唐澤経営コンサルティング事務所代表の唐澤です。
中小企業診断士・ITストラテジストの資格を持ち、20年以上にわたり、中堅中小企業の経営戦略立案や業務改革、IT化構想策定のコンサルティングに従事してきました。

このコラムでは、私のコンサルティング経験をもとに、中堅中小企業の経営に役立つ情報を発信しています。

日々、多くの中小企業の経営者のみなさまから、業務システムの選択に関するご相談をいただいております。

特に、従来型のオンプレミスシステムと、最近注目を集めているクラウドシステムの違いについて、判断に迷う声が多く聞かれます。

本記事では、オンプレミスとクラウドの違いを分かりやすく解説し、中小企業にとって最適な選択肢を提案します。ITに詳しくない経営者の方にも理解いただけるよう、専門用語を極力避け、具体例を交えながら説明していきます。

オンプレミスとクラウド、その違いとは?

まずは、オンプレミスとクラウドの基本的な違いを押さえておきましょう。

  • オンプレミス:自社内にサーバーを設置し、システムを運用する方式
  • クラウド:インターネットを通じて、外部のサーバーにあるシステムを利用する方式

以下で詳しく説明します。

オンプレミスとは、自社内にサーバーやネットワーク機器などのITインフラを設置し、自社で運用・管理する形態のことです。すべてのITインフラ設備が自社内にあるため、システムのカスタマイズやセキュリティ管理など、細かい部分まで自社でコントロールすることができます。
以下は主な特徴です。

  • カスタマイズ性:自社専用のシステムを自由に構築できるため、業務内容や特定のニーズに合わせた細かなカスタマイズが可能です。
  • セキュリティ管理:自社内で全てを管理するため、高度なセキュリティ対策も可能ですが、その分そのための専門知識や人材も必要となります。
  • コスト:サーバーやネットワーク機器など、高額な設備投資が必要です。また、維持・管理にもコストと人手がかかります。

一方でクラウドとは、インターネット経由で外部業者のサーバーやサービスを利用する形態です。自社でサーバーを持つ必要がなく、外部のデータセンターにデータやシステムを預ける形になります。
以下は主な特徴です。

  • 初期費用:サーバーなどの設備投資は不要で、月額料金など利用料だけで済むため、中小企業でも導入しやすいです。
  • スケーラビリティ(システムの拡張性):利用状況に応じて簡単に拡張・縮小できるため、事業規模やニーズに合わせた柔軟な運用が可能です。
  • 導入スピード:契約すればすぐに利用することができるため、新しいプロジェクトや新サービス開始時にも迅速に対応できます。
  • セキュリティ:クラウドベンダーは大規模なデータセンターを運営しており、高度なセキュリティ対策が施されています。ただし、会社ごとの独自の細かな要件には対応しづらいケースもあります。

オンプレミスとクラウドの比較

オンプレミスとクラウドの比較は下表の通りです。項目別にメリット・デメリットを比較しながら見てください。

オンプレミスクラウド
初期費用高額
(サーバーや設備の購入が必要)
低額
(初期費用が不要な場合が多い)
運用コスト維持費がかかる
(保守・管理が自社負担)
利用料が発生するが、保守管理は不要
導入スピード遅い
(機器調達・設定に時間がかかる)
早い
(即時利用可能)
カスタマイズ性高い
(要件に合わせて自由に構築可能)
低い
(サービス内でのカスタマイズのみ)
スケーラビリティ
(システムの拡張性)
低い
(機器追加や再構築が必要)
高い
(契約変更で容易に拡張・縮小可能)
セキュリティ自社で管理するため、独自のセキュリティ対策が可能ベンダー依存だが、近年は高水準のセキュリティを提供
障害対応自社で対応が必要
(専門知識や人材が求められる)
ベンダーが対応するため、自社負担は少ない
災害リスク自社設置のため、
災害時にデータ消失のリスクあり
データセンターで保管されるため、
災害リスクが低い
既存システムとの
連携
容易
(既存システムとスムーズに連携可能)
難しいこともある
(既存システムとの互換性に制約あり)

どちらを選ぶべきか?

中小企業がオンプレミスとクラウドのどちらを選択すべきかについては、単に導入コストや導入の容易さだけでなく、経営戦略やデジタルトランスフォーメーション(DX)の進展度合いに大きく依存します。
したがって、以下の観点から慎重に検討する必要があります。

①ビジネスの成長フェーズと柔軟性
クラウドは、特に事業規模が拡大している企業や、急速な変化に対応する必要がある企業にとっては有利です。
クラウドの最大の強みは、そのスケーラビリティと柔軟性です。例えば、新規事業やプロジェクトを立ち上げる際に、クラウドならば短期間でITインフラを整えられ、ビジネスの成長に応じてシステムリソースを迅速に拡張できます。また、企業の成長に伴い必要となるデータ量やトラフィックが増加した場合も、クラウドであれば契約プランを変更するだけで対応可能です。これにより、IT資産への過剰な投資や無駄なリソース保持を避けられます。
一方、オンプレミスは、安定したビジネスモデルを持ち、大規模なカスタマイズが必要な業務プロセスを抱える企業に適しています。自社内で一貫した運用管理ができるため、特定の要件や規制に従った独自のシステム構築が求められる場合には有効です。

②セキュリティとコンプライアンス
セキュリティは、多くの中小企業経営者が最も懸念するポイントです。
クラウドサービスは近年、非常に高度なセキュリティ対策を提供していますが、それでも業界特有の規制(例:医療分野や金融分野)やデータ保護法(例:GDPRなど)によっては、自社内で完全なコントロールが求められるケースもあります。
ただし、中小企業の場合、自社で高度なセキュリティ対策を維持するには専門知識や専門人材が必要です。そのため、IT人材不足やコスト面から、自社で管理しきれない場合には、特殊な事情がない限り、クラウドベンダーが提供する最新のセキュリティ技術(暗号化、バックアップ、自動更新など)を活用する方が現実的かもしれません。

③運用負荷とIT人材
オンプレミス環境では、自社内でサーバーやネットワーク機器の保守・運用管理を行う必要があります。これはIT部門への負担が大きくなるため、中小企業の場合には専任のITスタッフや外部ベンダーとの契約が不可欠となります。
一方、クラウドサービスでは運用管理がベンダー側で行われるため、自社内での運用負荷は大幅に軽減されます。特にDX推進を考える際には、本来注力すべきデジタル戦略や業務改革へのリソース配分を最適化するためにも、クラウドによってITインフラ管理から解放されるメリットは大きいでしょう。

④コスト構造と長期的な視点
初期投資を抑えるという観点ではクラウドが圧倒的に有利ですが、中長期的なコスト構造も考慮する必要があります。
クラウドは月額料金制であるため、一見するとコストパフォーマンスが高いように思えます。しかし、長期的には利用料が積み重なることでオンプレミスよりも高額になる可能性もあります。特に、大量のデータ処理や高頻度のアクセスが発生する業務では、その利用料が予想以上に膨らむことがあります。
一方、オンプレミスは初期費用こそ高額ですが、一度設備投資を行えばランニングコストは比較的安定します。ただし、この場合でもハードウェアの更新やメンテナンス費用は継続的に発生するため、それらも含めたトータルコストで評価することが重要です。

DX推進との親和性

中小企業としてDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進する際には、多くの場合クラウド環境が優位です。
クラウドサービスは最新技術へのアクセスが容易であり、新しいツールやサービスとの連携も迅速です。また、多くのクラウドプラットフォームではAIや機械学習といった先端技術へのアクセスも提供しており、中小企業でも手軽にこれらの技術を活用できる環境が整っています。このような柔軟性と拡張性は、DX推進時には大きな武器となります。

このように、システム選定方針を検討する際には、「初期費用」「運用負荷」「セキュリティ」「柔軟性」など複数の要素を総合的に評価し、自社のビジョンと戦略に合致したインフラ選びを行うことが重要です。
また、一部システムはオンプレミス、一部はクラウドという「ハイブリッド型」のアプローチも選択肢として考慮すべきでしょう。それによって、自社固有のニーズと市場変化への対応力を両立させることが可能になります。

まとめ:中小企業のDX推進にはクラウド活用が最適解!ハイブリッド型の選択肢も検討を

中小企業におけるITインフラ選定では、クラウドソリューションの活用がコスト削減や柔軟性の面で非常に有効です。特に、初期投資の抑制市場変化への迅速な対応、さらにIT人材不足の解消といったメリットがあります。

一方で、一部の業務ではオンプレミス環境が求められるケースもあります。そのため、基幹業務はオンプレミス、日常業務はクラウドといったハイブリッド型の導入も選択肢となるでしょう。

最適なIT環境を選ぶ際には、自社のビジネスモデルやDX戦略との整合性を重視し、専門家のアドバイスを受けながら慎重に検討することが重要です。

DXの具体的な進め方やツール選定、社内体制づくりなど、お悩みやご不明点がありましたらお気軽にご相談ください。唐澤経営コンサルティング事務所では、中小企業診断士・ITストラテジストとして、中堅中小企業の規模や業種に合わせた最適なアドバイスとサポートを行っています。

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この記事を書いた人

唐澤 智哉

新卒で大手金融系シンクタンクに入社し、大手企業向けのITコンサルティングに従事。その後、2社のコンサルティングファームにて、大手企業向けの業務改革・ITコンサルティングに従事。
2012年に大手IT企業に入社し、中小企業向けのコンサルティング事業の立ち上げの中心メンバーとして事業化までを経験し、10年間中小企業向けの経営コンサルティング・ITコンサルティングや研修・セミナーに従事。
その後、2022年に唐澤経営コンサルティング事務所を創業。中小企業向けの経営コンサルティング、DXコンサルティング、研修・セミナー等のサービスを提供している。
趣味は読書で、年間200冊近くの本を読む。