唐澤経営コンサルティング事務所代表の唐澤です。
中小企業診断士・ITストラテジストの資格を持ち、20年以上にわたり、中堅中小企業の経営戦略立案や業務改革、IT化構想策定のコンサルティングに従事してきました。

このコラムでは、私のコンサルティング経験をもとに、中堅中小企業の経営に役立つ情報を発信しています。

「同じ部署の同僚なのに、上司の態度がまるで違う」

「ある社員にはとても優しく、別の社員には厳しく当たっている」

「なぜ部下によってあの上司はあそこまで接し方が変わるのだろう?」

中堅中小企業の経営者や管理職の方々から、しばしばこのようなお悩みを耳にします。業務を進める上で、上司(管理職)の態度が部下それぞれで大きく異なると、職場の雰囲気がギクシャクしたり、部下同士の仲が悪化したりと、多くの問題が生じがちです。

では、なぜ上司は人によって態度を変えるのでしょうか?

そこには人間心理の自然な働きが潜んでいたり、評価制度の設計やコミュニケーション手法に問題があったりと、複合的な要因があります。上司本人も意図していない無意識の偏り(バイアス)が働いていることも珍しくありません。

本コラムでは、私が20年にわたって経営コンサルタントとして培ってきた経験・知見をもとに、「上司が人によって態度を変える理由」とその心理的背景を解説します。さらに、それらがもたらすリスクや弊害を踏まえつつ、中堅中小企業の経営者・役員・管理職のみなさまが実践できる対処法を具体的にご紹介します。

多くの現場を支援してきた私の知見を余すところなく共有いたしますので、ぜひ最後までお読みいただき、ご自身の組織運営にお役立ていただければ幸いです。

上司が人によって態度を変える心理的要因

親しみやすさ・距離感の違い

組織の中で長く一緒に働いていると、自然と「仲の良い部下」と「そこまで親密ではない部下」が生まれてきます。これは業務上の頻繁なやり取りや、社内イベント・プライベートでの接触頻度などが影響しやすいものです。心理学的には「単純接触効果」と呼ばれる現象で、人は接触回数の多い相手に対して好意を抱きやすくなります。これが積み重なると、「気軽に話せる部下」には優しく接し、「距離を感じる部下」に対しては厳しく接してしまうなどの差が生じやすくなります。

■無意識下で生じる態度の差
上司本人が意図的に態度を変えているわけではなく、「気を許せる存在だと笑顔で話す一方、そうでない相手に素っ気なくなる」といった無意識下の反応がしばしば問題を生みます。

好き嫌い

人間は生来、相手に対して「なんとなく気が合う」「どうも気に障る」といった感覚を抱くものです。この「好き嫌い」は、論理的に説明しにくい場合も多く、「声の質」「話し方」「第一印象の良し悪し」など、些細な要素が積み重なって判断されることがあり、評価や態度に大きく影響する厄介な要因です。

■好き嫌いが生む職場の不公平
上司がある部下に対して強い好意を持つと、その部下の過失やミスを「大目に見てしまう」傾向が強まります。逆に、嫌悪感を抱いている部下に対しては、些細なミスでも強く指摘しやすくなります。このような不公平感が、職場のモチベーションを著しく損なうことは多くの事例で確認されています。

成果主義や評価制度が生む意識の偏り

近年、多くの中堅中小企業においても成果主義目標管理制度を採用する動きが増えています。数字や業績を重視する風潮は、組織全体の生産性向上には有益な面がありますが、同時に「成果を出している部下」に対して甘くなりがちな心理を生むことも否めません。

■「結果を出しているからOK」思考
上司が業績貢献度の高い部下を極端に優遇すると、他のメンバーは「自分の仕事に対する正当な評価が得られていないのでは?」と感じてしまいます。特に小規模企業ではメンバーの頑張りが経営成績に大きく直結しやすいため、成果を重視した評価制度が生む“えこひいき感”がより目立ちやすくなるのです。

ストレスや時間不足による余裕のなさ

経営者や管理職は、とにかく多忙です。特に中堅中小企業では、大企業に比べて管理職の業務量が膨大になりがちで、一人が複数の役割を兼任しているケースも多々あります。その結果、部下全員に平等に向き合うだけの時間や精神的余裕を確保できず、どうしても「今すぐに成果を上げてくれる部下」「話しかけやすい部下」を優先してしまう。これが“態度に差が出る”結果を招いている場合もあります。

■「忙しさ」が生むコミュニケーションギャップ
余裕がないと、どうしても関係がうまく構築できていない部下は後回しにされがちです。そのうち、「あの上司はあの人だけに優しい」「私には厳しい」という不満につながります。逆に、比較的やりやすい相手だけと仕事を進めてしまうため、次第に“人による態度の違い”が定着してしまうのです。

上司の態度がもたらすリスクと弊害

上司が部下に対して態度を変えること自体が100%悪いとは限りません。時には指導方針や育成手段を個々人に合わせることが必要な場合もあり、ある程度の「差」はむしろ適切なリーダーシップの証左にもなります。

しかし、以下のような状態にまで及ぶと、組織にとって深刻なリスクや弊害をもたらします。

公平感の喪失とモチベーション低下

「どうせ上司はお気に入りの部下にばかり目をかける」「評価は最初から決まっている」という不信感が根付くと、組織全体の士気が下がります。特に若手社員や中途採用者は自分の成長や評価に敏感で、上司の行動から「公平感がない」と感じれば、早期離職につながる可能性が高まります。

人材育成の停滞

上司が“波長の合う部下”や“成果を出している部下”ばかり可愛がると、本来なら伸びしろのある社員が放置されるリスクがあります。中堅中小企業にとっては、将来の幹部候補を見落とすことにもつながりかねません。苦手意識を持たれている社員は成長の機会を奪われ、職場全体の人材育成が進まなくなるのです。

社内風土の悪化・離職率の上昇

部下間で「上司に気に入られるかどうか」が大きな関心事になると、個々の業務貢献よりも“上司ウケ”が優先される風土が醸成されます。結果的に社員同士の足の引っ張り合いが生まれたり、健全な情報共有が阻害されたりします。このような職場では、優秀な人材から先に辞めていくケースが非常に多いのです。

実践的な対処法

ここからは、具体的にどのような対処法を取るべきかを解説します。なお、対処法は「部下の立場での対処」と「上司・経営者の立場での対処」に分けて考える必要があります。中堅中小企業の場合、社内の人数が少ない分、対策を講じると即座に職場全体へ波及しやすいという利点があります。ぜひ可能なものから実行に移してみてください。

部下としての対処

上司とのコミュニケーションを意図的に増やす

上司が「人によって態度を変える」原因のひとつが、単純接触効果による距離感です。であれば、意図的に上司に質問をしに行ったり、業務報告の頻度を少し上げたり、昼食に誘ってみるなどして接点を増やすことで、上司からの印象が好転する場合があります。

  • 具体例
    • 「週に1回、必ず進捗状況を簡潔に報告する」
    • 「ちょっとした雑談を交えながら、上司の仕事観や経験談を聞いてみる」

自分の成果を客観的に示す工夫をする

「あの人だけ優遇されている」と感じたとき、まずは自分が仕事でどう成果を出しているかを客観的に整理し、上司にわかりやすく伝えることが重要です。優遇されている同僚との比較をするのではなく、「自分が成し遂げたこと」を数字や具体的な事例で示すと、上司の評価が変わる可能性があります。

  • 具体例
    • 「月次の売上・コスト削減量・提案数などを数字でまとめたレポートを作る」
    • 「お客様からのポジティブなフィードバックを共有する」

公平な場を活用する

仮に上司との個人的な関係がどうしても改善しづらい場合は、会社としての仕組みや第三者の目を活かすことも選択肢となります。人事部や、可能なら顧問・外部コンサルタントなど、「フェアな立場」を借りて評価を見直してもらうのも有効です。

  • 具体例
    • 「定期的な人事考課の場で第三者の評価者を入れてもらうよう提案する」
    • 「複数の上司(他部署の責任者など)にも自分の業績を知ってもらう」

上司・経営者としての対処

人事評価制度の整備と評価基準の明確化

上司が人によって態度を変える大きな要因は、「評価基準が曖昧で、主観に依存しやすい」ことです。そこで、経営者や管理職の立場として取り組むべきは、納得感・公平感のある人事評価制度の整備と、客観的かつ具体的な評価基準の策定です。

  • 具体例
    • 「納得感・公平感のある人事評価制度を整備する」
    • 「営業部門であれば、売上目標・顧客満足度・訪問件数など、誰が見てもわかる定量指標を設定する」

上司へのリーダーシップ研修・コーチング

上司も自分の態度に偏りがあるとは必ずしも自覚していません。そこに気づくことで、初めて「自分は好みや印象で扱いを変えていたかもしれない」と反省が生まれ、行動が変化します。経営者としては、管理職を対象にしたリーダーシップ研修コーチングを定期的に行い、「人間心理のバイアス」「コミュニケーションの基本」などを学ぶ機会を提供することをおすすめします。

  • 研修の例
    • 「「無意識の偏見」を理解するワークショップ」
    • 「部下それぞれの強みや仕事観を引き出す面談トレーニング」

定期的なフィードバック・360度評価の実施

小さな組織でも、360度評価(上司、同僚、部下など複数のステークホルダーからフィードバックをもらう仕組み)を導入する企業もいます。全員が率直に意見を交わし合える文化が育まれれば、「上司が偏った態度を取っていないか」のチェックが自然になされます。

  • 具体例
    • 「半年に1回、管理職のリーダーシップに関するアンケートを部下全員に行う」
    • 「集まったデータを個別面談でフィードバックし、改善点を話し合う」

業務分担の明確化・人員配置の最適化

「忙しすぎてすべての部下に丁寧に接する余裕がない」という状態を改善するために、業務の分担人員配置を見直すことも重要です。特定の上司にばかり負荷が集中していると、その上司が意図せず一部の部下だけと密接にコミュニケーションを取り、結果として態度の差が生まれやすくなります。

  • 具体例
    • 「管理職の業務範囲を再点検し、不要な会議や兼務を減らす」
    • 「部下の仕事量も含めて可視化し、必要に応じてチーム再編を行う」

Q&A

Q1. 「上司が単純に“好き嫌い”で態度を変えているように感じます。どうすればいい?」
A.まずは、「好き嫌い」という感情がどう形成されるかを理解するところから始めましょう。先ほど述べたように、上司の無意識バイアスによって態度が変わっているケースが多いです。部下の立場なら、定期的なコミュニケーションを図り、あなたの仕事ぶりや成果を客観的に示すことで、上司の印象をアップデートしてもらう努力ができます。一方、経営者や他の管理職が介入できる体制があれば、人事考課や面談の場で「主観だけに頼らない評価」を徹底するよう促しましょう。

Q2. 「部下の立場として、上司に嫌われていると感じる社員をフォローする方法はありますか?」
A.チームや部署内でお互いにフォローし合う文化を醸成することが大切です。具体的には、情報共有の場を増やしたり、部署全体でのミーティングで各自の進捗をオープンにするなど、「上司に見えにくい部分」をチームとしてサポートできる環境を作ると効果的です。また、上司とその社員が1対1で話すときのハードルが高い場合は、同僚や別の先輩社員が間に入り、ファシリテーション役を務めるといった工夫も考えられます。

Q3. 「小規模事業なので、評価制度の導入にコストや時間がかかります。簡単にできる工夫は?」
A.小規模企業の場合、評価制度の導入といっても大掛かりなシステムやツールは必要ありません。たとえば以下のような簡易的な運用から始められます。

  • 目標と達成度をエクセルなどで管理し、数値化できるところはできるだけ数値化する
  • 月1回の定例ミーティングで、お互いの進捗を報告し合う場を設ける
  • 管理職やリーダーが2名以上で、部下を評価・面談するようにする(複数目線の導入)

こうした小さなステップでも、「上司の主観だけに頼らない仕組み」が確立されてくると、部下への接し方の不公平感は徐々に改善されていきます。

Q4. 「上司として、部下によって態度を変えてしまう自覚があるのですが、どこから改善すれば?」
A.自覚があるだけでも第一歩として非常に大きなアドバンテージです。改善策としては、以下の3点を意識してみてください。

  1. まずは客観的指標を知る:自分の中に存在するバイアス(好き嫌い、成果への執着など)を客観的に確認するために、部下や同僚からのフィードバックをもらう。
  2. コミュニケーション頻度を意図的に均す:苦手意識のある部下ほど意図的に話す機会を増やす。
  3. 評価プロセスを可視化する:自分がどんな基準で部下を評価しているのかを言語化し、説明できるようにする。

これらを続ける中で、「なぜ自分は特定の部下を優遇してしまうのか?」の原因も徐々に整理できるはずです。

Q5. 「業績重視の風土が大切なのは分かりますが、成果を出す人ばかりを可愛がってしまうのはNG?」
A.成果を出す人を称えること自体は悪いことではありません。ただし、「成果を出していない人には厳しく接する」という極端な態度にならないよう、各社員が挑戦しやすい環境を整えましょう。経営者としては、業績だけでなく、挑戦したプロセスや成長度合いを評価項目に加えるなど、評価基準のバランスを取ることが求められます。「結果だけでなくプロセスにも注目し、伸びしろを正当に評価する」風土づくりが重要です。

まとめ:迷った時こそ自分と組織を客観視する

上司が部下によって態度を変えることには、心理的・制度的・環境的にさまざまな要因が絡んでいます。人間である以上、完全な平等を目指すのは現実的に困難な部分があるのも事実ですが、少なくとも「無意識な偏り」や「評価の曖昧さ」から生まれる不公平感は、組織に深刻なダメージを与えます。

  • 重要なポイント
    1. 上司のバイアスは自然に生まれる
      • 距離感や好き嫌いが態度に影響するのは、ある意味当然の心理現象。
    2. 評価制度の不備が差を生む
      • 客観的な指標を欠き、上司の主観だけに任せると不公平感が増幅しやすい。
    3. コニュニケーション頻度の偏りに注意
      • 忙しさも一因。上司自身が気づかないうちに、一部の部下としか話していないことが多い。
    4. 組織全体での対策が不可欠
      • 個人の努力だけでなく、経営層のコミットメント、評価体制の整備、リーダーシップ研修など、仕組みを動員して解決を図る必要がある。

中堅中小企業では、少しの改善策でも組織に与えるインパクトが大きいというメリットがあります。評価基準の明確化や複数評価者の導入、定期的な360度評価など、できるところから一歩ずつ着実に取り組むことで、職場風土は大きく好転していきます。

部下の立場であれば、上司とのコミュニケーションを意図的に増やし、自分の成果を客観的に提示するなどの方法を試してみましょう。上司や経営者の立場であれば、主観的判断に頼りすぎない仕組みや研修の導入に取り組み、徹底的に風通しの良い組織文化を目指していただきたいと思います。

「上司は人によって態度を変えがち」という負の印象を持たれず、「全員が公正に評価され、気持ちよく働ける環境」を整備することは、企業成長の基盤となります。経営者・管理職としては、この問題を軽視せず、組織としての強みを磨き上げる絶好のチャンスと捉え、積極的に取り組んでみてください。きっと、その先には離職率の低下や生産性向上だけでなく、社員一人ひとりが自発的に成長し合う「最強の組織づくり」が待っています。

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この記事を書いた人

唐澤 智哉

新卒で大手金融系シンクタンクに入社し、大手企業向けのITコンサルティングに従事。その後、2社のコンサルティングファームにて、大手企業向けの業務改革・ITコンサルティングに従事。
2012年に大手IT企業に入社し、中小企業向けのコンサルティング事業の立ち上げの中心メンバーとして事業化までを経験し、10年間中小企業向けの経営コンサルティング・ITコンサルティングや研修・セミナーに従事。
その後、2022年に唐澤経営コンサルティング事務所を創業。中小企業向けの経営コンサルティング、DXコンサルティング、研修・セミナー等のサービスを提供している。
趣味は読書で、年間200冊近くの本を読む。