唐澤経営コンサルティング事務所代表の唐澤です。
中小企業診断士・ITストラテジストの資格を持ち、20年以上にわたり、中堅中小企業の経営戦略立案や業務改革、IT化構想策定のコンサルティングに従事してきました。

このコラムでは、私のコンサルティング経験をもとに、中堅中小企業の経営に役立つ情報を発信しています。

経営者として日々の業務に追われる中で、煩雑な経理業務に悩むことはありませんか?

中小企業では特に限られたリソースの中で効率的に業務を進める必要があるため、「クラウド会計ソフト」はその解決策として非常に注目されています。

私はこれまで20年以上、経営者のみなさまとともに事業の最適化やデジタル化の支援を支援してきました。

その経験から明確に言えるのは、「経理業務の効率化」は単なる事務の改善にとどまらず、経営の意思決定やキャッシュフローの見える化を加速させる非常に重要な要素であるということです。

この記事では、クラウド会計ソフトの基本的な仕組みから、実際に選定する際の重要なポイントまでを詳細に解説します。

この記事を読めば、単なるツール選びにとどまらず、経営全体を底上げするための視座が得られるはずです。

 クラウド会計ソフトの基本

クラウド会計ソフトとは?

クラウド会計ソフトは、インターネット上で動作する会計システムです。
これにより、場所やデバイスを問わずリアルタイムでデータを入力・閲覧・管理できるという特徴があります。

特に注目すべきは以下の2点です。

  • リアルタイム性:売上や経費のデータがリアルタイムで反映され、経営者が必要な情報をすぐに確認できる。
  • 柔軟な利用環境:従来型のソフトでは必要だったインストールや更新作業が不要で、モバイル端末からのアクセスも容易。

クラウドについて詳細を知りたい方は、以下の記事をお読みください。

従来型会計ソフトとの違い

クラウド会計ソフトが従来型会計ソフトと大きく異なるのは、その「経営への貢献度」です。
単なるデータを記録するためのツールではなく、経営の現状を見える化し、判断を支える情報をリアルタイムで提供できる点が特徴です。

では、具体的に何が違うのかを見ていきましょう。

  • 即時性:クラウド型の会計ソフトは、経営データをリアルタイムで更新し、ネット環境があればすぐに入力・参照が可能です。例えば、売上や経費の数字を出先などでタイムリーに確認できるため、情報に基づいた意思決定の迅速化を支援します。一方、オンプレミス型の会計ソフトは、ローカルネットワークに限定されることが多く、移動中や外部からのデータを入力・参照は苦難な場合があります。
  • 更新負担の軽減:従来型の会計ソフトは、新しい税法やシステム変更に対応するために、毎回手動で更新が必要でした。場合によってはソフトの再インストールや追加費用がかかることもあります。クラウド型では、更新が自動的に行われ、ユーザーはその作業から解放されます。常に最新の状態で使えるため、法改正にも安心して対応できます。
  • コラボレーションの強化:従来型ソフトでは、税理士や外部専門家とデータを共有するために、ファイルを送る手間や、バージョンの管理が必要でした。クラウド型は、インターネット経由でアクセス権を設定するだけで、税理士やコンサルタントが直接データを確認できます。これにより、ミスを防ぎつつ、効率よく連携が進みます。

クラウド型会計ソフトのこうした特長は、単に便利なだけでなく、業務を効率化し、経営者が本来の仕事に集中できる環境を作り出します。
従来型ソフトとの違いを理解することで、クラウド型を選ぶ意義がよりクリアになるはずです。

クラウド会計ソフトが注目される背景

クラウド会計ソフトが広く注目される理由は、経営環境の変化にあります。

  • デジタルトランスフォーメーション(DX)の加速:経済産業省が推進するDXは、中小企業にも業務の効率化とデータ活用を求めています。クラウド会計ソフトはその第一歩として最適です。
  • 電子帳簿保存法の改正:法改正により、帳簿や領収書を電子的に管理する需要が高まっています。クラウド型はこれに対応するためのツールとして最適です。
  • 多忙な経営者のニーズ:クラウド会計ソフトは、業務の省力化だけでなく、経営判断を支えるデータ基盤を提供します。

これらの背景を踏まえ、クラウド会計ソフトは単なる便利ツールではなく、経営戦略の一部としての位置付けが強まっています。

クラウド会計ソフトの選び方

クラウド会計ソフトを選ぶ際には、「機能が便利そうだから」「コストが安いから」といった理由だけで選ぶのではなく、自社の経営課題や将来の成長を支えるツールとして評価する必要があります。

自社の経営課題を起点にする

クラウド会計ソフトは、基本的な会計機能において大きな違いはありません。
しかし、業務効率化や経営支援を目的とした付加機能や、操作性、連携性、セキュリティなどの面で、それぞれのソフトに特徴があります。
これらの違いを理解し、自社に合ったものを選ぶことが重要です。

まずは、自社の経営課題や業務のボトルネックを明確にし、それを解消するための機能を備えたソフトを選びましょ
例えば、以下のような経営課題がある場合、それに対応する機能が必要となります。

  • 業務効率化が求められる場合:自動仕訳、銀行口座連携、レシートのスキャン機能が充実しているもの。
  • 資金繰りの可視化が課題の場合:リアルタイムでのキャッシュフロー管理や収支予測機能が備わったソフト。
  • 法改正への迅速な対応が重要な場合:電子帳簿保存法やインボイス制度に完全対応しているもの。

単に「業務を減らすため」という観点ではなく、経営の質を高めるためにどの機能が必要なのかを明確化することが重要です。

操作性・機能性の徹底検証

クラウド会計ソフトを導入しても、「操作が複雑で使いこなせない」「必要な機能がわかりにくい」といった問題が発生すれば、せっかくの投資が無駄になります。
選定時には、操作性と機能性を十分に検証しましょう。

【具体的な検証ポイント】
①インターフェースの直感性
・経理担当者が初めて触っても迷わず操作できるか。
・必要なデータや機能にすぐアクセスできるか。
・導入から運用までのサポート体制

②操作マニュアルや動画チュートリアルが充実しているか。
・チャットや電話によるサポート対応が迅速かつ丁寧か。

③機能の実用性
・不要な機能が多すぎてかえって使いにくい「機能過多」になっていないか。
・必要な業務フローに沿った設計がされているか。 無料トライアルやデモ環境を積極的に活用し、実際の操作感を確かめることを推奨します。

セキュリティとコストパフォーマンスの評価

クラウド型ツールでは、データの安全性と運用コストが最も重要な選定基準の一つです。

■セキュリティ基準
データ保護の仕組み:クラウドサービス提供企業が、SSL/TLS暗号化やISO27001などの国際的なセキュリティ基準に準拠しているかを確認しましょう。
データのバックアップ体制:定期的なバックアップや、災害時にデータを復旧できる仕組みがあるかを確認することも重要です。
アクセス権限の管理:社内でのデータアクセスを役職や部門ごとに制限できる仕組みがあるかをチェックします。

■コストパフォーマンス

クラウド会計ソフトは月額課金制が一般的ですが、初期費用や追加機能の課金体系も含めて慎重に評価する必要があります。
必要最低限のプランで利用可能か:中小企業の場合、すべての機能を利用する必要はないため、基本プランが自社に合っているかを確認。
将来的な拡張性:事業規模が拡大した際に機能を追加できるか、またはスムーズに上位プランへ移行できるかも考慮しましょう。

クラウド会計ソフトは単なる便利ツールではなく、経営を支えるインフラとして選ぶべきものです。
自社の経営課題に合った機能を備え、操作性が高く、セキュリティとコスト面で安心できるソフトを選ぶことで、経理業務の効率化だけでなく、経営全体の意思決定を強化する大きな武器となるでしょう。

導入前に十分な検証を行い、最適な選択をしてください。

将来性を見据えた選択

クラウド会計ソフトは導入して終わりではなく、事業の成長や環境変化に対応できるものでなければなりません。
ソフトの「将来性」を見極めることも重要です。

具体的に検討すべき項目は、以下の3点です。

  • 拡張機能や連携サービス:他の業務ツール(販売管理、在庫管理、人事システムなど)とスムーズに連携できるか。APIを介して独自の業務システムと統合できる柔軟性があるか。
  • 業界トレンドへの対応力:電子帳簿保存法やインボイス制度のような規制の変化に迅速に対応する能力があるか、サービス提供企業が最新のDX推進動向に適応しているか。
  • 導入企業の信頼性:過去の実績や市場でのシェアを調べ、長期的にサービスを提供し続けられる体力がある企業かどうか。

評価プロセスの確立

クラウド会計ソフトの選定プロセスを曖昧に進めると、思わぬ導入後の問題に直面する可能性があります。
慎重な評価プロセスを踏むことで、最適なソフトを見極めることができます。

■おすすめのプロセス
①ニーズの洗い出し
・経理担当者や経営層から具体的な要望をヒアリングする。
例:自動化が必要な業務、対応するべき規模感、操作性への希望など。

②候補製品のリストアップ
・複数のクラウド会計ソフトをリストアップし、機能、価格、サポート体制を比較。

③試用期間の活用
・無料トライアルやデモ版を利用し、実際の業務フローで試す。
・利用者からのフィードバックを集めて判断。

④最終選定と導入計画の策定
・選定後は、スムーズに運用を開始するためのトレーニングやマニュアル作成も視野に入れる。

クラウド会計ソフトの選び方には、経営戦略と同じくらい慎重さが求められます。ただ便利なツールを選ぶのではなく、長期的に経営を支え、効率化と成長を実現するための「投資」として捉えるべきです。

最終的な選択肢は、自社の現状と未来像にどれだけ合致しているかで決まります。経営全体を見渡す視点を持って、慎重に選定してください。

私の体験談

クラウド会計ソフトの選定に関して、私の支援事例のひとつをご紹介します。

ある製造業の中小企業では、従来型の会計ソフトを長年使用していましたが、以下の課題を抱えていました。
・経理担当者が一人で、データ入力や月次報告に多くの時間を費やしていた。
・手動の作業が多いため、ミスが頻発し、修正作業に追われていた。
・キャッシュフローの可視化が不十分で、意思決定に必要な情報をタイムリーに得られなかった。

本課題を解決するために、選定候補として複数のクラウド会計ソフトを比較しました。

最終的に選定したのは、自動仕訳機能やキャッシュフロー予測機能が充実しており、銀行口座やクレジットカードとスムーズに連携できる製品でした。
実際は、どのクラウド会計ソフトも機能面でそれほど大きな差はありませんでしたが、最終的には経理担当者目線で見た「使いやすさ」、すなわち画面の直感性や操作性が大きな決め手になりました。

導入後は、経理担当者へのトレーニングを実施し、最初の3か月間は私自身が進捗をフォローしました。
その過程で、リアルタイムでの資金状況の把握や、月次決算のスピードアップが実現しました。

このクラウド会計ソフトの導入により、以下の成果を得ることができました。
・経理業務にかかる時間が30%以上削減され、経理担当者が他の業務に時間を充てられるようになった。
・キャッシュフローの見える化により、経営者が資金計画を事前に立てられるようになり、短期的な資金繰りリスクが解消した。
・決算業務のスピードが向上し、経営状況をよりタイムリーに把握できるようになった。

この事例から学んだのは、クラウド会計ソフトを単なるツールとして導入するのではなく、業務フロー全体を見直しながら使うことで、業務効率だけでなく経営全体の質を高められるということです。

クラウド会計ソフトは「経理業務を効率化するだけの道具」ではなく、「経営判断を支える強力な基盤」として活用すべきだと、改めて感じた経験でした。

Q&A

Q1. クラウド会計ソフトを導入するメリットは何ですか?
A.クラウド会計ソフトの最大のメリットは、業務効率化と経営の可視化です。以下が主なポイントになります。
・業務効率化:銀行口座やクレジットカードとの連携により、データ入力が大幅に削減されます。また、自動仕訳機能で経理担当者の作業負担を軽減します。
・経営の可視化:リアルタイムで資金状況を確認できるダッシュボードやキャッシュフロー管理機能により、経営判断が迅速かつ的確に行えます。
・柔軟性とアクセス性:インターネット接続さえあれば、どこからでも利用可能で、複数のデバイス間での連携もスムーズです。

Q2. セキュリティが心配です。クラウド会計ソフトは安全ですか?
クラウド会計ソフトのセキュリティ対策は非常に高い水準にあります。主な安全対策には以下が含まれます。
・データ暗号化:通信データはSSL/TLSによる暗号化で保護されています。
・二段階認証:不正アクセスを防ぐため、ログイン時に追加の認証ステップを設定できます。
・バックアップ体制:データは定期的に自動バックアップされており、災害時でも迅速に復元可能です。
ただし、導入前に提供企業のセキュリティ基準(例:ISO27001準拠)を確認することをおすすめします。

Q3. クラウド会計ソフトはどのくらいのコストがかかりますか?

クラウド会計ソフトの料金は以下のように構成されています。
・月額料金:一般的に1,000円~10,000円程度で、小規模な企業向けプランから大企業向けプランまで選択肢があります。
・追加機能の費用:例えば、従業員の給与計算や電子請求書の発行など、オプション機能を追加すると料金が上がる場合があります。
初期費用が発生しない場合が多い一方で、導入前に全体のコストを明確に見積もることが重要です。

Q4. どのような企業にクラウド会計ソフトは向いていますか?
クラウド会計ソフトは、特に以下の企業に適しています。
・中小企業やスタートアップ:少人数の経理体制でも業務を効率化できます。
・リモートワークを導入している企業:場所を問わずアクセスできるため、リモート環境に最適です。
・業務プロセスをデジタル化したい企業:DX推進の一環として導入することで、バックオフィス業務の効率化という小さな成功体験を積める上に、経営全体の効率を高められます。

Q5. クラウド会計ソフトを選ぶ際の最重要ポイントは何ですか?
選定時に重視すべきポイントは以下の通りです。
・自社の業務課題に対応できるか:例えば、自動仕訳機能やキャッシュフロー管理がどの程度必要かを考えます。
・操作性とサポート体制:経理担当者や経営者が簡単に使えるデザインであること。
・セキュリティ:データの保護やアクセス管理が徹底されていること。
・コストパフォーマンス:初期費用やランニングコストが妥当で、自社の規模に合っていること。

まとめ

クラウド会計ソフトは、単なる経理業務を効率化するツールではなく、現代の中小企業にとって経営を支える重要なインフラです。導入することで、日常業務の負担を軽減するだけでなく、経営の透明性を高め、意思決定を迅速化する強力な武器となります。

本記事のまとめです。

■クラウド会計ソフト導入の要点
・基本機能の共通性:どのソフトも会計の基本機能は備えていますが、付加機能や経営支援の面で差が生じます。
・選定の重要性:自社の経営課題を明確にし、それを解決できる機能を優先的に評価しましょう。
・安全性とサポートの確認:セキュリティ基準やサポート体制が信頼できるものを選ぶことで、安心して利用できます。
・将来の拡張性:事業成長や業務の変化に対応できるソフトが理想です。

■導入後に期待できる成果
・業務効率が向上し、経理担当者の負担が大幅に軽減される。
・キャッシュフローの見える化により、経営判断が迅速かつ正確になる。
・コスト削減と経営資源の最適化を実現できる。

■あなたがとるべき次のステップ
クラウド会計ソフトの導入は、単なるツール選びではなく、会社全体の効率化と成長を促進するための「経営戦略の一環」です。
この記事で紹介したポイントを参考に、まずは自社の現状と課題を整理してみてください。その上で、無料トライアルやベンダーとの相談を通じて、自社に最適なソフトを見つけましょう。

クラウド会計ソフトの導入が、あなたのビジネスに新たな可能性をもたらす一歩となることを願っています。

DXの具体的な進め方やツール選定、社内体制づくりなど、お悩みやご不明点がありましたらお気軽にご相談ください。唐澤経営コンサルティング事務所では、中小企業診断士・ITストラテジストとして、中堅中小企業の規模や業種に合わせた最適なアドバイスとサポートを行っています。

お問い合わせや無料相談は、以下のフォームからお願いいたします。

経営者が抱える経営課題に関する
分からないこと、困っていること、まずはお気軽にご相談ください。
ご相談・ご質問・ご意見・事業提携・取材なども承ります。
初回のご相談は1時間無料です。
LINE・メールフォームはお好みの方でどうぞ(24時間受付中)

この記事を書いた人

唐澤 智哉

新卒で大手金融系シンクタンクに入社し、大手企業向けのITコンサルティングに従事。その後、2社のコンサルティングファームにて、大手企業向けの業務改革・ITコンサルティングに従事。
2012年に大手IT企業に入社し、中小企業向けのコンサルティング事業の立ち上げの中心メンバーとして事業化までを経験し、10年間中小企業向けの経営コンサルティング・ITコンサルティングや研修・セミナーに従事。
その後、2022年に唐澤経営コンサルティング事務所を創業。中小企業向けの経営コンサルティング、DXコンサルティング、研修・セミナー等のサービスを提供している。
趣味は読書で、年間200冊近くの本を読む。