唐澤経営コンサルティング事務所の唐澤です。中小企業診断士・ITストラテジストの資格を持ち、20年以上にわたり、中堅中小企業の経営戦略立案や業務改革、IT化構想策定などのコンサルティングに従事してきました。
このコラムでは、私のこれまでのコンサルティング経験をもとに、中堅中小企業の経営に役立つ情報を発信しています。
企業が事業を継続し成長していくうえで「売上を伸ばすこと」は、資金繰りやキャッシュフローを安定させるためにも欠かせない要素です。しかし、ただ売上を追い求めるだけでは、企業として本当に蓄えたい「利益」が十分に残らないことがあります。特に中堅中小企業の場合、目先の売上にとらわれてしまい、結果的に利益率が下がってしまう事例は少なくありません。
そこで今回は、「利益を重視する経営」に切り替えるためのポイントや具体的な手法について解説します。単に「KPIを売上から利益に変える」だけではなく、企業文化や従業員の行動様式を根本的に転換することが重要です。まずは、「KPIとは何か?」という基礎から、中小企業が実践しやすいフレームワークまで、幅広く取り上げていきます。
KPIとは?

KPI(Key Performance Indicator)とは、日本語で「重要業績評価指標」を意味します。例えば、「売上高」や「利益率」「新規顧客獲得数」といった具体的な数値を指標に定め、企業や各部署が目指すべき目標を明確化するための管理手法です。KPIを適切に設定することで、目標達成までの進捗状況を客観的に把握でき、改善につなげやすくなります。
しかし、KPIを「売上重視」から「利益重視」に変えようとしても、長年の習慣やマインドが売上最優先のままではうまく進みません。例えば、値引き販売で売上高だけは確保していても、最終的に利益が残らない、という状況に陥るのです。こうした売上至上主義から脱却するためには、全社的に「利益を生み出す行動」を浸透させる仕組みが欠かせません。
売上重視から利益重視へ転換する意義
売上を伸ばすこと自体は大切ですが、そこに注力しすぎると「利益率の低い案件」や「薄利多売による過剰な値引き」が増えてしまうリスクがあります。そこで、経営者として利益に目を向ける必要性と、そのメリットをまず明確にしておきましょう。
- 売上重視がもたらす落とし穴
新規顧客を増やして売上を拡大しようとするあまり、利益率を圧迫する低価格戦略を続けてしまうことがあります。あるいは、取引条件をむやみに下げることで売上は確保できても、実際には手元にほとんど利益が残らないまま経営が苦しくなるケースも少なくありません。 - 利益重視に転換する意味
企業が存続・発展していくためには、利益があってこそ将来的な設備投資や従業員の待遇改善、研究開発などに回せる資金が生まれます。長期的な視点で「財務体質の強化」や「安定的な成長」を見据えるならば、利益率を意識した経営こそが重要となるのです。
売上については以下の記事でも解説してますので、もしよろしければお読みください。
利益重視の経営がもたらす主なメリット

利益重視の経営に踏み切ると、以下のような効果が期待できます。単に数字を変えるだけではなく、企業体質そのものが健全化していく点に注目してください。
- 財務体質の強化
利益を最優先に考えると、コスト削減や投資の見直しが日常的に行われるようになります。例えば、「本当に必要な支出なのか?」と常に確認をすることで、無駄な経費が削減され、企業の財務体質が強化されていくのです。財務状況が安定すれば、銀行などの金融機関との関係性が良好になるだけでなく、将来的な事業投資にも踏み切りやすくなります。 - 持続的な成長への道筋
売上の拡大だけを追いかけていると、利益率を度外視して契約を積み重ねるリスクがあります。一方、利益重視へと切り替えれば、自然と「長期的に企業価値を高められる案件かどうか?」を見極める習慣が身につきます。これにより、収益性の高い取引に集中でき、企業として持続的な成長の道筋を描けるようになるのです。 - 組織全体の意識改革
経営指標(KPI)だけを変えても、現場の実践が伴わなければ成果は上がりません。しかし、実際に利益が上がる成功事例を作って共有していけば、現場のモチベーションや考え方も変化します。「このコストは必要か?」「もっと効率化できるのでは?」という声がボトムアップで湧き上がり、全社的な行動変容につながる点は大きなメリットです。
利益重視のKPIを定着させるためのポイント

KPIとはあくまでゴールに向かう指標にすぎず、それをどのように活用して組織に根付かせるかが肝心です。以下のポイントを押さえて導入・運用すると、より効果が高まります。
- 目的を明確にし、全員に共有する
なぜ「売上から利益へシフトする必要があるのか?」を、経営ビジョンと関連付けてわかりやすく伝えましょう。例えば、「将来の設備投資や社員の待遇改善には、一定の利益を確保することが不可欠である」といった具体的なストーリーを示すと、従業員にも納得感が生まれます。 - KPIを細分化し、部署・チームごとに落とし込む
「営業利益率」や「粗利益」などを企業全体のKPIに掲げるだけでなく、部署やチームごとにアレンジした指標を設けるのがポイントです。例えば、製造部門では「原価率の改善」、営業部門では「利益率の高い商品の販売比率」といった形で、行動に移しやすい小さな指標に分解しておくと成果につながりやすくなります。 - インセンティブや評価指標の整合性をとる
各従業員の賞与や評価が「売上高」中心のままだと、実際には利益を重視した行動をとるインセンティブが働きません。評価・報酬体系でも「利益重視」を反映させ、組織全体で一貫した方針を打ち出すことが欠かせません。 - コスト構造を見える化し、現場が判断できる材料を提供
「どの取引先にどれくらいコストがかかっているか?」「どの製品が最も利益率が高いか?」といった情報を可視化することで、現場の従業員が正しい判断をしやすくなります。利益を追求するうえで、自分の業務がどのくらいコストを生み出しているのかを理解することは非常に重要です。
従業員マインドを転換するためのヒント
組織文化や従業員の意識が変わらなければ、いくらKPIを設定しても成果につながらないケースがあります。以下の施策を取り入れ、現場のマインドセットを変えるきっかけをつくりましょう。
- 小さな成功体験を積み重ねる
いきなり大きな目標を掲げても「無理だ」「難しい」と感じてしまいがちです。まずは小規模の案件やプロジェクトを対象に「利益を意識したマネジメント」を行い、成功事例を全社で共有してみてください。小さいながらも成果を実感すれば、自信がつき、行動の変化を生み出しやすくなります。 - 数値と行動を一致させる
「利益重視のKPI」が掲げられたら、「具体的に誰が何をすればいいのか?」を明確に伝えます。例えば営業部であれば「高利益率商品を中心に提案」、製造部なら「原価率の厳密な管理」、管理部門なら「会議や出張などのコストを意識し、時間短縮を図る」といった具合に、数値目標と行動をひも付けることが重要です。 - 風土・文化を育てる
経営者や管理職は、繰り返し「利益重視の行動こそが評価される」という姿勢を示してください。利益率の低い案件を獲得してしまった場合などは、なぜ問題なのか、どこが改善ポイントなのかを丁寧にフィードバックしていきましょう。ミスを責めるのではなく、正しい行動を共有することで、組織全体のカルチャーは徐々に変わっていきます。
Q&A
Q1. 利益重視に転換すると、売上が減ってしまうのではないかと心配です。
A. 短期的には一部の顧客や取引条件を見直すため、売上が下がる可能性もあります。しかし、その分のムダなコストが削減されたり、高利益率商品・サービスへの注力によって総合的な利益が向上することが多いです。最終的に、財務的にも健全化が進むことで事業の安定性と成長力を高められます。
Q2. 現場がなかなか利益を意識した行動をとりません。どこから手をつければいいですか?
A. まずは経営者や管理職から積極的に利益重視の行動を示し、それを明確に評価・称賛する仕組みをつくってください。さらに、コスト構造や利益構造を“見える化”することで、従業員の意識が変わりやすくなります。小さな成功事例を積み重ね、全社的に共有することも大切です。
Q3. 社員のインセンティブをどう設計すればよいでしょうか?
A. 組織の目標・ビジョンに連動した「利益指標」を評価軸に取り入れることが効果的です。たとえば、粗利益率や営業利益、貢献利益などを見ながら、適切な範囲で報酬に反映させる仕組みをつくりましょう。あわせて、売上と利益の両面をバランス良く評価することも忘れないようにしてください。
まとめ
売上重視から利益重視への転換は、短期的には組織に大きなストレスを与えますが、長期的には企業の財務体質を健全化し、成長のための投資余力を確保するうえで欠かせないステップです。大切なのは、単にKPIを変えるだけでなく、経営者から現場までが「利益を生み出す思考と行動」を定着させる仕組みを整えることです。
特に中堅中小企業では、現場と経営層との距離が比較的近いため、経営トップの方針を現場にダイレクトに伝えやすい環境にあります。その強みを活かして、利益重視のKPIとそれに紐づく行動が現場レベルでも腑に落ちるようにアプローチしていきましょう。最初は違和感があったり抵抗があるかもしれませんが、従業員が成果を実感し、「自社の利益創出が自分たちの未来に直結している」と腹落ちすれば、行動は自然と変わっていきます。
利益重視の経営は、企業にとってのゴールではなく、新たな成長サイクルを回すための「スタート地点」です。ここで築いた体力やマインドセットは、将来さらなるイノベーションや挑戦を支える土台になります。ぜひ、日々の業務のなかで、売上と利益の両面からバランス良く経営を見つめ直し、強固な組織づくりを進めていってください。、限られたリソースを「よい売上」に集中することを心がけましょう。それが、会社をさらに強くし、未来に向けて成長するための最善の方法です。
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