唐澤経営コンサルティング事務所代表の唐澤です。
中小企業診断士・ITストラテジストの資格を持ち、20年以上にわたり、中堅中小企業の経営戦略立案や業務改革、IT化構想策定のコンサルティングに従事してきました。

このコラムでは、私のコンサルティング経験をもとに、中堅中小企業の経営に役立つ情報を発信しています。

経営の現場で、日々さまざまな「問題」や「課題」に直面している方も多いのではないでしょうか?

しかし、あなたはその「問題」と「課題」、本当に正しく区別して考えていますか?

実は、「問題」と「課題」を混同してしまうと、目指すべき成果が得られなかったり、経営資源を浪費してしまうことが少なくありません。逆に、これらをしっかりと理解して区別できるようになるだけで、経営の進め方が大きく変わります。

この記事では、「問題」と「課題」の違いを分かりやすく解説し、それを経営の現場でどう活かしていくかを具体的にお伝えします。「気づかなかった盲点にハッとした!」と感じていただける内容になっているはずですので、ぜひ最後までお付き合いください。

「問題」と「課題」、実は全く別のもの

経営において、「問題」と「課題」は、どちらも日常的に使われる言葉ですが、実は全く異なる概念です。この違いを正しく理解することで、経営判断や行動の精度が格段に向上します。

■問題とは?
「問題」とは、現状と理想の姿(ありたい姿)のギャップを指します。

例えば、以下のような状況を考えてみてください。
・現状:月間売上が5,000万円
・理想:月間売上が1億円
・問題:現状(5,000万円)と理想(1億円)の間にあるギャップ(5,000万円の不足)

この場合、「問題」はこの5,000万円のギャップそのものです。このギャップを埋めなければ、経営目標には到達しません。

■課題とは?
「課題」とは、そのギャップ(問題)を埋めるためのポイントを指します。

ポイントとは、課題は問題を解決するために必要な取り組みやテーマのことで、具体的な打ち手ではありません。課題が明らかになることで、初めて具体的な打ち手を考えることができます。

ここで、「解決策」ではなく「ポイント」と表現していることにも実は意味があります。課題を「解決策」と混同してしまうと、問題を深く考える前に、打ち手だけに飛びついてしまうリスクがあります。

しかし、課題が正確に設定されていなければ、どんなに優れた打ち手を実行しても、問題を解決することはできないのです。

例えば、売上不足という問題に対する課題(ポイント)は、以下の論点(問い)に対する解となります。

  • 新規顧客の獲得に注力するべきか?
  • 既存顧客のリピート率を改善するべきか?
  • 商品ラインナップの見直しを検討するべきか?

課題は「どこに注力すべきか」を明確にする指針になります。課題が決まることではじめて、次に取るべき具体的な打ち手が導き出されるという流れになります。

「問題」と「課題」の違いを簡単にまとめると以下となります。

  • 問題:現状と理想のギャップそのもの(何が足りないのか?)
  • 課題:そのギャップを埋めるためのポイント(どこに注力すべきか?)

これらを明確に切り分けて考えることで、経営の質が大きく向上します。

「問題」と「課題」を混同すると何が起きる?

「問題」と「課題」を混同してしまうと、経営判断を誤り、せっかくの努力が成果に結びつかないことがあります。その結果、貴重な経営資源が無駄になり、状況をさらに悪化させることさえあります。

具体的にどのような影響が出るのか、3つのパターンで考えてみましょう。

1. 本質を見失い、対症療法に陥る
「問題」と「課題」の違いが曖昧だと、根本的な解決ができず、目先の施策に走ってしまいます。例えば、売上が下がっている場合、広告費を増やして集客を強化する打ち手を選択したとします。しかし、本当の問題が「既存顧客の流出」にある場合、集客を目的とした販促施策では既存顧客の流出は止められないため、売上改善にはつながりません。このように、本質を見失うと、何をやっても効果が限定的となってしまいます。

2. 経営資源が分散してしまう
経営資源には限りがあります。時間、お金、人材――どれも無限には使えません。特に中小企業ではその制限がよりシビアになります。「課題」が正しく設定されていないと、経営資源が無駄に分散し、成果が出にくくなります。例えば、「新規顧客への訪問件数を増やす」という打ち手に全力を注いだ結果、現場の負担が増えすぎて既存顧客へのフォローがおろそかになり、顧客満足度がさらに低下するケースです。これでは逆効果です。

3. チームの足並みが揃わない
「問題」と「課題」を正確に共有しないまま指示を出すと、チーム全体が混乱します。例えば、経営者が「とにかく売上を上げてほしい」とだけ指示した場合、営業部は新規顧客を狙い、マーケティング部はキャンペーン強化を提案し、サポート部は顧客満足度向上を目指すといったように、全員が違う方向に進んでしまうことになります。その結果、全体の努力がバラバラになって組織力が分散してしまい、思うような成果を出すことができません。

このように、「問題」と「課題」を明確に区別し、経営者自身がその違いをきちんと理解することが、成果を上げるための第一歩となります。これができることで、現場に対してもより適切な指針を示すことができ、経営全体のパフォーマンスが向上します。

次の章では、「問題」と「課題」を正確に切り分けるための具体的なステップについて解説します。

「問題」と「課題」を切り分ける具体的なステップ

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「問題」と「課題」を正確に切り分けるためには、次の3つのステップを実践するのがおすすめです。このプロセスを経ることで、問題の本質を捉え、適切な課題を設定するための基盤が整います。

■ステップ1:現状を見える化する
まず、自社の現状を正確に把握しましょう。数字に基づいた定量的なデータはもちろん、顧客や社員の声といった定性的な情報も含めて収集します。
例)
・月間売上や利益の推移をグラフ化する
・顧客離脱率や満足度アンケートを分析する
・社員からの意見や要望をヒアリングする
これにより、「現状」の姿を正確に把握することができます。

■ステップ2:理想の姿を明確にする
次に、目指すべき理想の姿を具体的に描きます。「売上を増やしたい」「利益を伸ばしたい」といった漠然としたものではなく、明確で測定可能な目標を設定しましょう。
例)
・月間売上を1億円にする
・既存顧客のリピート率を70%に引き上げる
・顧客満足度を90%以上に改善する

目標を具体的にすることで、現状との差(ギャップ)を正確に把握でき、次に取り組むべきポイントが見えてきます。

■ステップ3:ギャップを深掘りする
現状と理想の間にあるギャップを特定したら、その原因を掘り下げます。これが「問題」の本質を見極めるステップです。問題の本質を掴むことで、適切な課題を設定することができます。
例)
・売上不足の原因が「新規顧客の獲得不足」なのか、「既存顧客の離脱率の高さ」なのかを分析する
・顧客満足度が低い原因を「商品品質の課題」「サービス対応の遅れ」など具体的に分解する

このようにギャップの原因を突き止めることで、解決すべきポイント(課題)が浮かび上がってきます。

これらのステップを経て、「問題」と「課題」を正しく切り分けたら、その結果をチーム全体で共有しましょう。全員が同じ方向を目指して行動することで、効果的な打ち手を実行できるようになります。

次の章では、課題を設定する際に役立つ2つのアプローチ、ギャップアプローチとポジティブアプローチについて解説します。

課題を設定する際の2つのアプローチ

課題を設定する際には、考え方として2つのアプローチがあります。それが、ギャップアプローチポジティブアプローチです。
この2つの視点を理解することで、より効果的な課題設定が可能になります。

■ギャップアプローチ
ギャップアプローチとは、現状とあるべき姿の間にあるギャップを埋めるために課題を設定する方法です。あるべき姿(Must)と現状の状態(マイナス)との間のギャップ、つまり不足している部分を補うことに焦点を当てるアプローチで、現在抱えている「問題」の解消が主な目的となります。
例)
・現状:月間売上が5,000万円
・理想:月間売上1億円
・ギャップ:5,000万円の不足

この場合、ギャップを埋めるために次のような課題を設定します。
・新規顧客を毎月10社獲得する
・既存顧客のリピート率を20%引き上げる
・高付加価値商品の提案率を向上させる

ギャップアプローチは、「今ある問題を解決したい」「目標達成に届いていない部分を埋めたい」と考えるときに非常に有効です。

■ポジティブアプローチ
ポジティブアプローチは、現在の強みや好調な部分をさらに伸ばすために課題を設定する方法です。ありたい姿(Will)と現状の状態(±0)との間のギャップ、つまり現状の成功要因を活用し、理想をさらに高めるアプローチで、次の成長を目指す際に有効です。
例)
・現状:商品Aの月間売上が3,000万円で好調
・理想:商品Aをさらに成長させ、月間売上5,000万円を目指す

この場合、課題として次のようなポイントを設定します。
・商品Aの販売エリアを拡大する
・商品Aの顧客層を分析し、似た属性のターゲットを新規開拓する
・商品Aの広告出稿量を2倍に増やし、認知度を高める

ポジティブアプローチは、「現状が順調だが、さらに成長したい」「強みを活かして新たな成果を目指したい」と考えるときに適しています。

■どちらのアプローチを選ぶべきか?
ギャップアプローチとポジティブアプローチのどちらを選ぶかは、現状の状況や経営目標に応じて判断する必要があります。

基本的には以下の考え方をベースに選ぶ形でよいかと思います。

  • 目標未達が明確な場合:ギャップアプローチを選び、達成に向けた取り組みを優先する
  • 順調な部分をさらに伸ばしたい場合:ポジティブアプローチを選び、強みを活かした成長戦略を考える

これら2つのアプローチを理解し、状況に応じて使い分けることで、課題設定の精度が大幅に向上します。

次の章では、これらのアプローチを実際の経営にどう活用するかについて具体的な提言を行います。

経営における実践的な課題設定の活用法

1. 経営課題の優先順位をつける
経営には複数の「問題」が同時に存在することがほとんどです。しかし、すべてを一度に解決しようとすると、リソースが分散してしまい、どれもうまくいかない可能性が高まります。そこで、まずは最も影響の大きい「問題」を見極め、その解決に集中することが重要です。

2. 課題設定から具体的な打ち手を導き出す
課題を設定したら、その課題を解決するための具体的な「打ち手(施策)」を考えます。この際、課題が正確であれば、打ち手を明確にイメージしやすくなります。

例)
・課題:既存顧客のリピート率を20%向上させる
・打ち手:定期的なフォローアップメールを配信する、ロイヤルティプログラム(ポイント制度など)を導入する、購入後アンケートを実施し、顧客ニーズを把握する等

課題と打ち手を区別することで、具体的かつ実行可能なアクションプランを立てることができます。

3. チーム全体で共有し、進捗を管理する
経営課題の設定や打ち手の実行は、経営者一人だけで完結するものではありません。チーム全体で課題と打ち手を共有し、進捗を定期的に確認する仕組みを作ることが重要です。

例)
・課題と打ち手を定量的に測定できる形で設定する(例:「新規顧客獲得数を月間20件に増やす」)
・チームミーティングで進捗を共有し、必要に応じて打ち手を調整する
・課題解決に寄与した成果をチーム全体で評価し、次の課題設定に活かす

「問題」と「課題」を正確に切り分け、それに基づいて経営の優先順位をつけることができれば、経営の軸が明確になります。
また、チーム全体が同じ目標に向かって行動できるため、結果として経営パフォーマンスが大幅に向上します。

まとめ

この記事では、「問題」と「課題」の違いを理解し、経営にどう活用するかをお伝えしました。

振り返ると、「問題」とは現状と理想の姿(ありたい姿)のギャップそのものであり、「課題」とはそのギャップを埋めるためのポイントです。課題を設定することで、具体的な打ち手(施策)が明確になり、効果的に問題を解決する基盤が整います。

課題設定には、ギャップアプローチとポジティブアプローチという2つの視点があります。
目標に届いていない場合はギャップアプローチで足りない部分を補い、強みをさらに活かしたい場合はポジティブアプローチを用いて課題を設定しましょう。

まずは、自社の現状をデータや声をもとに見える化し、理想の姿を具体的に描いてください。その上で、現状と理想のギャップを特定し、適切な課題を設定します。そして、課題をもとに打ち手を考え、チームと共有して進めていくことが重要です。

「問題」と「課題」を正しく理解し、日々の経営に活用するだけで、会社全体の方向性が明確になり、成果が着実に見えてきます。ぜひ、今日から実践を始めてみてください。

困ったときは、ぜひ私たちにご相談ください。一緒に最適な課題を見つけ、解決への道筋を作り上げていきましょう。

私たち唐澤経営コンサルティング事務所では、「コーチング」と「コンサルティング」を組み合わせ、中堅中小企業の経営課題解決と成長戦略の策定を強力にサポートいたします。

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この記事を書いた人

唐澤 智哉

新卒で大手金融系シンクタンクに入社し、大手企業向けのITコンサルティングに従事。その後、2社のコンサルティングファームにて、大手企業向けの業務改革・ITコンサルティングに従事。
2012年に大手IT企業に入社し、中小企業向けのコンサルティング事業の立ち上げの中心メンバーとして事業化までを経験し、10年間中小企業向けの経営コンサルティング・ITコンサルティングや研修・セミナーに従事。
その後、2022年に唐澤経営コンサルティング事務所を創業。中小企業向けの経営コンサルティング、DXコンサルティング、研修・セミナー等のサービスを提供している。
趣味は読書で、年間200冊近くの本を読む。