唐澤経営コンサルティング事務所の唐澤です。中小企業診断士・ITストラテジストの資格を持ち、20年以上にわたり、中堅中小企業の経営戦略立案や業務改革、IT化構想策定などのコンサルティングに従事してきました。

このコラムでは、私のこれまでのコンサルティング経験をもとに、中堅中小企業の経営に役立つ情報を発信しています。

経営者という立場は、常に大きな責任を伴います。経営戦略を立て、資金繰りを考え、社員の成長や給与アップを考慮し、取引先や顧客対応にも気を配らなければなりません。しかも中堅中小企業では、組織体制や人員が十分でないケースも多く、こうした複数のタスクを経営者自身が自ら遂行していることも多いため、精神的なプレッシャーは計り知れないものとなります。

厚生労働省の関連資料やシンポジウムにおいても、中小企業の経営者や管理職のメンタルヘルス対策の重要性が取り上げられています。​また、厚生労働省のサイト「こころの耳」では、中小規模事業場におけるメンタルヘルス対策の実施率が大企業と比べて低いことが指摘されています。これらの情報から、多くの経営者が「ストレスが半端ない…」と悩んでいるのは、決して珍しいことではありません。しかし、ストレスが限界を超えてしまえば、経営者本人のみならず、組織全体にも深刻な影響が及びます。

本コラムでは、20年にわたり中堅中小企業向けに経営支援を行ってきた経験をもとに、経営者が抱えるストレスの原因と、今日から始められる具体的な対処法を徹底解説していきます。事業を継続・発展させるために、まずは経営者自身の健康を守ることが何よりも重要です。ぜひ最後までお読みいただき、明日からの経営活動の一助としていただければ幸いです。

経営者のストレスの主な原因

原因①:経営に関する不確実性の高さ

中堅中小企業の経営環境は、決して安定しているとは言えません。市場の動向、取引先の状況、顧客ニーズの変化など、不確実要素が多く、一つの誤判断が経営を大きく左右する可能性があります。特に中堅中小企業では、資金力や人員体制が万全でない場合も多く、予期せぬトラブルが即座に経営危機に直結するリスクがあるため、そのプレッシャーはストレスの大きな原因となります。

原因②:人材確保と組織マネジメントの負担

「人材が足りない」「採用がうまくいかない」など、人に関する悩みは多くの経営者に共通しています。中堅中小企業では、大企業と違って人事部門が充実しているわけではなく、経営者自身が採用・教育・評価に直接関わるケースも珍しくありません。その結果、人に関するトラブルがすべて経営者のストレス要因になります。また、少人数ゆえに組織体制が柔軟ではない場合も多く、誰かが欠けると経営者が穴埋めをする羽目になってしまい、さらに負担が増大することも考えられます。

原因③:資金繰りとキャッシュフロー

事業を継続する上で、資金繰りは経営の要です。売上が上がらなければ、給料や仕入の支払いがままならなくなります。また、資金繰りのために銀行借入や追加融資を検討する場面もあるでしょう。しかし、借入には返済リスクが伴い、返済計画がうまくいかないと財務状況の悪化を引き起こします。こうした「お金のプレッシャー」は、経営者にとって非常に大きなストレスとなります。

原因④:経営者個人の孤独感

「経営者は悩みを打ち明ける相手がなかなかいない」という声はよく耳にします。社内の人間は経営者とは立場が異なるため、簡単に弱音を吐くこともできず、友人や家族にも相談しづらい問題が多いのが実情です。こうした精神的孤立がストレスを増幅させ、うつ状態や経営者としてのモチベーション低下につながるケースもあるとのことです。

原因⑤:事業継承や将来への不安

特に創業者やオーナー経営者の場合、事業継承の問題に悩まされることがあります。次世代にバトンを渡すのか、M&Aを検討するのか、あるいは社内で後継者を育てるのか——将来の道筋が見えないまま走り続けるプレッシャーは、経営者特有の大きなストレス原因となります。

ストレスが引き起こす経営上の問題

問題①:判断力や意欲の低下

ストレスが高じると、脳が疲弊し、冷静な思考ができなくなります。例えば、気力がわかず、細かい部分でミスが増えたり、大きな経営判断を先送りしてしまったりするかもしれません。結果として、ベストなタイミングを逃してしまい、チャンスロスや不要なコストの増大につながってしまいます。

問題②:社員や取引先への悪影響

経営者の精神状態は、社内外に大きな影響を及ぼします。イライラして社員へ八つ当たりしてしまう、あるいは取引先とのコミュニケーションが雑になるといった行動をとってしまえば、組織のモチベーションは急速に下がっていき、信頼関係も損なわれてしまいます。特に中堅中小企業では、人的ネットワークが非常の重要となりますので、このような負の連鎖はできる限り避けなければなりません。

問題③:経営者自身の健康リスク

ストレスの慢性化は、不眠症、高血圧、心疾患、うつ病など、身体・精神両面の健康リスクを高めます。経営者自身が倒れてしまえば、企業経営が滞るだけでなく、最悪の場合には事業存続そのものの危機を招きかねません。中堅中小企業においては「経営者=企業の顔」というケース多いため、経営者の健康はそのまま企業の健康に直結するのです。

具体的なストレス対処法

ここからは、経営者が実践できるストレス対策について、これまでの私のコンサルタント経験や私自身の経験の中で効果を実感した手法を中心に5つご紹介します。

対策①:問題を「見える化」する

ストレスの大きな要因の一つは、「何が問題なのかわからない」という混乱状態にあります。

  • タスク・課題をリスト化: 経営上の課題をすべて書き出し、優先度をつけて一つひとつ対応する。
  • 客観的な指標で測る: 売上や利益、キャッシュフロー、組織体制などの指標を整理し、定点観測していく。

こうした「見える化」を行うだけでも、自身が抱える悩みの全体像がはっきりして心理的負担を減らせます。

対策②:適切な役割分担と権限委譲

経営者が「何でも自分でやらなければならない」と思い込むと、タスクが集中し、ストレスが高まります。

  • 幹部や社員への権限委譲: 中核となる幹部や社員に責任を持ってもらい、経営者は最終チェックに注力する。
  • 外部リソースの活用: 社会保険労務士や税理士、中小企業診断士など、専門家の力を借りることで経営者の負担を軽減する。

特に中堅中小企業では「経営者が何でもやる」状態が続きがちですが、思い切って権限移譲やアウトソーシングを実施することで、大きく負荷を軽減できます。

対策③:経営ビジョンと戦略の明確化

経営ビジョンや戦略があいまいなままでは、日々の意思決定がぶれやすくなり、余計な混乱を生み出します。

  • 中期・長期の目標設定: 3年後・5年後にどのような姿を目指すのかを言語化し、社内外に発信する。
  • 経営指標を選定: 売上だけでなく、利益率や新規顧客獲得数など、複数の指標をモニターする。

将来の方向性が明確になるだけでも、気持ちに余裕が生まれ、経営判断に対する迷いやストレスが減っていきます。

対策④:心身のセルフケア

ストレス対策には、ビジネス面だけでなく、心と身体のケアも欠かせません。

  • 適度な運動: ウォーキングや軽めのジョギングなど、20分程度の有酸素運動を習慣化する。
  • 食習慣の改善: 暴飲暴食を避け、栄養バランスの取れた食事を意識する。
  • 休息の確保: 睡眠不足はストレスを大幅に増幅させる要因。なるべく一定の睡眠時間を確保する。

オーバーワークが習慣化すると、体調を崩しても気づきにくくなります。あえて意識的に休む時間を確保するのが、経営者としての「自己管理」には必須です。

対策⑤:信頼できる相談相手をつくる

経営者は孤独になりがちですが、相談相手をつくることでストレスは大幅に軽減されます。

  • 先輩経営者やコンサルタント: 同じ立場や経験をもつ先輩経営者や経験豊富なコンサルタントの声は、非常に参考になります。
  • 同業者・異業種の交流会: 新しい視点を得られるだけでなく、悩みを分かち合える可能性も大いにあります。
  • プロのカウンセラー: 必要に応じてメンタルヘルスの専門家に相談するのも手。特にストレスレベルが高い場合は早めの対応が重要です。

場合によっては、周囲に多くを話しづらい状況でも、専門家に相談することで客観的なアドバイスを得ることができます。

実践的アクションプラン

ここでは、具体的なアクションプランを3つ例示します。経営者自身の環境や性格に合わせて、取り入れやすいものから試してみてください。

アクションプラン1:週1回の「経営振り返りミーティング」

  • 実施頻度: 週1回、30分~1時間
  • 目的: その週に起きたこと、気づいた課題、来週に向けたアクションを共有・整理する
  • ポイント: 経営者一人だけで抱え込まず、外部コンサルタントなどを活用して行うと効果的

このミーティングを通じて、経営者の悩みやストレス要因を定期的に共有・分散化できるほか、先行対応が可能になるため、経営者一人の負担が少しずつ和らぎます。

■アクションプラン2:月1回の「セルフチェックリスト」

  • チェックリスト例
    1. 今月、睡眠は平均何時間とれているか
    2. 体調に大きな問題がないか
    3. 業務で特にストレスを感じる場面は何だったか
    4. 誰かに相談できる体制はあるか
    5. 経営判断の迷いが生じた要因は何だったか

月に1回でも、こうした項目を振り返る習慣があると、ストレスが深刻化する前に手を打つことができます。

■アクションプラン3:「精神的オフライン」の設定

  • 具体策: スマートフォンやPCを一定時間オフにする日をつくる
  • 効果: 情報過多による疲労や焦りを軽減し、脳を休めることができる

私のクライアントの中には、週末の半日だけ完全に仕事から離れる「デジタルデトックス」を習慣化した結果、ストレスが大幅に減少し、生産性が上がったという方もいらっしゃいました。

Q&A

Q1. 経営者として「休むことは甘えだ」という風潮があり、なかなか休みを取る決断ができません。どうしたらいいのでしょうか?
A. 経営を続けるうえで、経営者本人の健康は最大の投資対象です。休まずに働き続け、病気になってしまうリスクを考えれば、「休むこと」はむしろ企業を守るための戦略と捉えてください。決断に迷う場合は、短時間でもいいのでオフの時間を確保するところから始めるとよいでしょう。

Q2. 権限移譲しようとしても、社員に任せるとミスが起こりそうで心配です。どう対処すればいいですか?
A. 権限移譲に完全なリスクゼロはありませんが、部下や幹部の成長機会にもなります。最初は小さな範囲から任せ、定期的なフォローやフィードバックの場を設けると良いでしょう。過度な完璧主義は経営者自身にも部下にも大きなストレスをもたらします。ミスは指摘や指導の材料と捉えて、組織力を高めていくことが大切です。

Q3. ストレス解消のために運動や趣味を持とうとしても、忙しくて時間が作れません。どうしたらいいでしょう?
A. まずは「小さく始める」ことをおすすめします。数分のストレッチや軽い筋トレ、通勤時間でのウォーキングなど、無理のない範囲で取り組みましょう。忙しいほど、一日のスケジュールに“自分をリセットする時間”を数分でも計画的に組み込むことが重要です。スキマ時間を活用するだけでも、ストレスマネジメントに効果があります。

Q4. 相談相手を増やすために交流会などへ参加したいのですが、人脈を広げること自体がストレスになる場合はどうしたらいいでしょうか?
A. 無理に大人数の場へ行く必要はありません。少人数の勉強会や顧問・メンターとの個別面談でも十分に効果は得られます。また、オンラインミーティングやSNSを活用したコミュニティなどもあるので、自分のペースや性格に合った環境を選ぶことが大切です。人脈づくりを“仕事の一環”として捉えると、気持ちも軽くなります。

まとめ

経営者のストレスは、本人の心身だけではなく、企業全体のパフォーマンスに深刻な影響を与えます。特に中堅中小企業では、経営者の健康状態や精神状態がダイレクトに組織へ波及しがちです。だからこそ、ストレスマネジメントは「経営戦略の一環」として捉え、早期に取り組むことが重要です。

  • ストレスの主な原因: 経営環境の不確実性、人材確保の悩み、資金繰りのプレッシャー、経営者の孤独感など
  • ストレスが及ぼす影響: 経営判断の遅れや誤り、社員や取引先との関係悪化、経営者自身の健康リスク
  • 具体的対策: 課題の見える化、役割分担・権限委譲、経営ビジョンの明確化、心身のセルフケア、信頼できる相談相手の確保

今回ご紹介した対処法やアクションプランは、どれも今日から明日から始められるものばかりです。もちろん、一朝一夕で劇的に改善するわけではありませんが、継続的に実践することで着実にストレスをコントロールできるようになります。

企業を永続的に発展させるためにも、まずは経営者が自身のコンディションを万全に保つことが不可欠です。「休むことは企業を守るための投資」「相談することは組織を強くする基盤づくり」と考え、ぜひ自分に合った形でストレスマネジメントに取り組んでみてください。数多くの中堅中小企業を支援してきた私の実感としても、経営者自身が元気で前向きであるほど、企業は成長し、人材も育ち、社内の結束力も高まるものです。 あなたの企業の可能性を最大限に引き出すために、まずは経営者自身がストレスと上手に付き合う技術を身につけ、健全な状態を保ち続けていただければ幸いです。今後の経営がますます充実し、明るい未来へつながることを願っています。

経営に伴うストレスやメンタルヘルスケアに関するご相談がございましたら、ぜひお気軽にお問い合わせください。唐澤経営コンサルティング事務所では、「コーチング」と「コンサルティング」を組み合わせたアプローチで、経営者の心の健康と企業の持続的成長を両面からサポートいたします。

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この記事を書いた人

唐澤 智哉

新卒で大手金融系シンクタンクに入社し、大手企業向けのITコンサルティングに従事。その後、2社のコンサルティングファームにて、大手企業向けの業務改革・ITコンサルティングに従事。
2012年に大手IT企業に入社し、中小企業向けのコンサルティング事業の立ち上げの中心メンバーとして事業化までを経験し、10年間中小企業向けの経営コンサルティング・ITコンサルティングや研修・セミナーに従事。
その後、2022年に唐澤経営コンサルティング事務所を創業。中小企業向けの経営コンサルティング、DXコンサルティング、研修・セミナー等のサービスを提供している。
趣味は読書で、年間200冊近くの本を読む。