唐澤経営コンサルティング事務所の唐澤です。中小企業診断士・ITストラテジストの資格を持ち、20年以上にわたり、中堅中小企業の経営戦略立案や業務改革、IT化構想策定などのコンサルティングに従事してきました。

「A君、この大量の資料、今日の夕方までに全部まとめておいてくれ。他の仕事?そこを何とかするのが君の役目だろう」

「Bさん、来月から新しく立ち上げる九州支社に転勤してほしい。家庭の事情?会社の決定だから覆らないよ」

経営者や管理職のみなさまであれば、一度はこのような厳しい業務命令を下した経験、あるいは部下から「それは無理です」と難色を示された経験があるかもしれません。一方で、従業員の立場からすれば、上司からの理不尽な命令に「断りたいけれど、断ったら評価が下がるかもしれない…」と、日々葛藤している方も少なくないでしょう。

現場で数多くの労務問題を見てきた経験から言えるのは、「健全な組織は、健全なコミュニケーションから生まれる」ということです。そして、その根幹を揺るがしかねないのが、この「業務命令」をめぐる認識のズレです。

上司の業務命令は絶対なのでしょうか?部下はどんな命令にも従わなければならないのでしょうか?

結論から言えば、答えは「ノー」です。従業員には、不当な業務命令を断る権利が法的に認められています。

しかし、多くの経営者や管理職、そして従業員の方々が、その「断れる条件」を正しく理解していません。その結果、パワハラと受け取られるような命令で優秀な人材が離職してしまったり、逆に、正当な業務命令を拒否する従業員への対応に苦慮したりといった問題が後を絶たないのです。

この記事では、以下の点を徹底的に、そしてどこよりも分かりやすく解説します。

  • そもそも「業務命令」とは何か?その法的根拠
  • 従業員が業務命令を断れる「5つの正当な理由」
  • 【経営者・管理職向け】部下に「NO」と言わせない業務命令の出し方
  • 【従業員向け】角を立てずに「賢く」断るための伝え方のコツ

このコラムを最後までお読みいただければ、業務命令に関する無用なトラブルを未然に防ぎ、従業員が安心して能力を発揮できる、風通しの良い組織作りのための具体的なヒントが得られるはずです。企業の成長の礎となる「人」の問題に、本気で向き合う経営者の皆様にこそ、ぜひご一読いただきたい内容です。

そもそも業務命令とは何か?なぜ「命令」できるのか?

まず、基本の「き」から押さえましょう。なぜ上司は部下に「業務命令」を出すことができるのでしょうか?それは、会社と従業員が結んでいる「労働契約」に根拠があります。

業務命令権の法的根拠

従業員は、会社(使用者)に対して労働力を提供し、その対価として賃金を受け取るという契約を結んでいます。このとき、会社側は従業員に対して、業務に関する指示や命令を行う権利を持ちます。これを「業務命令権」と言い、会社の指揮命令下で働くことを約束した従業員は、原則としてこの業務命令に従う義務を負います。

これは、労働契約法第6条に定められた「労働契約の成立」と、第7条の「労働契約の内容の変更」における合意の原則に基づいています。つまり、「あなたの会社のルール(就業規則)に従い、指揮命令下で働きます」という合意が、入社の時点でなされている、ということです。

労働契約法 第六条
労働契約は、労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うことについて、労働者及び使用者が合意することによって成立する。(出典:e-Gov法令検索「労働契約法」)

難しく聞こえるかもしれませんが、要するに「会社の指示に従って働く代わりに、お給料をもらう約束」が業務命令の根拠とシンプルに理解してください。

業務命令の範囲は「契約」で決まる

では、会社はどのような命令でも出せるのでしょうか?もちろん、そんなことはありません。業務命令権は無制限ではなく、その範囲は「労働契約」や「就業規則」によって限定されます。

例えば、「営業職」として採用された従業員に対して、特段の理由なく「明日から経理の仕事をやれ」と命じても、それは契約内容から逸脱しているため、従業員は拒否できる可能性があります(これを「職種限定の合意」と言います)。

中小企業でありがちなのが、この労働契約や就業規則の整備が不十分なケースです。採用時に「仕事内容は、まあ色々やってもらうよ」といった曖昧な説明で済ませてしまうと、後々「そんな仕事をするとは聞いていません」というトラブルに発展しやすくなります。

会社のルールブックである就業規則を整備し、採用時には労働条件通知書で業務内容を明確に示しておくこと。これが、正当な業務命令権を行使するための第一歩であり、経営者・管理職が最初に押さえるべき重要なポイントです。

業務命令を断れる「5つの正当な理由」

原則として従業員は業務命令に従う義務がありますが、例外的に、以下の5つのケースに該当する業務命令は「不当」と見なされ、従業員はこれを拒否することができます。これは、業務命令権の「権利濫用」にあたると判断されるためです。

【引用】
労働契約法 第三条 5
労働者及び使用者は、労働契約に基づく権利の行使に当たっては、それを濫用することがあってはならない。(出典:e-Gov法令検索「労働契約法」)

経営者・管理職であるあなたは、自社の指示がこれらに該当しないかを常にセルフチェックする習慣をつけましょう。

理由1:法令に違反する命令

これは最も分かりやすく、かつ絶対に従ってはならない命令です。

  • サービス残業(賃金不払残業)の強要:「給料は出ないけど、今日中にやっておけ」
  • 違法な長時間労働の強要:36協定の上限を明らかに超える残業命令
  • 不正会計・データ改ざんへの加担指示:「この数値を少し書き換えて、報告書を作成してくれ」
  • ハラスメント行為の強要:「新人のC君を無視するように」
  • リコール隠しなどの不正行為への協力指示

これらの命令は、会社の利益のためであっても、明確に法律に違反します。従業員がこれに従った場合、従業員自身も法的責任を問われる可能性があります。このような命令を拒否したことを理由に、会社が従業員を解雇したり、不利益な扱いをしたりすることは、言うまでもなく許されません。

理由2:業務上の必要性がない、または著しく低い命令

業務命令は、あくまで「会社の業務を遂行するため」に出されるものです。したがって、業務との関連性が全くない命令は、正当な業務命令とは言えません。

  • 上司の私的な用事:「週末のゴルフコンペの景品を買ってこい」「子供の運動会の場所取りをしておけ」
  • 退職を促すための嫌がらせ目的の命令:「一日中、倉庫の壁を眺めていろ」「意味のない草むしりを延々とやらせる」
  • 思想・信条を理由とする嫌がらせ:「会社の支持する政党のビラを配ってこい」

これらは、業務命令権を逸脱した「いじめ」や「嫌がらせ」であり、パワーハラスメントに該当します。過去の裁判例でも、嫌がらせ目的の単純作業を命じたケースで、会社の損害賠償責任が認められています。

職場におけるパワーハラスメント(パワハラ)は、以下の3つの要素を全て満たすものと定義されています。

  1. 優越的な関係を背景とした言動であって、
  2. 業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、
  3. 労働者の就業環境が害されるもの

(出典:厚生労働省「あかるい職場応援団」)

業務上の必要性が無い命令は、まさに②に該当する可能性が極めて高いと言えます。2022年4月からは、中小企業においてもパワハラ防止措置が義務化されており、経営者はこの点を強く認識する必要があります。

理由3:労働契約の内容から著しく逸脱する命令

前述の通り、業務命令の範囲は労働契約によって定められます。契約内容から大きく外れる命令は、従業員の合意なく一方的に行うことはできません。

  • 職種限定の合意に反する配置転換:「プログラマー」として採用した従業員に、本人の同意なく「営業」への異動を命じる。
  • 勤務地限定の合意に反する転勤命令:「本社勤務(転勤なし)」という条件で採用した従業員に、地方支社への転勤を命じる。

ただし注意が必要です。総合職として採用され、就業規則に「会社は業務の都合により、従業員に配置転換や転勤を命じることがある」といった規定がある場合は、原則として従業員は拒否できません。

過去の有名な裁判例(東亜ペイント事件 最判昭和61年7月14日)では、勤務地を特定する合意がない場合、就業規則に転勤を命じることができる旨の規定があれば、会社は広範な裁量を有し、従業員は正当な理由なく転勤命令を拒否できない、と判断されています。つまり、「採用時の契約内容」「就業規則の規定」が極めて重要になるのです。

理由4:従業員の安全や健康を害する命令(安全配慮義務違反)

会社は、従業員が安全で健康に働けるように配慮する義務を負っています。これを「安全配慮義務」と言い、労働契約法第5条に明記されています。

【引用】
労働契約法 第五条
使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。(出典:e-Gov法令検索「労働契約法」)

この義務に反するような、危険を伴う命令は拒否することができます。

  • 十分な安全対策がなされていない高所での作業命令
  • 必要な保護具(ヘルメット、安全帯など)を支給しないままでの危険作業の指示
  • 心身の不調を訴えている従業員に対する、過酷な業務の強要
  • 明らかに能力を超えている危険な機械の操作命令

もし従業員がこのような命令に従って事故に遭った場合、会社は重い法的責任(損害賠償責任)を負うことになります。目先の納期やコストを優先して安全を軽視することは、結果的に会社に甚大な損害をもたらすリスクをはらんでいるのです。

理由5:命令自体は正当でも、従業員の個人的事情と比較して不利益が著しく大きい命令

これが最も判断が難しいケースです。業務命令自体には業務上の必要性があり、一見すると正当に見える。しかし、その命令に従うことで従業員が被る不利益が、社会通念上、看過できないほど大きい場合には、その命令は「権利濫用」として無効になる可能性があります。

代表的なのが、育児や介護といった家庭の事情を抱える従業員への転勤命令です。

例えば、

  • 共働きの配偶者がおり、転居が著しく困難。
  • 要介護状態の親を一人で介護しており、他に代われる親族がいない。
  • 重い病気を持つ子供の看病が必要で、転居先の病院では同等の治療が受けられない。

このようなケースで、会社側が代替要員の確保などの配慮を全く行わずに一方的に転勤を強行した場合、その命令は権利濫用と判断される可能性があります。

ただし、従業員側の個人的な事情があれば、どんな命令でも拒否できるわけではありません。裁判所は、「会社がその命令を出すことによる業務上の必要性の程度」「従業員が被る個人的な不利益の程度」を天秤にかけ、総合的に判断します。 経営者・管理職としては、従業員のプライベートに過度に干渉する必要はありませんが、日頃からコミュニケーションを取り、従業員が抱える困難な事情を把握しておくことが、無用なトラブルを避ける上で重要になります。

【経営者・管理職向け】部下に「NO」と言わせない業務命令の出し方

ここまで「断れる理由」を解説してきましたが、そもそも部下が「この命令には従えない」と感じること自体が組織にとってはマイナスです。では、どうすれば部下は納得感を持って業務命令を受け入れ、前向きに取り組んでくれるのでしょうか?ここでは、3つの重要なポイントをお伝えします。

ポイント1:「なぜ」を伝える(目的・背景の共有)

部下が命令に不満を抱く最大の原因の一つが、「なぜこの仕事をやらないといけないのか分からない」という目的の不透明さです。

  • 悪い例: 「このデータ、今日中に分析しておいて」
  • 良い例: 「来週の経営会議で、新しい販促エリアを決めるんだ。その判断材料として、この地域の顧客データ分析がどうしても必要なんだ。悪いけど、今日中に頼めるかな?」

ただ作業を命じるのではなく、その仕事が会社全体の中でどのような意味を持つのか、何に繋がるのかという「背景」や「目的」を丁寧に説明するだけで、部下のモチベーションは大きく変わります。「自分はこの重要なプロジェクトの一端を担っているんだ」という当事者意識が芽生えるからです。

ポイント2:「どうやって」を考える(実現可能性への配慮)

いわゆる「無茶振り」は、部下の信頼を最も失う行為です。上司は、部下のスキル、経験、そして現在の業務量を考慮した上で、実現可能な指示を出す責任があります。

  • 部下の能力を把握しているか?:新人にベテランと同じレベルの成果を求めていないか。
  • 現在のタスク量を把握しているか?:既に手一杯の部下に、さらに重いタスクを上乗せしていないか。
  • 必要な情報やツールを提供しているか?:丸投げではなく、業務遂行に必要なサポートをしているか。

もし難しい仕事を任せるのであれば、「この部分は〇〇さんに相談してみて」「過去のこの資料が参考になるよ」といったヒントを与える、あるいは「まずはここまでやってみて、途中で一度相談してほしい」と中間目標を設定するなど、部下が一人で抱え込まないための配慮が不可欠です。

ポイント3:「お願い」の姿勢を持つ(対話と尊重)

たとえ業務「命令」であっても、その伝え方一つで相手の受け取り方は180度変わります。高圧的な物言いは反発心しか生みません。

  • 悪い例: 「これは決定事項だから、とにかくやれ」
  • 良い例: 「大変なのは分かっているんだけど、この件は君にぜひお願いしたいんだ。何か懸念点はあるかな?」

ポイントは、一方的な「命令」ではなく、双方向の「対話」を意識することです。相手の意見を聞く姿勢を見せることで、部下は「自分は尊重されている」と感じ、困難な業務にも主体的に取り組もうという気持ちになります。また、部下からのフィードバックによって、上司自身が気づかなかった問題点や、より良い方法が見つかることも少なくありません。

結局のところ、業務命令とは「信頼関係のバロメーター」です。日頃から部下とのコミュニケーションを密にし、信頼関係が構築されていれば、多少困難な命令であっても「〇〇さんが言うなら、一肌脱ごう」という気持ちになるものです。

【従業員向け】角を立てずに「賢く」断るための伝え方のコツ

一方で、従業員の立場から「これはどうしても受けられない」という命令に直面することもあるでしょう。その際、感情的に「できません!」と突っぱねてしまうのは最悪の選択です。関係性を悪化させ、自分の立場を不利にするだけです。

ここでは、上司との無用な対立を避けつつ、自分の状況を理解してもらうための「賢い断り方」を3つのステップでご紹介します。

Step 1: まずは受け止め、質問で意図を確認する

上司から無理難題を言われた時こそ、冷静になりましょう。まずは「はい、承知しました」と一旦受け止める姿勢を見せます。その上で、命令の意図や背景を確認するための質問をします。

「ご指示ありがとうございます。差し支えなければ、この業務の目的や、特に重要視されている点についてもう少し詳しく教えていただけますでしょうか?」

「承知いたしました。ちなみに、ご希望の納期はいつまでになりますでしょうか?」

これにより、①冷静に状況を把握する時間が稼げる、②上司の真意を理解できる、③「話をきちんと聞く姿勢がある」という印象を与えられる、というメリットがあります。もしかしたら、あなたが思っているほど緊急性や重要度が高くない可能性もあります。

Step 2: 「できない理由」を客観的な事実で説明する

感情論で「無理です」「大変です」と訴えても、相手には伝わりません。「なぜできないのか」を、具体的な事実に基づいて説明することが重要です。

悪い例: 「他の仕事で忙しいので無理です」

良い例: 「現在、A社向けの提案書作成を最優先で進めており、こちらの締め切りが明日の午前中です。ご指示いただいた業務に着手できるのが、早くても明日の午後からになってしまうのですが、納期は調整可能でしょうか?」

ポイントは、「YES, BUT(はい、しかし…)」の論法です。命令自体を否定するのではなく、「やりたい気持ちはあるのですが、物理的にこのような制約があります」という形で伝えることで、相手もあなたの状況を客観的に理解しやすくなります。

Step 3: 代替案を提示する(「できません」で終わらない)

ただ断るだけで終わらせてしまうと、「やる気がない」と受け取られかねません。重要なのは、「できません」の先にある「提案」です。

「もしよろしければ、この業務の〇〇の部分まででしたら、本日中に対応可能です」

「私一人では期日までに完了することが難しいのですが、Bさんと協力させていただけるのであれば可能です」

「この業務については、専門知識を持つCさんの方がより早く正確に対応できるかと思いますが、いかがでしょうか」

代替案を提示することで、「何とかしてこの課題を解決したい」という前向きな姿勢を示すことができます。これは、単なる「指示待ち人間」ではない、主体的な人材であることのアピールにも繋がります。

万が一、話し合いで解決せず、どうしても違法・不当な命令だと感じる場合は、やり取りをメールなどの記録に残した上で、さらに上の上司や人事部、あるいは社外の労働相談窓口に相談することも検討しましょう。

Q&A

Q1. 明確に違法とは言えない「グレーな命令」はどう判断すれば良いですか?
A. 非常に難しい問題ですが、判断の基準は「その命令に、社会通念上相当な業務上の必要性があるか?」という点です。例えば、「社内コンペのために、休日に資料作成をしろ」という命令。これは賃金が支払われれば直ちに違法とは言えませんが、従業員のプライベートを過度に侵害する可能性があり、パワハラと受け取られるリスクがあります。
判断に迷う場合は、「もし自分が部下の立場だったら、この命令に納得できるか?」と自問自答してみてください。また、命令を出す際には、「これはあくまで任意協力のお願いで、断っても不利益はない」とはっきり伝えるなどの配慮が重要です。グレーゾーンの命令は、従業員のモチベーションを著しく低下させる可能性があることを肝に銘じてください。

Q2. 正当な理由なく業務命令を断る従業員を、解雇することはできますか?
A. 正当な理由なく、繰り返し業務命令を拒否する行為は、職務規律違反にあたります。就業規則に懲戒解雇の事由として定められている場合、理論的には解雇も可能です。
ただし、日本の法律では解雇権の濫用が厳しく制限されています(労働契約法第16条)。一度の命令拒否で即時解雇が有効と認められるケースは稀です。まずは、①なぜ拒否するのかを丁寧にヒアリングし、②口頭での注意・指導、③文書による注意(始末書など)、④減給などの懲戒処分、というように、段階を踏んで慎重に対応する必要があります。いきなり解雇という強硬手段に出るのではなく、粘り強い対話と指導が求められます。労務の専門家(社会保険労務士など)に相談することも強くお勧めします。

Q3. 部下から業務命令を断られました。管理職としてどう対応すれば良いですか?
A. まず、感情的にならずに「なぜ断るのか」という理由を冷静に聞くことが第一歩です。頭ごなしに「言い訳するな!」と叱責するのは最悪の対応です。部下の言い分に耳を傾けてみると、

  • 業務の目的を誤解している
  • 他に優先すべき緊急の業務を抱えている
  • 業務遂行に必要なスキルや情報が不足している
  • 本当に心身の不調や家庭の事情がある

など、こちらが気づかなかった正当な理由があるかもしれません。理由を把握した上で、業務の調整、必要なサポートの提供、あるいは命令内容の見直しなどを検討します。部下からの「NO」は、マネジメントを見直す良い機会だと捉える視点が、優れた管理職には不可欠です。

Q4. テレワーク中の業務命令で、特に注意すべき点は何ですか?
A. テレワークでは、従業員の働きぶりが見えにくいため、業務命令の出し方に一層の配慮が必要です。特に注意すべきは以下の2点です。

  1. 労働時間の管理: 始業・終業時刻をきちんと記録させ、時間外や深夜に業務を命じる場合は、必ず事前の許可制にするなど、長時間労働を招かないルール作りが不可欠です。「いつでも連絡がつくから」と安易に時間外の指示を出すのは避けるべきです。
  2. コミュニケーションの質: チャットやメールでの指示は、対面に比べて意図が伝わりにくく、冷たい印象を与えがちです。テキストだけの指示で終わらせず、必要に応じてWeb会議で顔を見ながら目的や背景を説明するなど、コミュニケーションの質を担保する工夫が求められます。孤独感や不安感を抱かせない配慮が、テレワークの生産性を左右します。

まとめ

今回は、「上司の業務命令を断れるか」というテーマを軸に、その法的根拠から、具体的な判断基準、そして経営者・管理職としての適切な対応までを詳しく解説してきました。

本日の要点を、改めて確認しましょう。

  • 業務命令権は、労働契約に基づく正当な権利だが、決して無制限ではない。
  • 「法令違反」「業務上の必要性欠如」「契約逸脱」「安全配慮義務違反」「権利濫用」にあたる命令は、従業員に拒否する権利がある。
  • 優れたリーダーは、一方的に命令するのではなく、「目的の共有」「実現可能性への配慮」「対話と尊重」を心がけている。
  • 命令をめぐるトラブルは、突き詰めれば「信頼関係の欠如」が根源にある。

「業務命令」という言葉は、強い響きを持っています。しかし、その本質は、会社という組織が同じ目標に向かって進むための、重要なコミュニケーションツールの一つに他なりません。

強い組織とは、トップダウンの命令がスムーズに通る組織のことだけを指すのではありません。現場からの真っ当な「NO」や「提案」を真摯に受け止め、より良い方法を模索できる、しなやかさを持った組織こそが、変化の激しい時代を生き抜くことができます。

経営者、管理職の皆様。あなたの会社では、健全な「命令」と「対話」のキャッチボールができていますか? もし、少しでも不安を感じられたなら、今日のこの記事が、自社の組織風土を見つめ直すきっかけとなれば幸いです。 健全な労使関係の構築は、一朝一夕にはいきません。しかし、その努力こそが、従業員のエンゲージメントを高め、企業の持続的な成長を実現する最も確実な道であると確信しています。

私たち唐澤経営コンサルティング事務所では、「コーチング」と「コンサルティング」を組み合わせ、中堅中小企業の経営課題解決と成長戦略の策定を強力にサポートいたします。経営に関するご相談や無料相談をご希望の方は、下記フォームよりお気軽にお問い合わせください。

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この記事を書いた人

唐澤 智哉

新卒で大手金融系シンクタンクに入社し、大手企業向けのITコンサルティングに従事。その後、2社のコンサルティングファームにて、大手企業向けの業務改革・ITコンサルティングに従事。
2012年に大手IT企業に入社し、中小企業向けのコンサルティング事業の立ち上げの中心メンバーとして事業化までを経験し、10年間中小企業向けの経営コンサルティング・ITコンサルティングや研修・セミナーに従事。
その後、2022年に唐澤経営コンサルティング事務所を創業。中小企業向けの経営コンサルティング、DXコンサルティング、研修・セミナー等のサービスを提供している。
趣味は読書で、年間200冊近くの本を読む。