唐澤経営コンサルティング事務所代表の唐澤です。
中小企業診断士・ITストラテジストの資格を持ち、20年以上にわたり、中堅中小企業の経営戦略立案や業務改革、IT化構想策定のコンサルティングに従事してきました。

このコラムでは、私のコンサルティング経験をもとに、中堅中小企業の経営に役立つ情報を発信しています。

さて、中小企業でも、デジタルトランスフォーメーション(DX)は企業競争力を高めるうえで欠かせないキーワードとなっています。
しかし、その推進過程でつまずく企業も少なくありません。とりわけ、デジタル人材の不足や現場との連携不足は大きな障壁になることが多いようです。

本記事では、中小企業がDXを進める際に陥りがちな失敗要因と、それを回避するための具体的なポイントを解説します。ぜひ最後までお読みいただき、貴社のDX推進にお役立てください。

中小企業におけるDXの失敗要因

デジタル人材の不足

中小企業がDXを推進する上で、最も大きな課題の一つがデジタル人材の不足です。2021年版「中小企業白書」によれば、約6割もの企業が「ITツールやシステムを企画・導入・開発できる人材がいない」と回答しています。

出典:2021年版中小企業白書

  • 適切な技術・システムの選定ができない
  • 導入したシステムをうまく使いこなせない
  • セキュリティリスクに十分対応できない

こうした問題を解決するには、外部専門家の活用と並行して、既存社員のITスキルを向上させる取り組みが求められます。

現場の声を無視した施策

DXは経営トップの意向だけでなく、現場の声をしっかりと拾う必要があります。現場の意見を取り入れずにシステム導入を進めた結果、以下のような事態に陥るケースは珍しくありません。

  • 現場の業務フローに合わないシステムで混乱
  • 従業員のモチベーションが下がり、利用率が低下
  • DXの期待効果が得られず、投資をムダにしてしまう

もちろん、現場の声をすべて反映するとコストが膨らむリスクはあります。しかし、最終的にシステムを使うのは現場担当者です。経営者のビジョン現場の実務をしっかりとすり合わせることが、DX成功のカギとなります。

身の丈に合わないシステム導入

「有名で高性能だから大丈夫」という理由だけで、高額なシステムを導入してしまい、投資対効果がまったく合わないケースも見受けられます。

  • 過剰な機能を使いこなせず、操作も複雑化
  • 高額な導入・運用費用で会社の財務負担が増大
  • 自社の業務プロセスとの不整合が大きくなる

中小企業には、必要最低限の機能を備えたクラウドサービスや拡張性のあるシステムの導入が有効です。また、特定業種向けのパッケージシステムを活用することで、現場とのズレを減らすことができます。

■参考記事
クラウドサービスの詳細については、以下の記事をご覧ください。

DX推進のための成功ポイント

明確なビジョン設定

DXを成功させる第一歩は、**「なぜDXをするのか」「どんな成果を目指すのか」**といったビジョンの明確化です。ビジョンを全社で共有することで、以下のメリットが得られます。

  • 経営課題との紐づけ
  • 数値目標の設定
  • 中長期的な計画の策定

このビジョンがあることで、投資の優先順位や進捗管理がやりやすくなり、社員の理解と協力も得やすくなります。の推進力が高まります。また、投資の優先順位付けや、進捗管理の基準としても活用できます。

■詳しく知りたい方へ
ビジョンの重要性については、以下の記事も参考にしてください。

スモールスタートの重要性

DXを成功に導くためには、スモールスタートの考え方が非常に重要です。
一度に大規模な変革を行うのではなく、小さな成功を積み重ねていくアプローチが効果的です。

スモールスタートのメリットとしては、以下の3点が挙げられます。

  • 投資リスクの低減
  • 早期の成果実感
  • PDCAサイクルの迅速化

例えば、基幹業務のシステム化においては、パッケージシステムに業務を可能な限り合わせ、追加開発を可能な限り最小化することが重要です。なぜならば、実務担当者はあくまで現状の業務・システムをベースとした業務経験に基づき要望を出すため、これらの要望をすべて取り込んでしまうと、パッケージ標準機能では対応できず、追加開発が雪だるま式に膨らんでいくからです。

ここでのポイントは、まずは「どうすればパッケージ標準機能で対応できるか?」を軸に検討することを大方針として合意した上で、システム導入に着手することです。そうすることで、実務担当者の意見を踏まえながら、追加開発を最小化したスモールスタートが可能となります。

また、特定の部署や業務プロセスといった狭い対象からDXの取り組みを始めて成功事例を作り出し、それを他の部門に展開していくという方法も有効です。特にアナログな中小企業においては、バックオフィス業務のDX化から取り掛かることをおすすめします。バックオフィス業務は定型化されているため、市場のクラウドサービスやパッケージシステムに比較的業務を合わせやすく、またその効果を実感しやすいです。具体的には、会計、経費精算、勤怠管理・給与計算等の業務のDX化から取り掛かるとよいでしょう。

社内コミュニケーションの強化

DXの成功には、全社員の理解と協力が欠かせません。そのためには、社内コミュニケーショを強化する必要があります。

  • 定期的な進捗報告会の開催
  • 社内SNSやイントラネットで情報共有
  • 経営層によるDXビジョンの直接的な発信

DXによって生じる変化や成果をこまめに伝え、社員の不安を取り除くことで、プロジェクトに対する抵抗感を減らせます。現場からのフィードバックを施策に活かし、DXをより効果的に進めましょう。DXに対する理解が深まり、全社一丸となって取り組む体制を構築することが可能となります。

私の体験談

私がコンサルタントとして関わった中小企業のDX推進事例をお話しします。

ある製造業の会社では、基幹システムの導入を検討していました。
前回の基幹システム導入プロジェクトの際に、情報システム部門の担当者を中心にパッケージシステム選定して導入プロジェクトを開始したところ、要件定義で問題が多発したとのことでした。具体的には、選定したパッケージシステムが現場の業務にマッチしない上に、現場の要望・要求事項もどんどん膨らんだことで開発規模が拡大し、大幅な予算超過と納期遅れが発生したとのことです。そのため、今回の基幹システム導入プロジェクトでは、各部門の現場担当者から構成されたプロジェクトチームを結成し、システム選定を行う前にDX構想を策定すること希望していました。

そこで私たちは、経営者のヒアリングを通じ、経営ビジョンと経営課題を把握しました。また、現場担当者とのヒアリングを通じ、現場の業務フローと詳細に分析して、問題点を抽出しました。その上で、課題の対応方針を策定し、その方針に基づくあるべき業務フローを設計し、その業務フローに最もマッチするパッケージシステムを選定しました。

要件定義においては、可能な限りパッケージシステムに業務を合わせ、標準機能を最大限活用する方針で進めました。
要件定義において発生した追加開発要望については、プロジェクト内で経営課題に基づき優先度の設定をし、予算内に収まるもの範囲のみを追加開発の対象としました。対象から漏れた機能については、次フェーズ以降で段階的に開発を行うアプローチとしました。

結果、予算超過・納期遅れも発生せず、無事に新基幹システムを稼働することができました。

この事例から学んだDXの重要なポイントは、以下の3点です。

  • 経営課題との紐づけを行うこと
  • 現場の実務担当者を巻き込んだプロジェクトチームを結成し、構想策定を行うこ
  • 可能な限りパッケージシステムの標準機能に業務を合わせる。仮に追加開発が発生した場合は、経営課題に基づく優先度設定をし、段階的な開発アプローチを取ること

これらのポイントを押さえることで、中小企業でも効果的にDXを推進できることを実感しました。

Q&A

Q1: DXを進めるための予算が十分にありません。どうすればよいでしょうか?
A: まずは対応優先度の高い領域に絞ってDXをすすめることをおすすめします。そのためにも、ビジョン・経営課題に基づく対応方針の策定が必要となります。対応方針が決まれば、その実現に必要なDXツールを調査し、予算内に収まる打ち手を決定することになります。その際、DXに活用できる補助金・助成金等を上手に利用しながら、投資負担を軽減していくとよいでしょう。


Q2: 社内にIT人材がいません。外部の人材を活用すべきでしょうか?
A: 外部人材の活用は有効な選択肢の一つです。ただし、完全に外部に依存するのではなく、社内の人材育成と並行して進めることが重要です。
例えば、外部のIT専門家をアドバイザーとして招き、社員をその下で育成するなど、段階的に社内のIT人材を増やしていく方法があります。特に、子供のころからデジタルツールに触れて育ってきた若手人材は、デジタルツールに対する抵抗感がありません。このような若手人材に対してDX推進の中心的役割を与えることで、IT人材の不足をカバーすることが可能となります。


Q3: DXによって従業員の仕事が奪われるのではないかと心配です。どう対応すべきでしょうか?
A: DXの目的は人の仕事を奪うことではなく、業務効率化によって生まれた時間(余力)を、より創造的で付加価値の高い業務に振り向けることです。従業員には、DXによって単純作業から解放され、より重要な意思決定や顧客対応に集中できるようになるというメリットを説明し、理解を得ることが大切です。また、新しいスキルを習得するための研修機会を提供することで、従業員の不安を軽減し、前向きな姿勢を引き出すことができます。これらを実現するためにも、業務効率化を通じて創出された時間(余力)を、具体的にどのような業務に振り向けるのかについては、事前に決定しておくべきです。それを予め従業員にしっかり説明することで、不安感を払しょくすることが重要です。

まとめ:DXは目的ではなく、企業競争力を高める手段

中小企業がDXを成功させるには、以下のポイントを意識しておきましょう。

  1. 明確なビジョンで全社を巻き込む
  2. スモールスタートでリスクを抑える
  3. 現場の声を大切にし、コミュニケーションを強化
  4. 自社規模に合ったシステムを選び、段階的に導入

DXはあくまで競争力を高めるための手段であり、ゴールではありません。顧客満足度の向上や業務効率化による新しい価値創造など、「企業としての強み」をいかに伸ばせるかが最終的な目的です。

みなさまのDX推進が成功し、さらなる企業成長に結びつくことを心より応援しております。

DXの具体的な進め方やツール選定、社内体制づくりなど、お悩みやご不明点がありましたらお気軽にご相談ください。唐澤経営コンサルティング事務所では、中堅中小企業診断士・ITストラテジストとして、中小企業の規模や業種に合わせた最適なアドバイスとサポートを行っています。

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この記事を書いた人

唐澤 智哉

新卒で大手金融系シンクタンクに入社し、大手企業向けのITコンサルティングに従事。その後、2社のコンサルティングファームにて、大手企業向けの業務改革・ITコンサルティングに従事。
2012年に大手IT企業に入社し、中小企業向けのコンサルティング事業の立ち上げの中心メンバーとして事業化までを経験し、10年間中小企業向けの経営コンサルティング・ITコンサルティングや研修・セミナーに従事。
その後、2022年に唐澤経営コンサルティング事務所を創業。中小企業向けの経営コンサルティング、DXコンサルティング、研修・セミナー等のサービスを提供している。
趣味は読書で、年間200冊近くの本を読む。