唐澤経営コンサルティング事務所代表の唐澤です。
中小企業診断士・ITストラテジストの資格を持ち、20年以上にわたり、中堅中小企業の経営戦略立案や業務改革、IT化構想策定のコンサルティングに従事してきました。

このコラムでは、私のコンサルティング経験をもとに、中堅中小企業の経営に役立つ情報を発信しています。

「優秀な人材を採用し、適切に配置していれば組織はうまく回るはず」

経営者はそのように考えがちですが、実際には、人材の優秀さだけでは解決しない問題が企業経営においては数多く存在します。その代表例が、組織の雰囲気やチームワークを損なう“危険人物”の存在です。

厚生労働省が実施した「職場のハラスメントに関する実態調査」(令和5年度)によれば、過去3年間にパワーハラスメントの相談があったと回答した企業の割合は64.2%と、前回調査(令和2年度)より16.0ポイント増加しています。このことから、社員が人間関係やハラスメントに悩む割合も増加傾向にある可能性があります。特に中小企業の場合、従業員数が限られているため、少数の“危険人物”が組織全体に与える悪影響は、想像以上に大きなものとなります。

経営者としては、こうした“危険人物”を早期に発見し、適切に対応することが不可欠です。

本コラムでは、「危険人物とはどのようなタイプか?」「経営者として何を観察し、どう対処するべきか?」を具体的に掘り下げていきます。

あなたの会社をよりよい組織にするための参考になれば幸いです。

“危険人物”が引き起こすリスクとは?

まずは“危険人物”が組織に与えるリスクの大きさを認識しておきましょう。

経営者にとって、「人」は最も重要な経営資源でありながら、最も扱いが難しい資源でもあります。

雰囲気悪化とモチベーションの低下

組織で起こる最も顕著な問題が、職場の雰囲気の悪化です。

過度に自己中心的な言動や攻撃的なコミュニケーションが目立つ人材がいると、周囲の社員はストレスを感じるようになります。そして、そのストレスはモチベーションの低下や生産性の低下へとつながっていきます。

有能な社員の離職

雰囲気が悪い職場には、優秀な社員ほど長く留まらない傾向があります。

優秀な社員は転職市場でも高く評価される可能性が高いです。したがって、彼らは会社や上司、同僚を選ぶ自由を持っており、わざわざ不健康な環境で働き続ける理由はありません。結果的に“危険人物”の存在が原因となって離職が重なり、組織全体のパフォーマンスが低下する可能性があります。

クレームやトラブルの増大

社内だけでなく、取引先や顧客とトラブルを起こすケースもあります。

自己中心的な“危険人物”が顧客対応をしていた場合、態度の悪さやコミュニケーション不全が直接クレームに発展し、会社の評判にも傷がつきかねません。

“危険人物”の典型的な特徴

では、具体的にどのような特徴を持つ人が“危険人物”と言われるのでしょうか?

以下に代表的なケースを挙げます。

コミュニケーションが常に攻撃的・皮肉的

言葉の選び方や声のトーンが常に攻撃的であったり、皮肉や嫌味を含む発言を好んだりする人は、周囲の社員に大きな精神的負担を与えます。

特に部下に対して過剰に厳しく接したり、陰口を叩いたりする場合、組織内の信頼関係を大きく損なうでしょう。

責任回避が激しい

問題が起きたときに、自らの責任を認めず、部下や同僚に押し付けようとする人も“危険人物”になり得ます。

責任の所在が曖昧な状態が続けば、会社全体として説明責任が機能しなくなり、ミスが繰り返される環境ができあがってしまいます。なお、ここで言う「説明責任」とは、「職務や行動について説明する責任」のことを指します。成果だけでなく、失敗や問題に対しても自ら説明し、改善する姿勢が重要となります。

過度な自己顕示欲

常に周囲の注目を集めようとし、自己正当化や自慢話に終始するタイプの人は、チームワークを崩す要因になります。

実績があればまだしも、実態の伴わない自慢が増えれば増えるほど、周囲の不信感は高まっていくでしょう。

秘密主義・情報を独占したがる

自分の社内地位を守るために情報を隠蔽し、社内での情報共有を妨げる人も要注意です。円滑なコミュニケーションが妨げられ、チーム内の信頼関係が崩れる原因になります。

感情の起伏が激しい

すぐに怒りを爆発させたり、あるいは極端に落ち込んで業務に支障をきたしたりする等、感情の起伏が激しい人は、組織内に不安感をもたらします。

周囲はその人の機嫌を取ることに時間とエネルギーを割かねばならず、組織としての生産性や心理的安全性が下がります。

早期発見のポイント:経営者が注目すべきサイン

中小企業の場合、経営者が社員一人ひとりの情報を比較的把握しやすいというメリットがあります。

一方で、「人に干渉しすぎると嫌われるのではないか?」「社員を信用していないと思われたくない」といった心理から、問題の発見が遅れてしまうケースも少なくありません。

経営者として、あなたは以下のサインを見逃さないことが重要です。

離職率や休職率の変化

突然、ある部署やチームだけ離職率や休職率が高まった場合、そこに“危険人物”が潜んでいる可能性があります。

一般的に、従業員規模が小さい企業ほど、一人の社員の影響力は大きくなるため、トラブルが起きた際に退職が連鎖するリスクは高くなります。

組織目標の達成度低下

組織全体の業績や目標達成率に明らかな低下が認められた場合、その原因は市場環境だけではなく、内部要因、特に人間関係の問題が潜んでいることがあります。営業部など、成果が数字に表れやすい部署では特に注意しましょう。

社内外からの苦情や通報

社内のハラスメント通報窓口や上司への相談件数が突然増えたり、顧客や取引先からのクレームが特定の担当者に集中していないかチェックすることも重要です。

近年はコンプライアンス(法令遵守)意識の高まりにより、社会全体がハラスメントや不正行為に敏感になっているため、通報や相談が増えやすい傾向にあります。

部内の空気が「重い」「ギスギスしている」

経営者が現場を訪問した際に、社員同士の会話が少なかったり、誰かが話すたびに周囲が神経質になっているといったネガティブな空気感がある場合は要注意です。

経営者自らが定期的に現場を回り、社員と面談や雑談を重ねるなど、密なコミュニケーションを図ることで、問題の早期発見につなげることができます。

対処法:予防策と事後対応

“危険人物”を未然に防ぐ「予防策」と、すでに存在する場合の「事後対応」をセットで考えることが重要です。いずれか一方に偏ると、根本的な解決には至らないケースが多いからです。

予防策

採用・評価プロセスの透明化

新規採用や人事評価のプロセスが不透明だと、結果的に“危険人物”を採用したり、企業風土に合わない人材を重用してしまうリスクが高まります。

採用時には複数人での面接を行い、価値観やコミュニケーション能力をしっかりと見極める必要があります。特に中小企業においては、組織文化やチームの雰囲気への適合性である「カルチャーフィット」を重視することがポイントです。

採用については、以下の記事もお読みください。

また評価基準を明文化して社員に周知し、「誰が、何を基準に評価されるのか?」を公正に示すことで、組織としての一貫性を保ちましょう。

組織風土の醸成

ミッションやバリューを定期的に社員と共有し、どのような行動が会社にとって望ましく、どのような行動が望ましくないのかを周知しておくことが大切です。

例えば「人を大切にする」「チームで成果を上げる」といった価値観を具体的な行動例とともに提示しておくと、社内の意識がそろいやすくなります。

ミッション・バリューについては、以下の記事もお読みください。

コミュニケーションの場の設定

部署横断のミーティングやレクリエーション、1on1面談など、上司と部下、同僚同士のコミュニケーションを増やす場を作ることで、人間関係のトラブルを未然に防ぐことができます。

特に業務が忙しい中小企業は、「コミュニケーションのためだけの時間」が後回しにされがちです。しかし長期的には、この投資が組織を守る要になります。

事後対応

早期の本人面談と事実確認

“危険人物”と思しき社員がいる場合、まずはその社員に対して適切なタイミングで面談を行い、問題点を客観的に伝えましょう。社内の通報や第三者からの証言だけでなく、本人の主張も必ず確認し、事実関係を整理することが大切です。

行動改善プログラムの導入

本人に問題意識があり、行動を改善する意欲が見られる場合は、コーチングや外部セミナーへの参加などを通じて、具体的な改善プログラムを用意しましょう。改善の期限や目標を設定し、その達成度合いを評価する仕組みをつくるとより効果的です。

配置転換や懲戒処分の検討

注意や改善指導を繰り返しても改善が見込めない場合、部署異動や配置転換を検討する必要があります。それでも状況が悪化し続けるようであれば、最終的には懲戒処分を含む厳しい対応も視野に入れるべきです。

一人の“危険人物”が組織全体を傷つけるリスクを優先的に回避することが、経営者の責任と言えます。

Q&A

Q1. “危険人物”に当たるかどうかを、客観的に判断する方法はありますか?
A. 具体的な行動事実に基づいて確認する方法が最も客観的です。抽象的な「雰囲気が悪い」「言葉がきつい」だけではなく、日時・場所・内容を記録することで、「誰に対してどのような言動をしたのか?」を明確にしましょう。また、複数の社員から同様の訴えがある場合は、経営者として早急に対処すべきサインと考えられます。

Q2. 組織の規模が小さいゆえに、“危険人物”を排除できず悩んでいます。どうすればいいでしょうか?
A. 中小企業では、一人の社員が複数の業務を担当していることも多く、「その人がいなくなると業務が回らなくなる」という不安が経営者に生まれがちです。しかし、長期的な視点では組織全体の健全性を損なうリスクのほうが大きい場合が多いです。業務を見直し、引き継ぎマニュアルを整備しておくなど、万が一人員を異動・退職させても業務が回る仕組みを作っておくことが重要です。

Q3. そもそも“危険人物”を生まない会社文化を作るにはどうすればいいですか?
A. まずは経営者自らが会社の理念や行動規範を言語化し、社内外に発信することが基本です。そのうえで、「人を尊重し合う」「オープンな情報共有」「責任をしっかりとる」などの価値観を評価制度と連動させ、定期的に振り返る場を設けることが大切です。時間と手間はかかりますが、健全な組織文化が根付けば、“危険人物”が入り込む余地は大きく減ります。

Q4. “危険人物”本人を排除するよりも、周囲の人材をケアするほうが得策ではないですか?
A. どちらも重要です。周囲の人材が被るストレスを軽減したり、メンタルヘルスをサポートする施策は必要不可欠です。しかし、“危険人物”の問題行動が放置されたままでは根本解決になりません。組織全体を守るためには、問題行動のある本人へのアプローチ(改善策や配置転換など)と同時に、周囲のケアと両輪で進めることが肝心です。

まとめ

中小企業にとって、一人ひとりの社員が会社の将来を左右するほど大きな存在となり得ます。その中で、組織文化やチームワークを破壊しかねない“危険人物”の影響力は非常に大きいものです。優秀な社員の離職、顧客や取引先のクレーム、さらには組織の士気低下による業績悪化など、想定されるリスクは多岐にわたります。

だからこそ、経営者としては「予防策」と「事後対応」の両面をしっかりと整備し、“危険人物”を生まない・放置しない仕組みを作らなければなりません。

具体的には、採用段階から価値観の合う人材を見極め、評価制度や組織風土を「人を大切にする仕組み」に設計することがポイントです。

また、万が一社内に“危険人物”が現れた場合は、事実確認を徹底したうえで早期に対応を行い、周囲に与える悪影響を最小限に抑えなければなりません。

これらの施策を実行するにあたって、中小企業においては経営資源が限られていることも多いでしょう。しかし、組織運営の基本である「人」を軽視すれば、取り返しのつかないダメージを負うリスクが高まります。

一方、建設的な組織文化が醸成されれば、従業員満足度の向上、優秀な人材の定着や採用のしやすさ、クライアントや取引先からの信頼獲得など、さまざまな面でプラス効果が期待できます。

職場に潜む“危険人物”をいち早く発見し、適切に対処することで、組織はより強固で健全な状態を維持することができます。経営者としての判断と行動が問われるテーマではありますが、リスクを正しく理解し、必要な対応を先手先手で打つことで、中小企業は逆境を乗り越え、持続的な成長を遂げることができるでしょう。

私たち唐澤経営コンサルティング事務所では、「コーチング」と「コンサルティング」を組み合わせ、中堅中小企業の経営課題解決と成長戦略の策定を強力にサポートいたします。

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この記事を書いた人

唐澤 智哉

新卒で大手金融系シンクタンクに入社し、大手企業向けのITコンサルティングに従事。その後、2社のコンサルティングファームにて、大手企業向けの業務改革・ITコンサルティングに従事。
2012年に大手IT企業に入社し、中小企業向けのコンサルティング事業の立ち上げの中心メンバーとして事業化までを経験し、10年間中小企業向けの経営コンサルティング・ITコンサルティングや研修・セミナーに従事。
その後、2022年に唐澤経営コンサルティング事務所を創業。中小企業向けの経営コンサルティング、DXコンサルティング、研修・セミナー等のサービスを提供している。
趣味は読書で、年間200冊近くの本を読む。