唐澤 智哉 唐澤経営コンサルティング事務所代表の唐澤です。
中小企業診断士・ITストラテジストの資格を持ち、20年以上にわたり、中堅中小企業の経営戦略立案や業務改革、IT化構想策定のコンサルティングに従事してきました。
このコラムでは、私のコンサルティング経験をもとに、中堅中小企業の経営に役立つ情報を発信しています。
あなたは「経営者目線で考えろ」と言われた経験はありませんか？
中堅中小企業の役員や管理職であれば、一度は上司からこうした言葉をかけられ、「一体どういうことなのだろう？」「具体的には何をすればいいのだろう？」と戸惑ったことがあるかもしれません。
表面的には「もっと大きな視点で仕事をしろ」というニュアンスに捉えがちですが、実はその背景には「会社の方向性や利益を長期的に考えたときに、どう行動すべきかを考えなさい」という、より深い意図があります。
しかし、現場レベルで日々多忙に働く管理職・従業員にとって、「経営者目線」とは具体的に何を指し、どう実践すればいいのか分かりにくいのも事実です。そこで本コラムでは、経営コンサルタント歴20年という経験を踏まえ、中堅中小企業の皆さまに向けて「経営者目線で考える」とは何を意味し、どのように活用していけばよいのかを徹底解説いたします。
本コラムを読み終わる頃には、「あの時言われた“経営者目線”とはこういうことだったのか！」と納得し、社内での方針決定や問題解決に役立つ具体的なヒントを得られることでしょう。
ぜひ最後までお読みください。
なぜ「経営者目線で考えろ」と言われるのか？
経営者の悩みは「短期的成果」と「長期的視点」のバランス
中堅中小企業では、経営者自身が直接営業にも出向き、社員のフォローにも走り回り、常に事業の火消しに追われているケースが多く見受けられます。現場と経営を一人で担うような状態になりやすく、「どうしても短期的な成果を優先せざるを得ない」という苦労が生まれがちです。一方で、経営者が考えるべき重要な課題としては、中長期的な方向性や利益構造の最適化、組織体制の整備なども含まれます。
「経営者目線で考えろ」という指示の根底には、「社員一人ひとりが短期的・表面的な成果だけでなく、長期的な事業成長を意識して行動してほしい」という願いが込められています。言い換えれば、経営者が普段頭を悩ませている長期視点の課題も、社員各自で意識しながら仕事を進めてもらいたいのです。
経営者が社員に求める「主体性と危機感」
経営者からすると、会社は自分の生活基盤でもあり、家族や従業員の生活を守る重要な存在です。そのため、常に「どうすればこの会社を持続的に成長させ、社員の給与や雇用を守り、社会的信用を高めていけるのか？」という危機感と責任感をもって行動しています。
現場の社員に対して「経営者目線を持ってほしい」というのは、単に経営の数字に強くなってほしいというよりも、このような責任感・当事者意識を共有してほしいという意味合いが大きいのです。
「経営者目線」の本当の意味とは？
全体最適を優先する
「経営者目線」を理解するうえで鍵になるのが、全体最適を優先する視点です。例えばあるプロジェクトで、自部門の利益だけを最優先に考えれば、短期間での成果を出しやすいかもしれません。しかし会社全体で見れば、別の部門や今後の投資計画などとの兼ね合いもあり、「自部門の最適解＝会社全体の最適解」とは限りません。
経営者は資金繰り、将来の設備投資、信用リスクなどを多面的に考えて意思決定を下します。社員が全体最適を考えず、自分の担当領域だけで成果を上げようとすると、社内で足の引っ張り合いが起きたり、長期的視点を欠いた無理な営業活動をしてしまったりする可能性があります。結果的に、全社としての成長を阻害するリスクがあるのです。
リスクとリターンを同時に評価する
経営者は常にリスクとリターンを秤にかけながら決断をします。新規事業を立ち上げるとき、人材投資を行うとき、設備投資をするかどうかなど、どれも失敗すれば大きな損失をこうむるリスクがあり、成功すれば飛躍的なリターンが期待できるものです。
「経営者目線」を持つとは、こうした意思決定の背景にあるリスクとリターンをイメージし、自ら判断を行う姿勢を身につけることでもあります。利益や売上げなどの良い面だけではなく、危険を察知し回避策を講じることも重要です。
会社を“自分事化”して考える
多くの社員が陥りがちなのは、「会社は経営者のものだから、自分は与えられた範囲の責任だけ果たせばいい」という意識です。もちろん業務範囲や立場というものは存在しますが、組織を強くし、事業を成長させるためには、各自が主体的に「この会社をどうしていけばいいのか？」を考える必要があります。
これは業務効率化のアイデアを出したり、新しいサービスの企画提案をするなどの行動にも表れます。もし社員全員が「自分が社長だったら、ここをこう変えるのに…」と思うだけでなく、積極的に提案していけば、社内は大きく活性化するでしょう。
経営者目線を身につけるための具体的アプローチ
数字を知る・理解する
経営者目線を身につけるためには、会社の数字を理解することが重要です。特に「売上」「利益」「コスト構造」「キャッシュフロー」などの指標を把握することで、事業の健全性や成長の方向性を見極めることができます。
多くの成功している企業では、定期的に財務諸表を確認し、キャッシュフローの管理を重視する傾向があるといわれています。実際、経営の意思決定においては、日々の業務だけでなく、会社がどのように利益を生み出し、資金をどのように活用しているのかを把握することが求められます。そのため、財務的な視点を持つことが、持続的な成長や安定した経営のために欠かせない要素となるでしょう。
■ポイント
- 月次決算資料やキャッシュフロー計算書を定期的に確認する
- 部門別の売上構成や利益率の推移を把握する
- 財務指標（自己資本比率、流動比率など）のトレンドを見る
決算書の読み方ついて詳細を知りたい方は、以下の記事もお読みください。
会社の経営戦略を理解する
どれだけ数字を見ても、その背景にある経営戦略や経営方針が分からなければ、表面的な理解に留まってしまいます。経営者が掲げるビジョン・ミッションや中期経営計画の内容を理解し、目指すべきゴールや、そこに至る具体的なプロセスを自分事として考えることが必要です。
経営戦略とは、シンプルに言い換えると「どんな顧客に、どのような商品・サービスを提供して、どのように収益を上げるか」という活動方針です。これを理解していると、日々の業務の中でも、「これは会社の基本方針と合っているか？」「競合と比べて差別化できているか？」といった視点で行動できます。
経営戦略について詳細を知りたい方は、以下の記事もお読みください。
部門横断的なコミュニケーションをとる
全体最適を考えるためには、他部署や他チームの業務内容をある程度理解しておくことが不可欠です。例えば、営業部門の社員が「新商品を早くリリースしたいから開発を急いでほしい」と要望する場合、製造（もしくは開発）部門では「品質保証のプロセスに時間がかかるので、急ぎすぎると不良品リスクが高まる」という事情があるかもしれません。相互の事情を知らずに突き進めば、品質不良やクレーム増大などのリスクを高め、結果的には企業ブランドを傷つける恐れもあります。
このようなトラブルを防ぎ、ベストなタイミングで市場投入できるよう、部門を超えたコミュニケーションが大事です。経営者目線とは、こうした“社内全体を見渡す視野”とも言えます。
仮説思考と検証
経営は常に不確実性との戦いです。市場は刻々と変化し、消費者のニーズも日々移り変わります。こうした状況で、経営者目線をもって行動するためには、仮説思考が欠かせません。
「こういうターゲット層はまだ満たされていないニーズがありそうだ」「このサービスを改良すればリピート客が増えるのではないか」など、仮説を立てて実行し、結果を検証し、修正していくサイクルが大事です。経営者は常にこれを繰り返し、事業を最適化していきます。社員の立場でも、この仮説→実行→検証のプロセスを意識すれば、より経営者の思考に近づけるでしょう。
仮説思考について詳細を知りたい方は、以下の記事もお読みください。
外部環境を意識する
特に中堅中小企業では、外部環境の変化に敏感になる必要があります。大企業のように経営資源が豊富であれば多少の変化に耐えられるかもしれませんが、中堅中小企業の場合は外部環境の変化が直撃し、経営に大きなダメージを与えることもしばしばあります。
経営者は常に競合状況、市場動向、社会情勢などの変化をチェックし、先手を打とうとしています。社員としても、自分の担当エリアや顧客だけでなく、業界全体の傾向や政治・経済ニュースなどをウォッチする習慣をつけると、経営者目線での提案がしやすくなります。
経営者目線を社内に浸透させるための実践ステップ
まずは経営者との対話の場を増やす
社員が経営者目線を理解し、自分の業務に活かすためには、経営者や上層部との対話の場を確保することが最も効果的です。朝礼や定例会議などの場で、会社の業績や戦略の進捗状況を共有し、日々の課題についてざっくばらんに議論する機会を設けてみてください。
経営側も現場の生の声を知ることができるため、相互理解が深まり、結果として効率的な意思決定にもつながります。
経営計画を“見える化”する
「会社の経営方針や計画はトップだけが知っていて、社員には情報が下りてこない」という声をよく耳にします。これでは社員がいくら努力しても、“経営者目線”がどこに向かっているのか分かりません。
そこで、中期経営計画や予算計画、将来ビジョンなどを資料化してわかりやすく社内共有し、進捗状況をモニタリングする仕組みを作りましょう。各部門ごとのKPI（重要業績評価指標）の数字なども合わせて定期的に発信すれば、社員の当事者意識が高まりやすくなります。
経営計画について詳細を知りたい方は、以下の記事もお読みください。
成果を「個人の能力」ではなく「チームの成果」として評価する
経営者目線をもって行動してもらうためには、社内の評価制度も変えていく必要があります。もし個人の売上数字だけを重視し、他部署との連携や会社全体への貢献を評価しない仕組みであれば、短期的な数字だけを追う行動が助長されてしまうでしょう。
部門横断的なプロジェクトで成果を出した社員や、現場で起きている課題を経営者に素早くフィードバックし改善につなげた社員なども、正しく評価される制度設計を心がけましょう。
人事評価制度について詳細を知りたい方は、以下の記事もお読みください。
小さな失敗を許容する文化を育てる
経営者目線で考え行動するということは、ときにはリスクをとって新しいことに挑戦することを意味します。失敗を極度に恐れて何もしないのでは、経営者目線どころか現状維持すら難しくなっていく時代です。
もちろん失敗はしないに越したことはありませんが、小さな失敗であれば早めに気付き、修正すれば大きな傷にはなりません。チャレンジを推奨し、結果が思わしくなかったとしてもその過程を評価し、ナレッジを共有する姿勢が社内に広がれば、社員も安心して新しい提案や行動ができるでしょう。
Q&A
Q1.「経営者目線」と言われても、具体的に何を学べばいいのか分かりません。
A. まずは会社の数字（財務諸表、キャッシュフロー）を読む力を身につけることが最優先です。その上で、経営計画・ビジョン、マーケティングの基礎などを学ぶと良いでしょう。経営者が常日頃どんな情報を集め、何を判断基準として意思決定をしているかを理解するのがポイントです。
Q2. 現場が忙しく、経営者目線を養う余裕がありません。
A. 確かに日々の業務に追われると、経営的な視点に立ち戻る余裕がないかもしれません。しかし、ちょっとした工夫で時間を作ることは可能です。たとえば5分で良いので、毎日ニュースをチェックし、自社との関連を考える習慣をつけてみる。あるいは週に一度、部門ミーティングで経営課題を一つ取り上げ、ディスカッションしてみる。小さな取り組みが積み重なると、大きな変化につながります。
Q3. 従業員が「経営者じゃないのに責任ばかり増える」と不満を言います。
A. 社員にとっては「自分は経営者ではないのだから、そこまで責任を負いたくない」という感情が自然に湧くこともあります。そこで大切なのは、経営者目線を持つことのメリットをしっかり共有することです。視野が広がれば、自分のキャリアアップにも役立ちますし、組織内での評価も高まります。また、より本質的な問題解決力が身につくので、将来的に独立や転職をしても大いに活かせるスキルです。
Q4. 現状、管理職だけに「経営者目線を持て」と言い続けても変化がありません。
A. 経営者目線を持つことは、管理職だけに限定されるものではありません。若手社員や現場のリーダー層にも、少しずつ考える機会を与えることが重要です。また、特定の人だけが学ぶのではなく、全社的にその必要性を共有しないと大きな効果は得られません。研修や勉強会などを活用し、組織全体で「経営者目線」の意義を再確認してみてください。
まとめ：迷った時こそ自分と組織を客観視する
「経営者目線で考えろ」と言われると、何やら難しい専門知識が必要そうなイメージがあるかもしれません。しかし実際には、日常業務の延長線上にある「会社全体にとってのベストは何か」「長期的にはどんなリスクやチャンスがあるのか」を意識して行動すればよいのです。
そして、経営者目線を身につけるために最も大切なのは、自分の仕事を“自分事”として捉え、会社の戦略や数字に関心を持つ姿勢です。上司からの指示やマニュアル通りに動くだけでなく、「なぜこの方針なのか」「どうすればもっと良くなるのか」と常に疑問を持ち、周囲と協力しながら改善策を試みる。このような行動の積み重ねが、組織としての価値や成果を最大化し、ひいては個々人の成長にも繋がります。
経営コンサルタントとして20年の経験から言えるのは、「経営者目線」は特別な人だけが身につけられるスキルではないということです。企業の規模に関わらず、日々の行動や考え方をほんの少しシフトさせるだけで、驚くほど大きな成果につながる可能性があります。ぜひ本コラムをきっかけに、社内全体で「経営者目線」を育ててみてください。それが組織の強さとなり、ひいては安定と成長をもたらす原動力となるはずです。
あなたのビジネスのご発展を心より応援しております。今後も中堅中小企業の皆さまに役立つ情報を積極的に発信していきますので、ぜひ次回以降のコラムもご覧いただければ幸いです。
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