュニケーションを図ることで、問題の早期発見につなげることができます。

対処法:予防策と事後対応

「危険人物」への対処法としては、危険人物を未然に防ぐ予防策と、すでに予防策が存在する場合の事後対応をセットで考えることが重要です。なぜならば、いずれか一方だけに偏ってしまうと、なかなか根本的な解決には至らないというケースが多いからです。

予防策

予防策①:採用・評価プロセスの透明化

新規採用や人事評価におけるプロセスが不透明な場合、結果的に「危険人物」を採用してしまったり、企業風土に合わない人材を昇進・昇格してしまうリスクが高まります。採用時には、予め自社の価値観やカルチャーを言語化して上で、面接を通じて能力、人間性、組織文化へのマッチ度(カルチャーフィット)の3点をしっかりと確認する必要があります。特に中堅中小企業においては、「カルチャーフィット」を重視することが採用のポイントととなります

採用については以下の記事で解説していますので、詳しく知りたい方はぜひお読みください。

また人事評価制度においては、評価基準を明文化して社員に周知し、「誰が、何を基準に評価されるのか?」を公正に示すことで、組織としての一貫性を保つことも重要となります。

予防策②:組織風土の醸成

ミッションバリューを定期的に社員と共有し、会社にとって望ましい行動はどのようなもので、望ましくない行動はどのようなものかを具体的に周知しておくことが重要となります。例えば、「人を大切にする」「チームで成果を上げる」といった価値観を具体的な行動例とともに提示しておくと、社内の意識が揃いやすくなります。ひょっとすると、あなたの会社ではミッションやバリューはきちんと言語化されているかもしれません。しかし、本当にそのミッション・バリューは組織に浸透してるでしょうか?日々の経営や業務の中で、社員がそれを意識した行動にまでつなげられるほどに浸透できている会社は意外と少ないものです。言語化で満足せず、ぜひ浸透度合いも含めて確認してください。

なお、ミッション・ビジョン・バリュー(MVV)については以下の記事で解説していますので、詳しく知りたい方はぜひお読みください。

予防策③:コミュニケーションの場の設定

部署横断のミーティングやレクリエーション、1on1ミーティングなど、上司と部下、同僚同士のコミュニケーションを増やす場を作ることで、人間関係のトラブルを未然に防ぐことができます。特に、総じて社員の業務が忙しい中堅中小企業においては、「コミュニケーションのためだけに確保する時間」が後回しにされがちです。しかし、長期的には「コミュニケーションの時間を確保する」という投資が、組織を守る要にもなるのです。時間は、先んじて予定しておけば確保できるものです。意識してコミュニケーションの時間を確保するように努めてください。

なお、経営者のコミュニケーション術については以下の記事でも解説しています。詳しく知りたい方はぜひお読みください。

事後対応

事後対応①:早期の本人面談と事実確認

「危険人物」と思しき社員がいる場合、まずはその社員に対して適切なタイミングで面談を行い、あなたの考える問題点を客観的に伝えましょう。この際のポイントは、社内の通報や第三者からの証言だけでなく、本人の主張も必ず確認した上で、事実関係を整理することです。人は主観的に物事を判断しがちな生物なので、個人的な意見や評価という自分のフィルターだけで物事を判断する傾向にあります。一方だけの言い分だけ鵜呑みにして相手に改善を促してしまうと、信頼関係の崩壊につながりかねません。十分に注視してください。

事後対応②:行動改善プログラムの導入

本人に問題意識があり、行動を改善する意欲が見られる場合は、コーチングや外部セミナーへの参加などを通じて、具体的な改善プログラムを用意しましょう。改善の期限や目標を設定し、その達成度合いを評価する仕組みをつくるとより効果的です。

事後対応③:配置転換や懲戒処分の検討

注意や改善指導を繰り返しても改善が見込めない場合、部署異動や配置転換を検討する必要があります。それでも状況が悪化し続けるようであれば、最終的には懲戒処分を含む厳しい対応も視野に入れるべきです。

経営者には、会社を守る責任があります。一人の「危険人物」が組織を傷つけたり、場合によっては会社を崩壊させてしまうこともあり得ます。そのようなリスクを優先的に回避することは、経営者の責任とも言えます。

Q&A

Q1. 「危険人物」に当たるかどうかを、客観的に判断する方法はありますか?
A.具体的な行動事実に基づいて確認する方法が最も客観的です。抽象的な「雰囲気が悪い」「言葉がきつい」だけではなく、日時・場所・内容を記録することで、「誰に対してどのような言動をしたのか?」を明確にしましょう。また、複数の社員から同様の訴えがある場合は、経営者として早急に対処すべきサインと考えられます。

Q2. 組織の規模が小さいゆえに、危険人物を排除できず悩んでいます。どうすればいいでしょうか?
A.中堅中小企業では、一人の社員が複数の業務を担当していることも多く、「その人がいなくなると業務が回らなくなる」という不安が経営者に生まれがちです。しかし長期的な視点では、組織全体の健全性を損なうリスクのほうが大きい場合が多いです。業務を見直し、引き継ぎマニュアルを整備しておくなど、万が一再配置したり退職された場合であっても、業務が回る仕組みを作っておくことが重要です。

Q3. そもそも危険人物を生まない組織文化を作るにはどうすればいいですか?
A.まずは経営者自らが会社の理念や行動規範を言語化し、社内外に発信することが基本です。そのうえで、「人を尊重し合う」「オープンな情報共有」「責任をしっかりとる」などの価値観を評価制度と連動させ、定期的に振り返る場を設けることが大切です。時間と手間はかかりますが、健全な組織文化が根付けば、危険人物が入り込む余地は大きく減ります。

Q4. 危険人物本人を排除するよりも、周囲の人材をケアするほうが得策ではないですか?
A.どちらも重要です。周囲の人材が被るストレスを軽減したり、メンタルヘルスをサポートする施策は必要不可欠です。しかし、危険人物の問題行動が放置されたままでは根本解決になりません。組織全体を守るためには、問題行動のある本人へのアプローチ(改善策や配置転換など)と同時に、周囲のケアと両輪で進めることが肝心です。

まとめ

従業員数がそれほど多くない中堅中小企業にとっては、一人ひとりの社員が会社の将来を左右するほど大きな存在となり得ます。その中で、組織文化やチームワークを破壊しかねない「危険人物」の影響力は、非常に大きくなる可能性があります。優秀な社員の離職、顧客や取引先のクレーム、さらには組織の士気低下による業績悪化など、想定されるリスクは多岐にわたります。だからこそ、経営者としては「予防策」と「事後対応」の両面をしっかりと整備し、「危険人物」を生まない・放置しない仕組みを作らなければなりません。具体的には、採用段階から価値観の合う人材を見極め、評価制度や組織風土を「人を大切にする仕組み」に設計することがポイントです。また、万が一社内に「危険人物」が現れた場合は、事実確認を徹底したうえで早期に対応を行い、組織に与える悪影響を最小限に抑えなければなりません。

これらの施策を実行するにあたって、中堅中小企業においては経営資源が限られていることも多いでしょう。しかし、組織運営の基本である「人」を軽視すれば、取り返しのつかないダメージを負うリスクが高まります。一方で、建設的な組織文化が醸成されれば、従業員満足度の向上、優秀な人材の定着や採用のしやすさ、クライアントや取引先からの信頼獲得など、さまざまな面でプラス効果が期待できます。

職場に潜む「危険人物」をいち早く発見し、適切に対処することで、組織はより強固で健全な状態を維持することができます。経営者としての判断と行動が問われるテーマではありますが、リスクを正しく理解し、必要な対応を先手先手で打つことで、中小企業は逆境を乗り越え、持続的な成長を遂げることができるでしょう。

私たち唐澤経営コンサルティング事務所では、「コーチング」と「コンサルティング」を組み合わせ、中堅中小企業の経営課題解決と成長戦略の策定を強力にサポートいたします。

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この記事を書いた人

唐澤 智哉

新卒で大手金融系シンクタンクに入社し、大手企業向けのITコンサルティングに従事。その後、2社のコンサルティングファームにて、大手企業向けの業務改革・ITコンサルティングに従事。
2012年に大手IT企業に入社し、中小企業向けのコンサルティング事業の立ち上げの中心メンバーとして事業化までを経験し、10年間中小企業向けの経営コンサルティング・ITコンサルティングや研修・セミナーに従事。
その後、2022年に唐澤経営コンサルティング事務所を創業。中小企業向けの経営コンサルティング、DXコンサルティング、研修・セミナー等のサービスを提供している。
趣味は読書で、年間200冊近くの本を読む。