唐澤経営コンサルティング事務所代表の唐澤です。
中小企業診断士・ITストラテジストの資格を持ち、20年以上にわたり、中堅中小企業の経営戦略立案や業務改革、IT化構想策定のコンサルティングに従事してきました。
このコラムでは、私のコンサルティング経験をもとに、中堅中小企業の経営に役立つ情報を発信しています。
株式会社帝国データバンクは、2024年12月の企業倒産件数(負債1000万円以上の法的整理が対象)を公表しました。
※詳細はこちら。
2024年は倒産件数が3年連続で増加し、月別ベースでは32カ月連続で前年同月を上回るという、過去最長の連続増加記録を更新しました。倒産そのものは経済環境や業界ごとの構造問題が顕在化する兆候でもありますが、実はこれを「業界の新陳代謝が進む転換点」と捉える見方もあります。
コロナ禍以降、政府・金融機関による支援策やゼロゼロ融資によって延命してきた企業が、物価高・人手不足など外部環境の変化に対応しきれず、事業を断念するケースが増えてきました。とりわけ小規模事業者の廃業や倒産が顕著です。
では、こうした動きを踏まえて今後の中小企業はどんなリスクとチャンスに直面するのか?以下ではまず事実を整理し、そこから導かれる示唆をお伝えします。
データから見る事実

倒産件数・態様等の概況
- 倒産件数
- 2024年の企業倒産は合計9,901件。前年比16.5%増で3年連続の増加。
- 月別でも32カ月連続で前年同月を上回り、過去最長の連続増加記録を更新。
- 倒産態様
- 「清算型」倒産が824件で全体の97.2%を占めている。
- 「再生型」倒産は24件と少数ながら2カ月連続で前年を上回り、特に中小でも民事再生を活用する例がみられる。
業種別動向
- サービス業:件数215件と業種別で依然最多だが、34カ月ぶりに前年を下回った。
- 小売業:186件で前年同月比14.1%増、28カ月連続で前年同月を上回っており、長期的増加トレンドが続く。
- 飲食店:2024年の倒産894件で過去最多を更新。小規模事業者中心にコストアップが重くのしかかっている。
倒産主因と背景
- 不況型倒産
「販売不振」や「業界不振」など、不況型倒産が710件。32カ月連続で前年同月を上回り、依然高水準。 - 人手不足倒産
2024年は342件で初めて300件を突破、前年から3割超の増加。特に建設業や運輸・通信業、サービス業で深刻。 - ゼロゼロ融資後倒産
734件(前年比12.6%増)。返済開始の負担増に耐え切れないケースが増加。
規模・業歴・地域別の特徴
- 規模別
- 負債額「5,000万円未満」が最も多く、中小零細企業が主体。
- 「個人+資本金1,000万円未満」倒産が全体の72.8%。
- 業歴10年未満の新興企業
- 262件が倒産し、15カ月連続で200件を超える。
- 地域別
- 9地域中6地域で前年同月を上回り、特に近畿(13.2%増)は27カ月連続増加。
- 四国は16年ぶりに20件超となり大幅増(43.8%増)。
(5)2025年の見通し
- 倒産はさらに緩やかに増加
物価高倒産、人手不足倒産、後継者難倒産といった構造的要因がまだ解消されず、新たな追加利上げも予想される。 - 「2025年問題」
団塊世代が後期高齢者となる影響で、事業承継や人材難の深刻化が進み、「あきらめ廃業」もさらに増える懸念がある。
データから見える経営へのインパクト

- 小規模事業者への影響が特に顕著
倒産規模を見ると「負債額5,000万円未満」が最多、かつ「個人+資本金1,000万円未満」が7割超。突発的に売上が落ちたり、返済負担が重くなったりしただけで一気に経営が行き詰まる脆弱性が浮き彫りとなっている。 - 業種を問わず、人手不足が深刻化
建設業や運輸・通信業、サービス業で特に顕著ですが、経営に対するインパクトは広範囲に及ぶ。小規模企業の場合、採用コストや賃上げの負担が直接経営を圧迫し、倒産要因になりやすい。 - 物価高がコスト負担を増幅
原材料・光熱費・燃料費の上昇を転嫁できず、利益圧迫からキャッシュ不足に陥るケースが増加。飲食店やタクシー業など、顧客単価アップが難しい業態は特に警戒が必要。 - 後継者難の放置は大きなリスク
高齢経営者の病気や死亡などをきっかけに、後継者不在で経営を諦めるパターンが依然多い。2025年以降、この現象がさらに加速する見込
中小企業経営者への具体的示唆

上記の事実から、以下のような戦略・対策を検討すべきと考えます。
資金繰り・財務基盤の強化
- ゼロゼロ融資返済への早めの対策
- 金融機関とのコミュニケーションを密にし、リスケや追加支援の可能性を探る。
- 返済負担が増えた段階で慌てないよう、手元キャッシュの確保とシミュレーションを徹底する。
- 固定費の徹底見直し
- 不要資産や過剰在庫の処分、サブスク型サービスやクラウド活用などで月々の経費を削減。
人材確保と生産性向上の両輪強化
- 業務のデジタル化・プロセス改革
- 人手が足りなくても業務が回る仕組みを構築(RPA導入やオンラインツールの活用など)。
- 飲食業ならモバイルオーダーやセルフレジ、建設業なら施工管理アプリなどを取り入れてみる。
- 働き方や報酬制度の柔軟化
- 小規模な企業ほど、優秀人材が集まりやすい「魅力ある職場づくり」が重要。
- インセンティブ制度や成果給導入、リモート・時短など多様な働き方を受け入れる。
後継者難への早期対応
- 後継者育成とM&Aの両面検討
- 社内に幹部候補がいない場合、同業他社との統合やM&A、ファンド活用など「第三者承継」も視野に入れる。
- 後継者不在が事業停止リスクへ直結
- 自社の技術やノウハウ、取引先を守るためにも、事業継承スキームの構築は優先度が高い。
価格転嫁+付加価値戦略の両立
- 差別化と価値訴求で価格アップを図る
例)飲食店であれば原産地や生産者ストーリーを打ち出し、ブランド力を高める。- 「ただ値上げする」から「適正価格で上質な体験を提供する」に発想を転換する。
- 共同購買や仕入れ先の分散
仕入れコストを抑えるため、同業者間の共同調達や地域内ネットワークの活用も有効。
ガバナンス強化と「粉飾倒産」回避
- 早期警戒システムの導入
- 粉飾に走らないために、月次決算を正確かつ迅速に行い、赤字要因を早期発見。
- 取引先や銀行との情報共有を密にし、信頼を積み重ねることで経営リスクを下げる。
- 不祥事リスクの未然防止
- 中小企業でコンプライアンス体制を整え、不正会計を防ぐ内部牽制機能を整備する
まとめ
倒産の増加が続く現状は、外部環境の厳しさと同時に「市場の新陳代謝」が進む兆しとも言えます。確かに、中小零細企業にとっては人手不足や物価高、後継者問題など、いずれも避けて通れない難題が山積しています。しかし、こうした逆風期だからこそ、事業の根幹を見直し、強みを活かした生産性向上や差別化を図るチャンスでもあります。
- 「2025年問題」 は、単なるリスクであると同時に、抜本的な事業継承・M&Aの後押しとなる可能性があるでしょう。
- 物価高・人手不足 という圧力も、デジタルシフトや業務効率化、さらに働き方改革を進めるきっかけになります。
- 金融支援縮小 で経営の綱渡りが難しくなる一方、財務の改善や事業整理を先行的に取り組むことで、抜け出せなかった不採算体質から脱却する好機にもなりえます。
厳しい時代だからこそ、大胆な意思決定と変革のスピード感をもって舵を切り、周囲を巻き込んでいく。それがこの混沌とした経営環境を乗り越え、次の成長フェーズへ飛躍する最善の策です。
中小企業を経営するあなたには、どうかこの局面を「攻め」の発想で捉えていただきたいと思います。自社の強みと新たな可能性を見出しながら、ぜひ次の一手に挑戦してみてください。
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