唐澤経営コンサルティング事務所の唐澤です。中小企業診断士・ITストラテジストの資格を持ち、20年以上にわたり、中堅中小企業の経営戦略立案や業務改革、IT化構想策定などのコンサルティングに従事してきました。
このコラムでは、私のこれまでのコンサルティング経験をもとに、中堅中小企業の経営に役立つ情報を発信しています。
あなたの会社やチームの中に、「なぜか一緒に仕事をしていると雰囲気が良くなって、生産性まで上がる」という人はいないでしょうか?リーダーや先輩など立場を問わず、「あの人がいるとなぜか空気が和む」「相談しやすいし、励まされる」という存在が、現場を支える大きな要因になっているケースはよくあります。
実際、アメリカのGallup社が発行した「State of the Global Workplace 2022レポート」によると、職場の雰囲気が良いと感じる従業員は、生産性や顧客対応の品質が高まりやすいというデータがあります。また、チームの結束力が高い組織は、そうでない組織と比較して離職率が低く、新人育成コストも低減し、結果的に業績が向上する傾向があると報告されています。
しかし、中堅中小企業の経営者や管理職の方々の中には、「自社のチームワークが今ひとつ上手くいっていない」「現場の雰囲気がどうも停滞気味に感じる」といった悩みを抱えている方も多いのではないでしょうか?大企業と比べて人材確保や研修の機会が限られる中、「雰囲気を良くする人材」を組織内でどのように育成したり活用したりすればいいのかは、重要な課題となります。
本コラムでは、私の経営コンサルタントとしてのキャリアの中で得た知見と、数多くの中堅中小企業の現場を見続けたからこそ得られた実践的な観点から、「チームの雰囲気を良くする人の共通点」と、それを組織で活かすための具体策を解説していきます。読了後には、ぜひあなたの会社やチームの改善に活かしていただければ幸いです。
チームの雰囲気が与える影響とは?
雰囲気が悪い職場のリスク
雰囲気が良い・悪いというのは、チーム全体の「空気感」や「働きやすさ」の度合いを指します。一見すると曖昧な言葉のように感じられるかもしれませんが、実は業績や離職率にも大きく関わる重要な要素となります。例えば、雰囲気の悪い職場では、次のようなリスクが高まります。
- コミュニケーション不足
社員同士が必要な情報を共有しにくくなり、業務効率が著しく下がる。 - モチベーションの低下
「どうせ言っても聞いてもらえない」「周りもやる気がなさそう」という意識から、生産性が低下し、離職意向が高まる。 - イノベーションの阻害
誰もがミスを恐れ、挑戦する意欲を失いがち。結果として新しいアイデアが出ず、競合他社に後れを取る。
少人数の組織ほど、一人ひとりの感情や行動が全体に与える影響は大きくなります。まして、経営者や管理職の影響力は絶大です。「雰囲気を悪くするリーダーシップ」は、即座に業績や評判の悪化につながりかねません。
雰囲気が良い職場の恩恵
一方、雰囲気が良い職場では、社員が相互に助け合い、仕事で成果を出しやすくなり、組織の結束力が高まります。具体的には次のようなメリットがあります。
- 生産性向上
相互の情報共有がスムーズで、無駄なストレスが減る。目指す目標にチーム全体で取り組みやすい。 - 離職率低下と定着
「ここで働きたい」「この仲間と仕事を続けたい」と思う人が増え、人材が流出しにくい。 - 健全なチャレンジ精神
失敗を責められない風土があるため、安心して新しい試みに挑戦できる。
中小企業庁が公開している「2024年版 小規模企業白書」によると、人材不足を訴える中小企業の割合は年々上昇傾向にあります。採用や育成に多大なコストや労力を要する中で、既存の人材が辞めず、なおかつ成果を出しやすい職場づくりは、企業の成長を支える大切な柱なのです。
なぜか周りが働きやすくなる人の共通点

「雰囲気を良くする人」は、どのような特徴を持っているのでしょうか?実際に現場で観察してみると、大きく次の5つの共通点が挙げられます。
相手を尊重する
まず挙げられるのが、相手を尊重し、しっかりと話を聴く態度です。
- 「あなたの意見をちゃんと聞きたいと思っている」という姿勢が言葉や行動に表れている
- 自分の都合や主観だけでなく、相手の置かれている状況や気持ちを想像しながら接する
この「相手が大切にされている」と感じられるコミュニケーションが、職場の雰囲気を大きく左右します。
ポジティブな表現が多い
「雰囲気を良くする人」は、普段の会話や指示などの場面で、ポジティブな表現を多用する傾向があります。
- 「ありがとう」「助かったよ」「いいアイデアだね」といったポジティブな言葉が自然と出てくる
- たとえ問題点を指摘するときでも、相手を否定するのではなく「ここをこうしたら、もっと良くなるはず」と前向きな改良案を提示する
このように、最初から否定するのではなく、「もう少しこうしたらもっとよくなる」「次はこうしてみよう」といった建設的な発言をすることで、相手は気持ちよくモチベーションを保ちやすくなります。
率直なフィードバックをタイミング良くする
雰囲気を良くする人は、意外にも「何でも受け入れるお人好し」ではありません。言うべきことはきちんと伝えるが、その伝え方やタイミングに十分気を配っているのです。
- 「忙しそうだな」と感じたときは、一呼吸おいてから後で話をする
- 感情的ではなく、事実ベースで冷静にフィードバックする
- ネガティブな点だけでなく、良いところも同時に伝える
組織内では、課題や改善点に早期に気づき、それを共有することが大切です。ただし、言い方や場の雰囲気を考慮せずに伝えてしまうと、周囲の反発を招き、チームの結束が弱まる原因にもなります。だからこそ、率直さと配慮のバランスがカギとなるのです。
自らの仕事や存在価値に責任と誇りを持っている
チームの雰囲気を良くする人は、自分自身がプロとしての責任感と誇りを持って働いています。これが周囲にも良い影響を及ぼします。
- 「私がやるべきことはこれです」と明確に把握し、前向きに取り組む
- 周囲からのサポートが必要な場合は、素直に助けを求める(そして自分も周りを助ける)
- 結果に対するオーナーシップを示し、失敗からも学ぼうとする姿勢がある
こうした「自律的な行動」が周囲を安心させ、「一緒に頑張ろう」と思わせる雰囲気を作り出します。
成功体験をみんなで共有する
最後に、よい雰囲気を作る人は、仲間の成功や努力をしっかりと評価し、共感する傾向があります。
- チームメンバーが成果を出した時、「すごいね!」と素直に喜ぶ
- 小さな成功でも「よく頑張ったね」「助かったよ」と称えることで、周囲の自信を育む
- 共有された成功体験をもとに、「次はこういう挑戦をしてみよう」と次のステップに繋げる
人は褒められたり、自分の成功が認められたりすると、成長意欲が増すものです。特に中堅中小企業では、個人の頑張りが会社の成果につながりやすい反面、それを見える化して称賛する風土がないと、モチベーションの低下につながるリスクがあります。雰囲気を良くする人は、それを自然な形で促進しているのです。
組織で雰囲気を良くする人材を活かす仕組みづくり

チームの雰囲気を良くする人が自然発生的に登場することもありますが、組織としては、そのような人材をどのように見つけ、どのように活かし、また育成していくのかを考えることが大切です。ここでは、中堅中小企業でも取り入れやすい具体的な施策をご紹介します。
「発言しやすさ」と「心理的安全性」を確保する
チーム内で積極的に意見を言い合い、協力をしやすい環境づくりを行うためには、心理的安全性(意見を言っても否定や攻撃をされない安心感)の確保が欠かせません。
- 会議では上長が意見を求めるだけでなく、自らも失敗例を率直に共有し、反省点を開示する
- 役職を問わず「どう思う?」と問いかけ、意見の多様性を歓迎する
- 失敗を責めるのではなく、改善策に目を向ける文化をつくる
近年は大手企業だけでなく、中堅中小企業でも研修や社内勉強会などで心理的安全性の大切さを啓発する動きが広がっています。実際に、アメリカのGoogle社が行った研究でも、成功しているチームの共通点として「心理的安全性」が重要だという結果が示されています。
心理的安全性については、以下の記事でも解説していますので、詳しく知りたい方はぜひお読みください。
(リンク)
「雰囲気を良くする人」をチームリーダーやチームサポーターに
チームの中で雰囲気を良くする人が自然にリーダーになるケースもありますが、役職との兼ね合いなどで配置に悩むこともあるでしょう。そこで次のような工夫を行う方法があります。
- チームリーダーに任命する: すでにマネジメント能力があるなら、正式なリーダーやサブリーダーとしてチームを牽引してもらう
- サポーター役として位置付ける: リーダーは別にいても、「雰囲気づくり担当」として議事進行やコミュニケーションを補佐する
「雰囲気を良くする人」に、適切な立場や権限を与えることで、社内でより強い影響力を発揮してもらうことが可能になります。ただし、本人が過度な負担を感じないよう、フォロー体制や権限の範囲を明確にしておくことが重要です。
「称賛」と「フィードバック」の仕組みを設ける
雰囲気を良くする風土は、個人の資質だけに任せるのではなく、組織として称賛やフィードバックの仕組みを作ることで、全社的に促進させることができます。
- 定例会議や朝礼などで、前週の業務で活躍した社員を紹介するコーナーを設ける
- お互いに感謝を伝え合う場を定期的につくる
- 改善提案や功績を出した社員には、小さな表彰やインセンティブを与える
これらを仕組みとして回すことで、「自然体で周囲を巻き込める人」がさらに働きやすい環境を整えやすくなります。
実践にあたっての注意点
いざ実行しようとすると、「どうすれば自然な形で実施できるか」「社内に合わない風習を押し付けることにならないか」など、さまざまな疑問や懸念が出てくるかもしれません。ここでは、具体的に気を付けたいポイントを挙げます。
- トップや管理職の本気度
経営者や管理職が「チームの雰囲気を大切にする」姿勢を自ら示さない限り、社員は本気で取り組んでくれません。言行不一致がないように意識して下さい。 - 個々のキャラクターの違いを尊重
「雰囲気を良くする人」に求められるコミュニケーション方法は人によって微妙に違います。全員に同じマニュアルを押し付けても逆効果になりかねません。 - 長期的な視点で見る
チームの雰囲気は一朝一夕には変わりません。一度や二度の制度導入で終わりにせず、失敗や試行錯誤を繰り返しながら改善し続ける姿勢が求められます。 - 業務効率や生産性とのバランス
「雰囲気づくり=仲良しサークル化」ではありません。むしろ生産性向上がゴールです。必要以上に雑談が増えたり、馴れ合いになったりしないよう、仕事の成果と結びつける工夫が重要です。

Q&A
Q1.「雰囲気を良くする人」がいない場合はどうすればいい?
A. まずは経営者や管理職の方が、その手本になる言動をとり始めてみてください。自分の言葉遣いや社員へのフィードバックが一方的になっていないかなど、気を付けるだけでも変化が生まれます。さらに、メンター制度や雑談ランチなどを通じて、自然とコミュニケーションを増やす機会を作り出すとよいでしょう。
Q2.「雰囲気を良くする人」に負担が集中することが心配です
A. その懸念はよく分かります。実際に、組織の潤滑油となるような人は、周りからも「相談役」として頼られ続け、疲弊してしまうことがあります。そこで組織としては、「称賛制度」「感謝の見える化」「複数人体制」などのフォロー施策を用意し、本人に過度な負担がかからないように配慮しましょう。
Q3.コミュニケーションが苦手な社員はどう育成する?
A. コミュニケーションが苦手な社員にも、少しずつ変化を促すことは可能です。例えば、話をするハードルを下げる仕組み(ショートプレゼン会、ミニ勉強会など)を用意したり、1対1の面談やメンター制度を導入することが考えられます。一気に大人数の前で意見を言わせるのではなく、小さな成功体験を積ませることで自信を育てていくことが有効です。
Q4.結果が出るまでどのくらいかかる?
A. これは組織やメンバーの現状によって異なりますが、数週間から数カ月単位で変化を感じ始めるケースが多いです。ただし、大きな文化変革をめざすなら、最低でも半年から1年以上は継続的に取り組む必要があります。焦らず、継続して少しずつ成果を重ねていくのがポイントです。
Q5.具体的な投資や費用はどの程度かかる?
A. 必ずしも大掛かりな予算や専門コンサルタントを呼ぶ必要はありません。社内研修の時間を少しとったり、ミーティングの運営方法を工夫するだけでも効果はあります。ただし、組織規模や導入のレベルに応じて、外部講師の活用や研修ツールの導入を検討することも一つの選択肢です。投資対効果(費用対効果)を見極めながら、無理のない範囲で進めましょう。
まとめ
チームの雰囲気は一度良くなると、その好循環が組織全体に波及し、生産性や離職率の面で大きなアドバンテージをもたらします。そして、その好循環を生む中心にいるのが「雰囲気を良くする人」です。その人が組織内でどのように評価され、どのように役割を担い、どのように育成されるかによって、会社の未来は変わってくるのです。
- 相手を尊重し、話をしっかり聴く態度を持つ
- ポジティブな表現や建設的な提案を活用する
- 率直なフィードバックを適切なタイミングで行う
- 自分の仕事に責任と誇りを持ち、主体的に行動する
- 成功をみんなで共有し、称賛し合う風土を育む
これらの特性を持つ人材を最大限に活かすことで、会社全体の生産性と働きやすさが向上し、採用や人材定着の面でも有利に働きます。また、その人材が一人でも多く育つよう、経営者や管理職がリードして「発言しやすさ」「心理的安全性」を社内風土として定着させていくことが肝心です。
私のコンサルタントとしての活動の中で、大きな投資を行わずとも「雰囲気の良い職場」を築き上げ、業績を伸ばしている中堅中小企業を見ることがあります。それらの企業に共通するのは、「雰囲気を良くする人の力をうまく引き出している」という点です。制度や仕組みに加え、まずは皆さん自身が「お手本となる」姿勢を示すことが大きな第一歩になるはずです。 ぜひ本コラムを参考に、日々のマネジメントや社員との接し方を見直してみてください。あなたの組織がさらに成長し、社員も笑顔で働ける環境をつくり上げられることを、心から願っています。
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