唐澤経営コンサルティング事務所の唐澤です。中小企業診断士・ITストラテジストの資格を持ち、20年以上にわたり、中堅中小企業の経営戦略立案や業務改革、IT化構想策定などのコンサルティングに従事してきました。
このコラムでは、私のこれまでのコンサルティング経験をもとに、中堅中小企業の経営に役立つ情報を発信しています。
社員旅行は、かつて「会社の一大イベント」として多くの企業で盛んに行われていました。懇親・慰労・コミュニケーション活性化などを目的に、年に1回ないし2回のペースで旅行を企画し、社内の結束力を高めようとするものです。しかし近年では、社員旅行を「もう時代遅れ」として廃止する企業が増えたり、一方でさまざまな形にアップデートして継続している企業があったりと、対応が分かれている状況がみられます。
本コラムでは、私自身が中堅中小企業向け経営コンサルタントとして培ってきた経験と知見をもとに、「社員旅行をやめる会社・続ける会社は何が違うのか」「社員旅行のメリット・デメリットはどこにあるのか」を整理した上で、今後の在り方について具体的なヒントを提示します。あなたの会社にとって最適な選択はどちらか、一緒に考えていきましょう。
社員旅行の現状と潮流

日本の社員旅行の現状と変化
「社員旅行」は、日本独自の企業文化として長らく根付いてきました。かつては、従業員の慰労や親睦を深めることを主な目的として、多くの企業で定期的に実施されており、1990年代初頭には約9割の企業が実施し、組織の結束を強化する重要な役割を担っていたとされています。しかし、経済状況の変化や働き方の多様化、そして個人の価値観の変容に伴い、その形態や目的は時代とともに変化してきました。かつては温泉地での宴会を伴う団体旅行が主流でしたが、近年では、体験型旅行やテーマを設定した旅行、オンラインを活用したバーチャルな旅行など、多様なスタイルが登場しています。
社員旅行の実施率は、1990年代から現在にかけて大きく変化しています。産労総合研究所の調査によれば、社員旅行を行う企業の割合は1994年には88.6%ありましたが、年々減少し、バブル崩壊後の景気低迷やコスト削減の流れを受けて2004年頃には36.5%にまで低下しました。その後、2009年に51.6%まで回復しましたが、2010年代後半には再び減少傾向となり、2020年にはコロナ禍の影響もあり実施率が27.8%まで落ち込んでいると報告されています。これは、バブル期と比べると社員旅行を行う企業が半減していることを示しており、長期的な減少トレンドが顕著です。
直近の調査「2020年 社内イベント・社員旅行等に関する調査(産労総合研究所)」では、日本企業全体の27.8%の企業が社員旅行を実施しており、残り約7割は実施していない状況です。ただし、企業規模による差が見られ、従業員数300人以下の中小企業は、1,000人超の大企業よりも社員旅行を実施している割合が高いことが報告されています。これは、中小企業の方がアットホームな社風や社員同士の近い距離感を重視し、交流イベントを取り入れやすい傾向があるためと考えられています。中小企業でも実施頻度は様々ですが、「毎年1回」行う企業が最も多く、社員旅行を実施している企業の52.3%を占めています。実施時期は、比較的業務が落ち着く年度末や夏季休暇シーズンを選ぶ傾向があります。
従業員の意識の変化と抵抗感
近年、特に若年層を中心に、伝統的な社員旅行への参加に抵抗を感じる従業員が増加しています。2019年に株式会社ベースメントアップが実施した「社員旅行についての調査」によると、約58%の従業員が社員は必要ないと考えているという結果が出ており、この傾向は無視できません。X(旧Twitter)では、温泉旅館に泊まって夜は酒盛りといった昭和スタイルの社員旅行に抵抗を感じる若者の声が話題になるなど、従来の社員旅行のあり方に対する不満が表面化しています。

従業員が社員旅行に抵抗を感じる主な理由としては、以下が挙げられます。
- プライベート時間の侵害:休日や連休を利用することが多く、個人の自由時間を奪われると感じられるため。
- 人間関係のストレスと気遣いの負担:普段以上に密接なコミュニケーションが求められ、上司や同僚に気を遣う場面が多く、リラックスできないため。
- 金銭的な負担への懸念:個人負担の費用(旅行費用の一部、飲食費、お土産代など)が発生し、予期せぬ出費がかさむ可能性があるため。自分で選んだ旅行でないことへの抵抗感もあります。
- 団体行動への抵抗感:団体行動が苦手な社員も少なくないため。
- 旅行内容のミスマッチ:自身の興味や好みに合わない旅行内容に不満を感じるため。
- 強制参加に対する反発:実質的に強制参加となっている社員旅行に対して、反発心を抱く社員が多いため。
これらの抵抗感は、企業と社員の関係性の変化(会社を家族的な関係から、個人を尊重する関係へと捉える意識の変化)を反映しており、社員旅行実施率の低下につながる大きな社会要因といえます。また、ハラスメント意識の高まりや働き方改革による労働時間削減の動きも、社員旅行文化の縮小に寄与しています。
社員旅行を実施する企業と実施しない企業の違い
社員旅行を行っている企業と行っていない企業の間には、業種や企業文化、経営層の考え方など様々な違いが指摘されています。
- 業種による違い
「社員旅行に関する調査(株式会社サーバーワークス)」によれば、社員旅行を「実施している」企業の割合が高かった業種は鉱業(88.9%)、宿泊業(66.7%)、電気・ガス・水道などのインフラ業(57.1%)、農林水産業(50.0%)等で、逆に割合が低い業種は金融・保険業(10.7%)、飲食業(12.5%)、情報通信業(18.2%)なっています。現代的・知識労働系の業種ほど社員旅行離れが顕著にあると言えるでしょう。一方で、製造業や建設業など伝統的な業種では実施率が高く、IT・通信など新興業種で低い傾向にあり、これは業界ごとの慣行や従業員層の志向性の違いを反映していると考えられています。

- 企業文化・経営者の価値観
「会社は家族」といった一体感を重視する伝統的な企業文化を持つ会社では、社員旅行が昔からの慣習として根付いており、経営層も積極的に推進する傾向があります。一方、個人のプライベートを尊重する風土やグローバルな企業文化を持つ会社では、社員旅行を実施しないケースが増えています。実際、「社員旅行に関する調査(株式会社サーバーワークス)」でも、社員旅行のイメージについて最も多かった意見は「昔ながらの企業がやるもので、時代遅れ」で約24.7%を占めており、次いで「特にイメージはない(無関心)」(20.2%)、「日常から離れてリフレッシュできる」(17.5%)の順でした。その企業が従業員同士の私的交流を奨励するか、仕事と私生活の線引きを重視するかが分かれ目になっています。

- 従業員数・組織体制の違い
前述の通り、中小企業ほど社員旅行を実施しやすい傾向があります。社員数が少ない企業では「家族的な付き合い」が生まれやすく、経営者と従業員の距離も近いため参加ハードルが低い傾向にあります。逆に大企業では部署間の交流が希薄になりがちで、全社イベントとしての社員旅行に従業員の温度差が大きくなることがあります。全国・海外に拠点がある企業では物理的に社員を集めるのが難しく、実施を諦める要因となります。一部の企業では、従業員の希望者のみ参加の任意参加型旅行や部署ごとの小規模旅行に切り替える動きも見られます
社員旅行を続ける企業が得られるメリット

一方で、あえて社員旅行を続ける企業も存在します。そこには、以下のようなメリットがあると考えられます。
- 組織の結束力・コミュニケーション強化
オンライン中心のコミュニケーションが当たり前になった今だからこそ、リアルの場で触れ合う時間の価値が高まっています。普段接点の少ない部署の社員や取引先と一緒に過ごすことで、仕事では得られない人間関係が築かれる場合があります。実際、産労総合研究所の調査では、従業員規模299人以下の中小企業では「連帯感や一体感の醸成」が社員旅行等のイベント実施目的として最も多いと報告されています。中堅中小企業においては、経営者や役員との距離が近いメリットを活かし、旅行中にざっくばらんにビジョンや経営方針を共有できる場として社員旅行を活用している例もあるのです。 - イノベーションを生むきっかけ
オフィスの外に出て開放的な場所で一緒に過ごすと、普段は出ないような意見やアイデアが飛び交うことがあります。リゾート地でのワークショップやアクティビティの中で、新商品・新サービスのアイデアが生まれたり、普段接することがない人材同士のコラボレーションが始まったりする可能性もあるでしょう。 - 会社の文化や伝統の継承
社員旅行を何十年も続けている企業の場合、それがひとつの企業文化として定着しているケースも少なくありません。新人が先輩社員に仕事観や企業の歴史を教わる場になっていることもあり、単なるレクリエーションを超えた「カルチャー共有の場」としての意味合いを持ちます。後輩が先輩を慕う空気感や、世代を超えたコミュニケーションを促すための強力なツールになることもあります。 - インナーブランディングの向上
インナーブランディングとは、企業が従業員に対して自社ブランドへの共感や愛着を高めるための取り組みを指します。社員旅行は、ある意味「非日常の体験」を通して企業への帰属感を強める機会になります。記憶に残るイベントを企画できれば、社内にポジティブなムードを醸成できるでしょう。
社員旅行をアップデートするためのポイント

「社員旅行をやるか、やめるか」の二択だけでなく、時代に合わせてアップデートするという考え方も重要です。従来の「飲んで騒ぐ」だけの旅行から、社員が主体的に楽しめるような企画に変えることで、現代的なニーズに対応させることが可能です。
- 選択制・自由参加を基本とする
参加を強制すると、どうしても「義務感」や「ストレス」を感じる人が出ます。自由参加を基本とし、複数のプランから自分が行きたいコースを選べるようにするなど、参加者が自主性を発揮できるよう工夫しましょう。「必ず来て当たり前」といった押し付けがましさをなくすだけでも、心理的なハードルは大きく下がります。 - オンライン要素や短時間イベントとの併用
リモートワークが定着している企業では、完全な対面の旅行はハードルが高いこともあります。その場合は、オンライン企画(遠隔地の社員を巻き込みながら進められるゲームやワークショップ)と組み合わせて「ハイブリッド型」にすることも検討できます。あるいは1泊2日ではなく、日帰りや半日のみのレクリエーションを複数回行うことで、参加しやすい環境を作る手もあります。 - 目的を明確化する
社員旅行の目的を、単なる「慰労」や「懇親」だけにせず、たとえば「新事業アイデア創出」「若手のリーダーシップ開発」「社内の異部門交流」などと紐づけるのです。メリハリをつけることで、社員も「楽しく、かつ自分たちの成長につながる体験」として参加する意欲が高まりやすくなります。 - 安全・衛生面への配慮を徹底する
コロナ禍以降、感染症対策や衛生面への配慮は社員旅行においても必須のポイントです。手指消毒やソーシャルディスタンスの確保、会食時の換気など、基本的な対策を押さえながら、必要に応じて健康観察や検温なども行うと安心です。「会社が社員の安全をきちんと考えている」という姿勢が見えると、参加者の信頼感を高めることにつながります。
Q&A
Q1. 社員旅行を「やめる」企業が増えているのはなぜでしょうか?
A. 社員旅行を行う企業はかつて非常に多かったのですが、近年はコスト削減の流れや働き方の多様化、個人のプライベートを重視する風潮などの影響により、実施を取りやめる企業が増えています。実際に産労総合研究所の調査では、2019年度の社員旅行実施率は約27.8%にとどまり、バブル期と比べると半減している状態です。特に、休日を使って上司や同僚と過ごすことへの抵抗感や、金銭的な負担、人間関係のストレスなどが大きな理由として挙げられています。
Q2. 中小企業の方が社員旅行を実施している割合が高いのはなぜですか?
A. 従業員数が比較的少ない中小企業は、社員同士の距離感が近く、家族的な企業文化が根付いているところが多いとされます。そのため、全員が参加しやすく、社員旅行を通じて一体感を高めるという狙いが理解されやすいのです。大企業の場合、部署・拠点が多岐にわたっているため物理的・心理的なハードルが高くなりがちです。
Q3. 若年層が社員旅行に抵抗を感じるのは、具体的にどんな理由が多いのでしょうか?
A. 代表的な理由として「休日を削られる」「上司や同僚に気を遣う」「団体行動への抵抗」「旅行内容が好みと合わない」「実質的に強制参加となっている」などが挙げられます。SNSでも、昔ながらの宴会中心の旅行にストレスを感じる声が目立ち、こうした価値観の変化が社員旅行離れの一因になっています。
Q4. 社員旅行を続けている企業は、どのようなメリットを期待しているのですか?
A. 主に次の4つが大きなメリットとして挙げられます。
- 組織の結束力・コミュニケーション強化
オンライン中心のコミュニケーションが当たり前になった今だからこそ、対面で交流できる時間を重視する企業が増えています。 - イノベーション創出のきっかけ
非日常の開放的な環境で、新しいアイデアや部門を超えた協働が生まれる期待があります。 - 企業文化・伝統の継承
長年の慣習や社風が根付いている企業では、社員旅行を通じて価値観の共有や新人教育の場としても機能しています。 - インナーブランディングの向上
非日常体験を企画することで社内の結束力を高めたり、会社への帰属意識を強めたりする効果を狙うケースがあります。
Q5. もし社員旅行を企画する場合、どのようにすれば現代のニーズに合うのでしょうか?
A. 今の時代は「強制参加」や「型通りの団体行動」では抵抗感を抱く社員が多い傾向にあります。選択制や自由参加を基本に、複数のプランを用意して好みに合わせられるようにしたり、ハイブリッド型(オンラインとオフラインの組み合わせ)や短時間・日帰りイベントに切り替えたりと、柔軟な形で企画することがポイントです。また、「慰労」「懇親」だけでなく「新事業アイデアの創出」「若手育成」など、目的を明確化することで社員の参加意欲が高まりやすくなります。
まとめ
社員旅行は、日本ならではの企業文化として長く親しまれてきましたが、バブル期と比べると実施率が半減し、「もう時代遅れなのではないか」という声も少なくありません。その背景には、働き方や価値観の多様化、コスト削減の必要性、ハラスメントへの意識向上など、さまざまな要因が絡んでいます。
一方で、中小企業を中心に社員旅行を続けている企業は、対面でのコミュニケーションを強化したい・企業文化を継承したいといった意図があることが多く、これを大切な「社内イベント」と位置づけています。特にリアルな場でなければ得られないチームワークの醸成や、イノベーションにつながる刺激などは、オンラインのみに頼る働き方が普及する今だからこそ見直されている部分とも言えるでしょう。
重要なのは、自社が社員旅行を実施することで得られるメリットと、社員が感じる負担やコストをどうバランスさせるかという点です。「旅行をやめるか・続けるか」の二択にこだわらず、選択制の導入や内容の自由度を高める、オンラインとの併用など、時代の変化に合わせたアップデートが求められます。もし社員旅行を行わない場合も、代わりとなるコミュニケーション活性化施策をしっかりと設けることで、社内のつながりや結束を絶やさないよう工夫することが大切です。
社員旅行の在り方は今後も変化し続けるでしょう。しかしその根底にある「社員同士の関係を深め、組織全体のパフォーマンスを高める」という目的は、決して色あせることはありません。それぞれの企業の風土や規模、そして社員の声を丁寧に汲み取りながら、自社に最適な形を模索していくことが求められます。 以上、「社員旅行はもう時代遅れ?やめる会社・続ける会社の違い」についての実践的な解説でした。中堅中小企業の経営者・役員・管理職の皆さまのヒントになりましたら幸いです。今後の事業運営や組織づくりに少しでも役立てていただければと思います。
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