唐澤経営コンサルティング事務所の唐澤です。中小企業診断士・ITストラテジストの資格を持ち、20年以上にわたり、中堅中小企業の経営戦略立案や業務改革、IT化構想策定などのコンサルティングに従事してきました。

このコラムでは、私のこれまでのコンサルティング経験をもとに、中堅中小企業の経営に役立つ情報を発信しています。

多くの中堅中小企業経営者が直面する課題のひとつが、「優秀な人材の確保と見極め」です。現場レベルが強く、スピード感のある組織運営が求められる中堅企業にとっては、適切な人選こそがさらなる飛躍の土台を支えます。

しかし、人材市場が激化し、人びとのキャリア観が多様化する中、「見た目や経歴だけでは判断しづらい」「短い面接時間で相手の本質をどう見抜けばいいのか」という悩みは尽きません。そこで今回注目したいのが、論語にある「視・観・察」のフレームワークです。古くから伝わる教えですが、その本質は現代のビジネスシーンでも大いに活かせます。

本稿では、「視・観・察」の考え方を深掘りしながら、採用や取引先選定などに役立つ具体的なアプローチを解説していきます。中堅中小企業経営者として、限られた経営リソースを最大限に活かすための一助となれば幸いです。

視・観・察」とは何か?—三つの視点で人を捉える

論語に記された「視・観・察」は、人の本質を多角的に見抜くための三つの視点です。

  1. :まずは表面に現れる行動・言動を客観的に見る
  2. :その行動の根底にある動機(目的・価値観)を観察する
  3. :最終的な着地点(ゴール)と、そのためのプロセスを推し量る

一見シンプルな視点に見えますが、「相手が何を考え、どこへ向かおうとしているのか」を立体的に理解する上では非常に有効です。「視・観・察」の視点を有効活用することで、採用だけでなく事業提携やM&A、幹部登用など、人に関わる意思決定の精度が格段に高まるでしょう。

なぜ中堅中小企業こそ「視・観・察」が重要か

■理由①: 人材一人ひとりの影響度が大きい
中堅規模になると、部門やチームはある程度の人数を擁するようになりますが、それでも大企業に比べれば「ひとりのミスや活躍度合い」が全体成果に直結します。特に幹部やリーダー候補の見極めを誤ると、現場の士気低下や戦略の停滞を招く恐れがあるため、採用や配置の精度が極めて重要です。

■理由②: スピードと柔軟性が求められる
マーケットの変化に合わせて迅速に戦略を修正するには、「実行力のある人材」を揃えなければなりません。加えて、組織改革や新規事業へのチャレンジを支える「多様な価値観」の人材も必要です。視・観・察で「どのように行動する人物か」「モチベーションは何か」を掴むことで、チーム編成やプロジェクトリーダーの適正判断がしやすくなります。

■理由③:外部パートナーとの協業が増える
売上拡大や事業領域の拡張を図る際、外部企業とのアライアンスや業務提携が発生しやすいのも中堅企業の特徴です。相手が「短期的な利益のみを求めるのか、それとも長期的な共存を目指しているのか」を見極めることで、協業リスクを最小化し、継続的なシナジーを生む関係づくりが可能になります。

「視・観・察」をビジネスに生かす具体的アプローチ

視:行動(客観的事実)のチェックポイント

  • 時間厳守や期日遵守
    会議や提案締切を守れるかは、ビジネスマンとしての基本。特に幹部候補となると、時間管理は組織全体の効率にも関わります。
  • コミュニケーション頻度・質
    メールやチャット、オンライン会議などでのレスポンス速度・内容の的確さは、業務推進能力や相手への配慮が表れるポイントです。
  • 実績・具体的エピソードの裏付け
    「売上を伸ばした」と言うだけでなく、どのような施策や工夫で成果を得たのか、具体性を確認することが重要です。

ポイントは「数値化・事実化できる要素をなるべく増やす」ことです。例えば面接や商談時に、「あいまいな回答」や「同じエピソードばかり繰り返す」場合は、本当にその経験があるのかを見極める必要があります。

観:動機・価値観の深掘り

  • オープン・クエスチョンで引き出す
    「あなたが大切にしている価値観は何ですか?」「なぜその行動を取ったのですか?」といった質問を投げ、相手の内面や志向性を探ります。
  • 過去のプロジェクト・経験の振り返り
    「もっとも困難だった経験は何か? どう乗り越えたか?」などを問うと、相手がどんなモチベーションで動くのかが見えてきます。
  • 企業理念や経営ビジョンとの一致度
    相手の原動力(動機)が、自社の方向性と相容れるかは非常に重要な判断材料です。

察:未来のゴールとプロセスを推し量る

  • キャリアビジョンの明確化
    新卒・中途を問わず、「3年後・5年後にどんな姿を想像しているのか」を聞くことで、成長意欲や将来像が見えます。
  • ビジネスパートナーのゴールイメージ
    提携先が「短期的利益」だけを重視しているのか、「持続的な関係性と相互利益」を目指しているのかをしっかり見極めます。
  • プロセスの妥当性・リスク管理
    目指すゴールに到達するまでの手段が、法的・倫理的に問題がないか、リスクマネジメントがなされているかなども重要です。

ビジネス活用の事例

ケース1:幹部候補の採用・昇進

    • 部門の数値目標をどれだけ達成してきたか
    • チームを率いる際の行動(メンバーからの評価やコミュニケーション方法)
    • 何を原動力として高い成果を出せたのか
    • リーダーとして大切にしている価値観は何か
    • 経営側に立った際、自社をどう変革したいのか
    • 5年後、10年後のキャリアビジョンをどう考えているか

ケース2:外部企業との業務提携・資本提携

    • 提案書の内容や契約条件の整合性
    • 質問に対するレスポンスや修正対応のスピード・柔軟度
    • 相手が提携を望む真の理由(自社技術の活用か? 相乗効果か?)
    • 交渉中の言動に隠された意図や優先順位
    • どのようなビジネスモデルを一緒に描いているのか
    • リスクが発生したときの対処法や協業の持続性

■ケース3:海外進出や新規事業拡大時のキーパーソン選定

  • :過去に海外プロジェクトや新規事業を成功させた具体的行動
  • :未知の領域に挑む際のモチベーション(自己成長、社会貢献など)
  • :長期的に国際事業部門や新事業部門を牽引していくビジョンの有無

実践のコツ:フレームワーク×定量・定性アプローチ

(1) 定量化できる項目をリストアップする
社内スコアリングシートなどを作成し、面接や商談の際に「視・観・察」それぞれの角度でチェックできる項目を設けると便利です。
例)
・視(行動): 時間厳守度、タスク完遂率、レスポンス速度
・観(動機): 経営理念への共感度、学習意欲、挑戦意欲
・察(ゴール): 将来的なキャリア・事業ビジョンの具体性

(2) 定性的なヒアリングを重視する
数値や実績だけでは読み取れない「人柄」「価値観」「意欲」などの部分は、直接話すからこそ見えてきます。特に企業理念やビジョンとの整合性は、経営トップが深掘りして確認するのが理想的です。

(3) 複数回・複数の場面での接点をもつ
面接や商談は短時間で終わりがちですが、できれば複数のステップを用意し、立場やシチュエーションの異なる場面(グループ面接、現場スタッフとの座談会など)で相手を知る機会を増やすと、より正確に「観」「察」を深められます。

Q&A

Q1. 「視・観・察」は大企業でしか活用できないのではないですか?
A. まったくそんなことはありません。むしろ中堅中小企業だからこそ一人ひとりの影響力が大きいため、慎重かつ多面的な見極めが必要です。スピード感は維持しつつ、要所を見落とさないための指針として「視・観・察」を活用してください。

Q2. 面接時間が短いときに動機やゴールを探るコツはありますか?
A. まずは「視」の部分で、客観的な事実(遅刻の有無、書類の整合性など)を確認し、面接中は「観」に集中して動機を掘り下げます。時間が限られていても、オープン・クエスチョンを中心にすることで、相手の言葉から価値観や目的意識を引き出しやすくなります。最後に「察」として、将来像やキャリアビジョンについても一言質問を加えれば、総合的な判断がしやすくなるでしょう。

Q3. なかなか本音を言ってくれない場合はどうすればいいですか?
A. オンライン面接や初対面では緊張感があり、本音を引き出すのは難しいです。アイスブレイクを入れたり、ライトな雑談から徐々に深い話題に移行するなど、空気づくりが重要です。また、二次面接・三次面接など複数回の機会を設けることで、距離を縮めながら信頼ベースで本音を引き出すことが可能になります。

まとめ

「視・観・察」は、論語の時代から脈々と受け継がれてきた「人を見る目」を養うためのフレームワークです。

  • :客観的な行動や実績
  • :その背後にある動機や価値観
  • :長期的なゴールやプロセス

この三段階を意識することで、中堅中小企業経営者にとって必須の「人材見極め力」が一段と高まります。特に、幹部候補の採用・育成、外部パートナーとの提携、M&A、社内リーダーの登用といった重要な意思決定は「人と人が本質的に合うかどうか」にかかっています。

ぜひ、単なる経歴や短期成果だけにとらわれず、「この人はなぜこの行動を取るのか、どんな未来を描いているのか」を深く理解してください。そうした姿勢が、互いの信頼関係を築き、組織を一枚岩にし、結果としてビジネスの持続的な成長へとつながります。 企業が拡大するフェーズでこそ、「人を見抜く目」を養うことが大きな差別化要因になります。是非この「視・観・察」を今後の経営判断に取り入れていただき、貴社のさらなる発展を実現していただければ幸いです。

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この記事を書いた人

唐澤 智哉

新卒で大手金融系シンクタンクに入社し、大手企業向けのITコンサルティングに従事。その後、2社のコンサルティングファームにて、大手企業向けの業務改革・ITコンサルティングに従事。
2012年に大手IT企業に入社し、中小企業向けのコンサルティング事業の立ち上げの中心メンバーとして事業化までを経験し、10年間中小企業向けの経営コンサルティング・ITコンサルティングや研修・セミナーに従事。
その後、2022年に唐澤経営コンサルティング事務所を創業。中小企業向けの経営コンサルティング、DXコンサルティング、研修・セミナー等のサービスを提供している。
趣味は読書で、年間200冊近くの本を読む。