唐澤経営コンサルティング事務所代表の唐澤です。
中小企業診断士・ITストラテジストの資格を持ち、20年以上にわたり、中堅中小企業の経営戦略立案や業務改革、IT化構想策定のコンサルティングに従事してきました。
このコラムでは、私のコンサルティング経験をもとに、中堅中小企業の経営に役立つ情報を発信しています。
部下が辞める際、なぜ本当の退職理由を言わないのか?
中堅中小企業の経営者や役員、管理職の方々から、しばしば耳にする問いです。表向きの理由として「キャリアアップを目指して」「家族の事情があって」などと伝えられる一方で、実際には「会社や上司に対する不満があったのではないか?」「どこかマネジメントに問題があったのではないか?」と心当たりを感じつつも、真意を確かめられないまま退職が進んでしまうケースは少なくありません。
私は経営コンサルタントとして20年にわたり、中堅中小企業を中心に多種多様な経営・組織課題に携わってきました。その中で、クライアント先の社員が辞める際、外部のコンサルタントである私には真の退職理由を話してくれるケースも実はあります。それを聞いて痛感するのは、「本当の退職理由」こそが組織改善の最重要ヒントだということです。本音を知れば、効果的な対策が打て、離職を防ぐこともできるのに、部下はなぜそれを言わずに去ってしまうのか。その背景を深堀りし、具体的な改善策をご紹介していきます。
「なぜ本当の退職理由を言わないのか?」という疑問を入り口に、本コラムでは以下の内容を掘り下げていきます。
- 部下が本音を言えない5つの主要要因
- 中堅中小企業でも取り入れやすい実践的対策
- 退職者の本音を吸い上げる仕組みがもたらすメリット
ぜひ最後までお読みいただき、自社の組織づくりやマネジメント手法を振り返る契機としていただければ幸いです。
なぜ部下は本当の退職理由を言わないのか? 上司が知らないリアルな本音

心理的安全性の欠如
部下が「ここでは自分の本音を言っても安全だ」と感じられるかどうかは、退職理由を率直に伝えるか否かに大きく影響します。上司に対する恐れや、否定的な反応を予期して波風を立てたくないと感じれば感じるほど、部下は退職理由を隠すようになります。
- 日本的な「空気を読む」文化
特に日本の企業文化では、上司や周囲の空気に合わせることが美徳とされがちです。そこには「本当のことを言っても通じない」「評価が下がるだけかもしれない」という部下の不安がつきまといます。 - 上司とのコミュニケーション不足
多忙な中堅中小企業の管理職ほど、どうしても日常業務優先になりがちです。それゆえ、部下一人ひとりと落ち着いて話す機会や時間を十分に確保できず、結果として部下の悩みを深く知る機会を逸してしまうのです。
なお、厚生労働省「令和3年雇用動向調査」によると、20代~40代の退職理由の上位には「職場の人間関係」が挙げられ、そこには「上司とのコミュニケーションギャップ」「心情的な負担」が含まれることが多いと指摘されています。これは、正に心理的安全性の欠如と表裏一体の問題といえます。
■対策のポイント
- 定期的な1on1ミーティング
面談の数を増やすだけではなく、上司が「傾聴」の姿勢を持つことが重要です。部下が少しでも言いにくそうな話題を口にしたら、途中で意見を否定せず、最後まで聞き切ることが大切です。 - アサーティブ・コミュニケーションの促進
上司も自分の意見を押し付けるだけではなく、相手の主張を尊重しながら伝えるアサーティブなコミュニケーション手法を学び、実践することで、部下は「受け止めてもらえる」感覚を得やすくなります。
「言っても変わらない」と諦めている
部下が本音を言うのは、それによって何かが変わる可能性を感じられる時です。しかし、「言っても無駄」「どうせ聞いてもらえない」と考えてしまえば、本音を伝える意欲は薄れていきます。
これは、現場と経営陣のあいだに壁がある組織や、トップダウン色の強い企業などにおいて顕著です。特に中堅中小企業では、経営者や管理職が日々の業務で手いっぱいになり、従業員の声を拾いきれないことがしばしばあります。
■対策のポイント
- 経営陣との直接対話の場を設ける
ランチミーティングや朝会で、経営者自らが定期的に現場の声を聞く機会を作り、得たアイデア・課題に対して具体的な対応策や検討プロセスを共有することです。部下が「言えば会社が変わる」という成功体験を持つことができれば、意見表明への意欲は高まります。 - 小さな成功体験の積み重ね
大きな改革は難しくても、部署単位・チーム単位で改善提案が通ったら「こう変わりました」と社内掲示や会議を通じて報告し、頑張った部下を認める仕組みを作りましょう。たとえ小さな改良でも、評価されて実際に変化が起きることで、部下のモチベーションと信頼感が高まります。
人事評価制度がインセンティブを奪っている
営業であれば売上、製造現場であれば生産性など、定量的成果一辺倒の評価制度に偏っていると、部下は「組織の問題点を本気で改善しようとしても、自分の評価が上がるわけではない」と感じ、徐々に言わなくなります。
さらに、提案や意見具申が批判とみなされれば、人によっては評価を下げられる懸念があるため、ますます黙ってしまうことになります。
■対策のポイント
- 行動評価の取り入れ
「チームにどれだけ貢献したか?」「組織課題の発見・解決にどれだけ寄与したか?」といった「行動」も評価項目として明確に盛り込みましょう。批判や問題提起をただ抵抗勢力とみなすのではなく、建設的な提案であれば高く評価する姿勢が大切です。 - OKR(Objectives and Key Results)のような目標管理手法の導入
- OKRとは?:企業や個人の「挑戦的な目標(Objectives)」と、達成度を測る「主要な結果指標(Key Results)」を設定し、定期的に進捗を振り返る仕組みです。
- なぜ有用?:数字だけでなく、行動面でどんな成果を生み出したかを重視できるため、組織改善の取り組みも評価に反映されやすくなります。
マネジメントスタイルが恐怖政治化している
管理職が高圧的な態度や一方的な叱責を繰り返せば、部下は「上司に本音を言うなんてもってのほか」と感じるようになります。
実際、リクナビNEXTの調査(転職理由と退職理由の本音ランキングBest10)によると、退職理由の本音として「上司・経営者の仕事の仕方が気に入らなかった」が第1位(23%)、「同僚・先輩・後輩とうまくいかなかった」が第3位(13%)となっており、職場の人間関係が退職の大きな要因となっていることが示されています。また、リクルートマネジメントソリューションズの「新人・若手の早期離職に関する実態調査」では、「職場の人間関係がよくない、合わない」が退職理由として14.5%を占めており、人間関係のストレスが離職につながるケースが多いことがわかります。これらの結果から、高圧的な管理職の態度や一方的な叱責は、職場の心理的安全性を損ない、部下が委縮し、円滑なコミュニケーションが阻害される要因となると考えられます。
■対策のポイント
- ハラスメント防止教育の徹底
管理職の中には自覚なく言動がパワハラ化している人もいます。「冗談のつもり」「叱咤激励のつもり」が部下を追い詰めていないか、研修や外部セミナーで正しい知識を学ぶ必要があります。 - 360度フィードバックの導入
上司が部下を一方的に評価するのではなく、部下や他部署の同僚など複数の方向から管理職の行動やコミュニケーションを評価・フィードバックする仕組みです。これにより管理職自身が客観的な声を知り、マネジメントスタイルを改善するきっかけを得やすくなります。
キャリアパスの不透明さが将来不安を助長する
中堅中小企業の場合、大企業ほど明確な昇進ルートや専門職制度が整備されていないことも多いでしょう。部下が「この会社でどんな未来を描けるのか」が見えない状態で不満を抱いたら、退職を検討するのは自然な流れです。ただし、それを率直に「この会社の将来が心配です」と言うのは憚(はばか)られるため、本音を隠して円満退社を装うケースが少なくありません。
■対策のポイント
- キャリアの見える化
「管理職としての昇進ルート」「専門スキルを活かせるコース」「他部署への異動・兼務によるキャリア拡張」など、具体的なモデルケースを示しましょう。特に中堅中小企業では、「あなただけの活躍の場」を柔軟に用意できる利点も強調できます。 - 経営ビジョンと個人のキャリアを結びつける
経営者が掲げるビジョンを、部下一人ひとりに対して「あなたの成長やキャリアがこのビジョンにどう関わるのか?」を対話しながら共有する。将来への不安が軽減されやすく、離職意向が高まる前に相談してもらえるようになります。
Q&A
Q1. 退職理由の本音を聞き出すのは、そもそも難しいのでは?
A. 確かに難しい面があります。しかし「なぜ言わないのか?」を組織側が理解し、行動や仕組みを変えることで、部下が少しずつ本音を話しやすい環境を整備できます。特に1on1の実施や小さな提案を実際に改善に生かすなど、「言えば変わる」体験を積み重ねることが鍵です。
Q2. 「辞める本人」から直接聞く以外に、真の退職理由を知る方法はありますか?
A. 退職者アンケートや第三者を交えた「退職面談」の導入が有効です。部門の上司ではなく、人事担当や外部のコンサルタント等が実施すると、より率直な声を引き出しやすくなります。また、残っている社員から日ごろの不満や悩みを聞き取っておくことで、未然に察知することも可能になります。
Q3. 高圧的な上司を見直すよう提案しても、本人が「これが自分のスタイルだ」と譲らない場合はどうすればいいですか?
A.まずは上層部からの強いメッセージと、ハラスメント防止教育を徹底させることが肝心です。さらに、360度フィードバックを導入して本人に「数字」や「体的コメント」という形で現状を突きつけると、考えを改めるきっかけにつながりやすいでしょう。周囲が困っている生の声を客観的に突きつけることが有効です。
Q4. キャリアパスを整備するのに大きなコストがかかりそうで不安です。
A. 大掛かりな制度改革が難しい場合でも、まずは「モデルケースの事例紹介」「ジョブローテーションの機会」など、できる範囲から始められます。特に中堅中小企業は柔軟性があるため、個々の社員の特性や希望に合わせたキャリア設計が可能です。大企業のように階層を増やすだけが方法ではありません。
Q5. 評価制度の見直しを始めるタイミングはいつが良いですか?
A. 多くの企業では、年度や期の切り替わりがタイミングとして適しています。ただし、評価制度の抜本的改革には一定の準備期間が必要なため、まずは「行動評価の試験導入」などから小さく始めるのも一案です。大切なのは社員への丁寧な説明と周知で、「なぜ評価制度を変えるのか」「どう変わるのか」を納得してもらうことが欠かせません。
まとめ:本音が引き出せる組織こそ、企業が生き残るカギ

退職理由の本音を言わない背後には、「心理的安全性の欠如」「諦めの感情」「評価制度の問題」「恐怖政治的マネジメント」「キャリア不透明感」など、複数の要因が複雑に絡んでいます。部下が退職を考える段階で既に、本音を言うことにメリットを見出せなくなっているのです。
では、どうすればよいか?
ポイントは、部下が本音を言うことでメリットを感じられる仕組み・文化を醸成することです。つまり、部下が「言えば組織が前向きに検討し、何らかの変化が生まれるかもしれない」と思える環境を整えるわけです。そのためには、上司や経営者自身が「聴く力」を養い、提案や意見を歓迎する姿勢を明確に示すことが欠かせません。
- 対話の質と頻度を高める
定期的な1on1やランチミーティング、経営陣との直接交流の場などを通して「この会社は自分の声を聞いてくれる」と社員が感じられるようになる。 - 評価制度の柔軟化
結果だけでなく、組織やチームへの貢献度、課題解決に向けた行動などを評価する仕組み。建設的な問題提起を「賞賛」する文化を育む。 - 管理職向けマネジメント研修・360度フィードバック
恐怖政治がまかり通る職場では本音など引き出せるはずがありません。管理職こそ学びを継続し、自分の言動を客観的に見直す姿勢を持ち続ける必要があります。 - キャリア支援の見える化
社員が将来をイメージできるように、社内での成長ルートやサポート制度を整備し、それを積極的に情報共有する。
中堅中小企業は、「一人ひとりの力が企業を支える」度合いが大企業以上に高い傾向にあります。一人でも優秀な人材を失うことが全体に与えるインパクトは大きく、離職率の高さは企業存続を左右しかねません。それゆえに、「辞めるならせめて本音を教えてほしかった」という後悔を繰り返さないためにも、「本音を言いやすい職場」をつくることが急務です。社員が安心して自分の考えを口にできる企業は、早い段階で課題を察知し、改善策を講じる機動力が身につきます。それこそが時代の変化にも柔軟に対応できる企業の強みとなるでしょう。
最後に、もし「具体的に何から手をつければいいかわからない」「自社に合った評価制度や面談の運用方法を知りたい」という方は、ぜひご相談ください。20年にわたるコンサルタント経験を活かし、御社の現状をヒアリングしたうえで最適なプランをご提案いたします。社員の「本音」こそ、企業を変革する貴重な資産。そこに光を当て、より強い組織づくりを実現していただければ幸いです。
唐澤経営コンサルティング事務所では、コーチングとコンサルティングを融合したアプローチで、経営者が組織の課題を把握し、適切なマネジメントを実行できるよう支援しています。
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