唐澤経営コンサルティング事務所の唐澤です。中小企業診断士・ITストラテジストの資格を持ち、20年以上にわたり、中堅中小企業の経営戦略立案や業務改革、IT化構想策定などのコンサルティングに従事してきました。
このコラムでは、私のこれまでのコンサルティング経験をもとに、中堅中小企業の経営に役立つ情報を発信しています。
「うちの社員は、どうして指示通りに動いてくれないんだ…」
「言われたことしかやらない社員ばかりで、チームに一体感がない…」
「何度言っても、同じミスを繰り返す。どう指導すればいいのか…」
もしあなたが今、このような悩みを抱えているとしたら、それは決してあなた一人の問題ではありません。多くの、特に中堅中小企業の経営者・役員・管理職の方々が直面している共通の課題です。かつて、私も同じような壁にぶつかり、頭を抱えてたことがあります。
経営コンサルタントとして数多くの中堅中小企業を支援してきましたが、業績が伸び悩む組織には、ある共通点があることに気づきました。それは、リーダーが一方的に「話す」だけで、「人を巻き込めていない」という事実です。
逆に、圧倒的な成長を遂げている企業には、必ず「人を巻き込むのが上手いリーダー」がいます。彼らは特別なカリスマ性や、生まれ持った才能だけで人を動かしているわけではありません。彼らには、誰もが身につけられる、シンプルでありながら極めて効果的な「コミュニケーションの技術」があったのです。
本コラムでは、人を動かすための「本質的なコミュニケーション術」を、わかりやすく解説します。 今、組織の閉塞感に悩んでいるあなたへ。このコラムを読み終える頃には、明日から実践できる具体的なヒントが見つかり、チームを、そして会社を劇的に変える第一歩を踏み出せるはずです。
チームを停滞させる「伝わらないコミュニケーション」の3つの落とし穴

「うちの社員は、私の言いたいことが全然分かっていない」
このように感じたことはありませんか?実は、それは社員の理解力不足ではなく、あなたの「伝えていない」が原因かもしれません。多くのリーダーが陥りがちなコミュニケーションの落とし穴は、以下の3つに集約されます。
落とし穴①:「一方的な情報伝達」に終始している
多くのリーダーが、部下への指示や連絡を「一方的な情報伝達」で済ませてしまっています。
「〇〇をやっておいて」「明日の会議は〇時に変更」といった一方的な指示や事務連絡だけでは、相手は「なぜそれをやるのか?」「その仕事の意義は何なのか?」を理解できません。その結果、やらされ感が生じ、モチベーションは低下し、指示以上のパフォーマンスは期待できなくなります。
「日本の人事部 人事白書2025」によると、新卒採用で企業が最も重視する能力は「コミュニケーション能力」で、82.0%を占めています。これは、企業が「一方的に話す」能力ではなく、「人と協調し、チームで動ける」能力を求めていることの表れです。あなたのコミュニケーションは、社員を「ただの作業者」にしていませんか?

落とし穴②:「対話」を「雑談」と勘違いしている
「社員と毎日、雑談しているから大丈夫だろう」
ひょっとすると、あなたはこのように考えている方もいるかもしれません。しかし、単なる雑談と生産的な「対話」は全くの別物です。
対話とは、お互いの意見や考え、背景にある思いを深く理解し、共通の目的に向かって協働するためのコミュニケーションです。 多くの企業で、社内コミュニケーションの課題として最も多く挙げられているのが「社員の参加意識の醸成」です(株式会社月刊総務「社内コミュニケーションの調査)。これは、単に話す機会が足りないのではなく、社員が「自分の意見が組織に反映される」という実感が持てないことに起因します。

落とし穴③:「非言語コミュニケーション」を軽視している
人は、話す内容(言語情報)だけでなく、表情や声のトーン、身振り手振りといった「非言語コミュニケーション」からも多くの情報を読み取ります。
あなたがどれほど熱意ある言葉を語っても、無表情で腕組みをしながら話していれば、部下は「この人は本当にやる気があるのかな」と不安に感じてしまいます。 特に、オンラインでのコミュニケーションが増えた現代では、この非言語情報の不足が、チームの一体感を損なう大きな要因となっています。
人を巻き込むのが上手いリーダーが実践する「3つのコミュニケーション術」

では、どのようにすれば、これらの落とし穴を回避し、人を動かす「巻き込み力」を身につけることができるのでしょうか?ここからは、私が多くの成功事例から導き出した、3つのコミュニケーション術をお伝えします。
①「聞く」:傾聴を極めることで、信頼の土台を築く
「リーダーは話すのが仕事」だと思っていませんか?実は、人を動かす第一歩は「徹底的に聞くこと」です。
あなたの周りに、なぜか人が集まり、相談されるリーダーはいませんか?彼らは、あなたの話を遮らず、真剣に耳を傾けてくれます。そして、「それはなぜそう思うのですか?」と、あなたの思考を深めるような質問を投げかけてくれます。この「傾聴」こそが、信頼関係を築く上で最も重要なスキルです。あなたが相手の話を深く聞くことで、相手は「この人は自分を尊重してくれている」と感じ、心を開いてくれます。そして、部下や社員が抱える本当の課題や、潜在的な強みを知ることができます。
傾聴を実践するための具体的な行動は以下の通りです。
- 相手に「伝える」のではなく、「引き出す」という意識を持つ
一方的に指示するのではなく、「このプロジェクトの成功には何が必要だと思う?」と部下に問いかけることで、自ら考え、行動するきっかけを与えます。 - 「聴く」だけでなく、「聞く」ことも重要
相手の言葉だけでなく、その言葉の背景にある感情や意図、なぜそう考えるのかという「Why」に耳を傾けましょう。例えば、部下が「この仕事、ちょっと難しいです」と言ってきたら、「なぜ難しいと感じるのか、具体的に教えてくれる?」と深掘りすることで、本当の原因(時間がないのか、スキルがないのか、精神的なプレッシャーなのか)を把握できます。 - 沈黙を恐れない
相手が話すのを待つ「沈黙」は、決して無駄な時間ではありません。相手が考えを整理するための時間を与え、より深い本音を引き出すための重要な間合いです。
②「伝える」:目的と未来を明確にする「ビジョンの言語化」
相手の信頼を勝ち取ったら、次に重要になるのが「伝える技術」です。ここでいう「伝える」とは、単に指示を出すことではありません。「何のために、何を成し遂げるのか?」という目的と未来を、感情に訴えかける言葉で伝えることです。
- ミッション(使命)を明確に語る
会社が何のために存在し、誰にどんな価値を提供しているのか?社員は、このミッションに共感することで、単なる業務を超えた「やりがい」を見出します。例えば、あなたの会社が部品製造業を営んでいるとしたら、「ただ部品を作っている」と伝えるのではなく、「私たちの部品は、人々の暮らしを便利にする家電製品の心臓部だ。私たちの仕事は、社会の発展を支えているんだ」と語りかけるのです。これは、社員の誇りを育み、日々の仕事に意味を持たせます。 - 具体的な未来(ビジョン)を共有する
「売上を伸ばす」という目標だけでは、社員はワクワクしません。「3年後には、自社ブランドの商品を開発し、世界中の人々に喜んでもらう。そのために、この新プロジェクトを成功させよう!」と、具体的な未来像を共有しましょう。人は、目的地が明確で、そこに至るまでの道筋が見えれば、自ら進んで歩みだします。
③「任せる」:権限移譲と伴走で、自律性を育む
多くのリーダーが「任せること」に不安を感じています。
「自分でやった方が早い」
「失敗されたら困る」
しかし、いつまでも自分で抱え込んでいては、あなたの負担は増えるばかりで、社員は成長しません。人を巻き込むリーダーは、勇気を持って「任せる」ことを実践しています。
- 権限を委譲する
権限委譲とは、単に仕事を振るだけでなく、その仕事の進め方や決定権の一部を部下に与えることです。これにより、部下は「自分が責任を持って、この仕事をやり遂げる」という当事者意識を持つようになります。権限委譲は、社員の能力を最大限に引き出し、リーダーの時間をより重要な経営判断に使うことを可能にします。 - 伴走する
権限を委譲したら、それで終わりではありません。あなたが目指す方向性から外れないよう、そして部下が困難に直面したときにすぐに相談できるよう、定期的なミーティングや1on1ミーティングを設定し、伴走します。 この「見守り、支える」というスタンスが、部下の安心感を生み、挑戦への意欲を高めます。
明日からできる具体的なアクションプラン

ここまで読んで、「頭ではわかったけど、何から始めればいいかわからない…」と感じた方もいるかもしれません。ここからは、私がコンサルティング現場で、実際に成果を出してきた3つの実践的なアクションプランをご紹介します。
①:1on1ミーティングを「週に1回、15分」から始める
「忙しくて、部下と話す時間なんてないよ…」
わかります。もしそうであるならば、たった15分でいいです。会議室の予約はしなくても構いません。オフィスの一角で、コーヒーを片手に、以下の3つに絞って話してみてください。
- 前週の良かったこと(成功体験)
- 今週の課題(困っていること)
- 個人的な目標(仕事でもプライベートでもOK)
この短い時間で、部下は「自分のことを気にかけてくれている」と感じます。そして、あなたが課題を共に解決してくれる「伴走者」だと認識し、信頼関係が深まります。
②:「なぜ、この仕事が必要なのか?」を毎日1回語る
朝礼でも、メールでも、一言で構いません。例えば、以下のように、あなたの言葉で目的を語りかけてください。
- 「今日のお客様との商談は、私たちの新サービスを広める第一歩だ。みんなで未来を創る日だと意識して頑張ろう」
- 「この資料作成は、一見地味な作業かもしれない。でも、このデータがなければ、次の戦略は立てられない。君の仕事が、会社の未来を左右するんだ」
この一言が、部下の仕事に対するモチベーションと、組織への貢献意欲を劇的に高めます。
③:「ありがとう」を具体的に伝える習慣をつける
「言わなくてもわかるだろう」は、通用しません。感謝の言葉は、具体的に伝えることで、その効果を最大化します。
- 「〇〇さん、企画書の見直しをありがとう。君の細やかな気配りのおかげで、取引先からの信頼度が格段に上がったよ」
- 「昨日のトラブル対応、本当に助かった。深夜まで対応してくれてありがとう。君の迅速な対応が、会社のピンチを救ったんだ」
この具体的な感謝は、部下の自己肯定感を高め、次への行動を促す最高のフィードバックになります。
Q&A
Q1:社員が全然意見を言ってくれません。どうすればいいでしょうか?
A:まず、「心理的安全性」が確保されているか、見直してみてください。心理的安全性とは、チームの誰もが「こんなことを言ったら、バカにされるかも…」「間違ったことを言ったら、怒られるかも…」といった不安を感じることなく、自由に発言できる雰囲気のことです。もし、社員が意見を言わないなら、あなたの過去の言動が原因かもしれません。例えば、部下の意見に対して、「そんなこと考えても無駄だ」「それは違う」と頭ごなしに否定していませんか?
具体的な改善策としては、
- 意見を否定しない:「〇〇さんの意見、面白いね。もう少し詳しく聞かせて」と、まずは受け止める。
- 意見を言った人を褒める:「〇〇さんが意見を言ってくれたおかげで、新しい視点に気づいたよ。ありがとう」と、感謝を伝える。
- 意見を採用する:小さなことでもいいので、意見を形にして見せる。
これらを徹底することで、社員は「意見を言っても大丈夫なんだ」と感じるようになります。
Q2:部下との間に世代間ギャップを感じ、どう接すればいいかわかりません。
A:世代間の違いは、あって当然です。大切なのは、違いを理解しようと努め、それに合わせたコミュニケーションを心がけることです。例えば、若い世代は、電話よりもチャットやメールを好む傾向にあります。一方で、上の世代は、対面や電話での会話を重視する傾向があります。このように、コミュニケーションのツールひとつとっても、違いがあることを認識しましょう。
また、若い世代は、
- 仕事の意義や目的を重視する
- プライベートな時間を大切にする
- 一方的な指示よりも、対話や協働を好む
といった特徴があります。ですから、彼らには
- 仕事の目的や背景を丁寧に説明する
- 定時で帰ることを推奨するなど、ワークライフバランスへの配慮を示す
- 対話の機会を増やす(1on1や定期的なチームミーティングなど)
- SNSでの情報共有など、彼らが使い慣れたツールを活用する
といったアプローチが有効です。
まとめ
人を巻き込むコミュニケーションは、決して特別な才能ではありません。それは、
- 相手を理解しようと「聞く」姿勢
- 共通の目標を熱意をもって「伝える」言葉
- 相手の成長を信じて「任せる」勇気
という、極めて人間的な営みの積み重ねです。
中堅中小企業が、この激変の時代を生き抜くためには、経営者であるあなた一人の力ではなく、社員一人ひとりが自律的に動き、最大のパフォーマンスを発揮できる組織を創り上げることが不可欠です。そのためには、あなたのコミュニケーションを「一方通行」から「双方向」へと変革する必要があります。
まずは今日、このコラムで学んだことの中から、たった一つでいいので実践してみてください。 その小さな一歩が、やがて大きな信頼となり、あなたのチームを、そして会社を、想像もしていなかった未来へと導いてくれるはずです。
私たち唐澤経営コンサルティング事務所では、「コーチング」と「コンサルティング」を組み合わせ、中堅中小企業の経営課題解決と成長戦略の策定を強力にサポートいたします。経営に関するご相談や無料相談をご希望の方は、下記フォームよりお気軽にお問い合わせください。

経営者が抱える経営課題に関する
分からないこと、困っていること、まずはお気軽にご相談ください。
ご相談・ご質問・ご意見・事業提携・取材なども承ります。
初回のご相談は1時間無料です。
LINE・メールフォームはお好みの方でどうぞ(24時間受付中)