唐澤経営コンサルティング事務所代表の唐澤です。
中小企業診断士・ITストラテジストの資格を持ち、20年以上にわたり、中堅中小企業の経営戦略立案や業務改革、IT化構想策定のコンサルティングに従事してきました。

このコラムでは、私のコンサルティング経験をもとに、中堅中小企業の経営に役立つ情報を発信しています。

近年、多くの中堅中小企業で「デジタル化」という言葉がキーワードとして語られるようになっています。コロナ禍を契機としたリモートワークの普及、インターネットによる顧客接点の多様化、業務の効率化など、デジタル化が進む企業ほど持続的な成長を遂げているという事例は枚挙にいとまがありません。

一方で、「ITが苦手」「使い方がわからない」「そもそもコストをかけたくない」といった理由で、十分に活用できずに取り残されている方も多いのが現実です。

実際、中小企業基盤整備機構の「中小企業の DX 推進に関する調査(2024 年)」によると、約60%の企業がDX(デジタルトランスフォーメーション)に取り組めていない現状があります。

では、なぜデジタル化についていけない人が出てきてしまうのでしょうか?そしてそのような方々はどのように克服すればよいのでしょうか?

本コラムでは、経営コンサルタント歴20年の経験・知見を活かし、「デジタル化についていけない人の特徴」を分析し、その克服法を具体的にご紹介します。

中堅中小企業の経営者・役員・管理職であるあなたが、デジタル化をスムーズに進めるためのヒントとして、ぜひ参考にしていただければ幸いです。

デジタル化についていけない人の主な特徴

変化への抵抗感が強い

デジタル化は、従来のやり方や考え方を大きく変革する行為でもあります。

これまで紙ベースで行っていた手続きをオンライン化したり、社内コミュニケーションをチャットツールへ移行したりと、業務プロセスそのものが変わります。変化には常にストレスが伴うため、「今までのやり方で十分」「わざわざ手間をかけたくない」という心理が働きやすいのです。

しかし、変化を拒み続けることで、結果的に市場競争力を失ってしまうリスクが高まってしまいます。

学習コストを敬遠する

パソコンやタブレット、スマートフォンの操作が苦手な方にとって、新しいシステムやツールを導入するのは負担が大きいと感じられがちです。特に経営者層や管理職の場合は多忙なことが多いため、学習に割ける時間が限られることも事実です。

学習コスト」を理由に先送りにしていると、さらに周囲との差が広がり、取り戻すのに一層の時間と労力が必要になるという悪循環に陥る可能性があります。

投資対効果が見えにくいと感じる

システムの導入やITツールの購入など、デジタル化には初期投資が必要です。しかし、投資対効果は短期で顕在化するものばかりではありません。

むしろ、長期的に見た生産性向上や業務効率化の効果が重要ですが、「すぐに目に見える成果が得られないなら、投資はしない」という考え方が強いと、デジタル化の推進をためらってしまうケースが多く見受けられます。

自社の課題に合致したツールの選定ができていない

「デジタル化しなければ」と焦って、安易にシステムやツールを導入しても、必ずしも成果が上がるわけではありません。自社の業務フローや社員のスキルレベル、事業戦略に合ったツールを選ばなければ、かえって混乱を招きます。

ここで失敗した経験がある方は、デジタル化に対していっそう抵抗感を抱くようになりがちです。

社内コミュニケーション不足

デジタル化を円滑に進めるためには、トップダウンだけでなく、現場スタッフの理解・協力が欠かせません。導入の目的やメリットを丁寧に説明しないままシステムを使わせようとすると、「なぜやらければいけないのか分からない」という不満が溜まります。

結局、社内全体で足並みがそろわず、システムが形骸化してしまうことも少なくありません。

デジタル化についていけない状況を克服するためのポイント

小さく始める「スモールスタート」

デジタル化というと、大規模システムの導入やIT人材の採用など、大がかりな取り組みをイメージする方も多いでしょう。しかし、まずは小さな範囲や業務から始める「スモールスタート」が効果的です。

例えば、社内での資料共有をクラウドストレージ(オンライン上でファイルを保存・共有するサービス)に切り替える、会議の一部だけオンラインミーティングにするなど、着手しやすく目に見えて効果を実感しやすい部分から始めると、社員のモチベーション向上にもつながります。

目的とメリットを明確にする

「なんとなく流行っているからデジタル化をしなきゃ」という漠然とした動機では、失敗のリスクが高くなります。デジタル化に取り組む際は、「コスト削減を目的とするのか?」「納期短縮なのか?」「顧客満足度向上なのか?」といった、導入の目的を社内でしっかり共有しましょう。

目的がはっきりしていれば、導入過程でのトラブルも「本来の目指すべきゴール」を再確認することで解決策が導きやすくなります。

社員への教育とサポートを充実させる

新しいシステムやツールに対しては、必ず学習コストが発生します。そこで、セミナーや勉強会を定期的に開催し、社員が学べる環境を整えることが重要です。

自社内でITに明るい人材がいれば、その人を講師として社内勉強会を開くのもよいでしょう。もし社内に適任者がいない場合は、外部講師やコンサルタントを活用してみるのも一案です。

特に初期段階では、トラブルが起きた際に気軽に相談できる窓口を設置すると、社員の不安が大幅に軽減されます。

適切なツールの選定とステップアップ

システム導入でよくありがちな失敗は、「他社が使っているから」「営業が勧めるから」という表面的な理由だけでツールを選んでしまうことです。

自社の業務フロー、社員のスキルレベル、費用対効果などを総合的に考慮しながら、試験的に導入してみる「PoC(Proof of Concept:概念実証)」を実施するのも有効です。

導入したツールが自社にフィットしない場合は、別のツールに切り替えるか、プラグインや追加機能でカスタマイズできる製品を選ぶなど、柔軟に対応しましょう。
※PoC:ツールやシステムを本格導入する前に、一定の期間や範囲で実際に試してみること

内部コミュニケーションの強化

社内全体で「なぜデジタル化が必要か?」「どのような効果があるか?」を理解・共有できているかが極めて重要です。特にトップマネジメントの姿勢が明確であるほど、現場も「この取り組みは本気なのだ」と認識しやすくなります。

  • トップが率先して新しいツールを使う
  • 導入のメリットや期待する成果を具体的に数字や事例で示す
  • 現場からの意見や提案を吸い上げる仕組みをつくる

これらを実践することで、デジタル化への抵抗感は徐々に和らいでいきます。

外部リソースの活用とネットワーク構築

コンサルタントや同業種のネットワークなど、外部の専門家・専門組織の活用も視野に入れてください。デジタル化の事例共有やトレーニング支援、システムの導入・運用サポートなど、社内にない専門的リソースを上手に使うことが成功のカギです。

また、同業者間で情報交換をすることで、導入失敗の事例や成功ノウハウなどリアルな情報を得られます。業界団体や商工会議所などが主催する勉強会・交流会にも積極的に参加し、社外ネットワークを築きましょう。

Q&A

Q1. 経営トップ自身がITに弱くても大丈夫ですか?
A. 経営トップがITに詳しくなくても問題ありません。ただし、「自社に必要なデジタル化を進めよう」という方針と、そのための予算や環境整備へのコミットメントは欠かせません。トップマネジメントが「ITはわからないから放っておく」という姿勢だと、現場が主体的に動きにくくなります。トップの協力と理解があれば、社内外の専門家を巻き込んで進めることができます。

Q2. デジタル化の成果が出るまでにどのくらい時間がかかりますか?
A. ケースバイケースです。小規模なシステム導入であれば数週間~数ヶ月で効果が見え始めることもありますし、全社規模の基幹システムを刷新する場合は数年単位になることもあります。重要なのは、スモールスタートと検証(PoC)を繰り返し、段階的に拡大していくアプローチを取ることです。

Q3. 現場の社員から「慣れたやり方のほうが楽だ」という声が出て困っています。
A. デジタル化によるメリットを具体的に示す(工数削減、ミス低減、顧客対応のスピードアップなど)と同時に、新システムに慣れるまでは一定のサポートを手厚くすることが大切です。また、研修や勉強会を通じて新ツールへの抵抗感を減らし、学習コストを下げる工夫をしましょう。現場からの声を拾い改善を重ねると、理解と協力を得やすくなります。

Q4. デジタル化しても、そもそも人手不足や他の経営課題が山積みです。優先順位はどうするべきでしょうか?
A. 人手不足や売上確保など、経営課題は多岐にわたります。しかし、デジタル化を進めることで業務効率が向上し、人的リソースがより重要な業務に充てられるなど、他の課題を解決する手段にもなります。優先順位としては、「自社の経営戦略の中でデジタル化がどのような役割を果たすか」を明確にし、小さな範囲から着手するのがおすすめです。

Q5. デジタル化のために高価な機器やシステムを一度に導入する必要はありますか?
A. 必要ありません。最初から大規模な投資をするよりも、まずは無料トライアルや低コストのクラウドサービスを試してみるなど、リスクを抑えた導入を行いましょう。自社に合ったツールや仕組みが見えてきたら、段階的に拡張していくほうが、失敗リスクを最小限に抑えられます。

まとめ・今後の展望

デジタル化についていけない人の特徴を見てみると、多くの場合、「変化への抵抗感」「学習コストに対する敬遠」「投資対効果の不透明感」などが共通していることがわかります。加えて、自社に合ったツール選定がうまくいかない、社内コミュニケーションが不足しているなど、組織体制や情報共有の問題が複合的に絡んでいるケースも珍しくありません。

いずれにしても、デジタル化は一度で完成するものではなく、試行錯誤を繰り返しながら少しずつ前進させるプロセスが大事です。大切なのは、一歩を踏み出すこと。小さな成功体験を積み重ね、現場の理解と協力を得ながら進めていくことで、結果的に大きな成果を得ることができます。

もし「自社だけで進めるのは難しい」という場合は、外部の専門家を活用したり、同業他社の事例を積極的に学んだりすることも有効な手段です。私自身、経営コンサルタントとして数多くの企業のデジタル化を支援してきましたが、経営者が「やってみよう」という意志を示すだけで、組織全体が驚くほどスムーズに変化する場面を何度も目にしてきました。

中堅中小企業が今後も持続的に成長を遂げていくためには、デジタル技術を「自社の強みを引き出す手段」として有効活用することが不可欠です。

ぜひあなたも、今回のコラムを参考に、デジタル化に向けた具体的な一歩を踏み出してみてください。変化に抵抗を感じる気持ちは自然なことではありますが、その先にある新たな可能性と成果を、ぜひ体感していただきたいと思います。

デジタル化の具体的な進め方やツール選定、社内体制づくりなど、お悩みやご不明点がありましたらお気軽にご相談ください。唐澤経営コンサルティング事務所では、中小企業診断士・ITストラテジストとして、中小企業の規模や業種に合わせた最適なアドバイスとサポートを行っています。

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この記事を書いた人

唐澤 智哉

新卒で大手金融系シンクタンクに入社し、大手企業向けのITコンサルティングに従事。その後、2社のコンサルティングファームにて、大手企業向けの業務改革・ITコンサルティングに従事。
2012年に大手IT企業に入社し、中小企業向けのコンサルティング事業の立ち上げの中心メンバーとして事業化までを経験し、10年間中小企業向けの経営コンサルティング・ITコンサルティングや研修・セミナーに従事。
その後、2022年に唐澤経営コンサルティング事務所を創業。中小企業向けの経営コンサルティング、DXコンサルティング、研修・セミナー等のサービスを提供している。
趣味は読書で、年間200冊近くの本を読む。