唐澤経営コンサルティング事務所代表の唐澤です。
中小企業診断士・ITストラテジストの資格を持ち、20年以上にわたり、中堅中小企業の経営戦略立案や業務改革、IT化構想策定のコンサルティングに従事してきました。

このコラムでは、私のコンサルティング経験をもとに、中堅中小企業の経営に役立つ情報を発信しています。

中堅中小企業の経営者や役員の方々とお話ししていると、「うちの社員は私の考えに反対ばかりして困る」「なかなか言うことを聞いてくれない」という声をよく耳にします。社長としては、会社を良くしたい一心で決断を下しているにもかかわらず、社員側が反発や不満を表明すると非常につらいものです。

「社員にもっと企業理念を叩き込むべきか?」「厳しく指導すれば言うことを聞くのではないか?」と、強硬策に走ろうと考える経営者の方もいらっしゃるかもしれません。

しかし、本当に必要なのは「なぜ反発が起きるのか、その本質を知ること」です。

長年にわたって中堅中小企業の現場を見てきた経験から申し上げると、「表面的なコミュニケーション」や「規律強化」だけでは解決しない深い問題が潜んでいるケースが多いのです。

本コラムでは、「なぜ社員は社長に反発するのか?」という問いを掘り下げ、経営者の方が見落としがちな3つの問題を取り上げます。企業の規模や業種、現場の状況によって程度の差こそあれ、多くの中堅中小企業が抱える共通の課題と言えます。

本コラムでは、できるだけ専門用語をかみ砕きながら、経営者としての視点を深めるヒントを提示しますので、ぜひご覧いただき、明日からの組織マネジメントに役立ててください。

社員が社長に反発する「本当の理由」とは

社員が社長に反発するのは、決して「社長のことが嫌いだから」「命令に従いたくないから」という単純な理由ばかりではありません。むしろ多くの場合、経営者と従業員との間にある「情報格差」「思いのすれ違い」「評価制度や育成方針への不満」などが引き金となっているのです。

たとえば、以下のデータをご覧ください。

  • Gallup社の「State of the Global Workplace 2022」によると、世界全体での従業員エンゲージメント率(仕事に対する積極的な関与度)は約21%と報告されています。言い換えれば、約8割近くの人は仕事への熱意が低い、あるいは組織や上司との間に何らかの距離を感じている可能性があるわけです。
  • 中小企業庁「2022年度版 中小企業白書」では、中小企業が直面する経営課題の中で「人材」に関する課題を重要と認識している企業の割合が8割を超えており、他のどの課題よりも高いことが示されています。特に、経営方針や上層部の考え方が十分に社内へ浸透していない企業が多いことが示されており、その結果として現場が不信感や不満を抱きやすいリスクがあるとも考えられます。

こうした背景を踏まえると、社員の反発というのは多くの場合、組織内部にあるコミュニケーションや評価、育成などの問題の一つの症状として表面化していると考えられます。つまり、社員の側が社長の方針や指示に疑問を感じたり、実行する意欲をそがれたりするプロセスに原因があるのです。

経営者が気づいていない3つの問題

ここからは、具体的に「経営者が気づきにくい3つの問題」を掘り下げます。いずれも私が過去20年以上にわたり中堅中小企業のコンサルティング現場で繰り返し目にしてきた事象ばかりです。当てはまる点があれば、ぜひ自社の組織や現場を見直すきっかけにしてみてください。

組織コミュニケーションの断絶

社長や役員など経営トップが何を考え、どの方向に会社を進めたいのかが現場に伝わっていない、あるいは誤って伝わっているケースは想像以上に多いです。経営者は「自分はいつも社員と話しているつもりだ」と思っていても、実際には情報が十分に共有されていなかったり、曖昧なまま伝播してしまっていたりします。

社員側からすれば、「方針の理由が分からない」「社長がなぜそれを優先したいのか説明を受けていない」といった不満が募りがちです。結果として「また無茶を言ってきた」「現場の意見を聞かない」と感じ、社長に対する反発が生まれます。

■解決のヒント

  • 経営方針やビジョンを「言葉」と「行動」で一貫して示す
    社長が思い描いている方向性を経営会議だけで話して終わるのではなく、あらゆる場面で社員に伝える仕組みを作ることが重要です。朝礼やミーティング、社内SNS・掲示物などを活用し、繰り返しメッセージを出すとともに、自らが率先して現場を回り、直接言葉を交わす機会を増やしてください。
  • 意見を吸い上げる場を定期的に設ける
    社員の声を経営層が定期的に聞く仕組みづくりが不可欠です。部門ごとに対話の場を設けたり、提案制度を導入したりするなど、現場の不満やアイデアを経営に活かしていくことで、社員との信頼関係が深まります。

評価と処遇の不透明さ

社長が強いリーダーシップを発揮するあまり、人事評価や昇進、給与アップの基準を十分に整備せず、属人的な判断で進めている会社も少なくありません。中堅中小企業だからこそスピード感のある意思決定が求められますが、あまりに不透明な形で社員の評価を決めてしまうと、現場が不公平感を抱く大きな要因となります。

評価や処遇が不明確だと、「どうせ頑張っても報われない」という諦めや不満が社員間に蔓延しやすくなり、社長の発言や方針にも懐疑的な態度がとられるようになります。結果として、表向きは従っているように見えても、実際には意欲やモチベーションが低下し、言われたことだけこなす指示待ち社員が増えてしまいます。

■解決のヒント

  • 評価基準や目標を数値・行動で明確化する
    例えば、「売上100万円を達成したらインセンティブを〇円支給」や「提案数〇件以上で昇給対象」といった具体的な指標を設定するのが望ましいです。定性面(業務態度・協調性・リーダーシップなど)についても、できる限り評価プロセスを言語化し、社員に周知することで不透明感を払拭します。
  • 評価結果のフィードバック面談を徹底する
    「なぜ今回その評価に至ったのか?」を社員に丁寧に説明する場を設けましょう。フィードバックを受けることで、社員自身も成長ポイントや改善すべき点を理解しやすくなり、結果として組織全体のモチベーションアップにつながります。

社員育成の不足

中堅中小企業の中には、即戦力を求めるあまり、社員の長期的な育成プランを後回しにしがちな企業が散見されます。業務指導や研修、スキルアップの機会が少ないと、社員にとっては「ただ業務をこなすだけ」「将来ビジョンが描けない」状況に陥りやすくなります。

こうした環境が続くと、社員は「会社は自分を大切にしていないのでは?」「この会社で自分のキャリアは成長しないのでは?」と感じ始めます。その不安や不満が社長への不信感に転じ、反発につながるケースも多いのです。

■解決のヒント

  • 段階的な育成ロードマップの策定
    新卒・中途を問わず、入社からどのようなステップを踏み、どのようなスキルを身につければ昇格・昇給していけるのかを明示します。たとえば「入社2年目までに業務Aを習得し、3年目には業務Bも担当できるようにする」などの具体的なキャリアプランを示すことで、社員の将来像が鮮明になります。
  • OJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)や社内外研修の充実
    上司や先輩社員による実務教育だけでなく、外部セミナーや研修への参加機会を提供し、学びと自己啓発を後押ししてあげることが大切です。社員が自分の成長を実感できると、会社への帰属意識や社長のリーダーシップに対する理解が高まり、結果的に組織全体が活性化します。

経営者として取るべき具体的アクション

ここまで取り上げた3つの問題(コミュニケーション、評価・処遇の不透明さ、育成不足)は、その根本に「社長と社員の相互理解不足」があります。したがって、これらの問題解消するためには、経営者サイドからの能動的なアクションが不可欠です。

  1. 定期的な経営方針共有会の実施
    会社の方向性や現在の進捗を、月次や四半期ごとに共有し、社員からの質問を受け付ける場を設けてください。トップ自らが積極的に登壇し、相手の理解を確認しながら伝える姿勢が大切です。
  2. 客観性を重視した人事評価制度の再構築
    社長の一存だけで決まらない仕組みづくりを目指してください。人事部や外部コンサルタントの力を借り、数値化や明文化を進めると同時に、定性面の評価項目についても説得力のある評価基準を整備しましょう。
  3. 人材育成投資の拡大とフォローアップ
    研修やセミナーの費用を惜しまないようにしてください。投資に見合ったリターンを得るためには、研修受講後のフォローアップや実務活用の促進が欠かせません。学んだことを活かせるプロジェクトや課題を与えるなど、実践の場とセットで考えるようにしましょう。
  4. コミュニケーションコストを惜しまない
    「トップと現場の間の情報伝達が面倒」という声も聞こえてきそうですが、むしろ面倒なほど丁寧なコミュニケーションを行うことこそが組織の安定と成長を支えます。メールだけで済まさず、対面やオンライン会議も活用して、相手の理解度や感情を汲み取ることを重視してください。

Q&A

Q1.社員から直接「社長に不満がある」と言われたら、どう対処すればよいでしょうか?
A.まずは相手の話を最後までしっかり聞き、感情面も含めて受け止めてください。社員が勇気を出して「不満」を伝えている背景には、必ず何かしらの誤解や意見のすれ違いがあります。頭ごなしに否定するのではなく、具体的な事例や状況を聞き出しながら、「何を改善できるか」「どうすれば不満が緩和されるか」を一緒に考えましょう。そうした姿勢を示すだけでも、社員は「聞いてもらえた」「理解しようとしてくれている」と感じ、反発が和らぐことが多いです。

Q2.評価制度を整えたいのですが、コストや手間が大きそうで躊躇しています。何から始めるのがよいでしょうか?
A.最初はあまり複雑にしすぎず、「売上」「利益貢献」「新規顧客獲得数」など、分かりやすい数値指標を設定するところから始めましょう。同時に、行動評価として「顧客対応」「チームワーク」「責任感」などをリストアップし、定期的にチェックするだけでも効果があります。評価基準は試行錯誤でブラッシュアップしていくものです。まずは簡易な制度を導入し、社員との対話を通じて運用面を調整すると、無理なくスタートできます。

Q3.社員の育成に力を入れたいのですが、具体的なプログラムや研修内容が思いつきません。どうすればいいですか?
A.まずは社員のレベルやニーズを把握することが大切です。現場の声を聞いたり、アンケートを取ったりして、「どのスキルが不足しているか?」「どんな研修なら役立つと感じるか?」を把握しましょう。そこから逆算して必要な研修プログラムを考えるのが基本です。また、外部の専門家やコンサルタント、研修会社が提供するプログラムを参考にするのもよい手段です。重要なのは「受けっぱなし」にしないことです。実務へ落とし込むフォロー体制を整えることで、投資効果がより高まります。

Q4.社長として忙しい中で社員とコミュニケーションをとる時間を確保するのが難しいです。どうすればいいでしょうか?
A.忙しさを理由にコミュニケーションを疎かにしてしまうと、結果的に社長の方針が伝わらず、現場が混乱するリスクが高まります。まずは定例の会議や朝礼・夕礼など、既存の場を再活用する方法を考えましょう。短い時間であっても、双方向のやり取りを意識することで、密度の濃いコミュニケーションが可能になります。また、急激に負担を増やすのではなく、少しずつ「現場訪問の回数を月に数回増やす」「昼食のタイミングを合わせて意見交換する」など、取り組みやすい方法から始めてみてください。

まとめ:組織の未来を左右する“叱り方”を見直そう

社員が社長に反発する背景には、必ずと言ってよいほど「コミュニケーションのズレ」「評価の不透明さ」「育成の不足」といった問題が絡んでいます。この3つは、中堅中小企業が成長していくうえで避けては通れない重要な経営課題です。社長としては、トップダウンで素早く意思決定を行うことが求められる一方で、社員との信頼関係や納得感を醸成していかなければ、せっかくの決断も形骸化してしまいかねません。

私自身、経営コンサルタントとして20年にわたり数多くの現場を見てきましたが、上記の問題を改善しないまま放置している会社ほど、人材流出や業績不振に悩まされる傾向が強いと感じています。一方で、最初は不満や反発の声が強かった組織でも、経営者が粘り強くコミュニケーションや評価制度の整備、社員の育成に取り組んだ結果、見違えるように現場が活性化した例も少なくありません。

「社員は会社の宝」とはよく言われますが、その宝の価値を最大化するためには、経営者自身が社員と共に成長する姿勢を持つことが重要です。現場と向き合い、問題点を正しく把握し、一つひとつ改善策を実行していくプロセスこそが、中堅中小企業を強くするうえで不可欠なステップになります。

社員の反発や不満は、単なる批判ではなく、会社を変えるための貴重なヒントでもあります。「なぜ社員は社長に反発するのか?」という問いに正面から向き合い、経営者が気づいていない3つの問題の解消を図っていくことで、組織の結束とモチベーションは大きく高まり、さらなる成長を実現できるはずです。

ぜひ本コラムをきっかけに、自社の組織運営を見直してみてください。たった一つの施策や、ほんの少しのコミュニケーション改善が、社員との関係性を劇的に変えることがあるのです。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。今後のあなたの経営に少しでもお役に立てれば幸いです。

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この記事を書いた人

唐澤 智哉

新卒で大手金融系シンクタンクに入社し、大手企業向けのITコンサルティングに従事。その後、2社のコンサルティングファームにて、大手企業向けの業務改革・ITコンサルティングに従事。
2012年に大手IT企業に入社し、中小企業向けのコンサルティング事業の立ち上げの中心メンバーとして事業化までを経験し、10年間中小企業向けの経営コンサルティング・ITコンサルティングや研修・セミナーに従事。
その後、2022年に唐澤経営コンサルティング事務所を創業。中小企業向けの経営コンサルティング、DXコンサルティング、研修・セミナー等のサービスを提供している。
趣味は読書で、年間200冊近くの本を読む。