唐澤経営コンサルティング事務所の唐澤です。中小企業診断士・ITストラテジストの資格を持ち、20年以上にわたり、中堅中小企業の経営戦略立案や業務改革、IT化構想策定などのコンサルティングに従事してきました。

このコラムでは、私のこれまでのコンサルティング経験をもとに、中堅中小企業の経営に役立つ情報を発信しています。

企業の成長や組織変革に携わる中で、経営者の方々から「基幹システムって何?」というご質問をいただくことがあります。

本コラムでは、あまり難しい専門用語を使わずに、基幹システムの基本を分かりやすく解説します。さらには、中堅中小企業の視点に立って、なぜ基幹システムの導入が重要なのか、どのようなメリットや注意点があるのかを、私のコンサルタント歴20年の経験を踏まえてお伝えいたします。わずか3分程度でお読みいただける内容ですので、ぜひ最後までお付き合いください。

基幹システムとは何なのか?

基幹システムとは、企業の経営や事業運営に欠かせない「根幹となる情報システム」のことです。主に下記のような業務領域をカバーする仕組みをまとめて指すことが多いです。

  • 販売管理:受注・発注・請求・売上などの管理
  • 購買管理:仕入れ・在庫・購買プロセスなどの管理
  • 生産管理:製造業であれば生産計画・工程管理・原価管理など
  • 財務会計・管理会計:経理・決算・予算などのお金まわりの管理
  • 人事給与・労務管理:従業員の給与計算・勤怠管理など

大企業や中堅企業では、基幹システムとして「ERP(Enterprise Resource Planning)」と呼ばれる統合型のパッケージシステムが導入されることがあります。これは企業全体の経営資源(ヒト・モノ・カネ・情報)にまつわる情報を一元的に管理するパッケージシステムのことです。「業務に必要なデータがあちこちにバラバラに存在するのではなく、企業の心臓部として情報をしっかり一元管理・連携する仕組み」で、その根底には、「ワンファクトワンプレイス(1つの事実を示すデータは1つしかない)」の設計思想があります。中小企業の場合は、必要な機能のみをピックアップして導入したり、既存ソフトやクラウドサービスを組み合わせるような形態がよく見られます。

なぜ基幹システムは重要なのか?

中堅中小企業にとって、なぜ基幹システムは重要なのでしょうか?その理由は5つあります。

  • 理由①:経営判断のスピードと正確性が向上する
    企業経営において、意思決定のスピード・精度は企業競争力の大きな要因となります。例えば、受注や売上、在庫の状況をリアルタイムで把握できれば、生産調整や営業戦略の策定をスムーズに行うことができます。もし、各担当者が個別で管理しているエクセルファイルやノートに重要な情報があると、その確認には大きな手間がかかり、意思決定が遅れることもあります。しかし、基幹システムによって情報を一元管理すれば、経営者が必要なデータを必要な時に引き出せるため、状況把握と対応策の検討が迅速化します。
  • 理由②:人的ミスの削減と生産性の向上
    中堅中小企業では、一人の担当者が複数の業務を兼務する「多能工社員」であることが珍しくありません。限られた人数で多様な業務を回すため、人的ミスが生じやすくなるのはごく自然なことです。基幹システムの導入により、入力や帳票作成を自動化すれば、手動入力や転記の手間が減り、ミスの発生を最小限に抑えられます。これにより、業務担当者はより付加価値の高い業務(営業活動や新サービス開発など)に時間を割くことができます。
  • 理由③:データに基づく改善が可能
    経営を改善する上で欠かせないのが「データを分析し、ボトルネックや非効率を特定する」というプロセスです。例えば製造業であれば、「不良品率の推移」や「部門別の生産性」、小売業であれば「商品カテゴリ別の売上推移」などを見ていくことで、改善ポイントが明確になります。基幹システムが整備されていると、このようなデータが日々の業務の過程で蓄積されていくため、経営改善の意思決定を客観的かつ素早く行うことができるようになります。
  • 理由④:取引先・顧客との信頼関係を高める
    取引先や顧客からの問い合わせに対して、迅速かつ正確に回答できるかどうかは、企業の信頼度を左右します。例えば、在庫の有無や納期の回答が遅い、または情報が誤っている等が発生すると、信用の低下につながる場合があります。基幹システムで受注・在庫情報をリアルタイムに把握できる体制を整えれば、スピーディに信頼性の高い回答が可能となり、顧客ロイヤルティも高まります。
  • 理由⑤:法改正や外部環境の変化に柔軟に対応できる
    昨今は、消費税率や働き方に関する制度など、法改正の頻度が高まっています。また、これまでにない感染症の拡大など、外部環境の影響で急な方針転換が求められることも珍しくありません。その際に、基幹システムが柔軟にアップデートやカスタマイズができる状態であれば、余分なリスクやコストを負わずに済みます。とくにクラウド型のサービスを利用している場合は、システム提供元が継続的に機能改善や法令対応を実施してシステムが機能強化されていき、それらは追加コストなしで利用できることも多いため、中堅中小企業にとっては大きなメリットとなるでしょう。

中堅中小企業が基幹システム導入を考える際のチェックポイント

基幹システムは、導入したからといってすぐに効果が出るものではありません。むしろ、導入前・導入後にしっかり準備や運用体制を整えておくことが成功のカギです。以下の5つのチェックポイントをぜひ参考にしてください。

  1. 目的の明確化
    何のために基幹システムを入れるのか?」を明確にしましょう。コスト削減、業務効率化、データ分析強化、内部統制の強化……目的があいまいなままだと、使いこなせずに導入コストだけが膨らむケースがあります。
  2. 業務プロセスの洗い出し
    現場では実際にどんな手順で仕事が回っているのか、どこに手戻りや重複作業があるのかを整理します。現場担当者からもヒアリングし、リアルな課題を把握することで、システム選定や導入方針に的確に反映できます。
  3. 費用対効果の試算
    システム導入にはライセンス費用やクラウド利用料、導入支援コンサル費用、社員への研修コストなどが発生します。そのため、「導入によってどの程度のコスト削減や売上増が期待できるか」を試算し、投資回収の見通しをつけておくことが重要です。
  4. 運用体制(担当者・サポート)の整備
    基幹システムは入れて終わりではなく、使い始めた後に「業務フローの改善」や「新機能の追加」が頻繁に発生します。社内でシステム担当者やプロジェクトオーナーを明確にし、外部ベンダーとの連携体制を築いておく必要があります。
  5. 段階的・スモールスタートも選択肢に
    中小企業では、いきなり大規模なシステムを導入しようとすると社内リソースが逼迫(ひっぱく)してしまい、プロジェクトが失敗に終わることもあります。まずは一部の業務領域(販売管理や財務会計など)で小さく導入し、運用に慣れながら徐々に範囲を拡大していく手法を取るのも賢明です。

成功する導入ステップ

基幹システム導入の成功事例をいくつも見てきた中で、私が推奨する大まかな導入ステップは以下の通りです。

  1. 課題と目的の明確化
    現場と経営層それぞれの課題を洗い出し、導入目的をはっきりさせる。
  2. 業務と課題の可視化
    業務フローを作成して業務を可視化し、業務プロセスと課題を洗い出す。
  3. システム要件の整理
    抽出した業務プロセスと課題に基づき、必要な機能と不要な機能を整理し、「導入範囲」や「優先順位」を定義する。
  4. ベンダーやサービスの調査・選定
    自社の業種や事業規模、導入予算に合ったシステムを比較検討する。ベンダーやITコンサルとも相談し、定量的に評価する。
  5. 導入スケジュールと体制の確立
    社内プロジェクトチームを発足し、担当者・スケジュールを明確にする。必要に応じて外部支援を受ける。
  6. テスト運用・段階的リリース
    いきなり全面リリースではなく、まずは小規模テスト(パイロット運用)を行う。問題があれば修正。
  7. 本稼働後のフォローアップ
    利用者(社内社員や現場スタッフ)へ継続的にトレーニングを提供する。定期的にシステムの活用度を評価して改善を実施。

以上の7つのステップを踏むことで、システム導入による業務混乱を最小限に抑え、投資対効果を高めることができます。

Q&A

Q1. 基幹システムを導入するのに、どのくらい費用がかかるのですか?
A. システムの規模や業種、導入形態(クラウド型かオンプレミス型か)によって大きく変わります。小規模なクラウドサービスであれば、初期費用が数十万円程度、月額利用料が数万円程度からという例もあります。一方、大規模なシステムを一気に導入すると数千万円~億単位の投資が必要となるケースもあります。自社の業務要件や予算、導入スコープを見極めて慎重に検討することが大切です。

Q2. 既存の業務ソフトやExcelデータとの連携は可能なのでしょうか?
A. 多くの基幹システムでは、外部ソフトウェアやExcelとの連携機能が用意されています。たとえば、既存の販売管理ソフトと連携できるAPI(ソフトウェア同士を連携させる仕組み)を提供しているケースや、Excelファイルのインポート・エクスポート機能を備えているシステムもあります。ただし、連携のしやすさはシステムごとに異なるため、導入前にベンダーやITコンサルに確認しておくことが重要です。

Q3. 社員のITリテラシにあまり自信がない場合、導入は難しいですか?
A. もちろん簡単ではありませんが、だからこそ基幹システムの導入を機に「業務の標準化」や「ITリテラシーの底上げ」を図るチャンスでもあります。最近のシステムは操作画面がわかりやすく設計されていたり、充実したサポート体制を提供しているベンダーも多いです。導入時に社員への研修の時間を十分に確保し、段階的に慣れてもらうことでスムーズに運用を開始できます。

Q4. システム導入後、どのように効果を測定すれば良いのでしょうか?
A. まずは導入前に設定した目標KPI(Key Performance Indicator:重要業績評価指標)を明確にし、その数値がどう変化したかを追いかけるのが基本です。たとえば「在庫ロス削減率」「不良率」「月次決算の締め日数」「担当者の作業時間削減量」「売上高の増加」などを確認しましょう。また、社員からのヒアリングで「導入前との作業のしやすさ」を定性的に測定するのも有効です。

Q5. 専門家に相談すべきタイミングは?
A. プロジェクトの一番諸段階である「課題と目的の明確化」から相談するのが理想です。しかしコスト面で難しい場合は、現状業務分析自社の業務プロセス・課題抽出、システム要件の整理を社内で完結できることを前提に、ベンダー選定の段階で相談するとよいでしょう。ITに精通した社内スタッフがいない場合には、外部のITコンサルタントや導入支援パートナーを活用することで、不要な回り道や追加コストを避けられるケースが多いです。自社にどのようなシステムが合うのかを客観的にアドバイスしてもらうことで、導入の成功確率が高まります。

まとめ

基幹システムは、企業の経営を支える重要な仕組みです。受注や生産、財務など、企業が日々行うコア業務のデータを一元管理し、業務を効率化すると同時に、経営者や管理職が迅速かつ正確に判断できる体制を整えてくれます。中堅中小企業においては、システム導入が大きな投資になることから「本当に必要なのか?」と導入をためらう経営者の方も少なくありません。しかし、業務が複雑化し、競合他社との競争が激化する現代では、基幹システムを活用することが企業成長の大きなカギになります。私自身も数多くの企業様の基幹システム導入に向けた構想策定や導入支援を行ってきましたが、導入後にデータ活用力を強化したり、社内の業務効率を改善することで生産性を上げた事例をいくつも目の当たりにしてきました。

一方で、「何のために導入するか?」「どんな業務範囲を対象にするか?」といった肝となる部分があいまいなまま進めてしまうと、コストばかりかかり、肝心の効果を得られないという事態を招きます。実際に、私もそのような失敗事例を目の当たりにしたことがあります。だからこそ、経営者や管理職の方々は、まずは自社が抱える課題や目標を明確にし、必要な機能を見極めることが大切です。その上で、段階的に導入していくことでリスクを抑えつつ、長期的な成長基盤を築くことができます。

本コラムが、基幹システムの理解や導入にあたっての参考になれば幸いです。何かご不明な点や具体的な導入ステップについてご相談がありましたら、ぜひお気軽にご連絡ください。あなたの会社のビジネスの成長と発展をしっかりサポートしてまいります。

DXの具体的な進め方やツール選定、社内体制づくりなど、お悩みやご不明点がありましたらお気軽にご相談ください。唐澤経営コンサルティング事務所では、中小企業診断士・ITストラテジストとして、中小企業の規模や業種に合わせた最適なアドバイスとサポートを行っています。

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この記事を書いた人

唐澤 智哉

新卒で大手金融系シンクタンクに入社し、大手企業向けのITコンサルティングに従事。その後、2社のコンサルティングファームにて、大手企業向けの業務改革・ITコンサルティングに従事。
2012年に大手IT企業に入社し、中小企業向けのコンサルティング事業の立ち上げの中心メンバーとして事業化までを経験し、10年間中小企業向けの経営コンサルティング・ITコンサルティングや研修・セミナーに従事。
その後、2022年に唐澤経営コンサルティング事務所を創業。中小企業向けの経営コンサルティング、DXコンサルティング、研修・セミナー等のサービスを提供している。
趣味は読書で、年間200冊近くの本を読む。