唐澤経営コンサルティング事務所代表の唐澤です。
中小企業診断士・ITストラテジストの資格を持ち、20年以上にわたり、中堅中小企業の経営戦略立案や業務改革、IT化構想策定のコンサルティングに従事してきました。

このコラムでは、私のコンサルティング経験をもとに、中堅中小企業の経営に役立つ情報を発信しています。

中小企業の経営者にとって、日々の業務とともに人材の管理は大きな課題です。特に、従業員の成長を促し、企業全体の生産性を高めるためには、人事評価制度の導入と適切な運用が重要な役割を果たします。

ただ、多くの中小企業では「人事評価制度を導入する余裕がない」「制度設計が複雑でなかなかか手がつけられない」といった理由から、評価制度を後回しにしているケースも少なくありません。

本記事では、経営者の皆様が人事評価制度を導入する際に押さえるべき基本的な考え方や導入のステップを解説します。

また、制度を通じてどのような効果が期待できるのかをお伝えし、経営の効率化と従業員満足度向上を支援する具体策をご提案します。

なぜ中小企業にとって人事評価が重要なのか?

中小企業の経営において、人事評価制度は組織運営の中核を担う重要な要素です。一方で、「評価」という言葉は時に形式的なイメージを持たれることがあります。

実際には、人事評価制度は従業員の成長と企業全体の発展を促進する「経営ツール」の一つであり、制度を導入するかどうかで企業の成長速度に大きな差が生まれることも少なくありません。

ここでは、人事評価制度がなぜ中小企業経営に欠かせないのか、その理由を掘り下げて解説します。

組織の成長と人材活用の関係性

中小企業における人事評価制度は、企業が求める方向性を従業員一人ひとりに浸透させ、組織全体のパフォーマンスを最大化するための基盤となるものです。

適切な人事評価制度がなければ、従業員は「自分の役割や目標がどのように企業の成功に結びつくのか?」「自分の活動・成果がどのように処遇に結びつくのか?」を十分に理解できません。その結果、業務が単なる「こなすべきタスク」に留まり、成長のチャンスが失われる恐れがあります。

一方、明確な評価基準を設けることで、従業員は自分に期待されている具体的な成果や目標を理解できます。このプロセスにより、モチベーションが向上し、業務への取り組み姿勢が積極的になるだけでなく、組織全体の生産性向上にもつながります。

また、評価を通じて経営者が従業員の努力を適切に認めることで、組織内に信頼関係が育まれ、安定した成長の基盤を築くことが可能となります。

経営と従業員の意識統一の必要性

多くの中小企業では、経営者の意図やビジョンが従業員に十分に共有されていないという課題を抱えています。この情報の断絶は、従業員のモチベーションの低下や、生産性の阻害要因となり得ます。特に経営者が日々の業務に忙殺される中、従業員に対して十分なコミュニケーションを取ることが難しい場合、この問題は顕著になります。

人事評価制度は、こうした課題を解決するための1つの有効な手段となります。

評価基準が明確で一貫していると、従業員は「自分の目標がどのように企業全体の成功に寄与するのか?」を理解しやすくなります。また、人事評価制度を通じて経営者の考えや期待が制度の中に反映されることで、経営層と従業員の意識を統一することが可能です。

このような仕組みが、組織の一体感を生み出し、企業全体の目標達成を後押しします。

人事評価制度を導入する際の主な課題

人事評価制度の導入は、企業の成長と従業員の満足度を高めるために重要なステップです。しかし、特に中小企業では、経営資源や組織文化に由来する様々な課題が存在します

これらの課題を事前に把握し、対策を講じることで、評価制度の効果を最大限に引き出すことができます。

このセクションでは、よく見られる課題を整理し、それに対する基本的なアプローチを解説します。

経営資源の不足

中小企業が人事評価制度を導入する際、最大の課題となるのが経営資源の不足です。

評価基準を策定し、評価者の訓練を行い、運用手順を整備するためには、一定の労力と準備期間が必要となります。そのため、「本当に導入するべきか?」「導入しても現場が混乱するだけなのではないか?」といった懸念が生まれ、着手を躊躇するケースも少なくありません。

このような課題に対しては、評価制度の運用を段階的に成熟させることが現実的な解決策となります。

例えば、最初の1年間は評価結果を処遇に直結させるのではなく、フィードバックを中心に運用し、評価者が基準の適用やフィードバックに習熟する期間を設けます。この期間に、評価基準の適切さや透明性を確認しつつ、制度の精度を高めることが重要です。

その後、運用が安定し、評価制度が信頼を得られる段階で賃金や賞与との連動を進めることで、従業員の納得感を高めつつ導入をスムーズに進めることが可能です。

中小企業特有の柔軟性とのバランス問題

中小企業の大きな強みは、迅速な意思決定や柔軟な対応力にあります。しかし、人事評価制度を導入すると、評価基準やプロセスが画一化され、従来の柔軟性が損なわれるのではないかという懸念が経営者の間でよく聞かれます。この懸念が、評価制度の導入や運用を躊躇する理由の一つとなっています。

こうした課題に対応するためには、「柔軟性を排除するのではなく、評価制度の中に取り込む」アプローチが重要です。

例えば、賞与の支給基準をあらかじめ明確に定めつつ、突出した成果を上げた従業員に対しては「特別賞与」を支給する仕組みを設けることが考えられます。この方法であれば、組織全体の評価基準の一貫性を保ちながら、個々の努力や創意工夫を正当に認めることができます。

また、評価基準そのものも定期的に見直し、現場の状況や経営環境の変化に合わせて調整することで、組織全体に無理のない形で運用できます。例えば、評価基準の中に「柔軟性や創意工夫」を評価項目として組み込み、評価者がこれを正当に評価する訓練を行うことで、組織文化と制度の調和を図ることができます。

従業員からの理解を得る難しさ

新しい制度を導入する際、経営者や評価者の理解が進んでいても、従業員側が納得しなければ効果を十分に発揮することはできません。特に評価制度は、「不公平ではないか?」「どのように評価されるのか分からない」といった不安を抱かれやすい要素を含んでいます。

この課題に対処するためには、導入前のコミュニケーションが不可欠です。

従業員に対して人事制度説明会を開き、制度の目的やメリットを丁寧に伝えるとともに、従業員の意見を取り入れながら制度設計を進めることで、納得感を高めることができます。

また、導入後もフィードバックを重視し、従業員からの意見を反映するプロセスを組み込むことで、制度への信頼を構築することが可能です。

効果的な人事評価制度構築の基本的な考え方

人事評価制度は、単なる人材管理の手段ではありません。中小企業にとって、それは従業員一人ひとりの成長を促し、組織全体のパフォーマンスを最大化するための「経営ツール」として機能します。

しかし、その制度が効果を発揮するかどうかは、導入時の設計と運用方法にかかっています。

このセクションでは、人事評価制度を構築する際に押さえておくべき基本的な考え方を解説します。

評価項目の設計:業績・能力・態度のバランス

効果的な人事評価制度を構築するためには、評価項目を「業績」「能力」「態度」の3つに大別し、それぞれをバランスよく組み込むことが重要です。

  • 業績評価
    目標達成度や成果物の質を基準に行います。これにより、従業員が具体的な成果に焦点を当てて行動できるようになります。
  • 能力評価
    業務遂行に必要なスキルや知識のレベルを測定します。この評価は、長期的な成長計画の立案にも役立ちます。
  • 態度評価
    日常業務への取り組み方や職場での行動を基準に行います。「協調性」「責任感」「積極性」などが主な評価項目です。

これら3つの項目を評価基準として明確に定義することで、従業員が「何を期待されているのか」を理解しやすくなり、モチベーションの向上につながります。

また、評価基準の詳細は経営者や評価者間で共有し、統一された視点で評価が行われるよう、訓練やガイドラインの整備を徹底することが重要です。

評価者間の基準統一とフィードバックの重要性

人事評価制度が効果を発揮するためには、評価者全員が同じ基準で評価を行うことが重要となります。基準が統一されていないと、従業員の間に「評価が不公平である」という疑念が生まれ、信頼関係が損なわれるリスクがあります。

評価者間の基準統一を図るためには、定期的に評価者全員が集まり、具体的な評価事例をもとにディスカッションを行う「評価レビュー」の実施が効果的です。

この会議では、各評価者がどのような観点で評価を行ったのかを共有し、共通の理解を深めます。また、評価基準や運用方法に関する明確なガイドラインを作成し、評価者の教育を継続的に行うことも重要です。

さらに、評価後のフィードバック面談は、従業員にとって評価制度への信頼を高めるための重要なプロセスです。ただ結果を伝えるだけでなく、具体的な行動事例を挙げながら「何が良かったのか」「どこを改善すべきか」を丁寧に伝えることで、従業員は自分の強みと改善点を理解しやすくなります。また、このプロセスを通じて、次の目標設定やキャリア成長への道筋を明確にすることができます。

評価者間の基準統一と効果的なフィードバックを組み合わせることで、評価制度は単なる「判定の仕組み」ではなく、従業員の成長を支援する「育成のツール」として機能するようになります。

等級制度の活用

等級制度は、従業員の能力や成果を適切に評価し、処遇を決定する基盤となる仕組みです。
中小企業では、自社の状況に合った柔軟かつ運用しやすい設計を目指すことが成功のカギとなります。

等級制度の種類

  • 職能等級制度
    従業員が実務を通じて発揮した能力を基準に等級を設定します。人材育成を目的とした制度であり、スキル向上により等級が上がる仕組みを取り入れることで、長期的な人材開発を促進できます。
  • 役割等級制度
    従業員の役割(職務+役割発揮能力)に基づいて等級を決定します。職務内容だけでなく、成果を出すために必要な役割行動やリーダーシップも評価基準に含まれるため、現場の柔軟性を保ちやすい特徴があります。
  • 職務等級制度
    各従業員が担当する職務の価値や難易度を基準に等級を設定します。職務記述書に基づき、仕事の役割や責任範囲を明確化し、それに応じた処遇を行います。特に成果主義を重視する場合に適しています。

等級数の決め方

等級の段階が多すぎると管理が複雑化し、少なすぎると従業員の成長を正しく反映できません。中小企業では、6~8段階の等級が適切です。「新人」「基礎」「中堅」「上級職」「管理職」「幹部」などの段階を設けることで、キャリアパスを明確にし、従業員にとって納得感のある仕組みを提供できます。

等級制度と評価の連動

各等級に必要なスキルや成果を具体的に定義し、それを評価基準に組み込むことが重要です。この仕組みにより、従業員は「次のステップに進むために必要な条件」を理解しやすくなります。

さらに、評価基準を昇格プロセスに一貫して適用することで、公平性を確保しつつ、従業員のモチベーションを高めることが可能です。

実際の導入ステップ

人事評価制度の導入は、多くの中小企業にとって初めて取り組む大きなプロジェクトです。しかし、導入を成功させるためには、全社的な準備と段階的なステップを踏むことが重要です。

このセクションでは、スムーズな導入を実現するための具体的なプロセスをご紹介します。

ステップ1:現状分析と導入計画の策定

人事評価制度を導入する際、現状を多角的に分析し、課題を明確にすることが欠かせません。このステップでの徹底した分析が、導入の成功に直結します。

  1. 既存の評価方法と課題の把握
    現在の評価基準や運用方法が従業員の実績や能力を適切に反映しているかを確認します。特に、「評価基準が曖昧」「評価結果がフィードバックや処遇に十分活用されていない」といった課題があれば、それを明確化し、根本的な改善策を検討します。
  2. 賃金分析
    賃金体系が適切であり、従業員にとって納得感のあるものになっているかを検証します。その際、従業員の賃金と年齢を散布図にプロットすることで、次の点を分析できます。賃金分析の結果は、人員配置の最適化やキャリアパスの見直しに役立ちます。
    • 賃金と年齢のバランス
      賃金が年齢に応じて適切に推移しているかを確認します。特に、年齢が高くなるほど賃金が自動的に増加する構造が見られる場合、職務や成果に基づく賃金制度への移行が必要です。
    • 高コスト人材と不満層の特定
      散布図から、成果や貢献度に比して賃金が高い従業員や、逆に賃金が低く不満が溜まりやすい従業員を特定します。
  3. 組織体制と評価者の準備状況
    制度を適切に運用するためには、管理職や評価者が評価基準を正しく理解し、適用できるスキルを持っていることが重要です。現状でのスキルレベルを確認し、不足があれば、そのトレーニングも織り込んだ評価者訓練を設計します。また、評価プロセスがスムーズに運用されるための体制整備も必要です。
  4. 従業員満足度と期待値の分析
    従業員に対してアンケートやインタビューを実施し、現行制度や処遇に対する満足度と不満点を収集します。これにより、評価制度に求められる透明性や、処遇への期待を把握できます。

以上の分析結果をもとに、評価制度導入のスコープやタイムライン、リソース配分を具体化します。

計画には、現実的で実行可能な目標設定が必要です。また、導入段階での従業員への説明や周知を計画に組み込むことで、スムーズな実施を図ります。

ステップ2:評価基準の策定とテスト運用

評価基準の策定は、人事評価制度の中核となるステップです。この基準が不明確だと、評価の公平性や透明性が損なわれ、従業員のモチベーション低下につながります。そのため、基準を具体的かつシンプルに設定し、全従業員に共有することが重要です。

また、運用開始前にはテスト期間を設け、基準やプロセスの適合性を確認します。

  1. 評価基準の策定
    前述の通り、評価基準は、「業績」「能力」「態度」の3つの軸をバランスよく組み合わせることが基本です。
    • 業績評価:目標達成度や成果物の質を評価基準に設定します。具体的には、営業部門では売上や契約数、管理部門では業務の効率化やタスクの完了度など、部門ごとに異なる指標を設けることが一般的です。
    • 能力評価:各等級に求められるスキルや知識のレベルを評価します。例えば、若手社員には基本的な業務遂行能力、管理職にはリーダーシップや部下育成能力といった具体的な項目を設定します。
    • 態度評価:職場での行動や姿勢を基準とし、協調性、責任感、積極性などを評価します。この評価は、組織全体の文化形成や、従業員同士の良好な関係を促進するうえで重要な役割を果たします。
  2. テスト運用の実施
    基準を策定した後、実際の運用を始める前にテスト期間を設けます。この期間では、評価基準やプロセスが現場で実際に機能するかを検証します。
    • 評価者の訓練:評価者(主に管理職)を対象に、基準の運用方法やフィードバック面談の実施手順をトレーニングします。評価のばらつきを防ぐため、ケーススタディやロールプレイを取り入れると効果的です。
    • 従業員への説明と試行:評価基準とプロセスを従業員に事前説明し、透明性を確保します。その後、試験的に評価を実施し、従業員からのフィードバックを集めます。これにより、基準が現場の業務や従業員の期待に合致しているかを確認できます。
    • 結果の検証と改善:テスト期間中に得られた評価データを分析し、基準の妥当性や運用上の課題を特定します。たとえば、評価項目が多すぎて評価者の負担が増している場合には、項目を精査して絞り込むことを検討します。
  3. 本格運用に向けた準備テスト
    運用の結果をもとに評価基準やプロセスを修正し、本格運用の準備を整えます。この段階では、以下の点を最終確認します。
    • 基準が全従業員にとって理解しやすい内容か?
    • 評価プロセスが管理職や評価者にとって負担の少ない設計になっているか?
    • 組織全体で透明性と公平性を担保できる運用体制が整っているか?

テスト運用を経ることで、実際の業務と評価基準の適合性を確保し、導入後の混乱を最小限に抑えることが可能になります。

ステップ3:評価結果の活用と制度の定着

人事評価制度が真に機能するためには、評価結果を適切に活用し、制度が組織に定着する仕組みを構築することが不可欠です。

評価が単なる「格付け」の手段に留まると、従業員のモチベーションや信頼を失う原因となります。そのため、評価結果をもとにした具体的なアクションと継続的な改善が求められます。

  1. 評価結果の活用
    評価結果は、単に処遇を決定するためのデータとしてではなく、従業員の成長を支援するための「育成ツール」として活用するべきです。
    • フィードバック面談の実施:評価結果を従業員に適切に伝えるフィードバック面談は、制度定着の重要なステップです。この面談では、「評価の具体的な根拠」「良かった点と改善が必要な点」「次期の目標と期待値」を明確に伝えます。従業員が自分の課題と成功要因を具体的に理解できることで、成長へのモチベーションが高まります。
    • 昇進・昇格とキャリアパスの明確化:評価結果を基に、昇進や昇格のプロセスを透明化します。例えば、「次の等級に上がるためにはどのようなスキルや成果が必要か?」を具体的に示すことで、従業員は自らのキャリアパスを描きやすくなります。
    • 育成プログラムの設計:評価データを活用して、個々の従業員に合わせた研修やスキル開発プログラムを提供します。これにより、組織全体のスキル向上と個人の成長を両立させることが可能です。
  2. 制度の定着
    評価制度は、一度導入して終わりではありません。定期的な見直しと運用改善を行うことで、組織に深く根付かせることができます。
    • 定期的なレビューと見直し:年に1回程度、評価制度全体を見直す機会を設けます。この際、管理職や従業員からのフィードバックを収集し、制度が実情に即しているかを確認します。たとえば、「評価基準が現場業務と合っていない」「評価者間で基準のばらつきがある」などの課題を特定し、必要に応じて修正を加えます。
    • 組織全体での情報共有:評価制度の目的や運用状況を定期的に全社向けに共有します。これにより、従業員が制度を理解し、組織全体で一貫性ある運用が可能になります。
    • 成功事例の共有:評価制度を活用して成果を上げた従業員の事例を社内共有することで、制度の効果を実感させると共に、他の従業員のモチベーション向上につなげます。
  3. 長期的な運用の視点
    制度を定着させるためには、導入初期の課題を解消するだけでなく、長期的な視点での運用改善が必要です。経営環境や組織の成長に伴い、評価基準やプロセスも進化させる柔軟性を持つことが重要です。

評価結果を組織全体の成長に結び付ける取り組みを継続することで、制度が単なる管理ツールではなく、従業員と企業の未来を切り開く「成長の仕組み」として機能するようになります。

制度運用と継続的な改善のポイント

せっかく時間とお金をかけて人事評価制度を設計・導入しても、運用が適切でなければ期待する効果は得られません。制度が定着し、効果的に機能するためには、運用時のポイントを押さえ、継続的に改善を図る必要があります。

このセクションでは、実際の運用で注意すべき点と改善のアプローチを解説します。

評価会議の重要性

評価制度を公平に運用するためには、評価者間で基準を統一することが不可欠です。そのために「評価会議」を定期的に実施します。

  • 目的と進行方法
    評価会議の主な目的は、評価基準の運用が適切かどうかを確認し、評価者間の判断のズレを修正することです。会議では、具体的な評価事例を共有し、どの基準に基づいて評価を下したのかをディスカッションします。
  • 注意点
    評価者同士の主観が議論を支配しないよう、評価結果を裏付ける具体的なデータや行動事実をもとに議論を進めることが重要です。例えば、「売上目標の達成率」「フィードバックに対する改善行動」など、客観的な要素を基準とします。

フィードバック面談の質向上

従業員にとって、評価制度の信頼性を感じられるかどうかは、フィードバック面談の質に大きく依存します。

  • 準備と実施方法:面談前に評価結果を整理し、具体的な行動事例や数値を基に説明する準備を行います。面談中は、評価結果を一方的に伝えるだけでなく、従業員の意見や感想を聞く時間を設けます。
  • 建設的なフィードバック:成功事例を具体的に伝えることで、従業員が自信を持ちやすくなります。一方、改善点については「何をすべきか?」「どうすれば次回の評価が向上するか?」を具体的に示します。

制度改善のアプローチ

評価制度は一度構築して終わりではありません。定期的な見直しと改善が、制度を組織にフィットさせるために必要です。

  • 定期的な運用レビュー:評価制度の運用状況を定期的にレビューします。管理職や従業員からアンケートを収集し、「評価基準が業務に合っているか?」「評価プロセスが公正で効率的か?」を確認します。
  • データに基づく改善:評価結果を分析し、目標達成率や従業員満足度の変化を定量的に評価します。これにより、制度が組織全体の成長にどの程度寄与しているのかを把握できます。
  • 柔軟な基準の調整:経営環境や組織の変化に応じて、評価基準を柔軟に見直します。特に新規事業や役割変化が頻繁な場合、従来の基準では対応できない可能性があるため、必要に応じて更新することが重要です。

運用を支えるコミュニケーション

制度運用の成否は、組織内のコミュニケーションに大きく依存します。

  • 目的の共有
    評価制度の目的や運用の意義を全社員に定期的に説明します。特に新規導入や大幅な変更時には、経営層が自らメッセージを発信することが効果的です。
  • 透明性の確保
    評価プロセスや基準を分かりやすく公開し、従業員が納得できる形で運用します。これにより、制度への信頼感を醸成します。

人事評価制度の策定は「作成3割、運用7割」と言われるように、導入後のプロセスが成否を分ける重要な要素です。適切な運用と柔軟な改善を継続することで、評価制度が企業と従業員双方にとって価値ある仕組みとして機能するようになります。

Q&A

Q1. 小規模の会社でも人事評価制度は必要ですか?
A. 必要です。従業員数が少なくても、評価基準を明確にすることで、従業員のモチベーション向上や組織内の透明性を高める効果があります。特に小規模な会社では、評価制度を通じて経営者の意図やビジョンを従業員に共有することで、全員が同じ方向に向かって進みやすくなります。

Q2. 評価基準が複雑になりすぎるのが心配です。どうすればよいですか?
A. 評価基準はシンプルかつ明確であることが重要です。「業績」「能力」「態度」の3つの軸に絞り、それぞれを具体的かつ測定可能な形で定義してください。評価項目が多すぎると、評価者の負担が増えるだけでなく、従業員にも分かりにくくなります。最初は基本的な項目に絞り込み、運用しながら必要に応じて調整するアプローチがおすすめです。

Q3. 評価制度を導入すると、従業員の不満が増えるのではないでしょうか?
A. 全ての従業員が満足する評価制度を構築することは不可能です。人それぞれ価値観や目指す方向性が異なるため、評価に対する期待も多様です。しかし、評価制度の目的は「全員を満足させること」ではありません。会社のミッションやビジョンに共感し、それを体現しながら成果を上げる従業員にとって納得感のある制度を設計することが重要です。

Q4. 賃金や賞与に評価結果を反映させるタイミングはいつが良いですか?
A. 初年度は評価制度そのものに集中し、評価者が基準や運用方法に慣れる期間を設けることをおすすめします。この期間に基準の調整やプロセスの改善を行い、制度の信頼性を確立してから賃金や賞与に反映させると、従業員の納得感が高まり、制度運用がスムーズになります。

Q5. 外部の専門家を活用するべきですか?
A.初めて評価制度を導入する場合、コンサルタント等の外部の専門家を活用することは非常に有効です。制度設計や評価基準の策定、運用プロセスの整備に関する専門知識を得ることで、効率的に進められるだけでなく、経営者や評価者の負担を軽減できます。ただし、自社の業務や文化に合った制度を構築するため、専門家と密に連携し、自社のニーズをしっかり反映させることが重要です。

まとめ

中小企業における人事評価制度は、単なる人材管理のツールではなく、従業員一人ひとりの成長を促し、企業全体の目標を達成するための重要な基盤です。

本記事では、制度の重要性、導入ステップ、運用と改善のポイントを解説しました。

人事評価制度を効果的に運用するためには、次の3つの要素が欠かせません。

  1. 評価基準の明確化:従業員が何を期待されているのかを具体的に理解できる基準を設けること。
  2. フィードバックと透明性の確保:評価結果を従業員にフィードバックし、評価の根拠を具体的に示すことで、納得感を高めること。
  3. 継続的な改善:組織の変化や従業員の声を反映し、制度を定期的に見直していくこと。

これらを実践することで、評価制度は組織に深く根付き、従業員と会社がともに成長するための仕組みとして機能します。

唐澤経営コンサルティング事務所では、企業の個別事情に合わせた評価制度の設計や運用サポートを提供しています。導入を検討されている方は、ぜひお問い合わせください。

お問い合わせや無料相談は、以下のフォームからお願いいたします。

経営者が抱える経営課題に関する
分からないこと、困っていること、まずはお気軽にご相談ください。
ご相談・ご質問・ご意見・事業提携・取材なども承ります。
初回のご相談は1時間無料です。
LINE・メールフォームはお好みの方でどうぞ(24時間受付中)

この記事を書いた人

唐澤 智哉

新卒で大手金融系シンクタンクに入社し、大手企業向けのITコンサルティングに従事。その後、2社のコンサルティングファームにて、大手企業向けの業務改革・ITコンサルティングに従事。
2012年に大手IT企業に入社し、中小企業向けのコンサルティング事業の立ち上げの中心メンバーとして事業化までを経験し、10年間中小企業向けの経営コンサルティング・ITコンサルティングや研修・セミナーに従事。
その後、2022年に唐澤経営コンサルティング事務所を創業。中小企業向けの経営コンサルティング、DXコンサルティング、研修・セミナー等のサービスを提供している。
趣味は読書で、年間200冊近くの本を読む。