唐澤経営コンサルティング事務所代表の唐澤です。
中小企業診断士・ITストラテジストの資格を持ち、20年以上にわたり、中堅中小企業の経営戦略立案や業務改革、IT化構想策定のコンサルティングに従事してきました。
このコラムでは、私のコンサルティング経験をもとに、中堅中小企業の経営に役立つ情報を発信しています。
経営者として、日々の業務や将来のビジョンに対して不安や悩みを抱えていませんか?特に、会社がどのように利益を確保し、成長させるべきかという「数値目標」をどの水準に設定するべきか?については、多くの経営者が直面する課題です。
数値目標は、企業が持続的に成長し、競争に勝ち抜くための重要な指針となります。しかし、その設定が曖昧だったり現実的でなかったりすると、期待する成果が得られないといったことも少なくありません。
この記事では、あなたが求める利益を確実に達成するために、数値目標を効果的に設定する5つの方法を解説します。
本記事を読むことで、経営者としての視野が広がり、新たな行動への一歩を踏み出すきっかけになるはずです。
数値目標の重要性

数値目標とは何か
数値目標とは、企業や組織が達成すべき具体的な成果を、数値で表したものです。売上高、利益率、顧客数など、定量的に測定可能な指標が該当します。数値目標を定めることにより、企業は進捗状況を把握しやすくなり、達成に向けた具体的な行動計画を立てることができます。
数値目標を設定するメリット
数値目標を設定することには、多くのメリットがあります。
- 明確な目標の提示:組織全体が同じ目標に向かって進むための指針となります。
- モチベーションの向上:具体的な数字があることで、社員一人ひとりのモチベーションが高まります。
- パフォーマンスの評価が可能:数値によって成果を客観的に評価できるため、改善点が明確になります。
数値目標が企業に与える影響
数値目標は、組織全体のパフォーマンスに大きな影響を与えます。明確で現実的な目標が設定されている場合、社員はその達成に向けて意欲的に取り組むようになります。
一方で、不適切な目標設定は逆効果となり、社員の士気低下や混乱を招くこともあります。そのため、経営者としては正しい方法で数値目標を設定することが極めて重要です。
人間というものは、目標があるとそれに向かって努力するという不思議な動物です。そして、会社は構成する人間の意志によってどうにでもなるものだと私は考えています。その意味において、目標は会社の成長にとって非常に重要な機能を果たすものですので、適切に活用していく必要があるのです。
数値目標を効果的に設定する5つの方法

求める利益から逆算して目標を設定する
経営者が設定すべき「求める利益」には、2つの重要な視点があります。
まず第一に考えるべきは、事業を存続させるために絶対に必要な「最小限利益」です。これは、会社が破綻しないために確保すべき最低限の利益であり、固定費や変動費、さらには予期せぬリスクにも対応できるだけの余裕を持たせたものです。この「最小限利益」を基準に売上目標やコスト削減計画を逆算することで、事業存続が保証されます。
しかし、「最小限利益」だけでは企業は停滞してしまいます。そこで第二に考慮すべきなのが、経営者が目指す「達成したい利益」です。これは単なる事業存続ではなく、企業の成長や発展、新規事業への投資、人材育成など、中長期的なビジョンを実現するために必要な利益です。この「達成したい利益」を設定することで、企業は次なるステージへと進むことができます。例えば、新規市場への参入や設備投資、人材開発など、将来的な成長戦略を見据えた投資計画も含めて、「達成したい利益」を設定します。
このように、「最小限利益」と「達成したい利益」の両方を考慮して数値目標を逆算することで、企業は安定と成長の両方を実現できるようになります。
現状分析に基づく現実的な数値設定
「求める利益」を設定した後、その目標が達成可能かどうかを判断するためには、現状分析が不可欠です。しかし、この現状分析は単なる現実確認ではなく、「最小限利益」と「達成したい利益」という2つの視点から行う必要があります。
まず、自社の内部環境(人材力、生産能力、技術力など)と外部環境(市場規模、競合他社の動向など)を冷静かつ客観的に評価します。そして、「最小限利益」が確保できるかどうか、そのためにどんな施策や改善が必要かという視点でギャップ分析を行います。
例えば、市場全体が縮小傾向にある中で大幅な売上増加は難しいかもしれませんが、それでも事業存続には最低限の売上とコスト削減策が必須です。
次に、「達成したい利益」に基づいて、自社の中長期的なビジョン実現に向けた戦略も同時に検討します。新規市場参入や既存顧客への深耕営業、新しいプロダクト開発など、「達成したい利益」を実現するためにはどんなリソースや投資が必要なのか、この段階で明確化します。例えば、新規市場参入にはどれだけのコストと時間がかかり、それによってどれだけの売上増加が見込めるか、といった具体的なシミュレーションも行います。
このように現状分析によって、「最小限利益」と「達成したい利益」の両方を実現するための具体策(新規市場参入や既存顧客への深耕営業など)が浮き彫りになります。経営者として、このギャップ分析こそが次なる行動計画への道筋となり、企業存続と成長へのカギとなります。
SMART原則を活用する
数値目標を効果的に設定する際には、「SMART原則」を活用することが有効です。
これは以下の5つの要素から成り立っています。
- Specific(具体的である)
目標は曖昧ではなく具体的であるべきです。「売上を増やす」ではなく、「来年度までに売上高を前年比10%増加させる」といった具体性が求められます。 - Measurable(測定可能である)
進捗状況や達成度合いを数値で測定できることが重要です。これにより、目標達成までの過程で問題点を早期発見し、軌道修正できます。 - Achievable(達成可能である)
目標は現実的かつ達成可能である必要があります。過度に高い目標は社員のモチベーション低下につながり、一方で低すぎる目標は挑戦意欲を失わせます。 - Relevant(関連性がある)
目標は企業全体のビジョンや戦略と一致しているべきです。ビジョンや戦略と無関係な目標は、組織全体の方向性を乱す原因となります。 - Time-bound(期限が明確である)
期限付きで目標設定することで、計画的な行動と進捗管理が促進されます。「いつまでに何を達成するか?」を明確化しましょう。
SMART原則によって設定された目標は、具体性と測定可能性が高いため、社員全体にも共有しやすく、進捗管理も容易になります。この効果により、組織全体として一丸となって目標達成へ向けた行動計画を立てられるでしょう。
達成可能な短期・中期・長期目標の分割
大きな数値目標は、一度に達成することが難しい場合があります。
そのような場合には、「短期」「中期」「長期」と段階的に分割して設定することが効果的です。このアプローチにより、小さな成功体験を積み重ねながら最終目標へ向けて着実に進むことができます。
例えば、「3年後までに売上高30%増加」という長期目標があるとしましょう。その場合は、「1年ごとに10%ずつ増加させる」といった短期・中期目標へ分割する方法があります。
このように段階ごとの進捗状況を確認しながら軌道修正できるため、大きなリスク回避にもつながります。また、この方法によって社員一人ひとりにも成功体験と達成感を与えることができ、中長期的なモチベーション維持にも寄与します。さらに、この場合は段階ごとの施策も異なる場合があります。例えば、短期では既存顧客への深耕営業、中期では新規市場開拓など、それぞれ異なる戦略アプローチも必要となります。
このように柔軟かつ段階的なアプローチによって、大きな成果へと導くことが可能です。
進捗確認とフィードバック体制の整備
数値目標は設定しただけでは意味がありません。定期的な進捗確認とフィードバック体制こそ、最終的な成功へのカギとなります。月次レビュー会議や四半期ごとの進捗報告など、定期的なチェックポイントを設けて進捗状況を評価します。
この際には以下のポイントを考慮しましょう。
- KPI(主要業績評価指標)の導入
売上高だけではなく、新規顧客獲得数やリピート率など複数指標で評価 - PDCAサイクル
Plan(計画)、Do(実行)、Check(評価)、Action(改善)のサイクルによって継続的改善
また、このプロセスでは社員との密接なコミュニケーションも不可欠です。一方通行ではなく双方向で意見交換しながらフィードバック体制を整えることで、一人ひとりの役割意識と責任感も高まります。
私の体験談

私がコンサルタントとして関わったある製造業のクライアントは、長年にわたり売上目標を掲げてきたものの、利益が残らず赤字が続いていました。売上は一定の水準に達しているものの、最終的な利益が思うように上がらないという状況は、多くの中小企業で見られる典型的なケースです。
このクライアントは、売上目標を達成することに注力していましたが、事業存続に必要な「最小限利益」を意識していませんでした。
そこで私は、「求める利益から逆算する」というアプローチを提案しました。
まず、経営者とともに「会社が存続するために絶対に必要な最小限利益」と、「将来的に達成したい利益」を明確にしました。この2つの利益を基準に、必要な売上高やコスト削減の目標を設定しました。具体的には、固定費と変動費を詳細に分析し、それに基づいて「最小限必要な売上」と「理想的な売上」の2つのシナリオを作成しました。
最小限利益を確保するためには既存製品の売上だけでは不十分であることが判明し、特に収益性の低い製品ラインでは目標達成が困難でした。
そこで、付加価値の高い新しい高収益サービスを展開することを決定しました。この新サービスは、既存顧客へのさらなる価値提供と新規市場開拓の両方を見据えたものでした。
さらに、SMART原則を活用して目標を具体化し、「短期」「中期」「長期」の3段階で目標設定と進捗管理を行いました。例えば、1年目には既存顧客への深耕営業による売上増加、2年目には新サービスの展開といったステップで段階的に進めました。
この段階的なアプローチによって、経営者と社員全員が同じ方向性で行動できるようになり、一体感が生まれました。
結果として、このクライアントは3年後には「最小限利益」を超えて「達成したい利益」に到達し、その後も安定した成長を続けています。特に、「最小限利益」と「達成したい利益」を明確に区別し、それぞれに対して具体的な戦略と行動計画を立てたことが成功要因でした。これにより、経営者自身もやるべきことが明確になり、組織全体としても一貫性のある行動が取れるようになったのです。
この経験から学んだことは、「数値目標は単なる数字ではなく、企業全体の戦略と密接に結びついている」という点です。
事業存続を保証するための最小限利益と成長・発展を目指す達成したい利益という2つの視点から正確な数値設定と行動計画を立てれば、中小企業でも大きな成果を挙げることができると確信しています。
Q&A
Q1. 求める利益を設定する際、どの程度現実的な数字を目指すべきですか?
A. 会社の利益目標は、単なる「現実的な数字」ではなく、経営者の意思と会社存続という観点から設定されるべきです。
まず最優先すべきは、事業が存続するために必要な「最小限利益」です。この最小限利益は、固定費や変動費、さらには予期せぬリスクに対応するための「事業存続費」であり、これが確保されなければ企業は破綻してしまいます。
一方で、経営者が目指すべきは「最小限利益」を超えた「達成したい利益」です。これは、企業が成長し、新たな市場に参入したり、人材育成や設備投資を行ったりするために必要な利益です。この「達成したい利益」は、経営者のビジョンや中長期的な戦略に基づいて設定されるものであり、企業の発展を支える重要な指標です。
したがって、求める利益は2つの段階で考えることが重要です。
まずは事業存続を保証するための「最小限利益」を設定し、それを基に逆算して売上目標やコスト削減計画を立てます。その上で、「達成したい利益」を目指し、企業の成長戦略を具体化していくことが求められます。このアプローチによって、経営者は会社の安定と発展の両方を同時に追求できるようになります。
Q2. SMART原則はどんな企業にも適用できますか?
A. はい、SMART原則は業種や規模に関係なく適用可能です。特に中小企業では、明確で測定可能な目標設定が組織全体の方向性を統一するために非常に有効です。SMART原則によって具体的で現実的な数値目標が設定されることで、社員全員が同じ方向に向かって行動できるようになり、一体感が生まれます。また、進捗状況を定量的に評価できるため、必要に応じて軌道修正も容易になります。
Q3. 進捗確認はどれくらいの頻度で行うべきですか?
A. 進捗確認は月次や四半期ごとのレビューが一般的ですが、その頻度は業種やプロジェクトの性質によって異なる場合があります。重要なのは、定期的なチェックポイントを設けて軌道修正できる体制を整えることです。特に中小企業ではリソースが限られているため、一度立てた目標や計画が外部環境や内部状況の変化によってズレてしまうことがあります。そのため、定期的な進捗確認によって問題点を早期に発見し、柔軟に対応することが成功への鍵となります。また、このプロセスでは社員とのコミュニケーションも重要であり、一方通行ではなく双方向で意見交換しながら進捗状況を共有することで、一貫性ある行動計画が実現します。
まとめ
この記事では、「求める利益から逆算して数値目標を設定する」方法について解説しました。
数値目標は企業の羅針盤であり、その設定次第で企業の未来が大きく変わります。求める利益から逆算しつつ、現状分析やSMART原則などの手法を活用することで、現実的かつ挑戦的な目標設定が可能になります。
また、短期・中期・長期と段階的に目標を分割しながら進捗確認とフィードバック体制を整えることで、一貫性のある成長戦略を実現できます。経営者として、このアプローチを取り入れることで、自社の成長と持続可能な発展への道筋が明確になるでしょう。
最後にお伝えしたいことは、「数値目標は単なる数字ではなく、企業全体のビジョンや戦略と密接につながっている」という点です。
正しい数値目標設定こそが、あなたの会社を次なるステージへと導くカギとなります。
私たち唐澤経営コンサルティング事務所では、「コーチング」と「コンサルティング」を組み合わせ、中堅中小企業の経営課題解決と成長戦略の策定を強力にサポートいたします。
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