唐澤経営コンサルティング事務所の唐澤です。中小企業診断士・ITストラテジストの資格を持ち、20年以上にわたり、中堅中小企業の経営戦略立案や業務改革、IT化構想策定などのコンサルティングに従事してきました。

「うちの社員は、どうにもやる気がなくて困っている」
「何度言っても改善しないから、もう放っておくしかないのか」

このような悩みを抱えていらっしゃる方は少なくありません。特に人材が限られる中堅中小企業にとって、社員一人のパフォーマンス低下は、組織全体の活力を著しく削いでしまいます。

しかし、私の経験から言えるのは、「安易な放置は最悪の選択である」ということです。

社員の「やる気のなさ」には、実は様々な背景があります。単なる個人の怠慢に見えても、その原因が「組織の構造」や「マネジメントのあり方」にあることも少なくありません。放置することは、その根本原因を見逃し、問題がさらに深く根付くのを許すことになります。

本コラムでは、社員の「やる気のなさ」の本質的な見極め方と、組織の活力を最大化するための実践的かつ効果的な対処法について、経営知識に乏しい方にもわかりやすい言葉で徹底的に解説します。 社員の力を最大限に引き出し、貴社の成長を加速させるための「見極めと対処のベストバランス」を、ここで一緒に見つけましょう。

放置してはいけない理由と「やる気のなさ」の本当の原因

放置が組織にもたらす3つの深刻なリスク

「どうせ言っても無駄だから」と、やる気のない社員を放置することは、短期的には楽かもしれませんが、長期的には組織に計り知れない損害を与えます。

  1. 士気の伝染(モラルの低下): 一部の社員の「やる気のなさ」は、周囲の「真面目にやっている社員」のモチベーションを確実に蝕みます。「頑張っても報われない」「サボっても何も言われないなら、自分も手を抜こうか」という空気が蔓延し、やがて組織全体のモラル(士気)が低下します。
  2. 優秀な人材の流出: 頑張っている人が損をする組織に、優秀な人材は留まりません。不公平感や不満が蓄積し、結果として「デキる人」から辞めていくという、最も避けたい事態を引き起こします。
  3. 顧客満足度の低下と業績悪化: やる気のない状態での仕事は、必ず品質の低下を招きます。納期の遅延、ミスの増加、接客態度の悪化などは、そのまま顧客満足度の低下に直結し、最終的には貴社の売上や利益を圧迫します。

表面上の「やる気のなさ」の裏にある4つの本質的な原因

社員のパフォーマンスが低いとき、私たちはつい「あの人は怠けている」と決めつけがちです。しかし私の経験から言えるのは、その原因が必ずしも怠慢だけとは限らないということです。真の原因を見極めることが、対処の第一歩です。

原因具体的な状況と社員の心理対処の方向性
A. 環境要因「頑張っても評価されない」: 評価制度が曖昧、または成果が適正に報われないと感じている
「この仕事に意味があるのか?」: 会社のビジョンや目標が共有されておらず、自分の仕事が何に繋がっているのかが見えない
仕組みの改善: 評価制度の透明化、ビジョン・目標の共有を徹底する
B. 能力要因「やり方がわからない」: スキル不足や知識不足で、どうすれば良い結果が出るのかがわからない 「難しすぎて手がつけられない」: 任された仕事のレベルが、現時点の能力を大幅に超えている(ストレッチではなくキャパオーバー)教育と配置: OJT(実務を通じた指導)の強化、研修機会の提供、適材適所への再配置を検討する。
C. 関係要因「上司や同僚とソリが合わない」: 職場の人間関係のストレスが、仕事への意欲を削いでいる
「相談しても無駄だ」: 上司や会社への信頼感が低く、孤立感を感じている
コミュニケーションの改善: 1on1ミーティング(上司と部下の個別面談)の定期的実施、ハラスメント対策の徹底
D. 意欲要因(本人の問題)「仕事以外のことを優先したい」: 仕事への優先度が低い、またはキャリアに対する意欲が低い
「単に面倒くさい」: 自己規律の欠如や責任感の不足
厳格な規律と目標設定: 行動基準の明確化、達成目標の徹底的な管理、場合によっては配置転換や懲戒処分も視野に入れる

多くのケースでは、A~Cの組織やマネジメントに原因があることが判明します。安易にDと決めつけず、まずは環境や関わり方を見直すことがポイントです。

「見極め」のための行動分析と対話術

「やる気のなさ」を「環境」「能力」「関係」「意欲」のどの要因によるものかを正しく見極めるためには、感情論ではなく、具体的な行動と対話に基づいた分析が必要です。

行動パターンによる初期見極めチェックリスト

社員の行動を客観的に観察し、原因を推測します。

行動パターン推測される主な原因
報告・連絡・相談(ホウレンソウ)が滞るB. 能力要因 (何を報告すべきかわからない) /C. 関係要因 (上司に悪い報告をしたくない、言っても無駄だと思っている)
遅刻・欠勤が増える、就業中の離席が多いD. 意欲要因 (仕事への優先度が低い) /C. 関係要因/A. 環境要因 (職場に行きたくない、環境への不満)
仕事の質は低いが、指示されたことだけはやるA. 環境要因 (評価されていないので、必要最小限しかやらない) /B. 能力要因 (どうやれば質が高まるかわからない)
新しい仕事や改善案の提案を全くしないA. 環境要因 (提案しても通らない、面倒が増えるだけ) /D. 意欲要因 (現状維持で十分と思っている)

これらの行動はあくまで「推測」の手がかりです。この推測を検証するために、次の「対話」が不可欠となります。

原因を特定するための「傾聴と質問の技術」

原因を特定するためのカギは、社員に「なぜそうなっているのか」を本人自身の言葉で語らせる対話術、すなわち傾聴です。上司や管理職は、社員を「問い詰める」のではなく、「理解しようとする姿勢」を示す必要があります。

1. 信頼関係を築く対話の環境設定

  • 個室など、他に聞かれない環境を用意します。
  • 「最近少し元気がないように見えるが、何か困っていることはないか」など、相手を気遣う姿勢から話を切り出します。

2. 原因を探る質問例

質問は、Yes/Noで終わらない「オープン・クエスチョン」を心がけます。

原因の検証を促す質問例意図
「今の仕事で、特にうまくいっていると感じる部分はどこですか?逆に、壁を感じている部分はありますか?」B. 能力要因の有無、達成感の有無を確認
「あなたの仕事のゴールは、どのような状態だと考えていますか?会社があなたに期待していることとズレはありませんか?」A. 環境要因(目標のズレ)やD. 意欲要因(仕事への関心の低さ)を確認
仕事がスムーズに進むために、周りのメンバーや私(上司)にサポートしてほしいことはありますか?」C. 関係要因A. 環境要因(サポート体制の不足)を確認

この対話の中で、社員が「誰もサポートしてくれない」「評価基準が納得できない」といった組織に対する不満を口にした場合、それはA. 環境要因またはC. 関係要因である可能性が高いです。一方で、「特に不満はないが、なんとなくやる気が出ない」という曖昧な回答が続く場合は、D. 意欲要因の可能性を探る必要があります。

原因別!効果的な対処戦略と組織的アプローチ

原因が特定できたら、それに応じた適切な対処を実行します。対症療法ではなく、根本治療を目指すことが、組織の継続的な成長に繋がります。

【A. 環境要因・C. 関係要因】への対処:組織の仕組みとマネジメントの改善

原因が組織や人間関係にある場合、会社側が行動を改める必要があります。

  • 目標と評価の透明化(A)
    • 目標設定の際には、社員自身の意見も取り入れた納得感のある目標(コミットメント)を設定します。
    • 評価基準と評価のプロセスを明確にし、「何をやれば評価されるのか」を誰もが理解できるようにします。
  • ビジョンの共有と仕事の「意味付け」(A)
    • 社長自らが、会社の将来像(ビジョン)を熱く語り、社員一人ひとりの仕事が、そのビジョン達成にどう繋がっているのかを具体的に示します。
    • これを「パーパス・ドリブン(目的駆動)」と呼びます。単なる作業ではなく、「誰かの役に立っている」という実感を社員に持たせることが重要です。
  • 定期的・建設的な対話(C)
    • 上司による1on1ミーティングを、業務進捗の確認だけでなく、社員のキャリアや精神的な健康状態を把握する場として、最低月1回は実施します。
    • 上司には「傾聴スキル」や「フィードバックの仕方」などのマネジメント研修を徹底し、ハラスメントを許さない職場環境を構築します。

1on1については以下の記事でも解説していますので、もしよろしければお読みください。

【B. 能力要因】への対処:成長機会の提供と権限委譲

スキルや知識の不足が原因の場合、「教育」と「機会」を与えます。

  • OJTとOFF-JTの組み合わせ
    • OJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング:実務を通じての教育)では、トレーナーとなる先輩社員や上司が、仕事を細分化してステップごとに指導します。
    • OFF-JT(オフ・ザ・ジョブ・トレーニング:座学研修など)で基礎知識を補強し、OJTの効果を高めます。
  • 「少し背伸び」の仕事の提供(権限委譲)
    • 社員の能力をわずかに上回る「ストレッチ目標」を設定し、達成に必要な権限を委譲します。成功体験を通じて「自分にもできる」という自信と、次のステップへの意欲を引き出します。

【D. 意欲要因(本人の問題)】への対処:規律の明確化と最終通告

組織やマネジメントの改善(A, B, Cへの対処)を尽くしても、なお改善が見られない場合は、本人に起因する意欲の問題である可能性が高いと判断せざるを得ません。この段階では、規律(ルール)に基づいた毅然とした態度が必要です。

  1. 行動基準の明確化: 遅刻、納期遅延、業務態度の問題点などを具体的に文書化し、「いつまでに、どう改善すべきか」を明確に伝えます(改善計画書の提示)。
  2. 指導の記録(エビデンス): 指導を行った日時、内容、本人の反応、改善の約束などを必ず記録に残します。これは、後に配置転換や懲戒処分を行う際の重要な証拠となります。
  3. 最終通告と配置転換の検討: 改善が見られない場合は、「このままでは会社のルール上、配置転換や懲戒処分の対象となり得る」ことを最終通告として伝えます。社員には、自分のキャリアについて真剣に考えさせる機会を与えます。

「D」の要因に対処することは、経営者にとって心苦しい決断を伴うことがあります。しかし、一人のやる気のない社員を野放しにすることは、他の大勢の真面目な社員に対する裏切りとなり、組織全体を崩壊させます。組織の規律と公平性を守るための、経営者としての「勇気ある行動」が求められます。

なお、懲戒免職については以下の記事でも解説していますので、もしよろしければお読みください。

Q&A

Q1. 「給料を上げればやる気が出る」というのは本当ですか?
A. 短期的には効果がありますが、長期的には続きません。給与は、心理学でいう「衛生要因」の一つです。給与が低いと不満が出ますが、上げたからといって持続的な「やる気」には繋がりません。一時的に喜んで頑張っても、やがてその給与水準が「当たり前」になり、モチベーションは元に戻ります。

社員の持続的な「やる気(動機付け要因)」を引き出すのは、仕事の達成感、正当な評価、責任ある仕事、成長の機会などです。これらが満たされて初めて、給与が「報われている」という実感を強化し、長期的な定着と貢献に繋がります。給与を上げる前に、まずは「評価と成長の仕組み」を整備することが先決です。

Q2. 辞めてもらうことを考えるべきタイミングはいつですか?
A. 「組織的な改善を尽くしても、なお改善が見られない時」です。私はまず「活かすこと」を最優先しますが、以下の全てを満たした場合は、組織全体の健全化のために「最終的な決断」を検討すべきです。

  1. 会社の仕組みやマネジメント(A, C)を改善し、環境を整えた。
  2. 本人に成長の機会(B)を与え、教育・指導を尽くした。
  3. 規律に基づき、改善の機会と最終通告(D)を行ったが、改善の意思が見られない。

特に、その社員の存在が他の社員の士気を著しく下げている、または企業に明確な損害を与え続けている場合は、決断を遅らせるべきではありません。経営者の最も重要な役割の一つは、「組織の公平性」を守ることです。

Q3. 若手社員が「指示待ち」で動かないのはなぜですか?
A. 多くの場合、「失敗への過度な恐れ」と「任せられていない実感」が原因です。現代の若手社員は、上司の顔色を伺い、失敗して怒られることを過度に恐れる傾向があります。この背景には、厳しい詰め方をするマネジメントや、情報過多な社会で「正解」を求めすぎる傾向があります。
対処法として、上司は「失敗を責めない文化」を徹底し、「まずはやってみよう」という姿勢を評価することが重要です。また、「〇〇をやっておけ」ではなく、「この目的を達成するために、あなたはどうすれば良いと思うか?」と質問し、自分で考えさせる(自律を促す)習慣をつけさせることが、指示待ち体質からの脱却に繋がります。

まとめ

社員の「やる気のなさ」への対処は、「放置」か「解雇」かの二択ではありません。経営コンサルタント歴20年の経験が示す「ベストバランス」とは、「活かす努力」と「規律の徹底」を両立させることにあります。

  • 最初の努力(活かす努力): 環境要因、能力要因、関係要因を徹底的に分析し、組織側の仕組みやマネジメントを改善する。社員を理解し、成長の機会を与える。
  • 最後の線引き(規律の徹底): 組織側の改善を尽くしても、なお意欲の問題(D)が解決しない場合は、規律に基づいた毅然とした対処(最終通告、配置転換など)をためらわない。

中堅中小企業の経営者の皆様には、安易に社員を諦めるのではなく、まずは「なぜこの社員はやる気が出ないのだろうか?」と、自分の組織とマネジメントに問いかけることから始めていただきたいのです。社員のモチベーションの源泉を理解し、適切な土壌を耕すこと。それこそが、貴社の成長を支える「最強の組織」を作り上げるための、最も実践的かつ効果的な一歩です。

本コラムが、あなたのの経営判断の一助となれば幸いです。

私たち唐澤経営コンサルティング事務所では、「コーチング」と「コンサルティング」を組み合わせ、中堅中小企業の経営課題解決と成長戦略の策定を強力にサポートいたします。経営に関するご相談や無料相談をご希望の方は、下記フォームよりお気軽にお問い合わせください。

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この記事を書いた人

唐澤 智哉

新卒で大手金融系シンクタンクに入社し、大手企業向けのITコンサルティングに従事。その後、2社のコンサルティングファームにて、大手企業向けの業務改革・ITコンサルティングに従事。
2012年に大手IT企業に入社し、中小企業向けのコンサルティング事業の立ち上げの中心メンバーとして事業化までを経験し、10年間中小企業向けの経営コンサルティング・ITコンサルティングや研修・セミナーに従事。
その後、2022年に唐澤経営コンサルティング事務所を創業。中小企業向けの経営コンサルティング、DXコンサルティング、研修・セミナー等のサービスを提供している。
趣味は読書で、年間200冊近くの本を読む。