唐澤経営コンサルティング事務所代表の唐澤です。
中小企業診断士・ITストラテジストの資格を持ち、20年以上にわたり、中堅中小企業の経営戦略立案や業務改革、IT化構想策定のコンサルティングに従事してきました。

このコラムでは、私のコンサルティング経験をもとに、中堅中小企業の経営に役立つ情報を発信しています。

あなたは「262の法則」という言葉を聞いたことがあるでしょうか?

例えば、「社員のうち、2割は積極的に協力し、6割はどちらでもなく、残り2割は否定的に動く」というように、人の集団を2割・6割・2割に分類して捉える考え方です。

私自身、経営コンサルタントとして20年以上現場を見てきましたが、この「262の法則」に当てはまるケースもあれば、まったく通用しないケースも少なくありません。むしろ「何でも262に分けて考えるのは危険」とさえ感じています。

とはいえ、「262の法則って、そもそもウソなの?」という疑問をお持ちの方も多いでしょう。人間関係や組織論の中で、確かにそうした数値による割り振りが存在するのは事実です。

しかし、現代のビジネスや組織環境は複雑化し、個々のメンバーの役割やモチベーションも多様化しています。特に中堅中小企業では大企業にはない特徴的な社風や人間関係が生まれやすく、シンプルな「262」に当てはまらない現象も多々見られます。

本コラムでは、「262の法則」に対して「実はそんなに単純ではない」という視点を提示するとともに、中堅中小企業で活かせる「本当の人間関係や組織づくりのヒント」を具体的にご紹介します。

コラムの後半では、経営者のみなさんからいただきそうな疑問点をQ&A方式でまとめましたので、あなたが実践に落とし込みやすい形でぜひご活用いただければと思います。

そもそも「262の法則」は本当に存在するのか

起源と誤解

「262の法則」という言葉の起源を厳密にたどるのは難しいですが、一般的には「パレートの法則(20:80の法則)」や「働きアリの法則」などから派生して、組織や人間関係に適用した形で語られることが多いようです。

例えば、「売上の8割は上位2割の顧客がもたらしている」という有名なパレートの法則を、社員の行動ややる気の分類に拡大解釈して「262の法則」に当てはめるケースも少なくありません。

しかし、実際の組織運営を見てみると、本当に常に「2割の優秀な人」「6割の普通の人」「2割の足を引っ張る人」という構成になっているわけではありません。社員数が10名程度の企業でも「2割=2人の超優秀層と2割=2人の問題児」が必ず存在するわけではないですし、企業規模が大きくなるほどチームや部署ごとにパフォーマンスの分布は変化します。

ただでさえ、人は組織内の「相対評価」で人材を評価しがちです。実務上、「2:6:2」という固定的な見方をしすぎると、むしろ誤ったマネジメントをする危険性があります。

数値で人を区切ることのリスク

経営者として気をつけたいのは、人間関係を数値で単純に区切ってしまうと「実は潜在的に大きな貢献をする可能性を持った人」を見過ごしてしまうリスクがあるということです。

Zenger Folkmanによる7,000人超の従業員を対象とした調査(Zenger Folkman, 2020)では、権限移譲やエンパワーメントを受けた従業員のエンゲージメントは第79パーセンタイルに達し、そうでない従業員(第24パーセンタイル)に比べて大幅に向上することが示されています。さらに、この調査では、エンパワーメントが低い場合に自主的に追加努力をする社員はわずか4%でしたが、エンパワーメントが高い場合には67%に達し、主体性の向上が自発的な業務貢献や生産性向上につながることが明らかになりました。

つまり、一見平均的に見える「6割」とされる社員でも、適切な環境や動機づけがあれば、より高い生産性や主体性を発揮する可能性があるということです。

逆に、「優秀な2割に該当する」と思われている社員でも、環境の変化や家庭の事情などで一時的にパフォーマンスが落ちることは珍しくありません。また、社内でのコミュニケーションの不一致から「優秀」とされる社員がモチベーションを下げてしまうと、企業全体への悪影響が非常に大きいこともあります。

中堅中小企業で見られる「本当の法則」

分布は固定ではなく流動的

実務の現場を20年以上見てきた私の経験から言えることは、人間関係や組織においては分布が常に流動的だという点です。

一度「優秀層」に入ったからといってずっと優秀であり続ける保証はなく、逆に「あまりパフォーマンスが良くない」と思われていた社員が、あるきっかけを得て目覚ましい成長を遂げるケースも珍しくありません。

例えば、製造業の現場で、新しい機械を導入した際に。若手社員が思わぬ適性を発揮して生産効率を劇的に改善した、というエピソードを耳にすることがあります。古参社員にとっては不慣れな技術で苦労している場合でも、ITやデジタル技術にある程度慣れた若手社員がリードをとることで、組織全体のパフォーマンスが底上げされることもあるのです。

人間関係は均質ではなく多層構造

「262の法則」のように、横一列に並べて「良い」「普通」「悪い」と分類するのは、事象を単純に捉えすぎていると思います。実際には、組織の中においてはいくつもの人間関係が複雑に絡み合っています。例えば、部署ごとのミニ組織やプロジェクトチーム、あるいは年齢や職歴の近い仲間内など、企業内には見えない小集団がいくつも存在します。

心理学者のブルース・タックマンが提唱した「チームの発達段階(形成期・混乱期・統一期・機能期)」というフレームワーク(タックマン, 1965)は、大企業でも中小企業でも応用可能です。人間関係が安定して「機能期」に入れば高い成果を出しやすいですが、それでも組織再編や人事異動、新プロジェクトの開始等があると再び「混乱期」に戻ることがあります。

中堅中小企業では、異動や組織変更が大企業ほど頻繁ではないにせよ、各種の事業転換やプロジェクト単位のチーム編成などが行われれば、人間関係の構造は何度も変わるものなのです。

「ネガティブ層」は必ずしも企業に悪影響を及ぼすとは限らない

「262の法則」が語られる際、下位層の2割は「足を引っ張る層」「ネガティブな層」として扱われがちです。しかし、往々にしてネガティブに見える人の中には、企業の弱点や非効率な箇所をいち早く察知して指摘してくれるタイプの人も含まれているものです。

彼らはただ否定したいわけではなく、懸念点を冷静に洗い出す役割を果たしていることもあるのです。大事なのは、その「否定意見やリスク指摘」をどのように建設的なフィードバックに昇華させるのか?という点でしょう。

意思決定プロセスでデメリットやリスクを検証することは、企業経営においては極めて重要です。「ネガティブだ!」と決めつけてそのような人たちを安易に排除するのではなく、彼らを「リスク管理担当」や「品質チェック担当」として役割を付与すれば、組織の安定性が高まることもあるかもしれません。

中堅中小企業が取り入れたい「組織づくり」のポイント

前述の通り、「262」だけで社員を区分してマネジメントするのは危険だといえます。

では、経営者やリーダーとしてはどのように組織を動かし、人間関係をマネジメントしていけばいいのでしょうか?

ここでは具体的なポイントをいくつか挙げていきます。

社員全員の視点と声を可視化する

組織が変化し続ける以上、誰がどのような考えを持っているのかを経営者や管理職が把握し続けることは意外と難しいものです。中堅中小企業であっても、部署間の壁がある場合や、経営者と現場スタッフの距離が大きい場合は、情報や本音がうまく共有されません。

そこで私が推奨しているのが、定期的なアンケートや1on1ミーティングを通じて、「社員全員の視点を可視化する」仕組みです。とりわけ、Googleフォームやチャットツールなどを活用する方法は、コストをかけずに取り組みやすいです。これにより、潜在的な不満やアイデアの種を拾うことができ、「ネガティブだと思われている」社員の意外な建設的提案を見出せることも珍しくありません。

チームビルディングで固定観念を崩す

「この人は優秀」「この人はあまり貢献しない」といったレッテルが組織内にできあがると、新しいチャレンジやプロジェクトをはじめる際に大きな障壁になります。先入観をリセットしながら組織をリフレッシュするという意味でも、チームビルディングのワークショップや研修を定期的に行うことは効果的です。

例えば、普段仕事であまり接点のないメンバー同士が、小規模のグループワークで問題解決アイデアを出し合う場を設けると、予想外の化学反応が起きたりします。そうした場で新しいリーダーシップや隠れたスキルが見つかるケースもあり、「この人にはこんな能力があったんだ!」という思わぬ再発見につながります。

評価指標を「変化」と「伸びしろ」で見る

社員を評価する際、どうしても今現在の成果や能力値に目が行きがちです。

しかし、中堅中小企業が生き残りと成長を続けるためには、「伸びしろ」を積極的に評価する文化を醸成したほうがプラスになります。大企業と違って人材育成のためのリソースが限られる中堅中小企業では、「潜在力を開花させる」ことが戦略的に重要になるからです。

例えば、人事評価の項目に「新しいスキルや資格の取得意欲」「他部署への積極的な協力姿勢」「ミスからの改善スピード」などを盛り込み、成長している人を評価する仕組みを作ると、社員のモチベーションに大きな変化が生まれます。

これは「2:6:2」の固定的な序列を超えて、「今はパフォーマンスが低いように見える人でも、努力次第で報われる」という文化を作るうえで重要なポイントです。

「ネガティブ意見」を排除せずに活かす

前述の通り、ネガティブに見える意見をすべて排除するのは非常にもったいないことです。むしろ、組織の中で「リスクや問題点をいち早く察知する」能力を持った人こそ必要不可欠といえます。

もちろん単なる不平不満や評論だけで終わるならば問題です。しかし、建設的な代替提案やデータを伴った指摘であれば、会社としても積極的に取り入れる価値があります。

例えば、「プロジェクトの締め切りがタイトすぎる」「新規事業のリスク分析が十分ではない」などの懸念は、しっかり検討する必要があるでしょう。そのために、定期的なプロジェクトレビュー会を開催し、否定意見を言いやすい雰囲気を作っておくと、思わぬトラブルを事前に回避できるケースが増えます。

Q&A

Q1. 「262の法則」に当てはまる社員が明らかにいると感じます。その場合でも対応を変える必要がありますか?
A.人は組織内の「相対評価」で人材を評価しがちなので、もちろん、ある程度は「優秀な人」「平均的な人」「問題を起こしがちな人」がいるように見えるのは事実でしょう。ただし、だからといって一度貼られたレッテルを固定化させないことが大切です。実際には、人のパフォーマンスは環境やチーム構成、会社の方針などによって変わります。したがって、今の状態がずっと続くとは考えず、「どのようにすれば中間層や問題児とされる社員を上向きにできるか?」を考え続ける必要があります。そのためには、個々の社員が何を得意としているのか、どんな目標を持っているのかを定期的にヒアリングして、役割を再調整することが効果的です。

Q2. 「ネガティブ」と見られる社員をどうモチベートすればいいでしょうか?
A.ネガティブな発言には大きく分けて「ただの不満のはけ口」と「リスク指摘」の2種類があります。前者の場合は、給与や待遇、人間関係などの不満が溜まっているかもしれませんので、面談などで根本原因を探る必要があります。一方で、建設的なリスク指摘や問題提起の場合は、積極的に意見を取り入れる役割を与えることでモチベーションを高めることができます。たとえばプロジェクトの進捗管理や品質管理の担当に抜擢するなど、「人が敬遠しがちな仕事だけど重要なポジション」に任命し、適切なフィードバックと評価を行うのです。

Q3. 組織が大きくないので、チームビルディングの研修やワークショップを行う余裕がありません。小規模の企業でもできる方法はありますか?
A.大掛かりな外部研修を呼んだり、数日間オフサイトで研修を行うことは難しいかもしれませんが、社内で簡単に取り組める方法はあります。たとえば、月に1回ほど定例ミーティングの冒頭15分を使って、社員同士が自己紹介や仕事以外の趣味・興味などを発表し合う時間を設けるだけでも効果があります。「普段接点のない社員の意外な一面」を知るだけで、社内コミュニケーションのハードルが下がり、新しいコラボレーションが生まれることがあります。忙しい時期でも短時間で実施できるため、まずは「小さく始める」ことが大切です。

Q4. 個別にヒアリングをすると、どうしても社内政治的な対立が浮き彫りになりそうで怖いです。どう対処すればいいですか?
A.確かに、個々の意見を聞けば聞くほど、部門間や個人間の対立が表面化する可能性はあります。しかし、それを放置してしまうほうが企業の成長にとってリスクが高いです。早い段階で膿を出すつもりで意見を吸い上げるほうが、後々のトラブル拡大を防げます。大切なのは、ヒアリングの結果を公正に扱い、決して個人攻撃や派閥争いの材料にさせないことです。たとえば、外部のコンサルタントや信頼できる中立的な人事担当が情報を集約し、経営者と必要に応じて共有する形をとるなど、「その場限りの感情論にならない」仕組みを作るとよいでしょう。

Q5. 社内で「優秀層」と言われる社員たちのモチベーションをさらに高めたいです。効果的な方法はありますか?
A.「優秀層」とされる社員は、現状の業務だけでは物足りなくなっている可能性があります。彼らは成長やチャレンジを求める意欲が強いことが多いので、新規事業の立ち上げや新製品の企画、他部署とのジョブローテーションなど、刺激的な役割を与えるとさらに力を発揮するケースが少なくありません。また、彼らに「後進の育成」を任せるのもよい手です。自分より経験の浅い社員を教え、成果が出るように支援することは、リーダーシップやマネジメントスキルを高める絶好の機会になります。結果的に会社としては、優秀な人材がもっと成長し、その能力を組織全体に波及させることができるわけです。

まとめ

「262の法則」は、一見わかりやすい指標ではありますが、それを過度に信じてしまうと、組織を単純なカテゴリー分けで捉えてしまい、人材の可能性を狭めてしまう恐れがあります。経営者としては、固定的な割合に注目するのではなく、“変化する人間関係や成長可能性”に目を向けることが非常に重要です。

  • 分布は流動的
    誰かが常に優秀で、誰かが常に問題児というわけではありません。タイミングや環境が変われば、人のパフォーマンスは大きく変動する可能性があります。
  • ネガティブな意見を排除しない
    批判や反対意見をすべて否定してしまうと、組織の弱点を見逃し、リスク管理を怠ることになりかねません。
  • 評価軸は“今の成果”だけでなく“成長可能性”にも置く
    平均的に見える社員でも、正しいマッチングや役割変更、教育があれば化ける可能性は十分にあります。

これらを踏まえたうえで、定期的なコミュニケーションやチームビルディング、1on1面談などを行い、社員一人ひとりの声を拾い上げ、適材適所を考える姿勢が大切です。特に中堅中小企業では、優秀な人材が少なくとも、その“少数”をうまく活かしつつ、それぞれの社員のポテンシャルを最大化する柔軟な組織づくりが求められます。

「262の法則はウソか?」という問いかけに対しては、「決してウソというわけではないが、盲信するのは危険」と言えます。実務の現場では、常に人間関係は揺れ動き、個々の社員の成長や環境変化によって組織力も変化していくのが実情です。本コラムが、あなたの会社組織や人間関係を見直すきっかけになれば幸いです。

私たち唐澤経営コンサルティング事務所では、「コーチング」と「コンサルティング」を組み合わせ、中堅中小企業の経営課題解決と成長戦略の策定を強力にサポートいたします。 もし、この記事を読んで「自社の組織にも当てはまるかもしれない」「具体的な対処法について専門家の意見を聞きたい」と感じた方は、下記フォームよりお気軽にご相談ください。初回のご相談(1時間)は無料となっています。

経営者が抱える経営課題に関する
分からないこと、困っていること、まずはお気軽にご相談ください。
ご相談・ご質問・ご意見・事業提携・取材なども承ります。
初回のご相談は1時間無料です。
LINE・メールフォームはお好みの方でどうぞ(24時間受付中)

この記事を書いた人

唐澤 智哉

新卒で大手金融系シンクタンクに入社し、大手企業向けのITコンサルティングに従事。その後、2社のコンサルティングファームにて、大手企業向けの業務改革・ITコンサルティングに従事。
2012年に大手IT企業に入社し、中小企業向けのコンサルティング事業の立ち上げの中心メンバーとして事業化までを経験し、10年間中小企業向けの経営コンサルティング・ITコンサルティングや研修・セミナーに従事。
その後、2022年に唐澤経営コンサルティング事務所を創業。中小企業向けの経営コンサルティング、DXコンサルティング、研修・セミナー等のサービスを提供している。
趣味は読書で、年間200冊近くの本を読む。