唐澤経営コンサルティング事務所代表の唐澤です。
中小企業診断士・ITストラテジストの資格を持ち、20年以上にわたり、中堅中小企業の経営戦略立案や業務改革、IT化構想策定のコンサルティングに従事してきました。

このコラムでは、私のコンサルティング経験をもとに、中堅中小企業の経営に役立つ情報を発信しています。

「社員が次々と辞めてしまい、どうしたらいいか分からない…」とお悩みの経営者の方は少なくありません。特に中小企業では、大企業に比べて知名度や待遇面で不利な点があり、一度退職が相次ぐと事業継続に深刻なリスクが生じることがあります。実際、私が支援してきた企業でも、立て続けの退職により経営計画の大幅な見直しを迫られたケースがありました。

本記事では、社員が退職する主な原因とその対策を具体的に解説 します。さらに、コーチングとコンサルティングを融合した当社独自の「コーチ型コンサルティング」の視点から、経営者がどのように組織の課題を整理し、実効性の高い改善策を講じるべきかについても触れています。

人材流出のリスクを抑え、社員が安心して働ける環境を整えるためのヒントとして、ぜひお役立てください。

社員の退職が止まらない主な原因

給与や待遇への不満

近近年の物価上昇や生活コストの増加も相まって、社員の給与への関心はますます高まっています。

  • 大企業 vs 中小企業
    厚生労働省「賃金構造基本統計調査(2022)」によると、大企業を100とした場合、中企業は85.7、小企業の男性は79.7と、低水準にとどまる実態が明らかです。
  • 昇給・昇格の基準が不明瞭
    「頑張りや成果が評価されていない」と感じる社員が増えるほど、退職リスクは高まります。特に若手社員の場合、将来的な給与アップの見込みがないと感じると、転職を検討しやすくなります。

単なる待遇の改善だけではなく、経営者が社員一人ひとりの成長意欲を引き出し、公正な評価制度を構築することが重要です。

労働環境や労働時間の問題

中小企業では慢性的な人手不足により、一人ひとりの業務量が増えがちです。特に以下の点が深刻化しています。

  1. 業務の属人化:特定社員への負担が集中し、休暇が取りづらい
  2. 休暇・残業の問題:有給取得率が低く、残業が常態化
  3. DXの遅れ:非効率な業務プロセスを改められず、仕事が回らない

職場の人間関係とハラスメント

エン・ジャパンの調査(2024年)では、「本当の退職理由」として「人間関係が悪い」が46%で最多という結果が出ています。

出典:いずれもエン・ジャパン株式会社「「本当の退職」理由調査(2024)

「仕事の悩みの8割は人間関係」と言われます。私の過去のサラリーマン人生を振り返ってもこの言葉は的を射た表現だと思います。

特に中小企業では、以下のような課題が見られます。

  • 上司と部下のコミュニケーション不足
  • 世代間ギャップによる価値観の相違
  • パワーハラスメント対策の不備

中小企業では組織規模が小さいため、人間関係がこじれると業務に大きな影響が出やすく、離職へとつながってしまうケースが少なくありません。

人材流出を防ぐための具体策

明確で公正な評価制度とキャリアパス

社員が将来の成長と報酬アップの道筋をイメージできるよう、評価制度の透明性を高めることが重要です。

  • 目標管理制度(MBO)の導入:定量的な指標で成果を可視化
  • 1on1ミーティングの定期実施:上司との対話で目標・課題を把握
  • スキルマップの活用:必要スキルと現状とのギャップを見える化し、キャリアパスを提

労働環境の改善とワークライフバランス

「社員がこの会社で働き続けたい」と思える職場づくりには、働きやすさの整備が欠かせません。

  • フレックスタイム制・リモートワークの導入:柔軟な働き方を支援
  • 業務プロセスの棚卸し:属人化を解消し、過度な残業を削減
  • DXの推進:クラウドやRPAなどを活用し、手間のかかる業務を自動化

社内コミュニケーションの強化

人間関係の改善には、風通しの良い組織風土を育むことが重要です。

  • 社内イベントやチームビルディング:部門を越えた交流機会を増やす
  • 部門横断プロジェクトの結成:社員同士の協力体制を促進
  • 経営層との対話機会:社長や役員が自ら意見を聞く場を設ける

当事務所の「コーチ型コンサルティング」を取り入れたアプローチでは、経営者が社員とのコミュニケーションを改善し、一方的な指示ではなく、主体的な組織づくりを進めることを支援します。

私の体験談

当社のクライアント先(従業員50名規模の製造業)で、キーマンとなる社員が1年間で立て続けに3名退職してしまうという深刻な事態が発生した事例がありました。

経営者の方は「なぜ社員は辞めていくのか」と非常に悩んでいました。

しかし、従業員満足度調査や社員へのヒアリングを通じて確認してみると、以下のような本質的な課題が浮かび上がってきました。

  • 部門間の連携不足による業務の属人化
  • 若手社員の意見が通りにくい組織風土
  • 評価基準の不透明さによるモチベーション低下

以上の課題を踏まえ、役員会を通じて具体的な打ち手を検討して改善策を実行していきました。
特に効果的だったのは、以下の3つの施策です。

  • 部門横断プロジェクトチームの発足による業務の標準化
  • オープンで公正な人事評価・賃金制度の整備
  • 若手社員による改善提案制度の導入

その結果、施策実行から2年間はキーマンの離職が止まり、社員満足度調査でも大きな改善が見られました。

この経験から、私は「社員の声に真摯に耳を傾け、経営者が必要と考えたことについては早期に具体的なアクションを起こすこと」が、人材流出を防ぐ上で最も重要な第一歩だと確信しています。

Q&A

Q1: 給与アップが難しい場合、他にどのような対策が効果的ですか?
A:金銭的な報酬以外にも、以下のような施策が効果的です。
・部門横断的なプロジェクトチーム結成による新たな成長機会の提供
・フレックスタイム制などの柔軟な働き方の実現
・福利厚生の充実(育児支援など)

Q2: 人材育成にかける時間的余裕がないのですが、どうすれば良いでしょうか?
A:OJTとオンライン研修を組み合わせた効率的な育成方法があります。
・業務時間内での短時間研修の定期開催
・eラーニングシステムの活用
・メンター制度の導入による効率的な技術伝承

Q3: 社内コミュニケーションを改善するための具体的な方法はありますか?
A:以下のような取り組みが効果的です。
・週1回の短時間朝会の実施
・部署間の定期的な情報共有会の開催
・チャットツールの活用による部門横断の情報交換

Q4: 退職の予兆をどのように察知できますか?
以下のような変化に注意を払うことが重要です。
・残業時間の急激な減少
・会議での発言頻度の低下
・同僚とのコミュニケーション減少
これらの兆候が見られた場合は、早期に面談を実施することをおすすめします。

まとめ:社員の自尊心を満たす“対話”が最強の施策

社員の退職問題は、中小企業の経営者にとって深刻な課題ですが、適切な対策を講じることで必ず改善が可能です。
本記事で解説した重要ポイントを整理すると、以下の通りとなります。
1.退職の主要因を正確に把握する
・給与・待遇への不満
・労働環境の課題
・職場の人間関係
2.具体的な改善策を実行する
・人事評価制度の透明化
・働き方改革の推進
・コミュニケーションの活性化
3.継続的なモニタリングと改善
・定期的な社員面談の実施
・従業員満足度調査の定期実施
・PDCAサイクルの確立

重要なのは、これらの施策を一時的なものではなく、継続的に実施していくことです。

最後に、私から重要なアドバイスをひとつだけお伝えさせてください。

真の退職理由で最も多いのは「職場での人間関係」であることをお伝えしました。
人間関係において最も重要なのは、「相手の自尊心を満たすこと」です。自尊心とは「自分は価値がある存在だ」と感じる気持ちであり、これを満たすことで相手はあなたに好意を抱きやすくなります。逆に、自尊心が傷つけられると人は感情的になり、関係が悪化します。ですので、あなたが自社の人間関係を改善したいと本気で思うのであれば、「相手の自尊心を満たせる組織を作ること」です。

では、そのために明日からでも始められる最も効果的な一手はなんでしょう?

それは「社員との対話」です。

まずは、社員一人ひとりの声に耳を傾けることから始めてみてください。そして、あなたの会社は、社員の自尊心を満たせているのか?自尊心を傷つけている管理職、社員はいないか?をよく見てよく考えてみてください。その一歩が、必ず組織の変革への大きな原動力となるはずです。

社員が生き生きと働ける職場づくりは、決して遠い目標ではありません。本記事で紹介した施策を、ぜひ明日からの経営に活かしていただければ幸いです。適切なマネジメントがあれば、長期的な視点での経営や、強い企業文化の醸成など、大きな強みとなり得るものなのです。

唐澤経営コンサルティング事務所では、コーチングとコンサルティングを融合したアプローチで、経営者が組織の課題を把握し、適切なマネジメントを実行できるよう支援しています。

社員の退職対策や職場環境の改善に関してご相談がありましたら、以下のフォームよりお気軽にお問い合わせください。全力でサポートいたします。

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この記事を書いた人

唐澤 智哉

新卒で大手金融系シンクタンクに入社し、大手企業向けのITコンサルティングに従事。その後、2社のコンサルティングファームにて、大手企業向けの業務改革・ITコンサルティングに従事。
2012年に大手IT企業に入社し、中小企業向けのコンサルティング事業の立ち上げの中心メンバーとして事業化までを経験し、10年間中小企業向けの経営コンサルティング・ITコンサルティングや研修・セミナーに従事。
その後、2022年に唐澤経営コンサルティング事務所を創業。中小企業向けの経営コンサルティング、DXコンサルティング、研修・セミナー等のサービスを提供している。
趣味は読書で、年間200冊近くの本を読む。