唐澤経営コンサルティング事務所の唐澤です。中小企業診断士・ITストラテジストの資格を持ち、20年以上にわたり、中堅中小企業の経営戦略立案や業務改革、IT化構想策定などのコンサルティングに従事してきました。
このコラムでは、私のこれまでのコンサルティング経験をもとに、中堅中小企業の経営に役立つ情報を発信しています。
新規事業を立ち上げることは、経営者にとって夢や希望を描く場面である一方、大きな不安を伴う挑戦でもあります。「何から手をつけるべきか?」「自社の強みをどう活かすべきか?」――こんな迷いを抱えながら、次の一手を考えている方も多いのではないでしょうか?
この記事では、新規事業を成功に導くためのアイデア出しに焦点を当てます。特に、中小企業の経営者が直面する現実的な課題に合わせた具体的な方法を5つに整理し、わかりやすく解説していきます。本記事を読めば、経営の悩みが整理され、新たな行動を始める勇気が湧いてくることでしょう。
それでは、成功する新規事業を作るための第一歩を一緒に踏み出していきましょう。
成功する新規事業のための基礎知識

新規事業とは何か?
新規事業とは、既存のビジネスモデルから離れた新しい価値を創出する取り組みのことです。具体的には、これまで提供していなかった商品やサービスを展開したり、新たな市場に進出したりすることを指します。
なぜ新規事業が注目されるのでしょうか?それは、現状の事業に頼るだけでは、将来の成長が保証されないからです。
市場の変化や顧客ニーズの多様化、さらには技術革新が進む中、同じ事業に固執していると競争に埋もれてしまうリスクが高まります。新規事業は「次世代の成長エンジン」として、企業の持続的な発展を支える役割を果たします。ただし、その成否は事前の準備や正しい方向性の選択、そして自社の強みを最大限活用することにかかっています。強みを活かすことで競合他社との差別化が可能になり、より現実的かつ実行可能な事業計画が立てられるのです。「新しい事業に挑戦すること自体」が目的ではなく、しっかりとした目的意識、戦略、そして強みの活用が重要です。
新規事業の重要性
新規事業は、単に収益の多様化を図るだけではなく、以下のような戦略的意義を持ちます。
- 成長ポテンシャルの確保
既存事業が成熟市場に達している場合、新規事業は企業の未来を切り開く重要な手段となります。競合他社との差別化を図るうえでも、新しい市場や技術を取り込むことが不可欠です。 - リスク分散
1つの事業に依存していると、業界全体の不況や市場ニーズの急変により、経営全体が危機に陥る可能性があります。「卵は1つの籠に盛るな」という格言が示すように、収益源を多様化することでリスクを分散することが重要です。新規事業を進めることは、こうしたリスク管理の有効な手段となります。 - 組織の活性化
新しい挑戦を進める過程で、組織内にイノベーション文化が育ちます。社員が新しい視点を持つことで、既存事業にもプラスの影響を与えることができます。
新規事業成功のカギ
新規事業を成功させるためには、いくつかの重要なポイントがあります。
- 市場ニーズに基づく判断
顧客が本当に求めるものを深く理解することが出発点です。リサーチや顧客インサイトの掘り起こしを徹底的に行い、顧客の課題に対する最適解を提供する必要があります。 - リソースの効果的な活用
新規事業には時間や資金、人的リソースが必要です。特に中小企業では限られたリソースをどこに集中させるかが成否を分けます。「何をやらないか?」を決めることは戦略上の重要なポイントになります。 - 適切なリスク管理
無謀な挑戦は避け、リスクを見極めたうえで行動することが重要です。アンゾフの成長マトリクス(下図)における市場・製品がいずれも「新規×新規」となる多角化戦略は、最もリスクが高いとされます。そのため、既存の事業や組織が持つ強みを軸に新規事業を考えることが成功の近道です。

強みは、競争優位性を築く基盤となるだけでなく、リソースの無駄を最小限に抑える効果もあります。無計画な飛び地戦略ではなく、強みを活かせる範囲で慎重に進めることが求められます。次章では、具体的なアイデア出しの方法について掘り下げていきます。
アイデア出しの具体的な5つの方法

マーケットリサーチの活用
新規事業のアイデアを出す上で、マーケットリサーチは最も基本的でありながら強力な手段です。リサーチを通じて、「何を解決すべきか?」「市場にどんなチャンスがあるのか?」を明確にするだけでなく、自社の強みがどのように市場のニーズを満たすかを分析する視点も重要です。この視点を持つことで、競合との差別化を図る戦略を見出せる可能性が広がります。
ここでは、具体的なリサーチ手法と成功させるためのポイントを解説します。
■マーケットリサーチの3つのステップ
- 市場規模とトレンドを把握する
自社が狙う市場の規模や成長性を分析します。信頼できる市場調査レポートや政府機関のデータを活用しましょう。たとえば、経済産業省のデータは市場規模や成長性を示す貴重な情報源です。こうしたデータから、需要が拡大している分野を見つけることができます。 - 競合分析を行う
市場でどのような競合が存在するのかを調査します。競合他社が提供している商品やサービスを分析し、その強みや弱点を把握するだけでなく、自社の強みがどの分野で競合に勝てるかを明確にします。この分析により、リソースを集中すべき分野を特定でき、リスクを最小化しながら事業を進められます。- 競合がカバーできていないニッチな市場を見つける。
- 競合の商品やサービスに対する顧客の不満点を特定する。
- 顧客ニーズを深掘りする
顧客が何を求めているのかを直接調査します。具体的には、以下の方法が効果的です。- アンケート:オンラインで簡単に実施でき、多くのデータを短時間で収集可能。
- インタビュー:深いインサイトを得られる反面、時間と労力がかかるが価値は大きい。
- SNS分析:顧客が何を話題にしているか、どんな悩みを持っているかを特定する。
■リサーチのポイント
リサーチは単なる情報収集にとどめず、行動につながる具体的な洞察を得ることが目的です。「この市場はどう変化しているのか?」「競合が気づいていないチャンスは何か?」といった視点を持つことが重要です。
顧客インサイトから着想を得る
顧客インサイトとは、「お客様を動かす隠れた本音」のことで、顧客の表面的なニーズの背後にある「本質的な欲求」や「解決すべき課題」を指します。
このインサイトを正確に把握することは、新規事業の成功に直結します。同時に、顧客の課題を解決するうえで、自社の強みがどのように役立つかを検討することが欠かせません。顧客の本質的なニーズと自社の競争優位性を結びつけることで、より具体的で実現可能なアイデアが生まれます。
インサイトの掘り下げ方を具体的に解説します。
■顧客インサイトを掘り下げる3つの方法
- 顧客行動を観察する
顧客がどのように商品やサービスを利用しているかを観察します。特に、日常生活の中でどんな困難や不満を抱えているのかを把握することがポイントです。さらに、その課題を解決するために、自社が持つ特定の技術やノウハウがどのように活用できるかを意識することで、具体的な解決策を導き出しやすくなります。
たとえば、店舗での買い物時に「どの商品を選ぶか迷う」「価格が分かりにくい」といった行動や反応を見つけることで、新たな改善点が見えてきます。 - レビューやSNSの活用
顧客がSNSや口コミサイトで商品やサービスについて何を語っているかを分析します。ポジティブな意見だけでなく、不満や改善要望にも注目します。
例:「〇〇の商品は良いけど使い方が複雑すぎる」というレビューがあれば、シンプルな代替案を考えるきっかけになります。 - 顧客と直接対話する
顧客との対話を通じて、彼らが本当に求めているものを掘り下げます。インタビューやフォーカスグループで「どうしてその商品を使っているのか」「どんな改善が必要だと感じるか」を聞き出すことが有効です。
■顧客インサイトを活用するポイント
- 「なぜ?」を繰り返す:顧客の行動や意見に対し、「なぜそう思ったのか?」を深掘りしていくことで本質に近づけます。
- ペルソナを活用する:特定の顧客像(ペルソナ)を設定し、その視点からアイデアを具体化します。
顧客インサイトを正しく理解することで、表面的なニーズにとどまらず、顧客が心から価値を感じる商品やサービスの創出が可能になります。
デザイン思考の導入
デザイン思考とは、顧客の視点に立って課題を発見し、それを解決するための創造的なアプローチです。
主に5つのステップから構成されており、このプロセスを通じて、新規事業のアイデアを明確に形にしていきます。
■デザイン思考の5つの基本ステップ
- 共感(Empathize)
顧客の視点に立ち、彼らが直面している課題を深く理解します。これは単に顧客にインタビューするだけではなく、観察や実際の体験を通じて顧客の立場を追体験することが重要です。たとえば、飲食店を改善したい場合、顧客として実際に店を利用し、「待ち時間」「接客」「メニューの分かりやすさ」などの課題を肌で感じます。 - 問題定義(Define)
共感のステップで得られた情報をもとに、解決すべき課題を明確にします。「顧客が抱える問題とは何か?」「その根本原因はどこにあるのか?」を一文で表現できるようにすることがポイントです。また、自社の強みを解決策にどのように組み込むかを考えることが、このステップの成功を左右します。例えば、顧客の「複雑すぎる」という不満に対し、自社が得意とする簡便なオペレーション設計を取り入れることで、具体的な解決策に結びつけられます。
例:「顧客がメニュー選びに迷うことが多い」といった具体的な問題設定が、新たなサービス開発の方向性を示します。 - 発想(Ideate)
問題を解決するためのアイデアを多く出す段階です。このステップでは、ブレインストーミング(詳細は後述します)などの手法を使い、できるだけ多くの選択肢を広げることを重視します。この段階では、アイデアの質ではなく量を優先してください。 - 試作(Prototype)
アイデアを具体化するために、簡単な試作品を作ります。この試作品は完成形である必要はありません。むしろ、迅速かつ低コストで試せるものにすることが重要です。たとえば、ウェブサービスであれば紙に書いた画面のスケッチでも十分です。 - テスト(Test)
試作品を実際に顧客に試してもらい、フィードバックを得ます。この段階で得られた顧客の反応をもとに、試作品を改善しながら完成度を高めていきます。テストと改善を繰り返すことで、顧客にとって本当に価値のあるサービスや製品が完成します。
■デザイン思考を実践するポイント
- 失敗を恐れない
初めから完璧なアイデアを求めず、小さな試行錯誤を重ねることが成功のカギです。 - チームで取り組む
多様な視点を取り入れるために、社内の異なる部署のメンバーや外部の協力者と協働することが有効です。 - 顧客中心で進める
プロセス全体を通じて、顧客の視点を軸に考えることを忘れないでください。
デザイン思考は、単なる理論ではなく、実際に行動を起こしてこそその効果を発揮します。この手法を取り入れることで、あなたの新規事業アイデアに現実味と革新性が生まれるでしょう。
ブレインストーミングを活用する
新規事業のアイデアを効果的に生み出すために、ブレインストーミングは非常に有効な手法です。ただし、適切なルールとプロセスに基づいて実施しなければ、単なる雑談で終わってしまうリスクがあります。
ここでは、ブレインストーミングを成功させるための基本とポイントを解説します。
■ブレインストーミングの基本ルール
- 批判を禁じる
どんなアイデアであっても否定せず、自由な発想を歓迎します。批判が出ると参加者の意見が萎縮し、創造性が失われてしまいます。 - 量を重視する
質より量を優先します。多くのアイデアを出すことで、新しい視点や斬新な解決策が見つかる可能性が高まります。 - 突飛なアイデアを奨励する
一見すると実現不可能なアイデアも、新しい方向性を示唆するヒントになることがあります。常識にとらわれない発想を奨励しましょう。 - 他者のアイデアに乗っかる
他人が出したアイデアにヒントを得て、新しい発想を追加することを推奨します。アイデアが連鎖的に生まれることが、ブレインストーミングの醍醐味です。
■ブレインストーミングを成功させるための具体的なステップ
- 目的を明確化する
ブレインストーミングのテーマを事前に決め、全員が共有します。テーマは具体的であるほど良く、たとえば「30代女性向けの新しいヘルスケアサービスを考える」といった形が適切です。 - 時間を限定する
会議が長引くと集中力が低下します。30分から1時間以内に完了するようにスケジュールを組みましょう。 - ファシリテーターを設定する
話し合いが逸れないように進行を管理する役割を設けます。ファシリテーターは、全員が発言しやすい環境を作ることが重要です。 - 記録を徹底する
出されたアイデアをすべて記録し、後で整理できるようにします。ホワイトボードやオンラインツールを活用すると効率的です。 - アイデアを整理し、優先順位をつける
ブレインストーミングの後は、出されたアイデアをカテゴリ分けし、実現可能性や重要性に基づいて優先順位を決めます。
■注意点
ブレインストーミングを実施する際に注意したいのは、「否定的な雰囲気を避ける」ことです。特に中小企業では、上下関係や役職の差が原因で意見が出しづらい場合があります。事前にルールを明確にし、役職に関係なく意見を出せる環境を整えることが成功のカギです。
ブレインストーミングは、短時間で大量のアイデアを生み出す強力なツールです。これを効果的に活用することで、新規事業のアイデアが次々と生まれるでしょう。
Q&A
Q1. 新規事業のアイデアを考える際、どこから始めれば良いのでしょうか?
A.新規事業を考える際の最初のステップは、マーケットリサーチと自社の強みの明確化です。マーケットリサーチでは、ターゲットとなる市場がどのような課題を抱え、どのような解決策が求められているのかを知ることが重要です。一方で、自社が他社に勝る点をリストアップすることも欠かせません。たとえば、迅速な対応が可能な運営体制や、特定の分野における技術力などを考えると良いでしょう。これらの情報を基に市場と強みをマッチングさせることで、成功の可能性が高いアイデアが見えてきます。
Q2. 自社の強みをどうやって新規事業に活用すればいいですか?
A.自社の強みを新規事業に活用するには、まず顧客が求めている価値を深く理解することが重要です。そのうえで、自社の得意分野がその価値提供にどう役立つのかを具体化します。たとえば、顧客が「よりカスタマイズ可能なサービス」を求めている場合、自社の柔軟な対応力を活かし、個別対応のプランを提案するのが一つの方法です。さらに、強みを中心に据えた事業コンセプトを作ることで、競合他社との差別化も実現できます。
Q3. 顧客インサイトを掘り下げる方法が難しいと感じます。何か簡単な方法はありますか?
A.顧客インサイトを掘り下げる最も簡単な方法は、直接対話と観察を組み合わせることです。たとえば、顧客に現在のサービスや商品についての不満を尋ね、それをさらに深掘りして「なぜそう思ったのか?」を聞くことで、表面的なニーズの奥にある本質的な課題が見えてきます。また、口コミサイトやSNSを活用して顧客の声を分析することも有効です。特に、「〇〇があればもっと便利だ」という具体的なコメントは、新たな価値提案の大きなヒントとなるでしょう。
Q4. デザイン思考を初めて取り入れる場合、注意点は何ですか?
A.初めてデザイン思考を導入する際には、完璧を目指さないことが大切です。たとえば、最初から全てのプロセスを完璧に進めようとするのではなく、簡単な試作品を作り、それを顧客に試してもらうところから始めるとよいでしょう。また、社内の異なる部門からメンバーを集め、多様な視点を取り入れることで、よりバランスの取れた解決策が生まれます。そして何より、顧客の視点を常に意識しながら進めることが成功への鍵となります。
Q5. 新規事業のリスクを減らすにはどうすれば良いですか?
A.新規事業のリスクを減らすには、小規模な試行から始めるのが効果的です。例えば、限られたエリアや特定の顧客層を対象にテストマーケティングを実施することで、大きな投資をする前に市場の反応を確認できます。また、自社の強みを活かしてリソースを効率的に使うことで、無駄を最小限に抑えることができます。さらに、顧客や市場のフィードバックを定期的に収集し、必要に応じて方向性を修正する柔軟さも重要です。
Q6. 新規事業を考えるうえで、何をやらないべきですか?
A.新規事業を進める際、やらないほうがいいのは、十分な準備をせずに市場に飛び込むことです。たとえば、市場・製品がいずれも「新規×新規」となる多角化戦略を、強みや市場の分析なしに実行するのは非常に危険です。また、完璧主義に陥りすぎることも避けるべきです。早い段階で試作やテストを行い、実際のデータを基に改善を繰り返すプロセスが、新規事業の成功を後押しします。
まとめ
新規事業を成功させるためには、単なるアイデアの発想にとどまらず、戦略的な視点と行動が求められます。
本記事で解説したように、以下のポイントがカギとなります。
- 自社の強みを活かす
競合他社との差別化を図るために、自社の得意分野や独自の技術を明確にし、それを事業の核に据えることが重要です。マーケットリサーチや顧客インサイトの分析を通じて、強みを市場ニーズと結びつけましょう。 - 市場と顧客を深く理解する
新規事業は、顧客が抱える課題を解決するための価値提供が軸となります。顧客の声や行動を観察し、その中から本質的なニーズを見つけることで、具体的なアイデアが生まれます。 - デザイン思考を取り入れる
アイデアを形にするプロセスでは、デザイン思考が役立ちます。小さな試作品を作り、顧客のフィードバックを基に改善を重ねることで、顧客にとって本当に価値のあるサービスや製品が完成します。 - リスクを適切に管理する
十分な市場調査を行い、小規模な試行を繰り返すことで、リスクを最小限に抑えることが可能です。また、既存の強みを活かした戦略を優先し、リソースの無駄を防ぎましょう。 - 行動を起こす勇気を持つ
完璧を目指すあまり行動が遅れることは避けるべきです。早めに行動を起こし、フィードバックを基に修正を加えていく姿勢が、新規事業の成功を後押しします。
新規事業の立ち上げは、大きな挑戦であると同時に、企業の未来を切り拓くチャンスでもあります。本記事を参考に、ぜひ一歩を踏み出してください。そして、迷いや不安がある場合は、適切な助言を受けながら進めることも重要です。
あなたの新規事業が成功に向かうことを心より応援しています。
私たち唐澤経営コンサルティング事務所では、「コーチング」と「コンサルティング」を組み合わせ、中小企業の経営課題解決と成長戦略の策定を強力にサポートいたします。
経営に関するご相談や無料相談をご希望の方は、下記フォームよりお気軽にお問い合わせください。

経営者が抱える経営課題に関する
分からないこと、困っていること、まずはお気軽にご相談ください。
ご相談・ご質問・ご意見・事業提携・取材なども承ります。
初回のご相談は1時間無料です。
LINE・メールフォームはお好みの方でどうぞ(24時間受付中)