唐澤経営コンサルティング事務所の唐澤です。中小企業診断士・ITストラテジストの資格を持ち、20年以上にわたり、中堅中小企業の経営戦略立案や業務改革、IT化構想策定などのコンサルティングに従事してきました。

このコラムでは、私のこれまでのコンサルティング経験をもとに、中堅中小企業の経営に役立つ情報を発信しています。

中小企業の多くが抱える悩みとして、「営業のマンパワーが足りない」「取引先の言いなりになってしまい、利益が思うように伸びない」といった声をよく耳にします。特に、中小企業では「御用聞き営業」と呼ばれるお客様主体の受け身の姿勢になりがちな営業スタイルが長らく続いており、その結果、価格交渉や納期調整などの条件面で不利な立場に立たされてしまうケースも珍しくありません。

こうした状況から脱却し、収益性や継続的な取引を確保していくために重要なのが、企業側から積極的に価値ある提案を行う「提案型営業」です。提案型営業とは、お客様の要望をただ受け止めるだけでなく、課題の本質を明確にし、それに対する解決策を提示する営業スタイルを指します。中小企業こそ、業界の“現場感”を生かしたユニークな切り口で提案する余地があります。

私の経営コンサルタント経験を踏まえ、今回のコラムでは、中小企業が提案型営業で差別化を図るために注目すべき5つのポイントをお伝えします。最新の統計や事例を交えつつ、今すぐにでも実践可能な内容をできるだけわかりやすく整理しています。読者の皆様の企業が、取引先から「ぜひあなたと一緒に事業を拡大したい」と言われるような営業体制を築くヒントにしていただければ幸いです。

組織全体で“顧客の課題を解決する”姿勢を共有する

提案型営業における組織文化の重要性

提案型営業の要となるのが、企業の組織文化です。営業担当者だけが「お客様の課題を解決しよう」と頑張ったところで、社内でのサポート体制がなければ成果は限定的になります。社内のあらゆる部門が「お客様の成功につながる提案を後押しするために動く」という共通認識を持つことが不可欠です。

例えば製造部門ならば、「通常よりも短納期・小ロットで製造できる新体制を組む」、経理部門ならば「新規提案に合わせた柔軟な支払い条件を検討する」といった形で、社内全体が提案の実現を支援できる体制づくりが望まれます。

経営者からのトップダウンでの後押し

中小企業では社長のリーダーシップが組織全体を大きく左右することが多いものです。まずは経営者自身が「提案型営業への転換が重要である」ことを強く認識し、それを全社員に示すことから始めましょう。経営者が率先して動き出すことで、「これはただのスローガンではなく、会社を変える本気の取り組みなんだ」というメッセージが従業員に伝わります。そうすることで、提案型営業に必要な積極的なアイデアの発信や部門間連携が進みやすくなります。

“顧客の潜在ニーズ”を掘り起こすための情報収集力

現地・現場でのヒアリングを重視する

御用聞き営業に陥りやすい理由の一つが、取引先への訪問やヒアリングが表面的になりがちな点です。「何か困っていることはありませんか?」という単純な質問だけでは、顕在化していない課題は見えてきません。そこで有効なのが、現地や現場への足を運び、「何に時間がかかっているのか」「社員がどう動いているのか」といったリアルな状況を観察することです。実際に製造ラインやオフィスを見学させてもらうことで、お客様自身が気づいていないムダや改善の余地を発見できることがあります。「具体的な改善提案につながるインサイト(着想)」は、現場を見ることから得られるケースが多いのです。

取引先だけでなく、市場全体を把握する

中小企業であっても、市場全体の動向や技術トレンドなどを把握しておくことは提案型営業に欠かせません。例えば、業界の最新動向を調べ、それにあわせた提案ができれば、相手にとって非常に有益となるでしょう。情報収集力が高い企業ほど、顧客ニーズの変化に柔軟に対応しやすくなる可能性は高まるでしょう。

 “相手の利益を最大化する提案”を核にする

提案の切り口はコスト削減だけではない

提案型営業と聞くと、まずは「コスト削減」を切り口にするケースが多いものです。しかし、コスト削減だけでは。長期的な信頼構築に限界があることも事実です。コスト削減はわかりやすく、短期的にはメリットに映るのですが、一方で差別化にはつながらない凡庸な提案と見なされる可能性も高いです。

むしろ、中小企業の強みである柔軟なサービス提供や相手企業の事情に合わせた細やかな調整力を活かし、「利益率の向上」「売上アップ」「新規顧客の開拓支援」など、相手の成長に直結する提案を積極的に行うことが有効です。例えば、「この新製品を使えば、生産工程が簡略化され、品質を落とさずに年間のリードタイムが10%短縮できます。そして空いた稼働を新規案件に振り向けられます」といった具合です。

相手の経営課題に入り込む

相手企業の経営課題を理解するうえで、「相手の事業目標」や「財務状況」「今後の成長戦略」など、やや踏み込んだ情報を入手する必要があります。そのために「今後の事業方針を伺ってもよろしいですか?」といった形で、経営者やキーパーソンに直接ヒアリングを行うことも大切です。仮に相手が当初は警戒しているとしても、こちらが本気で相手の課題解決に取り組みみたいという姿勢を示せれば、徐々に意見交換の場が増え、より突っ込んだ情報を得られるようになるでしょう。

このように経営課題に入り込み、相手の未来像に寄り添った提案ができるようになると、「御社は単なる取引先ではなく、頼れるパートナーだ」という評価を得やすくなるでしょう。

自社だけでなく“外部リソース”も駆使した総合的な提案

パートナー企業との連携

中小企業の場合、自社内のリソースだけではお客様の課題すべてを解決しきれないことも多々あります。しかし、だからこそ外部のパートナー企業を活用する余地があります。例えば、同業種や関連業種のネットワークを持っているならば、「自社では解決できない課題はパートナー企業に協力してもらう」という仕組みを作り、総合力として提案を行うのです。

外部リソースを組み合わせることで、結果的に「顧客の課題を包括的に解決する」提案ができるようになりますし、相手にとっては「必要なサポートを一括で提供してもらえる」という大きなメリットがあります。

公的支援制度の活用提案

中小企業向けの各種支援策を案内し、適切に活用してもらうことも提案の付加価値になります。例えば、中小企業庁が実施している「ものづくり補助金」や「IT導入補助金」などは、設備投資やシステム導入を支援する代表的な制度です。

これらの支援を利用して顧客が負担を抑えつつ新しい取り組みにチャレンジできれば、相手企業だけでなく自社の新ビジネスチャンスにもつながります。実際、そうした公的制度の情報提供をきっかけに、長期的な顧客関係を構築できた中小企業もあります。

“成果の見える化”と定期的なフォローアップ

提案の価値を可視化する

提案型営業では、その提案がどれだけ相手企業にプラスになっているかを定期的に確認・共有する仕組みが非常に重要です。具体的には、「提案導入後にどれだけコスト削減できたか」「新規顧客の獲得数はどの程度増えたか」といった指標を見える化して提示します。数字による評価が明確になると、顧客の納得感が高まり、継続的な取引や追加提案のチャンスにもつながります。

定期フォローでリピート率向上

「一度提案して終わり」ではなく、導入後のフォローアップも大切です。定期的に訪問やオンラインミーティングを行い、運用状況のヒアリングや追加改善の提案を行いましょう。フォローアップの質が高いと、顧客が抱える新たな悩みにいち早く気づき、追加受注や他部門への横展開が期待できます。

Q&A

Q1. 提案型営業に踏み切りたいのですが、自社の商品力に自信がありません。どうすれば良いでしょうか?
A. 商品力が十分でないと考えている場合でも、課題解決の着眼点を増やすことで提案の幅は広がります。たとえば、他社と業務提携を行うことや、公的支援制度を活用したソリューションなど、自社単独ではない形で付加価値を高める方法もあります。商品力だけでなく「提案力」で勝負できるのが中小企業の強みでもあるのです。

Q2. 相手企業に踏み込んだ話をすることに抵抗があります。押し付けがましい印象を与えないでしょうか?
A. 大切なのは、相手のために本気で考える姿勢を示すことです。ただ「もっと詳しくお聞かせください」ではなく、「より適切な提案をするために、もう少し詳しく状況を教えていただいてもよろしいでしょうか?」といった丁寧な言葉遣いや事前の説明を心がけると、相手も協力的になってくれます。

Q3. 現場へのヒアリングに行っても、あまり情報が集まりません。何かコツはありますか?
A. まずは現場の担当者が忙しくない時間帯を見計らう、あるいは質問を具体的に用意するなど、受け手側の状況に配慮する工夫が重要です。例えば「ライン作業で1日どのくらい手待ち時間が発生しますか?」といった数字を意識した問いをすることで、より具体的な情報を得やすくなります。また、1回でダメでも複数回接触を重ねるうちに、相手の心がほぐれて情報を共有してくれるケースも多いです。

Q4. 定期フォローをするにも時間や人員が不足しています。効率よく行う方法はありますか?
A. オンラインミーティングやメールマガジン、SNSなどを上手に組み合わせると、対面での訪問頻度を抑えつつ顧客との接触回数を増やせます。ただし大事なのは、ただ情報発信するのではなく、「顧客をサポートしたい」という姿勢でやり取りすること。必要に応じて外部リソースを活用した顧客管理システム(CRM)などを導入するのも一つの手です。

まとめ

御用聞き営業では、なかなか差別化が難しく、価格競争や短納期要求など、厳しい条件を突きつけられるリスクも高まります。そこで、提案型営業を導入することで、中小企業であっても大手に負けない「唯一無二の存在感」を示すことが可能になります。

  1. 組織全体で“顧客の課題を解決する”姿勢を共有
    • 経営者自らが率先し、社内全体を巻き込む体制づくりが大切。
  2. “顧客の潜在ニーズ”を掘り起こす情報収集力
    • 現地・現場に足を運んでヒアリング。市場全体の動向把握も重要。
  3. “相手の利益を最大化する提案”を核にする
    • コスト削減だけでなく、売上拡大や新規顧客開拓など成長支援を視野に。
  4. 自社だけでなく“外部リソース”も駆使した総合提案
    • パートナー企業や公的支援制度を組み合わせることで、包括的な解決策を提供。
  5. “成果の見える化”と定期的なフォローアップ
    • 提案導入後の効果を数値で示し、定期的に顧客と意見交換。長期的な関係構築へ。

提案型営業は、企業体質そのものを変える可能性を持った営業手法です。最初は社内外に抵抗感があるかもしれませんが、継続的に取り組むことで確実に信頼関係を育み、取引先とのウィンウィンの関係を構築できます。特に中堅中小企業は大企業にはないフットワークの軽さと柔軟性を生かすことで、大きな差別化を図りやすいというアドバンテージがあります。 厳しい経営環境が続く中であっても、新しいアイデアと積極的な行動力で取引先とのパートナーシップを深め、大きくビジネスを伸ばすチャンスをつかんでいただければ幸いです。ぜひ今日から、社内での提案型営業実践へ向けた第一歩を踏み出してください。

私たち唐澤経営コンサルティング事務所では、「コーチング」と「コンサルティング」を組み合わせ、中小企業の経営課題解決と成長戦略の策定を強力にサポートいたします。

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この記事を書いた人

唐澤 智哉

新卒で大手金融系シンクタンクに入社し、大手企業向けのITコンサルティングに従事。その後、2社のコンサルティングファームにて、大手企業向けの業務改革・ITコンサルティングに従事。
2012年に大手IT企業に入社し、中小企業向けのコンサルティング事業の立ち上げの中心メンバーとして事業化までを経験し、10年間中小企業向けの経営コンサルティング・ITコンサルティングや研修・セミナーに従事。
その後、2022年に唐澤経営コンサルティング事務所を創業。中小企業向けの経営コンサルティング、DXコンサルティング、研修・セミナー等のサービスを提供している。
趣味は読書で、年間200冊近くの本を読む。