唐澤経営コンサルティング事務所の唐澤です。中小企業診断士・ITストラテジストの資格を持ち、20年以上にわたり、中堅中小企業の経営戦略立案や業務改革、IT化構想策定などのコンサルティングに従事してきました。

このコラムでは、私のこれまでのコンサルティング経験をもとに、中堅中小企業の経営に役立つ情報を発信しています。

このコラムでは、私のコンサルティング経験をもとに、中堅中小企業の経営に役立つ情報を発信しています。

「上司があまり話しかけてこない」「こちらから声をかけない限り、上司からのアクションがない」――こうした上司とのコミュニケーション不足に悩む部下は、意外なほど多いものです。日々の業務上、上司とはできるだけスムーズに連携をとりたいのに、肝心の上司が黙っているばかり。社内の空気は重くなり、部下も戸惑うばかりです。結果として、部下の仕事に対するモチベーションや生産性が落ちてしまい、引いては離職率の上昇にもつながりかねません。

株式会社スコラ・コンサルトが実施した2024年10月に実施した「組織に関するアンケート調査」によれば、上司との面談で「本音で話せている」と感じる割合は55.6%であり、管理職の認識(70.0%)より14.4ポイント低い結果となっています。この数字からも、上司と部下のコミュニケーション不足が組織運営に大きな影響を及ぼしていることがうかがえます。

本コラムでは、経営コンサルタント歴20年の私の経験・知見をもとに、「話しかけないと話さない上司」に代表されるコミュニケーション不足の実態を掘り下げ、中堅中小企業の経営者・役員・管理職の方々が現場で具体的に活用できる対策を検討していきます。

なぜ「話しかけないと話さない上司」が生まれるのか

理由①:コミュニケーションに対する認識の違い

上司に限らず、人はそれぞれ「コミュニケーション頻度」に対する感覚が異なります。ある人は「積極的に声を掛け合うのが当たり前」と思っている一方で、別の人は「必要があれば話すが、そうでなければ黙っていても良い」というスタンスです。上司が「必要な時は部下が声をかけてくるだろう」と捉えている場合、部下からすると「上司は全然こちらを見ていない」「何を考えているのか分からない」と映り、コミュニケーション不足が顕在化します。

理由②:上司自身の忙しさ・プレッシャー

中堅中小企業では、管理職の仕事量が過多になりやすい傾向があります。上司自らが現場仕事を抱えていたり、経営層との板挟み状態になっていたりするケースも多々見受けられます。その結果、「部下と話す時間を取るよりも、自分の仕事を片付けなければ」という心理が働き、コミュニケーションが後回しになってしまいます。さらに、経営層とのやり取りで感じるプレッシャーやノルマ達成の焦りから、「余計な雑談をする暇はない」「必要なことだけ指示すれば十分」という極端な認識を生み出すこともあります。

理由③:上司のコミュニケーションスキルの不足

いくら管理職といえども、もともと対人コミュニケーションが苦手な方もいます。加えて、人事評価制度や研修体制が整っていない企業では「管理職研修」を受けていないケースも多く、上司自身が「どう部下と向き合い、どう声をかければよいか分からない」という状況に陥る可能性があります。この結果、「問題が起きない限り自分からは話しかけない」という受動的な上司になってしまうこともあるのです。

放置するとどうなる?コミュニケーション不足のリスク

リスク①:部下のモチベーション低下

上司からの声かけが少ない状態では、部下は「上司に認められていないのでは?」「上司は私に無関心なのでは?」と感じやすくなります。その結果、モチベーションが低下し、本来のパフォーマンスを発揮できなくなる恐れがあります。特に、中堅中小企業では人材育成や部署間連携の負荷が大企業よりも高いため、一人ひとりのモチベーション低下が企業全体の業績に響きやすいのが実情です。

リスク②:トラブルや問題の早期発見が困難に

コミュニケーション不足が続くと、社内で何かトラブルが起きても上司が把握するのが遅れがちになります。部下も「どうせ上司は聞いてくれない」「上司に話しても仕方がない」と思い込んでしまい、問題を抱え込むことが増えるでしょう。その結果、小さな火種が大きな炎上に発展してしまい、最終的には会社の信用や売上に大きく悪影響を与えるリスクがあります。

リスク③:組織風土の悪化・離職率の上昇

コミュニケーション不足は、放置すると組織全体の風土をじわじわと悪化させます。部下同士でも「上司は私たちのことに興味がない」といった共通認識が生まれ、結果的に社内のやる気や連帯感が低下。最終的には離職率の上昇につながり、優秀な人材が流出してしまう恐れがあります。

このように、話しかけないと話さない上司が組織に与える影響は、想像以上に大きいのです。

なぜこの問題が中堅中小企業でより深刻なのか

経営資源の乏しさ

中堅中小企業では、特定の管理職だけが多くの業務を抱えているケースが珍しくありません。大企業に比べて人員配置に余裕がなく、「管理職=現場のリーダー・プレーヤーも兼任」という構造が当たり前になっています。そのため、上司がコミュニケーションに時間を割く余地が少なくなりがちです。

人事制度や研修体制の不足

管理職の育成プログラムやコミュニケーション研修を体系的に行う余裕がない中堅中小企業も多いのが現実です。大企業であれば、管理職登用前に研修を実施したり、メンター制度を導入したりする仕組みがあります。しかし、中堅中小企業では「現場経験が長いから大丈夫だろう」といった属人的な判断のみで管理職登用を行ってしまい、コミュニケーション不足を助長することがあります。

経営者や役員への情報伝達の遅れ

中堅中小企業の経営者や役員は、現場との距離が近い反面、問題や課題が現場から上がってくるスピードが遅い場合もあります。コミュニケーション不足の上司を放置すると、経営者や役員が現場の実情を把握できないまま事態が深刻化するケースが増えます。これにより、経営判断が遅れたり誤ったりするリスクが高まるのです。

実務で役立つ具体的対策

ここでは、私がこれまで中堅中小企業の現場で実践し、成果を上げてきた具体的なアプローチをご紹介します。

対策①:定期的な「1on1ミーティング」の導入

1on1ミーティング(ワン・オン・ワン)」とは、上司と部下が定期的に短時間(15~30分程度)で話し合う場を設けることです。

  • 目的: 進捗確認や課題の把握、キャリア相談など、部下個人にフォーカスしたコミュニケーションを取る。
  • ポイント: 質問は具体的にし、部下の状況を引き出すために、聞く役割に徹する。上司からの一方的な指示ではなく、部下の考えや悩みを聞く時間をしっかり確保する。

この取り組みによって、上司が「話しかけないと話さない」姿勢だったとしても、定期的にコミュニケーションの場が強制的につくられ、部下も安心して相談できる環境が整いやすくなります。

対策②:チームミーティングでのルール設定

定期的なチームミーティングを開催し、その場で「全員が必ず一言話す」「議題を振られたら回答する」など、コミュニケーションの基本ルールを明確にする方法です。

  • 目的: 全員が平等に意見を発信できる機会を作り、チームの一体感を高める。
  • ポイント: 形式的に「一言どうぞ」というだけで終わらせず、上司や他のメンバーがきちんとフィードバックする習慣をつくる。

こうしたルール設定は「上司が黙っていても、部下も話しにくい」という雰囲気を払拭し、自然と会話が循環する組織文化の醸成に役立ちます。

対策③:メールやチャットツールの活用に頼りすぎない

リモートワークやITツールの普及により、メールやチャットで完結しがちな業務も増えてきています。しかし、文章のやり取りだけでは、相手の表情や声のトーンが読み取りにくく、誤解を生むリスクも高まります。

  • 対策: 「少し複雑な話題であれば、直接またはオンライン会議ツールで声を聞きながら確認する」「重要な話題の後は確認の機会を設ける」など、ツールと直接対話を併用する文化を推進する。
  • ポイント: 上司が自ら「ここは口頭で確認しよう」「一度短いミーティングをしよう」と提案し、部下が相談しやすい雰囲気をつくることが重要。

対策④:経営層によるコミュニケーション支援の仕組みづくり

中堅中小企業の場合、経営者や役員が現場と直接接する機会が比較的多いはずです。そこで、あえて経営陣がコミュニケーション促進を後押しする明確な方針を打ち出すことも効果的です。

  • : 「各部署で週に1回はチームミーティングを行う」「管理職は月に1回経営陣との情報共有ミーティングで部下の状況を報告する」など。
  • 目的: 管理職がコミュニケーションを怠れない環境をつくり、上司側にも「自分が話しかけなくても…」という受動的姿勢を改めざるを得ない仕組みを用意する。

ポイント: ただし、形骸化を防ぐために、やりっぱなしではなく実行状況をフォローする仕組みを用意する。

取り組みを成功に導くための注意点

注意点①:上司自身の「聴く力」を高める

コミュニケーション不足を解消するには、上司が自分から話すだけでなく、部下の話にしっかり耳を傾ける姿勢が不可欠です。「相手の話を途中でさえぎらない」「相槌を打ちながらメモを取る」「自分の意見をすぐに押し付けない」といった当たり前の行動を徹底するだけでも、部下の安心感は大きく変わります。

注意点②:フィードバックはタイミングよく、具体的に

「上司が話さない」上に「仮に話しても内容が抽象的・否定的」となると、部下はますます相談しなくなります。良い面も悪い面も含めてタイムリーかつ具体的なフィードバックを心がけましょう。例えば、「先月の営業成績が上がったのは、○○のアプローチが良かったからだよね」「お客様との打ち合わせではこういう点を改善すればもっと良くなるよ」など、具体的な行動を取り上げてフィードバックするとよいでしょう。タイムリーで具体的なフィードバックを行うことで、部下が「自分の行動に関心を持ってくれている」「成果を見てくれている」と感じられるため、信頼関係を構築しやすくなります。

注意点③:企業文化・風土として定着させる

どんなに良い施策を始めても、短期で終わってしまっては意味がありません。コミュニケーションを重視する企業文化に変えていくためには、継続的かつ計画的な取り組みが求められます。トップダウンの一時的な号令で終わるのではなく、実践を通じて成果を確認し、問題点を修正し続ける体制が必要です。経営層・管理職・現場社員が、それぞれの役割を理解したうえで、自発的にコミュニケーションを図る文化づくりを目指しましょう。

Q&A

Q1. 「上司があまり話さない」という部下からの苦情を経営者として受けた場合、最初に取り組むべきことは何ですか?
A. まずは事実関係を丁寧にヒアリングし、上司だけでなく部下側からも話を聞くことが大切です。「本当に上司が全く話していないのか」「どのような状況で会話が少ないのか」などを具体的に把握しましょう。対策のゴールを明確にするためにも、現状把握と原因分析が先決です。

Q2. 「1on1ミーティング」を導入したいのですが、忙しい管理職が多く、時間を取れないといわれます。どうすればいいでしょうか?
A. 時間を確保する仕組みを上位レベルで整備することが必要です。例えば、「月に最低1回は必ず1on1を実施する」というルールを会社全体で決め、そのスケジュールを管理職の評価項目にも組み込むなど、経営層が率先して体制を整えることが効果的です。

Q3. 上司が話すようになってきたのはいいのですが、常に批判的・否定的な指摘ばかりで部下のモチベーションが下がってしまいます。改善策はありますか?
A. 上司に対して、ポジティブ・フィードバックの重要性を教育・周知することが重要です。部下の良い点にも目を向けてフィードバックすることで、部下が「話しかける価値がある」と感じるようになります。特に、具体的に成果を認めたり努力を褒めたりする姿勢を徹底しましょう。

Q4. オンラインツールでのやり取りが増えて、対面で話す機会が減ってしまいました。これもコミュニケーション不足に拍車をかけている気がします。どう対処したら良いでしょう?
A. オンラインツールは便利ですが、テキストのやり取りだけでは感情や意図を完全には把握できません。オンライン会議や音声通話を定期的に挟む、チャットで済ませた後に「5分だけでも直接声を聞いて確認する」など、対面に近い形のコミュニケーションを組み込む工夫が効果的です。

まとめ

「話しかけないと話さない上司」が社内にいるだけで、部下のモチベーション低下や情報共有の停滞、問題発見の遅れなど、多くのリスクが生じます。特に、中堅中小企業では管理職がプレーヤーとしても働いているケースが多いため、コミュニケーション不足の弊害が全社的に波及しやすいといえます。

しかし、逆にいえば、対策を打てば改善効果がはっきりと出やすいのも中堅中小企業の特徴です。1on1ミーティングやチームミーティングの導入、上司自身のコミュニケーションスキル向上、そして経営層からの明確なコミュニケーション促進施策とフォロー体制など、取り組むべきアクションをしっかりと組み立て、運用していくことで、意外なほど早く「組織が活性化してきた!」という実感を得られることも多々あります。

経営コンサルタントとして20年の経験を積んできた私の実感としても、コミュニケーションの質と量を意識的に改善する企業は、離職率が下がり、人材定着率や生産性向上に成果が見え始めるまでの期間が比較的短い傾向にあると感じています。これは、経営者・管理職が本気で「コミュニケーションの大切さ」を理解し、現場と対話を重ねながら具体策を実行しているからこそです。

もし、皆さんの組織に「話しかけないと話さない上司」が存在し、現場が困惑しているようであれば、まずは本コラムで紹介した対策のどれか一つからでも始めてみてください。小さな一歩の積み重ねが、組織風土を大きく変えるきっかけになると私は信じています。 このコラムが、中堅中小企業の経営者・役員・管理職の皆さまの現場改善に少しでもお役に立てれば幸いです。ぜひ、今日から実践に移してみてください。きっと、新たな気づきや前向きな変化が生まれることでしょう。

唐澤経営コンサルティング事務所では、経営者が「社員の本音を引き出し、組織を強くする」ために、コーチングとコンサルティングを組み合わせたアプローチでコンサルティングを行っています。

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この記事を書いた人

唐澤 智哉

新卒で大手金融系シンクタンクに入社し、大手企業向けのITコンサルティングに従事。その後、2社のコンサルティングファームにて、大手企業向けの業務改革・ITコンサルティングに従事。
2012年に大手IT企業に入社し、中小企業向けのコンサルティング事業の立ち上げの中心メンバーとして事業化までを経験し、10年間中小企業向けの経営コンサルティング・ITコンサルティングや研修・セミナーに従事。
その後、2022年に唐澤経営コンサルティング事務所を創業。中小企業向けの経営コンサルティング、DXコンサルティング、研修・セミナー等のサービスを提供している。
趣味は読書で、年間200冊近くの本を読む。