唐澤経営コンサルティング事務所代表の唐澤です。
中小企業診断士・ITストラテジストの資格を持ち、20年以上にわたり、中堅中小企業の経営戦略立案や業務改革、IT化構想策定のコンサルティングに従事してきました。
このコラムでは、私のコンサルティング経験をもとに、中堅中小企業の経営に役立つ情報を発信しています。
「創業者は苦労して会社を創り上げ、二代目はビジネスを安定させ、三代目で事業が傾く」――そんな噂を耳にしたことがある方もいらっしゃるかもしれません。「3代目が会社を潰す」というフレーズは、古くから中小企業の経営者の間で半ば常識のように語られ、実際に事業承継のタイミングで会社が大きく傾くケースも散見されます。
しかし、本当に「3代目の経営者=会社を潰す」という図式は成り立つのでしょうか?
本コラムでは、中堅・中小企業のコンサルティングに20年以上携わってきた経験をもとに、「成功する三代目と失敗する三代目の違い」について解説します。
読者のみなさまが「三代目社長の宿命」と思い込むことなく、健全な事業承継と持続的な成長を実現するためのヒントを得ていただければ幸いです。ぜひ最後までご覧ください。
なぜ「3代目が会社を潰す」と言われるのか?

歴史的・文化的背景
日本では、家業を子どもに引き継ぐいわゆる「世襲」が古くから行われており、明治以降も商家や工場などで当たり前のように実践されてきました。二代目までは「前の代からの負債や歴史」を踏まえ、必死に事業を守り拡大する一方、三代目になると先代の苦労や事業拡大の努力をあまり知らないケースが多いのが現実です。そのため、油断から経営が傾くことが「3代目が会社を潰す」という言説の背景にあると考えられます。
また、日本では中小企業の多くが「オーナー企業」であり、家族的経営を行うことが少なくありません。こうした企業では、トップ(社長)の在任期間が長期化する傾向があります。そして代替わりは10年、20年、あるいはもっと長いスパンで起きるため、三代目の頃には創業時の事業理念や苦労話が風化してしまうことも多いのです。
データが示す事業承継問題
実際に、事業承継に関する統計データを見ると、中小企業庁「中小企業・小規模事業者におけるM&Aの現状と課題」によれば、2025年までに70歳以上の中小企業の経営者がおよそ245万人に達すると推計されており、うち約半数以上の約127万人が後継者不在という問題を抱えているとされています。

後継者不在は「3代目が潰す」以前に、「3代目まで会社が続かない」リスクをはらみます。
一方で、後継者がいて三代目につないでも、経営を軌道に乗せるには高いハードルが存在することも事実です。三代目が急に会社を継ぎ、先代のノウハウや意思決定プロセスを十分に学ばずに経営の舵取りを始めることは、事業不振や経営破綻を招く危険性を高める要因となります。
成功する三代目と失敗する三代目の違い

「理念の継承」か「形だけの継承」か
三代目に限らず、事業承継において非常に重要なのは「創業の理念」と「先代・前任者の想い」を正しく継承しつつも、新たな時代に即した変革を起こせるかどうかです。
よくある失敗例として、「先代のやり方をただ受け継ぐだけ」というケースや、逆に「まったく違うビジネススタイルを一方的に持ち込む」というケースが挙げられます。前者の場合、時代の変化への対応が遅れてしまい、競争力を失ってしまうリスクがあります。後者の場合、社内の信頼を失うだけでなく、長年築いてきた取引先との信頼関係も壊してしまう恐れがあります。
成功する三代目は、会社の理念や価値観を本質的に理解し、必要な部分は守り抜く一方で、時代に合わせてアップデートできる柔軟性を持っています。例えば、創業者の「地元貢献を第一に」という姿勢を尊重しつつも、デジタル化や新規事業の展開などでビジネスの裾野を広げ、売上増やブランド力強化に成功している例も少なくありません。
「現場を知るリーダーシップ」か「机上の空論」か
企業においてリーダーシップを発揮するためには、現場を知り、従業員と良質なコミュニケーションを取り、納得感を得ながら事業方針を打ち出すことが不可欠です。しかし、三代目経営者が失敗に陥るケースの多くは、「いきなりトップに就任してしまい、現場の実態を知らないまま指示を出し続ける」という状況に陥ることです。
社内には「三代目は口ばっかりだ」「現場経験がないのに、なぜそんな方針を?」という不満や戸惑いが広がり、結果として従業員のモチベーションが下がる、離職率が上がる、取引先との関係がぎくしゃくする――といった悪循環が生まれます。
一方、成功する三代目は、就任前に現場を丁寧に回り、苦労を肌で感じ、従業員との対話を重ねているケースが多いです。自社の商品・サービスだけでなく、顧客や取引先の声にも耳を傾け、問題点と強みをしっかりと把握します。こうした現場感に基づいて打ち手を考え、具体的で実効性の高い施策を打ち出すことで、周囲を納得させ、社内外の信頼を得やすくなるのです。
「適切なガバナンスと相談体制」か「ワンマン経営」か
中小企業の三代目が陥りがちなのが、「ワンマン化」です。これは二代目から事業を引き継いで間もない時期にありがちですが、新社長としてのリーダーシップを示そうとするあまり、周囲の意見を聞かずに独断専行してしまうことがあります。特に、中堅中小企業は組織構造が比較的フラットであるため、トップに権限が集中しやすいという特徴があります。結果としてガバナンスが弱くなり、リスク管理や内部統制が疎かになりがちです。
成功する三代目は、顧問や取締役会などの相談体制を整え、自分だけで抱え込まない経営を実践しています。課題があったときに誰に相談し、どう意見を取りまとめ、最終的にどのように決断を下すのか――このプロセスが明確であるほど組織は安定し、リスク管理もスムーズに進みます。内部統制を強化しておくことで、金融機関や取引先からの信頼も高まり、経営基盤がより強固になります。
「学び続ける姿勢」か「先代頼み・過去の成功体験頼み」か
世の中は常に変化し、テクノロジーも急速に進歩しています。先代が成功を収めたやり方が、今の時代に必ずしも通用するとは限りません。三代目が陥りやすい失敗の一つに「親や祖父のやり方が間違いない」という過信があります。もちろん過去の成功体験は貴重ですが、経営の世界では常に新しい知識と視点を吸収する努力が求められます。
成功する三代目は学習意欲が高く、経営セミナーや異業種交流会、最新の経営手法やITツールの研究などを積極的に行います。あるいは外部から専門家やコンサルタントを招き、自分の弱点や客観的な課題を把握し、組織全体の成長に活かそうとします。こうした「柔軟な学びの姿勢」が会社を取り巻く環境の変化に対応し、事業の長期的な発展につながるのです。
事業承継を成功に導くためのポイント

早期の後継者教育と計画的な承継
「事業承継」には、実際に代表取締役を交代する前から丁寧な準備が必要です。各部署の業務内容や経営戦略の立案・実行プロセスを後継者が学ぶ期間を十分に確保し、先代との役割分担や経営ノウハウの移転を計画的に進める必要があります。
「2023年版中小企業白書」では、事業承継準備を早期に開始することが重要であるとされており、特に親族内承継の場合、準備期間が「5年以上」と回答した割合が約3割と最も高いことが報告されています。

三代目社長を迎える際も、遅くとも就任の3〜5年前には後継者教育や社内外への周知を開始するのが望ましいと言えます。
外部アドバイザーや社外取締役の活用
ワンマン経営を避け、透明性の高い経営を行うためにも、外部のコンサルタントや社外取締役、あるいは顧問弁護士・税理士などの第三者機関との連携が大切です。とりわけ、次のような局面で専門家のサポートを受けることは極めて有効です。
- M&Aや業務提携を検討するとき
- 新規事業への進出や大きな投資を行うとき
- ガバナンス体制を整備し、リスク管理を行うとき
- 相続税・贈与税などの税務面の最適化が必要なとき
社内にノウハウがない分野や客観的な視点が必要なときにこそ、外部の専門家を有効活用しましょう。
自社の強みを再認識し、時代に合わせて変化させる
三代目に限った話ではありませんが、企業が長く存続・繁栄するためには「自社の強み」を再認識し、それを時代に合わせてブラッシュアップすることが欠かせません。例えば、地元で長く愛されてきた製造業があった場合、「老舗としてのブランド力」や「地場産業とのネットワーク」などの強みがあります。
成功する三代目は、この強みを活かして新商品の開発や販路拡大を図り、企業価値を高めます。失敗する三代目は、先代から受け継いだ強みを活かそうともせず、全く異なる分野に飛び込んで苦戦する、あるいは強みを過信して時代の変化に対応しない――といった状況に陥りがちです。
従業員への感謝と共感を重視する経営
経営者が交代すると、従業員は少なからず不安を抱きます。新たなトップに対して「自分たちの雇用は大丈夫なのか?」「今後の経営方針はどう変わるのか?」という疑問が生じるからです。だからこそ、三代目が最初に取り組むべきことは、従業員への感謝と共感の示し方を明確に行うことです。
具体的には、全社員との面談や社内報、朝礼などを通じて、自分のビジョンや会社の方向性を伝えると同時に、従業員一人ひとりの声を吸い上げる取り組みが考えられます。会社がどこを目指し、なぜそこに行く必要があるのか――その理由と意義をしっかり共有していくことで、従業員の協力を得やすくなります。
Q&A
Q1. 「三代目として就任したばかりです。先代のカリスマ性が強く、従業員からも取引先からも比較されてしまい辛いです。どうすればよいでしょうか?」
A. 先代のカリスマ性が高い場合、後継者は比較の対象になりがちです。しかし、そこに臆する必要はありません。むしろ、自分らしい強みを明確に打ち出すチャンスと捉えましょう。例えば、先代が営業畑出身であれば、あなたは経営企画やITなど、新たな分野で実力を示すことができます。また、従業員や取引先への挨拶回りを積極的に行い、顔を合わせてコミュニケーションを取ることで、「先代とは異なる魅力を持つ社長」として徐々に認知されるようになります。短期間で評価を変えるのは難しいですが、焦らず自分に合ったリーダーシップを確立していきましょう。
Q2. 「三代目として、先代の方針をどこまで踏襲すべきか悩んでいます。新規事業に挑戦する余地が見当たりません……。」
A. 先代の方針は大きな意味での「経営理念」の部分と、時代の流れに合わせて変えていくべき「戦術面」とに分けると考えやすいです。
- 経営理念: 企業の存在意義や社会的使命を示す部分は大切に受け継ぎましょう。創業者や先代が大切にしてきた価値観を社員や顧客が共有している場合、それを急に変えてしまうと社内外に不信感が広がりかねません。
- 戦術面: 商品開発や販売チャネル、マーケティング手法など、より具体的な手段は時代の変化に合わせて柔軟に変えていく必要があります。新たな事業に挑戦する際には、社内にどんなリソースがあり、何を強みにできるのかをリサーチし、失敗リスクを最小限に抑えながら検討を進めるとよいでしょう。
Q3. 「三代目である私には、経営の経験がありません。どうやって学ぶべきでしょうか?」
A. 経営の学び方は多岐にわたりますが、以下の三つをバランス良く取り入れることがおすすめです。
- 現場から学ぶ: 社内のあらゆる部署や部門を回り、従業員が何に苦労しているのか、顧客は何を求めているのかを直接ヒアリングしましょう。現場感がないと机上の空論になりがちです。
- 外部知識を取り入れる: 経営セミナー、異業種交流会、経営者団体への参加などを通じて、他社事例や経営ノウハウを学びましょう。少人数制の勉強会やワークショップも有効です。
- 先代や役員、外部コンサルタントから学ぶ: 先代の経験は貴重な財産ですから、その成功と失敗の両方から学ぶ姿勢が大切です。また、役員や外部のコンサルタントなど、あなたよりもキャリアが長かったり、経験・知識が豊富で第三者視点を持つ人の話に耳を傾けることも重要です。
Q4. 「社員が私をトップとして敬ってくれず、意見を言ってもなかなか動いてくれません。どうすればよいでしょうか?」
A. 敬意や信頼は一朝一夕で勝ち取れるものではありません。特に、若くして三代目を継いだ場合、社歴の長い社員にとってあなたは「ただの社長の息子(娘)」かもしれません。こうした固定観念を打ち破るためには、まず人間的な信頼関係を構築することが重要です。
- 小さな成功を積み重ねる: すぐに大改革をするのではなく、社内のちょっとした課題を解決するなど、目に見える成果を出しましょう。
- コミュニケーションを密にとる: 定期的に部署を訪問し、ランチミーティングを開くなど、気軽に話せる場を設けましょう。
- 徹底した情報共有: 方針や施策の意図を丁寧に説明することで、社員の納得感を高めることができます。
まとめと今後に向けて
三代目が事業を承継する際、「会社を潰す」と言われるのは、あながちデマばかりではありません。実際に、代替わりのタイミングで経営が不安定になるケースが少なくないためです。
しかし、それはあくまで「準備不足」や「継承プロセスの不備」に起因するものであり、「三代目」という存在そのものに問題があるわけではありません。むしろ、三代目だからこそ新鮮な視点や先代との融合で新たなビジネスチャンスを生み出す可能性も大いにあります。企業にとって大きな転機となる事業承継を、「リスク」ではなく「機会」と捉え、しっかりとした計画と学びをもって臨んでいただきたいと思います。
最後に、私自身は中堅・中小企業の経営コンサルタントとして20年以上、数多くの事業承継の現場を見てきました。その経験を通じて、成功する三代目には以下のような共通点があると感じています。
- 先代の理念を深く理解し、守るべき部分と変えるべき部分を峻別している
- 現場感を大切にし、コミュニケーションを重視するリーダーシップを発揮している
- ワンマン経営に陥らず、ガバナンスと相談体制を整え、客観的な視点を取り入れている
- 学び続ける姿勢を持ち、柔軟に変化に対応している
三代目が失敗する要因を一言でまとめると「周囲を理解せず、自分勝手な経営をしてしまう」ことにあると言えるでしょう。逆に言えば、周囲を理解し、周囲とともに学びながら着実にビジョンを実行に移していくことで、三代目だからこそできる企業変革が実現できます。
事業承継はゴールではなくスタートです。三代目としての経営をスタートされた方、あるいは近い将来に承継を控えている方にとって、このコラムが少しでも参考になれば幸いです。皆さまの企業が長く繁栄し、地域や社会の発展に貢献していくことを心より願っています。
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