唐澤経営コンサルティング事務所代表の唐澤です。
中小企業診断士・ITストラテジストの資格を持ち、20年以上にわたり、中堅中小企業の経営戦略立案や業務改革、IT化構想策定のコンサルティングに従事してきました。
このコラムでは、私のコンサルティング経験をもとに、中堅中小企業の経営に役立つ情報を発信しています。
日々、経営の最前線で奮闘しているあなた。目まぐるしく変わる市場環境や、人材不足、競争激化など、次々と押し寄せる課題に頭を悩ませていませんか?
そのような中、「企業の軸」が見えない状態では、方向性を見失い、従業員やステークホルダーの信頼を得ることが難しくなります。その「軸」を形作るものこそ、MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)です。
特に中小企業においては、経営資源が限られる分、経営者の想いや価値観を明確にし、組織全体で共有することが成長のカギになります。
この記事では、MVVの重要性や具体的な導入方法を徹底解説します。この記事を読むことで、あなたの企業にとっての「揺るぎない軸」を見出し、より力強い経営への一歩を踏み出すきっかけとなるでしょう。
MVVの基本

MVVとは何か
MVVは、「ミッション(Mission)」「ビジョン(Vision)」「バリュー(Value)」の頭文字を取ったもので、企業の「核」となる重要な要素を指します。
それぞれの意味を簡単に説明すると次のようになります。
- ミッション(Mission):企業の存在意義や目的
これは、会社が「何のために存在しているのか?」を明確にするものです。たとえば、「地域社会の健康を支える医療機器を提供する」といった具体的な使命が該当します。ミッションは企業の土台であり、他社と差別化する最も重要な要素の一つです。 - ビジョン(Vision):目指す未来の姿
ビジョンは、会社が「将来どうなりたいか?」を描いたものです。5年後、10年後の理想の姿を言語化することで、従業員や顧客に希望を与えます。「業界No.1の顧客満足を実現する企業になる」といった目標を設定することが一般的です。 - バリュー(Value):共有する価値観や行動指針
バリューは、会社が「どのような価値観や行動原則を大切にするか?」を示します。これにより、社員一人ひとりの判断基準が統一され、企業文化を形作ります。たとえば、「お客様第一」「挑戦を恐れない姿勢」などが具体的なバリューの例です。
これは私見ですが、私は必ずしもMVVを無理に切り分けて言語化する必要はないと考えています。なぜならば、経営者や社員の信念、日々の取り組みから生まれる言葉が自然と形づくられる場合、そのプロセスそのものを尊重することが重要と考えるからです。
MVV は、単なる言葉の羅列ではありません。企業活動のあらゆる場面で「判断の軸」となります。特に、議論や日々の実践の中から自然に形成された言葉であれば、MVVで切り分けられていなくとも、実効性のある道しるべとして機能するものと私は考えています。
MVVが企業にもたらす効果
MVVをしっかりと策定し、組織全体で共有することで得られる効果は計り知れません。
以下に具体的なポイントを挙げて解説します。
- 従業員の一体感を高める
MVVは、組織全体を同じ方向に導く「旗印」のようなものです。従業員が「自分たちは何のために働いているのか」を理解することで、モチベーションが向上し、チームとしての一体感が生まれます。これにより、従業員が会社の目標を自分事として捉え、主体的に行動するようになります。 - 意思決定のスピードと質が向上する
経営には常に判断が求められますが、MVVが明確であれば、判断基準がブレません。たとえば、「新規事業を立ち上げるべきか?」という場面でも、ミッションやビジョンに沿っているかどうかを基準に考えれば、スムーズに結論を出すことができます。この一貫性が、経営のスピードと精度を高めます。 - 顧客やパートナーからの信頼が向上する
「なぜこの会社を選ぶのか?」という問いに対し、顧客や取引先は、その企業の価値観や方向性を見ています。たとえば、「環境への配慮を重視する企業」というミッションが明確であれば、同じ価値観を持つ顧客やパートナーの共感を得やすくなります。これにより、信頼関係が築かれ、長期的なビジネスの成功につながります。 - 人材採用や定着率の向上
特に若い世代の求職者は、「企業の価値観」や「社会的意義」を重視する傾向があります。MVVがしっかりと伝われば、企業理念に共感する人材を引きつけ、長く働いてもらうことができます。これにより、人材不足のリスクを軽減できます。
MVVの策定は、「ただ作るだけ」で終わってしまうと効果を発揮しません。これらの効果を最大化するためには、企業全体で共有し、日常の経営活動に組み込むことが重要です。
MVVが求められる背景
現代の経営環境は、かつてないほど変化が激しく、複雑化しています。
特に中小企業においては、限られた資源を最大限に活用しながら、競争に打ち勝つために「企業の軸」が求められています。
この背景を具体的に解説します。
- 不確実性の高い時代への対応
市場や業界の変化が予測しにくい現代において、企業は迅速かつ柔軟に対応することが求められます。しかし、変化に振り回されるだけでは、長期的な成長を実現することはできません。MVVは「変化に流されない軸」として機能し、どのような環境下でも企業がブレずに進むべき方向を指し示します。 - 人材採用・定着の課題
中小企業では、優秀な人材の採用や離職防止が大きな課題となっています。特に若い世代は、単に給与や待遇だけでなく、「この企業はどんな社会的意義を持っているのか?」「どんな価値観で動いているのか?」を重視します。MVVが明確で共感を呼ぶものであれば、企業文化に魅力を感じた人材が集まり、長く活躍してくれる可能性が高まります。 - 競争優位性の構築
現在、多くの市場では差別化が難しくなっています。同質化した商品やサービスが並ぶ中で、顧客や取引先が注目するのは「その企業ならではの信念」や「目指す未来の姿」です。MVVを通じて「この企業だから選ばれる理由」を明確にすることが、競争を勝ち抜く大きな武器となります。 - 社会的責任の高まり
企業には、利益を追求するだけでなく、社会的な責任を果たすことが求められる時代です。環境問題や地域貢献といったテーマに対する企業の姿勢は、消費者やステークホルダーにとって重要な評価基準となっています。MVVがその企業の社会的な立ち位置を示すものであれば、顧客やパートナーの信頼を得やすくなります。
MVVが求められる背景には、これらの時代的要請が密接に関わっています。経営者として、こうした流れを正しく理解し、自社の軸を明確にすることが、今後の成長に直結するのです。
MVV導入の具体的なプロセス

MVVを策定するステップ
MVVを策定する際には、しっかりとしたプロセスを踏むことが重要です。適切な手順を経ることで、企業の実情に即した実効性の高いMVVを作り上げることができます。
以下に、具体的なステップを解説します。
■ステップ1: 経営者自身の価値観を洗い出す
まず、経営者であるあなた自身が「自社の存在意義」についてじっくり考えることがスタート地点です。
以下の問いを自問してみてください。
- 会社は何のために存在しているのか?
- 社会にどんな価値を提供しているのか?
- 自分が大切にしたい価値観とは何か?
これらを言語化することで、ミッションの核となる部分が見えてきます。自分自身の信念を正直に書き出すことがポイントです。
■ステップ2: ステークホルダーの声を集める
次に、従業員や顧客、取引先など、会社に関わるステークホルダーの声を集めましょう。これにより、自社の強みや課題、期待されている役割を客観的に把握できます。例えば、アンケートやワークショップを実施するのも効果的です。これらの意見は、ビジョンやバリューの策定において重要な参考資料となります。
■ステップ3: 企業の現状と将来像を分析する
現在の事業環境や会社の状況を冷静に分析することも欠かせません。
以下の観点で状況を整理しましょう。
- 競争環境や市場の動向
- 自社の強みと弱み
- 目指すべき将来の姿
これらを基に、現実的かつ意欲をかき立てるビジョンを描きます。
■ステップ4: チームで議論し、具体化する
最後に、ミッション・ビジョン・バリューを具体的な文言に落とし込みます。ただし、この作業は、無理に言葉を作り出すのではなく、経営者や幹部、主要メンバーとの議論を通じて自然に共有された価値観や思いを反映させることが重要です。全員が心から共感し、実行に移せる内容にすることで、MVV が組織文化に自然と浸透します。
MVV策定のプロセスは、「会社の価値を見つめ直す機会」とも言えます。
単に理念を作るだけでなく、これを通じて経営の基盤を強固にすることを意識しましょう。
策定後に注意すべきポイント
MVVを策定した後、そこで満足してしまうことが多いのが現実です。
しかし、本当に重要なのは策定後の運用です。
MVVを形骸化させず、実際の経営に活かすために注意すべきポイントを解説します。
- 社内浸透を徹底する
MVVは「作ること」ではなく「使うこと」に意味があります。社内で共有し、すべての従業員が理解し、共感できる状態を目指しましょう。そのためには、以下のような取り組みが効果的です。- 社員向け説明会の実施:策定したMVVの背景や意義を丁寧に説明する場を設けることで、従業員の理解が深まります。
- 日常業務への組み込み:目標設定や評価基準にMVVを反映させることで、具体的な行動につなげることができます。
- 日常的に振り返る仕組みを作る
MVVは一度作ったら終わりではありません。事業環境や企業の成長に応じて、適宜見直すことが必要です。そのためには、以下のような仕組みを設けましょう。- 定期的なレビューの実施:半年ごとや1年ごとに、MVVが実際の経営に反映されているかを振り返ります。必要であれば改善や微調整を行うことも大切です。
- 日々のミーティングでの活用:日常の会議や打ち合わせで、決定事項がMVVに沿っているかを確認する習慣を持ちましょう。これにより、全社員が「MVVを意識する」文化が定着します。
- 外部にも発信する
MVVは社内だけでなく、外部に向けても発信することで企業価値を高めることができます。顧客や取引先、地域社会に対して、企業の使命や価値観を伝える取り組みを行いましょう。- ホームページやパンフレットへの掲載:自社のMVVをわかりやすく伝えるコンテンツを作成し、信頼や共感を得ることを目指します。
- SNSやイベントを活用した発信:自社の取り組みを通じて、MVVを具体的に示すことで、外部からの支持を得られます。
- 形骸化を防ぐリーダーシップ
最後に、経営者や管理職のリーダーシップが何より重要です。経営層が率先してMVVを意識し、それに基づいて意思決定を行うことで、組織全体に「本気度」が伝わります。言葉だけでなく、行動で示すことが大切です。
MVVを活用するための具体的なアプローチ
MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)は、単に策定するだけでなく、それを運用し、経営活動に取り入れることで初めて効果を発揮します。
以下に、MVVを最大限に活用するための具体的なアプローチを解説します。
- 社内の意識統一に活用する
MVVは、従業員の意識を統一するための重要なツールです。全社員が同じ方向を向いて行動するためには、以下のような工夫が必要です。- MVVを身近に感じられる環境を作る:社内掲示板やデジタルサイネージにMVVを掲示し、日常的に目にする仕組みを整えます。
- 業務の中に組み込む:目標設定や業績評価にMVVの要素を組み込むことで、従業員が自分の行動をMVVに結びつけやすくなります。
- 顧客や取引先への発信に活用する
MVVは、外部のステークホルダーに対しても強いメッセージを発信する手段となります。- ウェブサイトでの明確な表記:企業の存在意義や目指す姿を明確に伝えることで、顧客や取引先の共感を得やすくなります。
- 営業やマーケティングでの活用:営業活動や広告でMVVを前面に押し出すことで、競合との差別化を図りやすくなります。
- 経営判断の基準として活用する
MVVは、経営者が重要な意思決定を行う際の基準としても機能します。- 新規事業の立ち上げ:「この事業は自社のミッションに合致しているか?」という視点で判断することで、無駄なリソース投資を避けることが
- 取引先の選定:自社のバリューと一致しない価値観を持つ企業との取引を避け、信頼できるパートナーと協力することが可能になります。
MVVの活用は、企業の成長を加速させ、社内外の信頼を築くためのカギとなります。この考え方を基盤に据えることで、企業がより強く、持続的な競争力を持つ存在となるでしょう。
私の体験談

ある製造業の中小企業の事例です。この会社は地元で50年以上の歴史を持つ老舗企業でした。
2代目の60歳近い社長は、業績の停滞や社員の士気の低下に頭を悩ませており、「このままでは次世代に会社を引き継ぐことができない」との不安を抱えていました。さらに、最近娘婿を社員として迎え入れ、10年後に3代目として会社を継ぐことを視野に入れていたため、次の世代にしっかりとした基盤を残したいという想いが強くありました。
問題の核心は、先代である創業者が掲げた社是が形骸化していることでした。かつては経営の指針として輝きを放っていた社是も、時代の変化に対応しきれず、現場の社員たちは「この会社がどこを目指しているのか分からない」という状態に陥っていました。
私は、まず社長自身の想いや価値観を深掘りすることから始めました。創業者から受け継いだ理念をどう継承し、どのように発展させたいのかを徹底的に話し合いました。その際、ある企業ではミッションだけを定め、それを軸に経営が成功した事例を紹介しました。ミッション一つだけでも十分に組織の指針となり得るという点を強調し、経営者の考えに共感を得ることができました。特に、「なぜ会社を継いだのか?」「大切にしている哲学・価値観は何か?」「自分が経営者としてどんな未来を描いているのか?」といった問いを中心に据え、社長の考えを整理していきました。
その中で、社長自身が「次世代が胸を張って経営できる会社を残したい」という強い想いを持っていることが明確になりました。
次に、幹部社員とのディスカッションを行い、現場の視点を取り入れた新しい経営の軸を検討しました。このプロセスには、娘婿も次世代の経営者候補として参加しました。
現場の課題や強み、社員が共有すべき価値観など、様々な視点から議論を重ねた結果、会社の目指す方向性がはっきりと定まりました。議論の過程で幹部社員たちが新たな経営指針に共感を持ち、責任感を強めたことも大きな成果でした。
新しい方向性に基づき、経営方針や評価基準を見直すとともに、次世代を担う若手社員を巻き込んだプロジェクトを立ち上げ、組織全体の活性化を図りました。その結果、業績は着実に回復し、社員同士の結束力も高まりました。
「自分たちがどこに向かっているのか分かるようになった」という社員の声が増えたことが、社内改革の成功を物語っています。
この経験を通じて感じたのは、特に世代交代を控えた企業においては、現経営者の想いを再定義し、それを次世代に引き継ぐ作業が不可欠だということです。
それは単なる理念作りではなく、企業の未来を形作るための最も重要なステップなのです。
Q&A
Q1: MVVは中小企業でも必要ですか?
A: はい、むしろ中小企業にこそ必要です。中小企業では、大企業と異なり経営資源が限られているため、全社員が同じ方向を向いて行動することが重要です。MVVを明確にすることで、従業員一人ひとりが自分の役割を理解し、主体的に動ける環境を作ることができます。また、顧客や取引先に自社の特徴や価値を伝える際にも、MVVが大きな助けとなります。
Q2: MVVを浸透させるにはどうすればいいですか?
A: 経営者や幹部が率先して行動することがカギです。MVVを策定したら、まず経営層がそれを体現する行動を見せることが重要です。その上で、以下のような具体的な施策を講じると効果的です。
- 社員説明会を通じて、MVVの背景や意義を共有する。
- 日々の業務目標や評価基準にMVVを反映させる。
- 社内でMVVに基づく成功事例を共有する。
これらを通じて、社員がMVVを単なる理念としてではなく、自分たちの行動の指針として捉えられるようになります。
Q3: MVVが形骸化しないためにはどうすればいいですか?
A: 日常の経営活動にMVVを組み込むことが重要です。MVVを形骸化させないためには、策定後の運用が鍵となります。例えば、意思決定やプロジェクトの評価基準にMVVを取り入れるといった方法があります。また、定期的な社内ミーティングで「この活動がMVVにどう貢献しているか」を振り返る時間を設けることで、社員全員がMVVを意識し続ける文化が醸成されます。
まとめ
経営者として、日々の業務や将来の方向性に悩みを抱えることは少なくありません。そのような中で、MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)は、企業が持つべき「軸」として大きな力を発揮します。
この記事では、MVVの基本から導入プロセス、運用の重要性について解説しました。特に、世代交代を控えた中小企業において、経営者自身の想いや価値観を再定義し、それを次世代に引き継ぐことの意義は計り知れません。
MVV は単なる理念の策定ではなく、社員一人ひとりが同じ方向を向いて行動するための羅針盤です。ただし、その言葉が無理に切り分けられたものである必要はなく、経営者や社員が共感できる形で自然と形成されるものであることが、より実効性を高めるカギとなります。
また、社外に向けた強力なメッセージともなり、顧客や取引先の信頼を得る重要な要素でもあります。
最後に、MVVを実際に活用するためには、以下のポイントを意識してください。
- 経営者や幹部が率先してMVVを体現すること。
- 日常の業務にMVVを取り入れ、形骸化を防ぐこと。
- 次世代を見据えた持続可能な視点でMVVを活用すること。
MVVの策定は経営者としてのあなた自身を見つめ直し、会社の未来を形作る大きなチャンスです。この記事が、あなたの経営を次のステージに進める一助となれば幸いです。
私たち唐澤経営コンサルティング事務所では、「コーチング」と「コンサルティング」を組み合わせ、中堅中小企業の経営課題解決と成長戦略の策定を強力にサポートいたします。
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