唐澤経営コンサルティング事務所代表の唐澤です。
中小企業診断士・ITストラテジストの資格を持ち、20年以上にわたり、中堅中小企業の経営戦略立案や業務改革、IT化構想策定のコンサルティングに従事してきました。

このコラムでは、私のコンサルティング経験をもとに、中堅中小企業の経営に役立つ情報を発信しています。

職場において、意見の対立やコミュニケーションのすれ違いなどが原因で「揉め事」が発生することは、決して珍しいことではありません。特に中堅中小企業では、組織体制や人員配置の制約、業務内容の多岐にわたる兼務などから、ひとたびトラブルが起きると大きな混乱につながりやすい傾向があります。

2024年公表の「令和5年度個別労働紛争解決制度の施行状況」では、総合労働相談は4年連続で120万件を超える高水準が続いており、職場におけるトラブル対策の必要性が高まっていることがうかがえます。

とはいえ、ちょっとしたきっかけや誤解が大きな対立を生み、最悪の場合、離職や訴訟へ発展してしまうこともあります。経営者・管理職としては、こうしたリスクを回避し、組織全体の生産性を落とさないようにするためにも、早期に正しく対処し、揉め事を「悪化させない」ための具体的な取り組みが求められます。

そこで、本コラムでは、経営コンサルタント歴20年の経験を持つ筆者が、中堅中小企業の経営者や管理職の皆様に向けて、「職場の揉め事が起きたときに何をすれば良いのか」「話し合いをする際のポイントは何か」「避けるべきNG行動は何か」といった実践的な知見をお伝えします。組織の安定と成長を支えるために、ぜひ最後までお読みいただき、明日からのマネジメントに役立てていただければ幸いです。

なぜ職場の揉め事は起こるのか

職場の揉め事は、さまざまな要因が絡み合うことで発生しますが、大きく分けると以下のような要因が考えられます。

  1. コミュニケーション不足
    もっとも一般的な原因のひとつです。互いに意図していなくても、言葉足らずや思い込み、またはメールなどで伝える際の表現の行き違いによって誤解が生まれます。
  2. 価値観や認識の違い
    社員一人ひとりの年齢、バックグラウンド、キャリア観、仕事へのモチベーションは異なります。同じ事象を見ても「何が重要か」「どこに問題があるのか」といった点で違いが出るため、それが衝突の種になることがあります。
  3. 責任の所在が曖昧
    中堅中小企業は大企業に比べて人員が少なく、一人ひとりが複数の業務を兼務するケースが多いです。そのため「誰がどこまでの業務範囲を担当すべきか」が曖昧なまま業務が進んでしまい、トラブルの原因になることがあります。
  4. トップや管理職のリーダーシップ・方針不在
    経営陣が「会社としての方向性」「理想とする企業文化」を明確に示し、徹底できていないと、判断基準がばらばらのまま組織が動きます。結果として、部署間や個人間で方針が食い違い、衝突が生まれやすくなります。

このような背景を踏まえ、職場の揉め事はどんな企業でも起こりうるものだと理解しておくことが重要です。問題は「揉め事が発生するかどうか」ではなく、「揉め事が起きたときにどう対処するか」にかかっています。

職場の揉め事を悪化させない!話し合いのポイント

揉め事が起きた際、どのように話し合いの場を設け、どのように進めるかはとても重要です。話し合いが適切に行われれば、単なるトラブル解決だけでなく、組織全体のコミュニケーション向上につながる可能性もあります。ここでは、実際に話し合いを行う際のポイントを具体的に挙げていきます。

早期に場を設ける

  • 早めの火消しが肝心
    揉め事を放置すると感情的なしこりが増大し、解決がさらに難しくなります。「些細な行き違いだろう」「忙しいから後で」と先延ばしにせず、早めに当事者同士や管理職・経営者が間に入って対話の場を設けることが大切です。
  • 「即断即決」で決着させるという誤解に注意
    ただし、場を早めに設けることと、表面的な解決を急ぐことは違います。根本的な原因を探り出すには一定の時間と手間が必要です。拙速に判断してしまうと、結果として後から問題が再燃する可能性があります。

事実と感情を分けて整理する

  • 「何が起きたか」を冷静に把握する
    揉め事が感情的にエスカレートしてしまう大きな原因のひとつは、「事実と感情の混同」です。まずは、誰がいつ、どこで、何をしたのか、客観的な事実を時系列に整理しましょう。
  • 相手の感情にも着目する
    事実だけでなく、「どのような気持ちで発言したのか」「なぜ怒りや不安が募ったのか」といった背景も重要です。感情は本人にとって切実な問題ですので、事実と分けて丁寧に扱うことで「自分は理解されている」という安心感を当事者に与えやすくなります。

当事者が直接話せる場を用意する

  • 第三者がファシリテーションする
    当事者のみで話し合う場合、どうしても感情論になったり、片方が一方的に優位に立ってしまう可能性があります。管理職や部外の信頼できる人物が進行役(ファシリテーター)となって、双方の発言機会を公平に確保することが望ましいです。
  • 「聴く」姿勢を尊重する
    話し合いの場では、「話す」だけでなく「聴く」姿勢がカギになります。相手の意見を途中で遮らず、最後まで聴き切ることで合意点や妥協点を見つけやすくなります。

解決策を一緒に考える

  • 当事者と共通のゴールを設定する
    どこを着地点とするのか、共通のゴールを明確にすることが不可欠です。「生産性を高める」「顧客満足度を維持する」など、ビジネスにとってプラスになるゴールを共有することで、対立していた当事者同士が協力の土台に立ちやすくなります。
  • 複数の選択肢を出し合う
    解決策は一つではないことが多いです。柔軟な発想を持って複数の選択肢を出し合い、メリット・デメリットを比較検討する中で、双方が納得できる落としどころを探していきます。

合意後のフォローアップ

  • 合意内容を明文化し、周知する
    話し合いの末に合意できたとしても、内容があいまいだと「言った・言わない」の再燃を招きかねません。口頭だけで済ませず、必ず文書やメールで合意事項を確認し、関連するメンバーに周知します。
  • しばらく時間を置いてから様子を確認
    揉め事が表面上は解決したように見えても、当事者の気持ちの整理がついていない場合もあります。定期的にフォローアップの場を設け、「追加で問題や不満は出ていないか」「業務がスムーズに進んでいるか」を確かめましょう。

やってはいけないNG行動

せっかく話し合いをしても、進め方を誤るとかえって揉め事をこじらせる結果になります。ここでは、避けたいNG行動を押さえておきましょう。

  1. 感情的に相手を批判・攻撃する
    問題の原因を追究する際に、相手を一方的に責めたり人格を否定するような言葉を発してしまうと、話し合いの糸口が断たれます。「なぜそうなったのか」という行動面にフォーカスし、「あなたのここがダメ」と断言しないよう注意が必要です。
  2. 話し合いを強制的に打ち切る
    話が平行線になったり、管理職が忙しかったりすると、強制的に打ち切ってしまうケースがあります。しかし、問題が解決しないまま時間だけが過ぎ、当事者の不満や不信感が蓄積していくと、後々より大きな混乱を招きます。
  3. 第三者への根回しを優先する
    「どちらが正しいか」を周囲に訴え、味方を増やそうと画策するような行為は、対立の構図を明確化させ、収拾を難しくします。組織全体の生産性にも悪影響を及ぼすため、こうした根回し行為は厳禁です。
  4. 話し合いを形式だけで終わらせる
    「とりあえず話し合いの場は設けた」というだけで満足してしまい、その後の進捗管理や合意事項の確認を行わないケースがあります。問題解決のためには、話し合いの形式よりも「合意を実行に移し、定着させること」が重要です。

Q&A

Q1. 些細なトラブルでも、わざわざ時間を取って話し合うべきでしょうか?
A. はい、早期の話し合いは効果的です。「ちょっとした勘違いだろう」と放置しておくと、当事者の気持ちや信頼関係に思わぬヒビが入り、後で大きな問題に発展する可能性があります。実際、厚生労働省の相談窓口でも「最初は些細なトラブルだったが、時間が経つにつれ当事者同士の感情がこじれてしまった」というケースが多いと報告されています。問題が軽微なうちに話し合い、トラブルの芽を摘むことが結果として時間とコストを節約することにつながります。

Q2. 解決に時間がかかるトラブルに対して、短期決着を目指すべきですか?
A. 短期決着よりも、根本原因の解決を優先しましょう。確かに経営の現場では、素早い意思決定は重要です。しかし、職場の揉め事に関しては、短期決着を最優先して表面的な処理だけに終始すると、後から同じ問題が再燃するリスクが高まります。根本原因を洗い出して再発防止策を講じることが、長い目で見れば組織の安定を守る近道です。経営者や管理職としては、短期的な決着にこだわりすぎず、じっくり向き合う姿勢を示すことが大切です。

Q3. どうしても当事者同士の話し合いが難しい場合、第三者の介入はいつ行うべきでしょうか?
A. 話し合いが感情的になりそうな段階で検討してください。当事者同士で解決できるならば、それに越したことはありません。しかし、すでに相互の不満が高まっている場合や、利害対立が深刻化している場合は、客観的な視点を持つ第三者が必要になります。社内で信頼できる管理職や人事担当者、場合によっては社外の専門家(社会保険労務士やコンサルタントなど)を交えることで、話し合いの公平性や冷静さを確保しやすくなります。

まとめ

職場の揉め事は、どんな企業においても避けては通れない課題です。中堅中小企業の経営者や管理職であればなおさら、人材や時間、組織体制に余裕があるとは限らないため、一度起きたトラブルをこじらせるわけにはいきません。

本コラムでお伝えしたように、職場の揉め事を悪化させないためには、以下のポイントを押さえることが重要です。

  1. 早期に話し合いの場を設ける
    • 先延ばしせず、早めに問題に向き合うことでトラブルの拡大を防ぐ。
  2. 事実と感情を分けて整理する
    • 事実を冷静に把握しつつ、当事者の感情を丁寧に扱うことで、相互理解が深まり解決の糸口が見えてくる。
  3. 公平なファシリテーションを心がける
    • 当事者だけではなく、管理職や信頼できる第三者が場を仕切り、話し合いの公平性と生産性を高める。
  4. 複数の解決策を検討し、合意を明文化する
    • 共通のゴールを設定し、複数案を比較検討。合意した内容は文章化して周知することで、「言った・言わない」の再燃を防ぐ。
  5. NG行動をしない
    • 感情的な批判や一方的な打ち切り、形式的な話し合いだけで終わらせる行為はトラブルを悪化させる原因となる。

私自身、これまで中堅中小企業の現場で起きるさまざまな揉め事や労務トラブルに関わり、解決と再発防止に取り組んできましたが、早めに正しく対処すれば、逆に組織力強化やチームワーク向上につなげることができると実感しています。重要なのは「対立そのものをなくそう」とするのではなく、「対立が起きたときにどう乗り越えるか」を組織として学習し、スキルを高めていくことです。

職場の揉め事は、社員や管理職の成長機会にもなり得ます。そのためにも、今回ご紹介したポイントを参考に、ぜひ実践的な対策を講じてみてください。中堅中小企業の経営者・管理職の皆様が、自社の組織をより円滑に、より強固にするためのお役に立てれば幸いです。

今後も経営現場の生々しい課題にフォーカスし、20年の経験・実績に基づく実践的なノウハウをお伝えしてまいりますので、ぜひ楽しみにしていただければと思います。

私たち唐澤経営コンサルティング事務所では、「コーチング」と「コンサルティング」を組み合わせ、中堅中小企業の経営課題解決と成長戦略の策定を強力にサポートいたします。

もし、この記事を読んで「自社の組織にも当てはまるかもしれない」「具体的な対処法について専門家の意見を聞きたい」と感じた方は、下記フォームよりお気軽にご相談ください。初回のご相談(1時間)は無料となっています。

経営者が抱える経営課題に関する
分からないこと、困っていること、まずはお気軽にご相談ください。
ご相談・ご質問・ご意見・事業提携・取材なども承ります。
初回のご相談は1時間無料です。
LINE・メールフォームはお好みの方でどうぞ(24時間受付中)

この記事を書いた人

唐澤 智哉

新卒で大手金融系シンクタンクに入社し、大手企業向けのITコンサルティングに従事。その後、2社のコンサルティングファームにて、大手企業向けの業務改革・ITコンサルティングに従事。
2012年に大手IT企業に入社し、中小企業向けのコンサルティング事業の立ち上げの中心メンバーとして事業化までを経験し、10年間中小企業向けの経営コンサルティング・ITコンサルティングや研修・セミナーに従事。
その後、2022年に唐澤経営コンサルティング事務所を創業。中小企業向けの経営コンサルティング、DXコンサルティング、研修・セミナー等のサービスを提供している。
趣味は読書で、年間200冊近くの本を読む。