唐澤経営コンサルティング事務所の唐澤です。中小企業診断士・ITストラテジストの資格を持ち、20年以上にわたり、中堅中小企業の経営戦略立案や業務改革、IT化構想策定などのコンサルティングに従事してきました。
このコラムでは、私のこれまでのコンサルティング経験をもとに、中堅中小企業の経営に役立つ情報を発信しています。
ビジネスの世界では「勝つこと」が大きな目標であり、成功への原動力となります。しかし、全ての勝利が企業にとってプラスに働くわけではありません。たとえ一時的な成果を上げたとしても、それが偶然やモラルを欠いた方法によるものであれば、その後の経営を大きく狂わせるリスクがあります。特に中堅中小企業では、限られた経営資源の中で成功を手にすること自体が大変な挑戦ですが、「正しい勝ち方」を選ばなければ、短期的な成功が長期的なリスクに転じる可能性も否定できません。
本記事では、「間違った勝利」を避けるための考え方やフレームワーク、そして実践的なステップについて解説します。勝利の瞬間こそ冷静さを保ち、成功の原因を客観的に振り返ることが、企業の持続的な成長にとって不可欠です。会社経営するあなたが、正しい勝利を手にし、未来の成長エンジンとするための指針をお伝えします。
間違った勝ち方がもたらす危険

ビジネスで成功を収めた瞬間、多くの経営者はそれまでの苦労が報われた気分になり、達成感を味わうでしょう。一方で「勝利の味」を知ってしまったがゆえの落とし穴も存在します。特に、自社の実力や戦略、努力の方向性が正しく評価された結果の勝利であれば問題ありません。
特に「たまたま時流に乗っていた」「相手の失策に助けられた」「法やモラルすれすれの施策で勝った」といった、偶然や問題のある手段による勝利だった場合は危険です。その状態で「自分たちは完璧だ」「もう何をやっても大丈夫だ」と錯覚してしまうと、経営判断のブレを引き起こしやすくなります。
間違った勝利のもっとも怖い点は、経営者自身の判断力を狂わせてしまうことです。
上手くいった原因を客観的に振り返らず、まるで自分が神のように全能感を抱いてしまう。すると、社内の部下や幹部が「これはリスクが大きい」と進言しても聞き入れず、暴走気味の経営を続けてしまうケースが出てきます。結果として、せっかくの成功が短命に終わったり、組織の信用を失って取り返しのつかない事態を招くことにもなりかねません。
「勝って兜の緒を締める」の真意
「勝って兜の緒を締めよ」ということわざは、単に「油断をするな」という意味だけではありません。実は「勝利の原因を徹底して検証し、もし間違いがあればすぐに修正せよ」という深い警告を含んでいるとも解釈できます。勝った瞬間こそもっとも冷静になり、成功と失敗、正しい手法と危うい手法の境界を見極める必要があるのです。
中堅中小企業は、大企業よりも組織が小さく、現場と経営者の距離も近いため、勝利の余韻が全社的に伝わりやすい傾向があります。会社として自信や勢いを得やすい半面、判断が感情的になりやすい面も否めません。だからこそ、成功の真の要因を客観的に探り、組織の方向性を定期的に見直すメカニズムを整備することが不可欠です。
間違った勝ち方を避けるためのフレームワーク活用

ここでは、間違った勝ち方を防ぎ、正しい方向へ経営を導くために役立つフレームワークや実践的なステップを紹介します。
PDCAサイクルでの検証と学習
PDCA(Plan-Do-Check-Action)は、経営者の皆さんも馴染みのあるフレームワークでしょう。
- Plan(計画): 目標や戦略を設定する。
- Do(実行): 計画に基づき行動する。
- Check(評価): 結果を振り返り、成功要因・失敗要因を分析する。
- Action(改善): 次のプロセスに活かすために改善策を講じる。
勝利を手にした後、特に重要なのが Check の段階です。「間違った勝ち方をしていないか?」「偶然や環境要因によるものではなかったか?」「リスクのある手段が使われていなかったか?」を客観的に検証します。そして、問題が見つかったら Action で軌道修正を行う。こうしたプロセスを回すことで、勝ちパターンが正しいかどうかを絶えず検証し、もし誤りがあれば最短距離で修正することが可能です。
PDCAについては以下の記事でも解説していますので、もしよろしければお読みください。
3C分析で“正しく勝つ”ための環境把握
中堅中小企業であっても、戦略立案の際に3C分析(Company、Competitor、Customer)を活用するのは有効です。
- Company(自社): 自社の強みや弱みを正確に把握しているか?
- Competitor(競合): 競合相手の動向や戦略をどれだけ理解しているか?
- Customer(顧客): 顧客のニーズや市場の変化にどれだけ敏感に対応できているか?
たまたま相手が失敗しただけで得た勝利なのか、あるいは自社の強みを活かし、顧客のニーズを的確に捉えた上での必然的な勝利なのか。3C分析を継続的に行い、自社の置かれている状況を客観的に点検することで、誤った勝利の兆候を早期に発見できます。
3C分析については以下の記事でも解説していますので、もしよろしければお読みください。
KGI・KPIで真の成果を測る
KGI(Key Goal Indicator)は最終的な目標指標、KPI(Key Performance Indicator)はその過程を測る指標です。
■例:
- KGI: 年間売上目標の達成、あるいは利益率の向上
- KPI: 見込顧客獲得数、訪問件数、契約率など
間違った勝利は、多くの場合、目先の指標にとらわれがちです。例えば「今期だけ黒字化すればいい」「競合に勝って受注を取ればいい」という短期目標に集中しすぎて、長期的なブランド力や顧客満足度などを損ねるケースは珍しくありません。KGIとKPIを適切に設定し、両者をバランスよくウォッチすることで、事業全体の“本当の成果”を見失わずに済むでしょう。
KPIとKGIについては以下の記事でも解説していますので、もしよろしければお読みください。
モラルとガバナンスの見直し
間違った勝利には、法やモラルすれすれの手段が含まれていることがあります。例えば過剰なリストラ、社会的責任の軽視、あるいは反社会的な取引先との関係など、ダークサイドに足を踏み入れるリスクです。一時的に数字としては勝っているように見えますが、長期的には信用失墜や法的リスクの爆発、社会的非難などに直面します。
健全なガバナンス体制と社内倫理ルールの確立・運用は、大企業だけでなく中小企業にとっても重要な経営基盤です。コンプライアンス研修や社内の内部監査体制づくりなどはコストに感じるかもしれませんが、「間違った勝利」で一気に失うリスクと比べれば、はるかに安い投資と言えるでしょう。
慢心を防ぐ組織文化の醸成
経営者だけでなく、幹部や従業員が全員で客観的な視点を持てる組織文化が重要です。具体的には、
- 異なる意見や反対意見を歓迎する風土づくり
- 経営者を客観的にサポートするアドバイザリーボードや外部顧問の活用
- 成功要因と失敗要因を共有し合うオープンな社内コミュニケーション
などです。
自分を含めた誰もが 「絶対に正しい存在ではない」ことを前提とし、常に批判的かつ建設的な対話ができる環境を保つ。この仕組みこそが、間違った勝ち方の誘惑を最小限に留める鍵です。
Q&A
Q1. すでに「偶然の勝利」によって成功していると感じた場合、最初に何をすべきですか?
A. まずは「本当に偶然だったかどうか」を客観的に分析してください。PDCAの 「Check」を徹底的に行うイメージです。社外の第三者や信頼できるコンサルタントに意見を求めるのも有効です。また、運が良かった面が大きいと判明したら、間違いを認める勇気を持ち、顧客視点での再評価や競合分析をやり直しましょう。
Q2. どんなに警戒しても経営者の慢心が生まれてしまいます。どう防げばよいでしょうか?
A.慢心を完全に防ぐのは難しいですが、「システム」と「文化」の両面から抑止するのが有効です。システム面では、意思決定プロセスの可視化や外部顧問の導入、経営合議制などを設けてチェックを入れられる仕組みを作る。文化面では、従業員同士が反対意見を言いやすい環境づくり、日常的な雑談やミーティングで問題提起をしやすい雰囲気づくりが必要です。
Q3. 成功後のタイミングで社内改革や新事業に手を出したくなりますが、どう考えるべきでしょうか?
A. 成功の勢いを生かして新しいことにチャレンジするのは素晴らしい姿勢です。しかし、事業拡大や社内改革には必ずリスク評価と投資計画が伴います。事前に3C分析やKPI設定で現状を把握し、投資リソース(人的資源、資金、時間)をしっかり確保したうえで進めましょう。また、進捗をモニタリングする仕組みを用意し、万が一方向性が誤っていればすぐに修正する姿勢を忘れないでください。
Q4. コンプライアンスや社内ルールの強化をすると、社員のモチベーションが下がるのではないでしょうか?
A.コンプライアンス強化が手間と感じる方はいます。しかし、それは経営者がなぜルールを強化するのか、どんなリスクを未然に防ぎたいのかをきちんと説明できていないケースが多いです。むしろ「正しい勝ち方」を続けるために必要なセーフティネットであり、ひいては社員が安心して働ける環境づくりにつながると認識してもらうことが大切です。社員への説明会やワークショップを開き、全員が納得感を得られるコミュニケーションを行うと良いでしょう。
Q5. トップダウン型でスピード感のある経営をしてきたが、外部の意見も取り入れるべきでしょうか?
A. トップダウンのスピード感は中小企業の強みの一つですが、独断や思い込みが入りやすいリスクも大きいです。一度間違った勝利をつかんでしまうと、それを内省する機会が得られにくいのもトップダウンの特徴です。外部顧問や社内横断チームなど、ブレーキ役や第三者的視点を組み込み、健全な疑問提起ができる仕組みを導入することでスピードと正確性の両立を目指しましょう。
まとめ
ビジネスの世界において、「勝つこと」は大きなモチベーションとなり、会社を成長させる力となります。しかし、勝利の仕方を誤り、結果的に自らを神のように思い込み始めれば、その企業の未来は一気に脆くなります。
中小企業は、小回りの利く意思決定や強いリーダーシップを発揮できる魅力がある一方、ひとたび方向を誤れば致命的なダメージを被るリスクも抱えています。だからこそ、勝った時こそ冷静に振り返るプロセスを欠かさず、正しい勝利と間違った勝利を仕分けし、自社の実力を高めることが何より重要です。
- 客観的な分析(PDCA、3C、KPI/KGI)で成功要因を正しく把握する
- 組織内部に健全な懐疑心とコミュニケーションを育む
- ガバナンスとモラルを維持し続ける
これらを徹底すれば、勝利はさらなる成長と企業価値向上のエンジンとなり、逆に間違った勝ち方を回避できます。経営者として、ぜひ自社の文化や仕組みを見直し、誤った勝利を排除したうえで、真に持続的な成功を手にしていただければと思います。
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