唐澤経営コンサルティング事務所の唐澤です。中小企業診断士・ITストラテジストの資格を持ち、20年以上にわたり、中堅中小企業の経営戦略立案や業務改革、IT化構想策定などのコンサルティングに従事してきました。
このコラムでは、私のこれまでのコンサルティング経験をもとに、中堅中小企業の経営に役立つ情報を発信しています。
「ビジネスマナーなんて形式的でくだらない」。こう感じたことがある方は多いのではないでしょうか。とりわけ、成長意欲が強い中堅中小企業の経営者や役員の方々は「そんなことに時間を割くより、もっと実務的な仕事に集中したい」と考えがちです。しかし、ビジネスの現場では、マナーは「できて当たり前」です。いざ社会に出てみると、「マナーが欠けている人は相手にされない」という厳しい現実があります。
本コラムでは、毎年新入社員研修向けのビジネスマナー研修も務める筆者が、「なぜビジネスマナーが重要なのか?」「どうして“くだらない”と言われながらも必要とされるのか?」を掘り下げます。そして最後には、忙しい経営者の方々が押さえるべきエッセンスをまとめてお伝えします。
ビジネスマナーが「くだらない」と感じてしまう理由

理由①:形だけを真似しても本質が見えづらい
「最初に名刺を出す順番」や「お辞儀の角度」といったマナーに関して、形の部分だけを徹底されると、「こんなこと本当に意味があるの?」と感じてしまうことがあります。こうした形式的なルールが先行すると、「形を守らなくては」という意識だけが強まり、ビジネスにおけるマナーの真の目的が見えづらくなります。
理由②:「成果」が直接見えにくい
ビジネスマナーの向上が、そのまま売上・利益に直結するわけではありません。直接的な結果が見えにくいため、遠回りな投資に思えてしまいがちです。しかし、例えば営業や交渉の場面での相手との人間関係構築において、「感じのいい応対」は大きな武器になります。形だけにとらわれず、「相手を不快にさせないコミュニケーションの基本」を身に付ければ、顧客との信頼関係構築やリピート受注の面で、長期的にはプラスに働きます。これは、私が長年にわたって多くの企業を支援する中で、繰り返し実感していることです。
理由③:個人主義的な時代の風潮
近年は個々の自由や独創性が尊重される傾向が強まり、「自分のやりたいようにやりたい」「くだらない習慣には縛られたくない」という声もよく耳にします。特に小規模のベンチャー企業やスタートアップでは、フランクな風土を好む若手も多いでしょう。とはいえ、社会に出ている以上、どうしても人とのかかわりは避けられません。マナーを軽視していては、取引先に限らず、自社スタッフ同士のコミュニケーションさえスムーズにいかないケースもあるのです。ベンチャー経営者の方々からも、「最初は徹底してなかったけど、やはり基本的なマナーがないと組織がバラバラになる」という声を何度も伺いました。
それでもビジネスマナーが必要な本当の理由

ビジネスは「相手があってこそ」成り立つ
ビジネスマナーの最たる理由は、「常に相手目線、相手視点を意識すること」です。形ばかりのルールを守ることが本質ではありません。むしろ大切なのは、「相手がどう受け止めるか」を想像する力です。
例えば、初対面の商談相手に挨拶をしっかり行う、メールの文面を丁寧に書くなどは、いわば「当たり前」のことであり、それを怠っては「仕事を一緒にしたくない」という心理を相手に与えかねません。互いに気持ち良いコミュニケーションの基礎として、マナーが機能しているのです。
「できて当たり前」だからこそ差がつく
ビジネスマナーは最低限の共通言語のようなものです。決して難しいテクニックや華やかな営業トークのことではありません。「こんなレベルは誰でもわかっているだろう」と思われがちですが、実際には徹底できていないケースが散見されます。
例えば、「2024年 ビジネスマナー実態調査(Job総研)」によると、49.1%の社会人が自身のビジネスマナーに「自信がない」と回答しており、特に20代ではこの割合が57.0%に達し、若年層ほど自信のなさが顕著という結果が出ています。「わかっているつもりだけど、できていない人が実は多い」という事実がここに示されています。だからこそ、マナーをしっかり身につけていれば、他社と差別化できることも多いのです。
組織の一体感を作る“暗黙の共通ルール
ビジネスの場では、相手が顧客や取引先であるばかりでなく、社内の同僚や部下・上司とのかかわりも重要です。お互いが気持ちよく仕事をするために、暗黙のうちに守られるルールがあると「秩序」が保たれます。
とりわけ中小企業や家族経営の企業は、トップの価値観が組織全体に浸透しやすい反面、それが「マナー軽視」に傾くと一気に組織の風土として広まってしまう危険があります。「ルールなんてくだらない」と放置していると、後から関わる従業員や新規取引先に不快感を与え、成長の機会を逃すことにもなりかねません。
ビジネスマナーの本質は「相手に対する想像力」

相手目線を持てるかどうかがビジネスの要
私がコンサルティングを行う中で最も大切にしていることは、「相手の気持ちを想像する力」です。例えば、面談の前日に「当日の訪問時間を改めて確認する」「何か事前に必要な資料はないか尋ねる」といった丁寧さがあると、相手にとっては非常にありがたいものです。
これは何か特別なマニュアルによる「型」ではなく、「この連絡をしたら、相手の手間が減るかもしれない」という思いやりが生む行動です。ビジネスマナーとは本来、こうした相手に対する「気づかい」に基づいた行動全般を指すといっても過言ではありません。
「相手がどう思ったか」で評価が決まる
マナーというと、「正解・不正解」をという尺度で判断しがちです。しかし本当に重要なことは、「相手がどう感じたか」という結果です。どんなに難しい礼法をこなし、形式的には完璧でも、相手が「なんだか一方的で嫌だな」と感じてしまえば、そのマナーには意味がないのです。逆に、多少ルールを逸脱していても、相手が好感を抱けばよい結果につながります。もちろん、最低限の形は守りつつ、常に「相手が心地よく感じるか」を考える。これこそがビジネスマナーを身につける上での最大のポイントと言えるでしょう。
具体的行動に落とし込むコツ
実際にどのような行動をすればよいのか、簡単に例を挙げます。
- 挨拶・声掛け
忙しい相手にもあいさつを欠かさない。書類を渡す際に一言添える。名前を呼ぶなど。 - 目線・姿勢
相手の話を聞くときには、相槌(あいづち)や表情でしっかり反応を示す。 - 事前の連絡・アフターフォロー
「前日はアポイント確認、後日はお礼のメール」。時間をかけずとも失礼のない態度が伝わる。 - 言葉遣い
社外の方には敬意を表し、余計な馴れ馴れしさがないよう注意する。社内でも最低限の丁寧さを忘れない。
どれも「くだらない」という言葉で一蹴するには惜しい大事な配慮だと考えていただけるのではないでしょうか。
マナーがもたらすビジネス上の効果
効果①:対外的な信用獲得
マナーが行き届いた企業は、取引先や顧客から「安心して仕事を任せられる」という印象を持たれやすくなります。これは、企業イメージの向上にも直接的につながります。
効果②:組織内のコミュニケーション活性化
マナーを重視する企業では、自然と組織内の思いやりや連携がスムーズになる傾向があります。言葉づかいや態度が乱暴な人がいると、そこから社内の摩擦やトラブルが生まれ、人間関係がぎくしゃくしてしまいます。一方で、社内でも最低限の挨拶や報連相(ほうれんそう:報告・連絡・相談)を徹底しておけば、小さな誤解が生まれにくくなるのです。
効果③:結果として売上や利益にも寄与する
最終的には、対外的な信用が高まり、社内が円滑に動くことで、売上・利益の向上につながる可能性が高まります。「マナーなんて意味がない」と考える方もいますが、そのような企業や組織こそ、取引先や従業員が離れていき、長期的には業績を悪化させるリスクを抱えています。
Q&A
Q1. 実務で忙しく、マナー教育に割く時間がありません。どうすればいいですか?
A. まずは「挨拶・報連相の徹底」など、ビジネスマナーの中でも重要度の高い基本を優先的に指導しましょう。全員に長時間のマナー研修を行う余裕がないなら、1回数十分の短いセッションを定期的に設けるだけでも効果があります。トップが口うるさく言うより、幹部や管理職が率先垂範することが大切です。
Q2.マナーといっても堅苦しい作法ばかりで、逆に社内の雰囲気が悪くならないでしょうか?
A. 形骸化した作法ばかりを押しつけると、現場からの反発が強まる可能性があります。大事なのは、「相手を尊重する気持ち」という本質をベースにしたルールを共有することです。細かい所作よりも、最低限の礼儀や配慮を定義し、社内の合意を得ましょう。
Q3.若い社員はフランクな環境を好む印象があります。マナーを厳しくすると離職につながりませんか?
A. 真に「働きやすい環境」とは、思いやりがあるからこそ実現するものです。フランクなコミュニケーションと、礼儀のない言動は異なります。むしろ、マナーが欠如している社内環境こそ人間関係を悪化させ、結果的に離職率を高める原因にもなりかねません。若手の定着を図るうえでも、礼儀や気配りが行き届いた社内風土はプラスにはたらきます。
Q4.相手に対する想像力が大事と言いますが、具体的にどのように養えばいいですか?
A. 日頃の行動を振り返り、常に「もし自分が相手の立場ならどう感じるか」を考える癖をつけましょう。具体的には、「相手に送るメールを送信する前に一度客観的に読む」「相手の表情や反応を観察し、どのような気持ちか推測してみる」などが役に立ちます。また、社内でロールプレイを行い、互いにフィードバックを交わす方法も効果的です。
Q5.うちはもう長年やってきたから、今さらマナーを変えるのは難しいのでは?
A. 確かに長年の慣習や風土を一気に変えるのは困難です。ただし、あきらめてしまうと現場の不満が表面化したり、外部の評価を落とすリスクもあります。小さな行動の改善を積み重ねていくことで、徐々に社内に新しい空気を浸透させることが可能です。
トップや管理職が主体的に取り組むことで、「これは本気の取り組みなのだ」と社員が感じ、行動変容のハードルは下がります。
まとめ:マナーを「くだらない」で終わらせないために
ビジネスマナーは、一見すると形式的なくだらない作法に見えるかもしれません。しかしその本質は、「相手に対して想像力を持ち、思いやりを行動に移すこと」です。
- ビジネスマナーは最低限の共通言語。できて当たり前だからこそ、できていない企業は相手にされない
- 「相手目線・相手視点」が重要。いくら正しい形を守っても、相手が不快なら意味がない
- 組織内でもマナーが徹底されると、コミュニケーションと信頼感が向上し、結果として業績にも貢献する
そして中堅中小企業の経営者や役員の方が率先して「相手を尊重する姿勢」を示すことこそが、社内外にポジティブな影響を与えます。もし「うちは忙しいから」と後回しにしているなら、ぜひ目を向けてみてください。
マナーはビジネスにおける「潤滑油」です。お互いに気遣い合いながら、気持ちよく仕事ができる環境を整える。そうすることで、企業全体の信頼感と生産性を高め、長期的な成長へとつなげていきましょう。
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