唐澤経営コンサルティング事務所代表の唐澤です。
中小企業診断士・ITストラテジストの資格を持ち、20年以上にわたり、中堅中小企業の経営戦略立案や業務改革、IT化構想策定のコンサルティングに従事してきました。

このコラムでは、私のコンサルティング経験をもとに、中堅中小企業の経営に役立つ情報を発信しています。

日常業務に追われながらも、将来に向けた企業変革をどう進めればいいのか——特にデジタル技術を活用したDX(デジタルトランスフォーメーション)の導入は、多くの企業にとって避けて通れない課題です。しかし、

  • 「どこから手をつければいいの?」
  • 「DXを経営計画にどう盛り込むか?」

といった悩みを抱える経営者は少なくありません。本記事では、DXを経営計画に取り入れる重要性具体的なステップ・成功事例をわかりやすく解説します。読んでいただければ、DXがもたらす可能性と実行の手順が明確になり、次の一歩を踏み出すきっかけになるはずです。

 DXを経営計画に取り入れる重要性

DXとは何か?

デジタルトランスフォーメーション(DX)は、単にデジタルツールを導入するだけではなく、企業のビジネスモデルやプロセスを根本から見直し、デジタル技術を活用して新たな価値を創造するプロセスです。具体的には、企業が従来の業務方法を革新し、デジタル技術を駆使して市場のニーズに応える新しい製品やサービスを開発することを意味します。
これにより、企業は競争力を強化し、持続可能な成長を実現します。

例えば、製造業ではIoT技術を使ってリアルタイムで生産状況を把握し、効率化を図る事例が増えています。また、小売業ではAIを活用した需要予測で在庫管理の最適化が進んでいます。

このように、DXは業種問わず大きな影響を与えています。

DXのメリット

DXを推進することで、以下のようなメリットが期待できます。

  1. 業務効率化
    自動化・データ分析などで無駄を削減し、生産性を高める
  2. 新たなビジネスチャンス
    デジタル技術を活用した新商品・サービスの開発が可能になる
  3. 顧客満足度の向上
    データに基づくパーソナライズされたサービスを提供できる
  4. 競争優位性の確保
    市場の変化に迅速に対応し、他社との差別化を図る

経営戦略との連携の重要性

DXは単なるITプロジェクトではなく、企業全体の経営戦略と密接に結びついている必要があります。ここで重要なのは、「経営者自身がDXの意義を理解し、それを経営計画にどう組み込むか」という視点です。

DXは一部門だけで進めるものではなく、企業全体で取り組むべきものであり、そのためにはトップダウンでの推進が欠かせません。DXというと「単なるIT部門のプロジェクト」と理解している経営者の方をよく見ますが、それは明らかな間違いです。

たとえば、「今後3年で売上高を20%増加させる」という目標がある場合、その達成にはどんなデジタル技術が必要なのか?どこに投資すべきなのか?といった具体的な計画が求められます。

また、DXは一度導入すれば終わりではなく、市場環境や技術進化に応じて柔軟に対応していくことも重要です。そのためには、中長期的な視点でロードマップを描き、それに基づいて実行していく仕組みづくりが欠かせません。

2. DX戦略の策定ステップ

DX戦略は、「現状分析」「経営課題の設定」「DX計画の策定」の3ステップで進めます。

ステップ1~2は経営層を中心とした経営レベルステップ3は各部門の管理職・実務担当者を中心とした業務プロセス・ITレベルで推進します。
以下、ステップ別に解説していきます。

ステップ1:現状分析

DXを成功させるためには、まず自社がDXによって「どこへ向かうのか」という経営ビジョンを明確にすることが不可欠です。このビジョンは、単なる売上目標や利益目標にとどまらず、企業が「これからどのような未来を目指すのか」を描いた目指すべき将来像(自社のあるべき姿)です。
ビジョンが曖昧だと、DXは単なる技術導入で終わり、本来の目的である企業変革にはつながりません。

次に、自社の現状を正確に把握することが必要です。具体的には、事業ドメイン分析を通じて自社の事業領域の把握した上で、SWOT分析を通じて自社の強み・弱み、自社を取り巻く環境を把握します。

この現状分析により、DXで解決すべき課題を設定のための要素を抽出することができます。

■参考
ビジョン設定については、以下の記事もご参照ください。

ステップ2:経営課題の設定

現状分析が完了したら、次に行うべきは経営課題の設定です。
ここではSWOTクロス分析を通じて、4つの経営課題(積極戦略課題・改善戦略課題・差別化戦略課題・縮小回避課題)を設定します。
※SWOT分析、SWOTクロス分析の詳細を知りたい方は、以下の記事をお読みください。

しかし、一度にすべての経営課題を解決しようとすると、経営資源が不足したり、プロジェクト全体が混乱する可能性があります。そのため、ここで重要となるのが「優先順位付け」です。 緊急性、実現可能性、期待効果の3つの優先度判定指標に基づいて重要成功要因を選定し、最も効果的な経営課題の解決から着手します。特に中小企業の場合、限られた経営資源で最大限の成果を上げるためには、この優先順位付けが極めて重要です。

まずは「すぐに効果が期待できる施策」から始め、小さな成功体験を積み重ねることで、社内全体にDX推進へのモチベーションを広げていくことができます。

ステップ3:DX計画の策定

ステップ2までで経営課題の設定と優先度設定が完了しました。ここまでの作業は経営層中心に行うべき経営レベルのものですが、ステップ3は詳細な業務プロセスレベルでの調査・検討が必要となります。そのため、各部門の管理職と実務担当者を中心に進めることになります。

この段階で、しっかりとしたDX推進体制の整備が必要となります。DX推進には、適切な体制整備も欠かせません。「誰が責任者となり」「どんなメンバーでプロジェクトチームを構成するか」を明確にし、全社横断的なチーム編成を行うことが理想です。

推進体制が決まったら、まず現状業務分析を行い、現状業務の可視化と問題点の抽出を行います。それらの問題点を基に課題を設定し、あるべき業務のデザインを行い、新業務フローを策定します。そして新業務フローが完成したら、それを実現可能なDXツールを選定・評価して決定した上で、DXツールの投資計画と実行計画を策定します。

その際、中長期的なロードマップを並行して作成する場合があります
具体的には、一度にすべてのDX施策を実行することは不可能なので、「短期」「中期」「長期」の段階ごとに目標設定し、それぞれ達成すべき内容と期限を明確化します。

このような計画的アプローチによって、DX導入は無理なく進められ、企業全体としても一貫した方向性を持って取り組むことができます。段階的かつ計画的にDX導入を進めることで、中小企業でも無理なくデジタル変革を実現することが可能となるのです。

私の体験談

私が支援したのは、従業員約50名の建設業のクライアントでした。

この企業は、急増する建設工事案件に対応するため、次世代の業務基盤を構築する必要に迫られていました。特に、DXを通じて生産性を向上させること、そして経営データを基にした管理体制の強化が求められていました。

まず、DX導入に向けた最初のステップとして、経営層とともに企業のビジョンを明確にし、「どこへ向かうべきか?」を定めました。単なる売上や利益目標だけでなく、企業が目指すべき将来像を描くことが重要です。

次に、自社の事業領域や強み・弱みを把握する入り口として、クライアント自身にSWOT分析を行っていただき、経営課題を整理しました。その結果、複数の経営課題が出たのですが、そこからさらに詳細な分析・検討を進めた結果、「工事管理システムによる情報一元化」が最重要課題として浮上しました。

ここで大切なのは、一度にすべての課題を解決しようとせず、優先順位をつけることです。
「緊急性」「実現可能性」「期待効果」の3つの指標に基づいて優先度を判断し、まずは工事管理システム導入に着手して効率化を図ることが最も効果的だと結論付けました。工事管理ステム導入により情報を一元化することで、二重入力や煩雑な集計作業を排除でき、大幅な業務効率化が見込めると判断しました。

その後、各部門の管理職や実務担当者とも密接に連携し、新たな工事管理システム導入を導入しました。
結果、工事番号ごとの売上や原価情報がリアルタイムで収集できるようになり、各案件の収益性が可視化されました。
また、月次決算導入によって経営管理が強化され、資金繰りも最適化される方針を策定しました。

成果としては、システム導入後1年未満で管理部門の残業時間は20%以上削減されました。
また、工事部門でも情報一元化によって他部門とのコミュニケーションがスムーズになり、多くの社員から「作業が効率化された」という声が寄せられています。さらに、月次決算によってタイムリーな経営情報に基づく迅速な意思決定が可能となり、社長からも高い評価をいただきました。

このプロジェクトでは、「人材不足」や「現場との両立」という過去の障壁も乗り越えることができました。部門長や若手社員から斬新なアイデアを引き出しつつ進めた結果、新しいシステム運用が定着し、自律的な業務改善文化も醸成されています。今後も継続的な成長が期待できる体制が整ったと確信しています。

このような段階的かつ計画的なアプローチによって、中小企業でも無理なくDX導入を進め、大きな成果を上げることが可能となるのです。

まとめ:DXは「人」を中心に計画的に進めよう

DXは単なるITシステムの導入ではなく、企業全体の変革を促す経営戦略の一環です。特に中小企業では、リソースが限られているからこそ、計画的かつ段階的な導入が求められます。

成功のためのポイント

  1. 経営ビジョンの明確化
    • 「どんな企業を目指すのか?」を経営者が主体となって策定
  2. 優先度の高い課題を絞り込む
    • SWOT分析やクロス分析で課題を洗い出し、最も効果が大きい領域から着手
  3. 段階的にDXを導入
    • 短期~長期のロードマップを作成し、無理なくプロジェクトを進行
  4. 社内の「人」を中心にした推進体制
    • 現場の声に耳を傾け、抵抗勢力を巻き込みながら少しずつシステム定着を図る
  5. 継続的なPDCA
    • 市場や技術の変化に合わせて、常に計画を見直し・改善する

多くの企業がDXに取り組む中、成功と失敗を分ける決定的要因は「経営者の意識」と「社内体制」にあります。技術だけではなく、「人」を軸にしたコミュニケーションや教育を大切にしながら、段階的に取り組んでいけば、中小企業でも無理なく大きな成果をつかむことが可能です。

DXの具体的な進め方やツール選定、社内体制づくりなど、お悩みやご不明点がありましたらお気軽にご相談ください。唐澤経営コンサルティング事務所では、中小企業診断士・ITストラテジストとして、中堅中小企業の規模や業種に合わせた最適なアドバイスとサポートを行っています。

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この記事を書いた人

唐澤 智哉

新卒で大手金融系シンクタンクに入社し、大手企業向けのITコンサルティングに従事。その後、2社のコンサルティングファームにて、大手企業向けの業務改革・ITコンサルティングに従事。
2012年に大手IT企業に入社し、中小企業向けのコンサルティング事業の立ち上げの中心メンバーとして事業化までを経験し、10年間中小企業向けの経営コンサルティング・ITコンサルティングや研修・セミナーに従事。
その後、2022年に唐澤経営コンサルティング事務所を創業。中小企業向けの経営コンサルティング、DXコンサルティング、研修・セミナー等のサービスを提供している。
趣味は読書で、年間200冊近くの本を読む。