唐澤経営コンサルティング事務所代表の唐澤です。
中小企業診断士・ITストラテジストの資格を持ち、20年以上にわたり、中堅中小企業の経営戦略立案や業務改革、IT化構想策定のコンサルティングに従事してきました。

このコラムでは、私のコンサルティング経験をもとに、中堅中小企業の経営に役立つ情報を発信しています。

人材不足が叫ばれる昨今、せっかく採用した大切な部下や従業員が、ちょっとした対応や叱り方のまずさで心を閉ざしてしまう――そんな場面を何度となく目にしてきています。部下が成長していくためには指導が欠かせませんが、誤ったやり方の「叱る」行為は、むしろ組織に混乱と停滞をもたらします。

ある程度の厳しさが必要だと考える管理職の方は多いかもしれません。しかし、昭和的な「根性論」や「一方的な叱責」の手法は、時代の変化や若い世代の価値観を踏まえないため、逆効果になりがちです。実際、厚生労働省が2020年に公表した「職場のパワーハラスメントに関する実態調査」によれば、上司と部下のコミュニケーション不足は、パワーハラスメントの発生と関連性のある職場の特徴の一つとされています。

企業が大きくないからこそ、一人ひとりの社員が会社にとって大事な戦力になります。

そこで本コラムでは、「やる気を奪う叱り方」の具体例と、その裏にある問題点、そして「正しい指導法」のポイントをわかりやすく解説します。本稿の内容が、皆様の組織の健全な発展と、部下一人ひとりの能力を最大限に引き出すきっかけとなれば幸いです。

やってはいけない叱り方:5つの典型パターン

感情的に怒鳴りつける

管理職として、部下のミスや問題行動を見逃すわけにはいきません。しかし、感情に任せて大声で怒鳴ったり、侮辱的な言葉を浴びせたりすることは絶対に避けるべきです。

  • 問題点: 部下は「何が悪かったのか」を冷静に理解できないまま、怒鳴られた恐怖や理不尽さだけが記憶に残ります。これでは改善意欲が失われるばかりか、上司との関係修復すら難しくなるでしょう。
  • 背景: 中小企業では現場が忙しくなりやすく、つい上司も余裕を失い感情的に叱責するケースが見られます。しかし短期的にストレス発散にはなっても、長期的な組織の活力を奪う結果になりがちです。

人格を否定するような言葉を使う

「ダメなやつだ」「お前は本当に使えない」など、部下の行動ではなく「人間性」そのものを否定する言葉を投げかける叱り方も、モチベーションを大きく削ぎます。

  • 問題点: 人格否定の言葉を受けると、部下は自信を失い、「どうせ自分なんて…」という思考に陥りやすくなります。人材育成においては、ミスや課題の「行動」にフォーカスして指摘する必要がありますが、人間性そのものを否定されたらやる気を失うだけです。
  • 背景: 管理職による感情的な言葉がエスカレートすると、パワーハラスメントの境界線を超える恐れがあります。厚生労働省による「パワーハラスメントの定義について」でも、上司の立場からの人格否定行為はパワハラ事例の典型とされています。

見えない場でのひそひそ叱り、またはみんなの前でのさらし者叱責

叱り方の環境やタイミングにも配慮が必要です。

  • ひそひそ叱り: 周囲に気づかれないように小声で「次はちゃんとやれよ」などと伝える方法です。一見、配慮しているように見えますが、指導の意図が曖昧になりやすく、部下が「陰で嫌味を言われた」と受け取るリスクがあります。結果として、信頼関係の悪化を招きかねません。
  • さらし者叱責: 逆に、他の社員がいる前で大声で叱りつけると、その部下の尊厳やプライドを傷つけるだけでなく、周囲の士気も下がります。誰にとっても「自分もあんな風に叱られたらどうしよう」という恐怖を植え付ける結果となります。
  • 問題点: 叱り方の場やタイミングを誤ると、指導そのものの目的を見失いがちです。部下の成長ではなく「見せしめ」や「ストレス発散」になってしまいます。

曖昧な指摘で具体性がない

「ちゃんとしろ」「しっかりやれ」など、何をどう改善すればいいのかがわからない叱り方では、部下は途方に暮れてしまいます。

  • 問題点: 抽象的な言葉では、部下は行動を修正しようがありません。改善の指針を与えずにただ責められたと思うだけで、前向きに取り組むモチベーションを生み出せないのです。
  • 背景: 経営者や管理職には自分の経験やノウハウがあり、なぜできないのかが理解できないという場合も多いでしょう。しかし、部下にとっては初めての仕事ややり方であることも珍しくありません。具体的な行動指示を省くのは、部下の立場を理解できていないサインでもあります。

叱るだけでフォローや再発防止策の検討がない

叱った後のフォローがないまま放置してしまうと、部下が何をどう改善すればいいか分からないまま終わってしまいます。

  • 問題点: 叱って終わりでは、再度同じミスが起きる可能性が高いです。また、叱られた部下は、「また次も叱られるのではないか?」と不安を抱え、行動が萎縮します。
  • 背景: 特に多忙な中堅中小企業の管理職ほど、叱る場面があってもその後のフォローに時間をかける余裕がない場合があり、結果として部下の指導が放置されるケースがあります。

正しい指導法のポイント

それでは、具体的にどのように部下を指導すればいいのでしょうか?

私が20年間のコンサルティング経験を通じ、組織が活性化し部下がしっかりと成長する企業で実践されている「正しい指導法」を5つのポイントにまとめました。

  1. 事実に基づく冷静な指摘
    • 具体的な例: 「あなたが提出した報告書の納期が3日遅れたので、顧客への請求業務が滞りました」と、ミスした事実を明確に示します。
    • 狙い: 感情的にならず、何が問題だったかを冷静に伝えることで、部下は「次回はどうすれば遅れを防げるか」を考えやすくなります。
  2. 行動にフォーカスして指摘する
    • 具体的な例: 「書類を提出する前に、ダブルチェックするプロセスを省略していないか確認しよう」と、行動面の修正方法を提案する。
    • 狙い: 人格否定ではなく、行動修正を促すことで、部下がポジティブに改善策を模索できます。自分自身が否定されているわけではないため、前向きに行動がしやすいのです。
  3. 個別面談などプライバシーを配慮した場を確保する
    • 具体的な例: 「〇〇さん、少し時間をとってもらえる? 二人でちょっと話をしよう」と、周囲に聞かれにくい場所やミーティングルームで話をする。
    • 狙い: 叱る場面では、部下のプライドや尊厳を損なわない配慮が必要です。本人も安心してミスの理由や改善策を話し合うことができます。
  4. 具体的な改善策やフォローアップを提示する
    • 具体的な例: 「次回は報告書を作成する前に、項目を一覧化して漏れがないかチェックリストを使ってみよう。そのチェックリスト、私が作ったひな形があるから渡すね」
    • 狙い: ミスが起こる前提条件やプロセスを本人と一緒に洗い出し、具体的かつ実行可能な改善策を示すことで部下は取り組みやすくなります。再発防止に向けた手立てもセットにして話すのがポイントです。
  5. 必要に応じて褒める、励ます
    • 具体的な例: 「締め切りは遅れたけれど、内容自体は工夫されていて良かった。次は納期までに提出できるよう、今回話した方法でやってみよう」
    • 狙い: 部下のポジティブな面はしっかり評価してあげると、人は「次もがんばろう」という気持ちになります。ミスや課題を叱ったあとだからこそ、わずかな成長や改善姿勢を見つけてあげるのがコツです。

部下のやる気を引き出すために大切な組織文化・仕組み

部下が安心してミスを打ち明けられる雰囲気や、チャレンジを歓迎する組織文化がある企業ほど、人材が活き活きと働いています。

上司・部下のコミュニケーションに関するアンケート調査(Chatwork)」では、上司・部下のコミュニケーション不足が従業員の意欲低下につながる可能性が指摘されており、円滑なコミュニケーションと安心して意見を表明できる職場環境が、従業員のモチベーションを支える重要な要素であることが示唆されています。

叱るのは一時的な手段に過ぎない

叱り方ばかりに注目が集まりますが、そもそも部下が何かミスをした時に必要なのは適切な指導であって、必ずしも「叱る」ことだけが手段ではありません。部下を伸ばすには、彼らが主体的に考え行動する後押しが欠かせないのです。叱る行為は、その一連のプロセスの中の修正指示に過ぎません。

コミュニケーションを増やす

「叱る=悪い」というわけではなく、適切なコミュニケーションの一環として行われる叱責には意味があります。普段から部下とやり取りをして信頼関係を築き、部下が「指摘は自分を伸ばすためのアドバイス」と理解できていれば、叱られてもポジティブに受け取ることができます。そのためには業務報告だけでなく、雑談や目標設定面談など、日常的にコミュニケーションをとる機会を増やしておくことが大切です。

キャリアパスや目標を共有する

部下がやる気を失うのは自分の仕事が将来につながっているのかが見えなくなるからでもあります。適切な指導を受けても、将来へのビジョンが描けないままではモチベーションの維持は難しいのです。

  • キャリアパスや目標を定期的に話し合う
  • 部下の強みを活かせるプロジェクトや仕事を割り当てる
  • 組織や経営上のビジョンを共有する

こうした取り組みを通じて、「なぜこの仕事をするのか?」を部下自身が腹落ちするのが理想です。

Q&A

Q1.厳しく叱らないと部下はなめてかかるのでは?
A. 確かに「厳しさは必要だ」という意見も一理あります。しかし、「厳しさ」と「感情的な怒鳴り声」はまったく別物です。部下への敬意を忘れず、事実に基づいた注意であれば、決して「なめられる」ことはありません。むしろ、根拠なく感情的に叱るほうが部下に不信感を与え、組織全体の士気を下げる可能性が高いのです。

Q2.部下が明らかに怠慢だった場合はどうすればいいですか?
A. 怠慢であると感じられる原因をまず冷静に分析してみてください。仕事に対するモチベーションが下がっているのか、指示や仕事内容が曖昧で戸惑っているのか、あるいはプライベートな問題でパフォーマンスが落ちているのか。原因が分からないまま「怠慢だ」と叱りつけるだけでは、状況は改善しません。必ず事実確認をした上で、必要な指導やフォローアップを行いましょう。

Q3. 部下のミスを何度も指摘しているのに改善されません。もう叱るのも無意味でしょうか?
A. 同じミスが何度も起きる場合、指導内容自体に問題がある可能性があります。「具体的にどんな改善策を提案しているか」「再発防止のためにフォローをしているか」「そもそも部下のスキルや知識が不足していないか」などを見直してください。必要があれば教育や研修制度の導入、作業手順の改善など、職場全体の仕組みを変えることが重要です。

Q4.叱った後に、周囲にどのように報告すればいいですか?
A. まずは叱った内容や経緯を本人が正確に理解していることを確認します。その上で、関係する他のメンバーがいる場合は「改善策をこうしていく」と共有し、全員でサポートできる体制を整えましょう。叱られた部下を孤立させることがないよう、必要最小限の情報共有とフォローアップは必ず行います。

Q5. 部下を褒めるのが苦手です。どうすれば上手に褒められますか?
A. 部下が何か良い行動をした時には、まず「事実」を挙げて「その成果」をしっかり伝えましょう。例えば「〇〇のおかげで顧客対応がスムーズになったよ」など、客観的な事実に対して感謝や賞賛を伝えると、部下は納得感を持って受け取れます。過度に持ち上げる必要はありません。小さな行動の変化を見逃さず、タイミングよく声をかけることが大切です。

まとめ:組織の未来を左右する“叱り方”を見直そう

ここまで、「やってはいけない叱り方」の典型例と「正しい指導法」のポイント、そして組織文化や具体的なQ&Aについてお伝えしてきました。

叱ることそのものは悪ではありません。しかし、やり方を誤ると、部下のモチベーションを奪い、組織の活力をどんどん損なってしまいます。逆に、適切な方法であれば、叱る行為は部下を成長させ、組織をより強くするための重要なプロセスとなるのです。

私自身、20年にわたり様々な企業現場を見てきましたが、上司が意図せずして「やる気を削いでしまう」場面は少なくありませんでした。そもそも管理職の方は、ほとんどが会社やチームのことを真剣に考えていますし、「部下に嫌われたくない」「でも甘やかすわけにはいかない」という葛藤を抱えています。その気持ちは痛いほどよくわかります。しかし、その苦悩と使命感があるからこそ、正しい叱り方や指導法を学び、実践し、組織全体のステップアップを目指していただきたいと心から願っています。

最後に、もう一度大切なポイントを整理しておきます。

  • 感情に任せず事実ベースで話す
  • 行動を指摘し、人間性を否定しない
  • 周囲に配慮しつつ、個別に話をする場を設ける
  • 具体的な改善策とフォローアップをセットで伝える
  • 適切なタイミングで部下の成果を評価・称賛する

これらを意識すれば、部下のやる気を奪う“やってはいけない叱り方”を避け、より建設的なコミュニケーションと組織づくりにつながっていくはずです。中堅中小企業の現場こそ、ワンミスが会社全体の経営に大きな影響を与えますし、一方で成果が出れば大きな成長のきっかけとなります。ぜひ本コラムでお伝えした内容を実践に活かしていただき、部下の可能性を最大限引き出せるリーダーシップを発揮してみてください。

部下の育成は一朝一夕にはいきません。叱るときの言葉選び、褒めるときのタイミング、業務フローの整備、そしてコミュニケーションの量と質。これらを小さなところから一つひとつ見直していくことで、組織の雰囲気が変わり、業績にもポジティブな連鎖が現れ始めるでしょう。その土台作りを支えるのは、経営者や管理職の皆様です。心から応援しております。

私たち唐澤経営コンサルティング事務所では、「コーチング」と「コンサルティング」を組み合わせ、中堅中小企業の経営課題解決と成長戦略の策定を強力にサポートいたします。

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この記事を書いた人

唐澤 智哉

新卒で大手金融系シンクタンクに入社し、大手企業向けのITコンサルティングに従事。その後、2社のコンサルティングファームにて、大手企業向けの業務改革・ITコンサルティングに従事。
2012年に大手IT企業に入社し、中小企業向けのコンサルティング事業の立ち上げの中心メンバーとして事業化までを経験し、10年間中小企業向けの経営コンサルティング・ITコンサルティングや研修・セミナーに従事。
その後、2022年に唐澤経営コンサルティング事務所を創業。中小企業向けの経営コンサルティング、DXコンサルティング、研修・セミナー等のサービスを提供している。
趣味は読書で、年間200冊近くの本を読む。