唐澤経営コンサルティング事務所代表の唐澤です。
中小企業診断士・ITストラテジストの資格を持ち、20年以上にわたり、中堅中小企業の経営戦略立案や業務改革、IT化構想策定のコンサルティングに従事してきました。
このコラムでは、私のコンサルティング経験をもとに、中堅中小企業の経営に役立つ情報を発信しています。
「せっかくアドバイスをしているのに、まったく聞く耳を持たない」「新しい提案をしても即座に否定される」という経験はありませんか?
中堅中小企業の経営者や管理職を務めている方であれば、一度はこうした「聞く耳を持たない人」と遭遇したことがあるかもしれません。
組織において、一人でもこういったタイプがいると、社内のコミュニケーションが滞り、生産性にも悪影響を及ぼします。ハーバード大学のエイミー・エドモンドソン教授が提唱した「心理的安全性」は、社員の意欲やエンゲージメントを高める上で重要な要素とされています。しかし、リーダーが自分の意見を押し通し、部下の意見に耳を傾けない場合、この心理的安全性が損なわれやすくなり、チーム全体のモチベーションや成果が低下する恐れがあります。
このような状況を避けるためには、リーダーがメンバーの意見に積極的に耳を傾け、安心して発言できる環境を構築することが重要です。
本コラムでは、中堅中小企業の経営者・役員・管理職の方々に向けて、組織内にいる「聞く耳を持たない人」の特徴や心理、そしてどのように関わっていくべきかについて解説していきます。
私自身、経営コンサルタント歴20年のなかで、様々な会社・組織や人材を見てきました。その経験・実績を踏まえ、実務ですぐに活かせる考え方や対処法を提示してまいります。
本コラムを読めば、いわゆる「頑固者」とのやり取りでストレスを感じる場面を減らすだけでなく、チーム力の向上や組織改革に役立つ具体的なアクションのヒントを得ることができるでしょう。
聞く耳を持たない人の特徴

自分の意見が絶対だと考えている
「聞く耳を持たない人」の代表的な特徴として、「自分の考えこそが正しく、他者の意見や視点を受け入れようとしない態度」が挙げられます。
こうしたタイプの人は、自身の経験や価値観を唯一無二の基準と捉えがちです。したがって、周囲の意見を尊重しなかったり、批判や異なる考えを強い口調で否定する傾向があります。
自己防衛本能が強い
人間、誰しも批判されるのは心地よいものではありません。「聞く耳を持たない人」の場合、その程度が相対的に強く、自分の非を認めるよりも先に防衛的な態度を示します。
小規模や中堅企業に多い「ワンマン経営者」や「ワンマン上司」が典型例です。彼らは、自分の立場や権力を守る手段として、他者の意見をシャットアウトしがちです。
「過去の成功体験」に固執している
企業の経営において成功体験は大切ですが、それを絶対視し、現代の環境変化や顧客ニーズの変化を見落としてしまうとイノベーションを妨げます。
聞く耳を持たない人は、「昔はこれでうまくいった」「自分が現場を引っ張ってきた」といった思い出を振りかざし、新しい提案やアイデアに対して難色を示すことが多いです。
コミュニケーションスキルが低い
「聞く耳を持たない人」は、話を聞くことそのものが苦手な場合も実は少なくありません。例えば、相手が意見を述べている最中にすぐ割り込んだり、話を最後まで聞かずに自説を押し付けようとします。
これは単純にコミュニケーションスキル不足が原因ということもありますし、相手の言葉を待てないほど自分の意見が優先だと考えていることの表れである場合もあります。
聞く耳を持たない人の心理的背景
自我の防衛と恐れ
聞く耳を持たない人の心理には、実は「自分が否定されることへの恐れ」が根底にあります。
他者からのアドバイスや提案を受け入れることは、自分がこれまで行ってきたことや考えを修正、場合によっては否定する必要が出てくることを意味します。自尊心の高い人は、とくに自分の間違いを認めることに強い抵抗を覚え、自分を守るために心を閉ざしてしまうのです。
承認欲求の不足
自身の存在や意見が十分に尊重・評価されていないと感じると、人は防衛的になり、他者の意見をじっくりと聴く余裕を失いがちです。
特に、過去に上司から一方的に叱責されたり、成果を認められなかったりした人は、「自分の考えを貫いていないと、自分がこの会社にいる意味がなくなってしまう」と感じるようになります。結果として、自分の意見に固執し、聞く耳を持たなくなるわけです。
組織文化の影響
中堅中小企業のなかには、「トップダウン文化」や「専権的な経営スタイル」が長年の社風となっているケースがあります。このような環境で育った従業員は、上からの指示を聞くことが当たり前であり、逆に下からの意見は最初から受け入れるつもりがないという心理が培われることもあります。
これはあくまで組織文化による影響であり、個人の資質だけでは語れない面があるということも認識しておくべきでしょう。
組織にもたらす悪影響

意思決定の遅れ・誤り
組織に「聞く耳を持たない人」がいると、情報共有や協議がスムーズに進みません。特に、経営層や管理職でこうした傾向が強い場合、現場からの重要な報告や提案が握りつぶされ、経営判断に必要な情報が経営者に届かない事態も考えられます。その結果、誤った意思決定をしやすくなり、機会損失が発生します。
組織の停滞・マンネリ化
常に新しいアイデアや提案を求められる企業経営において、現状を変えようとしない人が多い組織は、変化に遅れ、業績が伸び悩む傾向があります。正に「過去の成功」に固執するあまり、新しいやり方を否定してしまうケースです。
企業規模が小さくても、柔軟な組織であれば時流に乗って大きく成長する可能性を持っていますが、聞く耳を持たない人がボトルネックとなり、成長機会を逃してしまう危険があります。
人材流出のリスク
「上司が自分の話を全然聞いてくれない」と感じる部下は、やる気を失いがちです。さらに、自分のキャリア形成を考える若手ほど、社内で意見が通らない環境に見切りをつけ、退職を検討するケースが多くなります。中堅中小企業においては、せっかく育成した人材が流出すると大きなダメージを受けます。
独立行政法人 労働政策研究・研修機構(JILPT)「若年者の離職理由に関する調査」でも、若手社員の離職理由として「人間関係がよくなかったため」が挙げられており、この問題は組織にとって重大なリスクといえるでしょう。
聞く耳を持たない人との上手な付き合い方

相手を尊重し、承認欲求を満たす
まず大切なのは、相手の考えを頭ごなしに否定しないことです。
聞く耳を持たない人ほど、他者から自分を否定されることに過敏です。最初に「なるほど、そういう考え方もあるのですね」「○○のご経験はすごいですね」といった形で相手の意見に敬意を示すと、相手の防衛的な態度を和らげやすくなります。
ただし、これは「おだて」ではなく、相手の視点に一定の理解を示すためのステップです。相手が心理的に安心を感じると、自然とこちらの意見にも耳を傾けやすくなります。
対話の場を丁寧に設計する
単に「話をしましょう」と呼びかけても、聞く耳を持たないタイプの人がスムーズに意見交換を行うのは難しいものです。
例えば1対1のミーティングで相手が萎縮してしまうなら、少人数のグループディスカッションの形をとり、第三者(例えばコンサルタントなど)を交えて意見を交わす方法もあります。また、リラックスできる環境であれば、相手も聞く姿勢を取りやすい傾向にあるため、最初のアプローチを雑談ベースにするなど、工夫を取り入れるとよいでしょう。
ロジカルかつ具体的な根拠を提示する
「過去の成功体験」に強く固執している人に対しては、数字や根拠を示すことで有効なケースが多々あります。人は抽象的な議論よりも、具体的な事例や定量データを示されると納得しやすくなります。
例えば、新しい施策を提案する場合、「○○の調査では、この方法を取り入れた企業では、売上が○%伸びたというデータがあります。」のように、信頼できる外部の情報を合わせて提示すると説得力が増します。
ただし、相手が頑固に抵抗する可能性もあるため、あくまでも「根拠を共有する」という姿勢を貫き、「あなたのやり方はもう古い」というような否定的な表現は避けましょう。
小さな成功体験を積ませる
相手がまったく新しい提案や方法を受け入れられない場合、まずは小さな範囲でのテスト運用や試験的な導入を提案してみるのも手です。大規模な変化に対して抵抗が大きい人でも、比較的小さなリスクで成果を確認できるのであれば、承諾しやすくなります。
小さいながらも実際の成果が出れば、相手も少しずつ「新しい方法もありかもしれない」と認識を改めるきっかけになるでしょう。
外部の専門家や第三者を活用する
聞く耳を持たない人ほど「自分の組織のやり方が正しい」と思い込んでいるケースが多いです。そこで外部の専門家を招いたり、セミナーに参加してもらうなど、「新しい常識」に触れる機会を与えると、自分の見解が相対化され、他者の意見を受け入れやすい土壌が生まれることがあります。
私もコンサルタントとして、多くの企業で「社外の視点」を提供し、それがきっかけで組織改革が進んだ事例を幾度となく見てきました。経営コンサルタントや業界の有識者に定期的に対話の場をもってもらうことで、徐々に社内の風通しが良くなる可能性も高まるのです。
取り組みを成功に導くポイント

経営トップのリーダーシップ
組織改革には、経営トップの明確な意思と支援が欠かせません。もし「聞く耳を持たない人」が経営トップである場合は難易度が高くなりますが、それでも周囲の幹部が一丸となって新しい情報やアイデアの重要性を少しずつ示していくことが重要です。
トップ自身の意識改革を促すには、特に外部の専門家や客観的データの活用が効果的です。少なくとも、経営トップ本人以外にキーパーソンが複数いれば、そこから意識改革が波及する可能性は十分にあります。
社内コミュニケーションの仕組みづくり
個人同士の問題に終始せず、社内全体でオープンなコミュニケーション環境を整えることも有効です。例えば、定期的な全体会議のほかに、部門横断型のプロジェクト会議や、従業員が自由にアイデアを出し合える場を設定するなど、「聞く耳を持ちやすい」仕掛けを作るのです。
これは「心理的安全性」を高めるだけでなく、お互いにアイデアを認め合う文化を醸成する上でも役立ちます。こうした取り組みを継続して行ううちに、当初は聞く耳を持たなかった人も徐々に組織の価値観やコミュニケーションスタイルに影響を受け、柔軟性を獲得していくケースが見られます。
長期的視点を持つ
一朝一夕で相手の考え方や態度を変えるのは難しいものです。時間をかけて信頼関係を築き、少しずつ「新しいアプローチが有益である」ことを実感してもらう必要があります。
短期的な成果だけを求めると、お互いの不満が高まってしまいかねません。とくに中堅中小企業は、経営者と従業員の距離が近いため、一度生じた不信感は解消に時間を要します。だからこそ、粘り強くコミュニケーションを重ねていくことが不可欠です。
Q&A
Q1.「聞く耳を持たない人」は変わる可能性はあるのでしょうか?
A. 可能性は十分にあります。ただし、一度に大きく変わることは期待できません。相手が新しい情報や体験を通じて徐々に認識を変えていけるよう、対話の回数や小さな成功体験を積ませることが重要です。
Q2. ワンマン上司が組織を仕切っていて、まったく意見を聞いてくれません。何をすればいいですか?
A. ワンマン上司に対しては、まずは上司がメリットを感じる方法でアプローチするのが効果的です。数字や根拠を示しながら、試験運用などリスクの小さい形で提案を通していくやり方がおすすめです。また、外部の専門家を呼び、客観的な事実を共有する場をつくると、上司が自分の考えを見直すきっかけを得やすくなります。
Q3. 経営トップが聞く耳を持たないことで、若手の離職が増えています。どうすれば防げますか?
A. 離職率を下げるには、若手社員の声が届く仕組みを社内に作ることが急務です。若手中心のプロジェクトチームを立ち上げる、あるいは第三者的な立場の顧問やコンサルタントを交えてトップと若手の対話の場を設けるなど、若手が「意見を言いやすい環境」を作ることが大切です。トップ本人を一度に変えるのは難しいため、まずは周囲から働きかけ、徐々に改革を進めていきましょう。
Q4. 相手が防衛的になって話をまったく聞こうとしません。最初の一歩として何をするべきですか?
A. まずは「相手の意見に対するリスペクト」を示すことから始めてください。相手が心を開きやすくなるよう、雑談や軽い相談ベースでコミュニケーションをはじめると良いです。厳密な結論や対策をすぐに求めるのではなく、少しずつ話を引き出していき、相手が安心して発言できる空気を作りましょう。
Q5. 経営者同士の会合などで、他社の経営者に聞く耳を持たないタイプがいて、雰囲気が悪くなることがあります。どう対処すればいいですか?
A. まずはその方との直接的な議論を避け、場を乱さないことに努めましょう。大人数の場で聞く耳を持たない人を説得しようとすると、逆に相手を防衛的にさせることが多いです。必要に応じて、休憩時間や会合の後に1対1で話す機会を持ち、先ほど述べたような「リスペクトを示すアプローチ」を行うと良いでしょう。社会的立場を踏まえて、お互いの経験談を共有する形で信頼関係を築くのが効果的です。
まとめ:社内政治と上手に付き合うことが、中堅中小企業の成長に不可欠
聞く耳を持たない人は、組織の中に必ずといっていいほど存在します。その原因は単なる個人の頑固さではなく、過去の成功体験や自己防衛本能、そして組織文化など多角的な要素が絡み合って生じるものです。中堅中小企業においては、特にトップや管理職層が「聞く耳を持たない人」の状態に陥ると、組織全体のパフォーマンスに直結するため、そのリスクは大きいといえます。
しかし、彼らを「困った人」と切り捨てるだけでは、問題は何一つ解決しません。まずは相手が防衛的な態度を取る背景を理解し、承認欲求を満たすコミュニケーションを意識することが大切です。そして、数字や具体的事例をもとにした説得、小さな成功体験から試していく手法、外部の専門家の客観的な視点など、複数のアプローチを組み合わせて粘り強く対応する必要があります。
トップの姿勢や組織文化を改善するには時間がかかりますが、長期的に見れば、こうした取り組みこそが企業の発展と人材の定着につながります。部下や若手社員の声を吸い上げる仕組みをつくることは、組織の柔軟性やイノベーションを高める大きなステップにもなるでしょう。
経営コンサルタントとして20年の経験を通じて得た実感としても、「聞く耳を持たない人」がいる組織ほど、一度意識改革が進むと大きな成長を遂げるポテンシャルを秘めています。それは、彼らが自信を持って組織を引っ張る「行動力」そのものを備えている場合が多いからです。
だからこそ、周囲が正しいアプローチでそのエネルギーを新たな方向へ導くことができれば、組織は一気に変わり、飛躍的な成果を上げる可能性があります。
本コラムの内容が、皆さまの組織におけるコミュニケーションやマネジメントに役立つことを願っています。まずは小さな一歩から、ぜひ実践してみてください。
私たち唐澤経営コンサルティング事務所では、「コーチング」と「コンサルティング」を組み合わせ、中堅中小企業の経営課題解決と成長戦略の策定を強力にサポートいたします。
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